2007年10月
最低賃金制をめぐる世界各国の動き
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今、世界を見わたすと、様々な国で最低賃金制度の改革が進められていることに気づきます。大企業の国境を越えた活動展開が主たる原動力となって進められているグローバル化や規制緩和の流れは、その「負の側面」として、各国に共通した社会問題である「貧困と格差」の広がりを生み出しました。事態を打開する有効な手立てとして、労働者・労働組合や市民団体、学識者や政治家、一部の経営者らは、最低賃金制度に注目し、その制度改革を求めて運動をおこし、政府を動かしています。 |
全国労働組合総連合
世界の最低賃金制度は、全国一律制が主流である。ILO調査報告によれば、調査対象国101ヵ国中、59ヵ国(58%)と多数を占めている。特に発達した資本主義国で最低賃金法制を定めている国は、ほとんどが全国一律制度を採用している。
地域別最低賃金制をとっているのは9ヵ国(9%)だが、その多くが発展途上国か連邦国家で、面積が大きく、各地域の経済的な完結性が高く、かつ、地域間の格差が大きい国である。中国の39、インドネシアの30、カナダの12と比べて、日本のように面積が狭いのに地域別設定が47もあるのは異常である。
ILO調査報告も、国際的に見た場合の日本の最低賃金制の特異性を指摘している。日本では異様に細かい地域別最低賃金のほかに、地域ごとに細かい産業別最低賃金も設定されている。複数の最低賃金は最低賃金制を変質させるとしている。このため、複数最低賃金を設定してきた国では、貧困根絶と格差是正に向け、最低賃金制の役割を強化するために、最低賃金の数を減らして全国一律の方向に進んできた。フランスでは1970年に全国一律制(SMIC)が導入され、ブラジルは1984年に20州でそれぞれ設定していた地域別最低賃金を廃止して全国一律制を導入した。同様の制度改正は、インドとパキスタンで1996年に、イギリスで1998年に行なわれている。
ドイツでは、最低賃金を含む労働協約について、労働社会相が一般的拘束宣言を発することにより、当該産業のすべての労働者に適用されることになっているため、建設産業のいくつかの部門を除いて最低賃金制度は設定されてこなかった。しかし近時、東部ドイツを中心に貧困ライン以下の生活を強いられる低賃金労働者が増加するなかで、最低賃金制度導入の論議が活発化している。ドイツ労働総同盟(DGB)と社会民主党(SPD)の最低賃金の要求水準は時給7.5ユーロである。
最低賃金の水準について、ILO報告の購買力平価の比較で見ると、発達した資本主義国のほとんどが1000ドル以上で、日本の倍近い。日本の最低賃金は月額換算(07年10月)12万円程度であるのに対し、ベルギー、フランス、オランダは20万円、イギリス、アイルランドは23万円、ルクセンブルグは25万円と、日本よりかなり高い。
この間、発達した資本主義国では、労働組合の組織率の低下、非正規・不安定雇用の低賃金労働者の増加と格差の拡大という問題を、共通して抱えてきた。こうした事態に対して、多くの国は、最低賃金制の役割を強めてきた。1999年から2005年の6年間の最低賃金引き上げ率は、ヨーロッパではベルギー、ギリシャで13%、スペインでは44%の高さとなっている。最低賃金の低いスペインでは、2008年までに月額600ユーロ(約750ドル)へとさらに引き上げることを政府は公約している。イギリスでは毎年の改訂で、07年10月には時給5.52ポンドとなった。全国一律制度が始まった1999年からの8年間で、実に53%も引き上げている。
ところが、日本の最低賃金は、毎年改定審議に多くの時間と労力をつかいながら、わずか2%しか金額を引き上げておらず、貧困労働者の困窮を放置してきた。
日本では、何かにつけてグローバル化という言葉がいわれる。しかし、その言葉は、労働者の賃金・労働条件の引き上げの要求を抑えつけたり、中小企業の単価を切り下げるときの方便としてしか使われない。グローバル化をいうならば、労働基準や取引慣行も、グローバルな水準へと引き上げるべきではないだろうか。
以下、各国の最低賃金改正の動きを、国別にみていくこととしよう。
イギリス
イギリスでは、労使自治の伝統が根強くあり、「労使関係の未成熟な」業種についてだけ審議会方式の最賃制度を設定していた。しかし、その制度も、80年代にはいって新自由主義のサッチャー政権が登場するや弱体化され、93年にはメージャー政権によって廃止された。セーフティ・ネットを切り下げ、市場主義政策をどんどん進めたために、低賃金労働が増え、所得格差が広がった。こうした事態に対し、労働者・国民からの批判が高まり、労働党政権が誕生。1998年に全国最低賃金法(National Minimum Wage Act)が制定された。この制度は、貿易産業大臣が、公労使の三者からなる「低賃金委員会」に対して最賃改定の諮問を行い、委員会答申を受けて最賃を決定する方式である。99年施行当初は、時間あたり3.60ポンド/時(853円)だったが、2003年には4.50£/時(1,066円)と“千円”ラインを突破した。低賃金委員会は、最賃を引き上げるたびに、地域の経営状況や労働市場などの経済実態を調査・分析し、イギリスの地域経済に最低賃金の底上げがよい影響をもたらしていることを立証、それをもとにさらなる引上げ改定を継続させてきた。
イラク戦争への対応についての国民的批判におされ、ブレア政権はブラウン政権にかわるが、貧困をなくす方針は堅持されている。低賃金委員会の答申に従って、2007年10月も最低賃金は引き上げられ、一般労働者の最賃は£5.35(1308円)、18〜21歳最賃は£4.60(1090円)、16〜17歳最賃は£3.40(805円)となっている。
アメリカ
アメリカには連邦最低賃金と州最低賃金がある。連邦最低賃金はクリントン政権下の1997年に時給4.75ドルから5.15ドルに引き上げられて以来、約10年据え置かれてきた。米労働総同盟・産別会議(AFL-CIO)は何度も連邦最低賃金の引き上げを求めて運動し、06年には民主党ケネディ議員は、最低賃金を2009年1月1日までに段階的に7.25ドルに引き上げる法案を提出、下院の歳出委員会で法案を可決していたが、共和党主導の上院は06年6月21日これを否決した。AFL-CIOは「現在の議会指導者たちの労働者軽視を明確に示す行為だ」との批判声明を発表し、ケネディ議員は「民主党が上院で過半数を占めれば最初に最低賃金を引き上げる」と宣言した。
議会の否決をうけ、AFL-CIOは全米19州で最賃引き上げ運動を展開。オハイオ州では最低賃金の6.58ドルへの引き上げとインフレ調整の適用を求め、市民に呼び掛ける運動が進められた。カリフォルニア州では8月22日シュワルツネッガー知事が2007年1月に0.75ドル、08年1月に0.50ドル引き上げて8ドルとすると発表。シカゴ市では市議会が、売上高10億ドル以上の大型小売店に、時給9.25ドルと最低ベネフィット(各種給付金)1.50ドル、最低賃金を2010年までに時給10ドル、給付金を3ドルまで段階的に引き上げる条例を可決した。この条例は大手流通企業のウォルマートなどを対象にしたもので、同社は8月に全米の約3分の1の店鋪で初任給を平均6%引き上げた。
11月7日の中間選挙では、民主党が上下両院で多数を獲得した。AFL-CIOは「最低賃金の引き上げが共和党の超党派の精神を試すことになる」と述べ、米議会が最低賃金を早期に引き上げるよう求める声明を発表した。新議会で女性初の下院議長に就任するペロシ議員とリード民主党上院院内総務は、最低賃金引き上げが最重要議題の一つだとした。ブッシュ大統領も11月8日の記者会見で、民主党の経済公約の最低賃金引き上げに初めて理解を示した。
07年1月10日の連邦議会下院で、連邦最賃を7.25ドルに引き上げる法案が、賛成315、反対116で可決され、上院に送付された。下院では共和党からも80人の議員が賛成にまわった。上院では議員構成民主党+無所属が51議席、共和党は49議席と力関係が均衡しており、共和党による議事妨害作戦を破るには賛成60が必要で、共和党議員の一部の支持もとりつけなければならないため、民主党も強行はできず、中小企業への税制優遇措置などがセットで審議されていた。
最終的に上下両院は、5月24日、連邦最低賃金の引き上げを含む法案を賛成多数で可決し、25日にブッシュ大統領が署名して法案は成立した。その結果、現行5.15ドルの連邦最賃は、2009年7月24日までに3段階に分けて7.25ドルまで引き上げられることになった。引き上げの初回は2007年7月24日で5.85ドル(影響をうけるのは20州。他の30州は既に連邦最賃より高い州別最賃をもっている)とされた。2回目は2008年7月24日で6.55ドルとされる。また、最賃引き上げに伴う経営者の負担を軽減するため、中小企業を対象とする48.4億ドルの減税も実施される。なお、民主党はさらに9.50ドルまで引き上げる法案の検討を開始している。
フランス
発展のための全職業最低賃金(SMIC)と呼ばれる最低賃金制度をもっている。金額は時間額と月額(週35時間労働)が設定される。毎年7月1日の定時改定に、全国団体交渉委員会(CNNC)の賃金給与小委員会の意見を参考として決定している。この場合、法律により一般賃金の実質上昇率の2分の1を下回ってはならないこととされている。また、SMICが決定された時期の水準に比べて、消費者物価指数が2%以上上昇した場合、翌月の1日から労働省令により指数上昇分だけ改定する「物価スライド制」も設定されている。
金額水準は 2001年の時間当たり 6.67ユーロ(1,044円)から、2006年1月には8.27ユーロ(1,326円)へ、2007年の1月からは8.44ユーロ(1,354円)へと引き上げられている。月額最低賃金は、2006年の1,254ユーロ(201,174円)から、07年は1,280ユーロ(205299円)とされている。
オーストラリア
全国一律の連邦最賃制度をもっている。労働組合は最賃引き上げが格差是正に有効であり、かつ雇用や総賃金コスト、インフレに与える影響は少ないとして大幅引き上げを要求してきた。決定機関は豪州労使関係委員会(AIRC)で、2004年には週あたり19豪ドル(1,843円)アップ、05年には週あたり17豪ドル(1,649円)アップを実現し、484.40豪ドル/週(46,977円)とした。法定労働時間の週38時間で換算すると、時間あたりおおよそ1,159円/時の最賃となる。
2005年には、新たな最低賃金決定機関である公正賃金委員会(AFPC)が設置された。経営者団体が「最賃引き下げのために設立された新機関」と期待をよせたと言われる新組織である。注目された初裁定は11月に下された。その内容は27.36豪ドル/週(2,485円)アップの大幅引き上げとなった。労働組合要求の30豪ドルに近い水準で、511.76豪ドル/週(49,630円、法定週38時間労働で時間あたり1,306円)の最賃が12月から施行された。
ニュージーランド
ニュージーランドは、1894年に世界で初めて法定最低賃金を確立した国であり、全国一律制度をとっている。金額は2007年4月から時給11.25ニュージーランド・ドル(約960円)に改定された。改定前より1NZドル(約85円)9.8%のアップであり、85年以降で最大の上げ幅となった。組合側は12NZドル(約1,000円)への引き上げを求めて運動し、経営者は引き上げに反対していた。改定によって、労働力人口の約1%、12万人の賃金が引き上げられる。なお、16〜17歳については現行の8.20NZドルから9NZドル(765円)になる。政府は2008年末までに18歳以上の最低賃金を12NZドル(1,020円)まで引き上げることを目標としている。
韓国
韓国労働部は8月1日、2008年1月から同年12月まで適用される最低賃金を時間当たり3,770ウォン(100ウォン=12円43銭として約469円)とすることを決定した。現行の3,480ウォン(433円)より8.3%、円換算で36.4円引き上げることになる。
韓国の最低賃金は、昨年も12.3%の大幅引き上げがなされていたが、今回の審議において、労働側はさらに1000ウォンの引き上げ(28.7%増)要求を行なった。これに対し、経営側は凍結を主張した。10時間に及ぶ審議の結果、8.3%の引き上げが議決された。
労働側は、従来から、所得の格差拡大に歯止めをかけるため、最低賃金を従業員5人以上企業の常用労働者の平均賃金(月額約187万ウォン)の50%水準にすべきと要求しており、今回も月額約94万ウォンに相当する時間あたり4480ウォンを要求した。
一方、経営側は、最低賃金の引き上げが近年高い水準で行われており、中小・零細企業の経営に悪影響を与えるとして、凍結を主張した。
結果として、引き上げが一桁台の引き上げとなったことについて、経営側の一部には安堵の声もある。2000年以降の韓国の最低賃金の引き上げ率は平均10.6%と、同期間の平均賃金上昇率7.4%を上回っていることから、今回も大幅な引き上げを予想した経営者も少なくなかったためである。
年々、最低賃金が大幅に引き上げられているため、その影響を受ける労働者の割合(影響率)も年々上昇している。2002年9月の引き上げの影響率は全労働者の6.4%であったが、昨年は11.9%、今回の引き上げの影響率は13.8%に達する。最低賃金が、最低生計費の保障はもとより、大きな課題である所得格差や非正規労働者の労働条件の改善への有効な手段として、積極的な役割を果たすべき、と位置付けられている。
韓国の最低賃金は、最低賃金法に基づき、労働者の生計費、類似の労働者の賃金、及び労働生産性を考慮して定めるものとされている。適用対象は労働基準法が適用されるすべての事業又は事業場であるが、家族従業者、在宅労働者、精神又は身体の障害により労働能力が著しく低い者、試用期間中の者、職業訓練法による事業内職業訓練のうち養成訓練を受ける者などは適用免除とすることができる。
韓国の法定最低賃金の決定も、審議会方式で行なわれている。公労使同数9名の委員で構成される最低賃金審議会において審議・決議された最低賃金案は、労働部長官に送られる。労働部長官は、審議会が示した最低賃金案を告示し、労使団体は異議申し立てができる。労働部長官が、その異議申し立てに理由があると認めた場合は、審議会に再審議を要求しなければならない。今回は最低賃金案の告示に異議申し立てはなされず、同最低賃金案どおりに正式決定された。
中国
中国が最低賃金制度を導入したのは1996年である。全国一律制度ではなく、政府直轄地のほか、省や自治区など地方政府の労務管理局が経済状況に応じて決める。最低賃金水準は、通常の平均賃金の5割程度である(04年全国都市部労働者の平均賃金は1万6024元)。最賃は、主に工場で働く低所得層、特に農村から都市部への出稼ぎ労働者に適用されている。この間、各地で8〜64%もの大幅引き上げがなされ、賃金相場全体が上昇している。中国政府は高成長のなかで貧富の格差が拡大していることを憂えており、その是正を最賃に託している。経済政策の上でも、付加価値が低い製品だけを生産しようとする外資の進出を制限する方針を示すなど、「小康(いくらかゆとりある)社会」を目指す流れを強めている。こうしたなか、日系自動車産業の拠点でもある広東省の省都広州市の最低賃金が、2006年9月1日から月額780元(11310円)となった。以前よりも96元(1392円)、14.0%の引き上げである。新水準は中国で最も高い深セン市経済特区内の810元に次ぎ、上海市や江蘇省の690元を上回るものとなる(1元=約14.5円)。
インドネシア
全国の目安となっているジャカルタ特別州の07年の最低賃金は、月額90万560ルピア(100ルピア=約1円30銭)。前年より9.95%引きあげられ1月1日実施された。これに対し労働組合は不満を表明、国会第9委員会(労働・移住担当)のリプカ委員長は11月5日、これを聞き入れる形で、新最賃は低すぎであり130万ルピアが妥当とし、賃金審議会の決定プロセスを調査する方針をあきらかにした。ジャカルタ特別州に続き他の州の最低賃金も決まりつつある。ジャカルタ特別州を最高として、最低はジョクジャカルタ州の50万ルピア。引き上げ率の最高はバリ州の21.96%、最低はアチェ州の3.66%となっている。
フィリピン
マニラ首都圏の法定最低賃金が2006年7月11日から1日25ペソ(1ペソ=約2円20銭)へと引き上げられた。フィリピン労働組合会議(TUCP)は5月に基本給部分の75ペソへの引き上げを要求、最終的には上げ幅は3分の1にとどまった。引き上げ幅は昨年と同額。最低賃金は基本給と緊急生活手当(ECOLA)からなり、引き上げられたのは基本給で、ECOLA50ペソは据え置き。非農業従事者の新基本給は300ペソとなり、ECOLAの50ペソの加算で新最低賃金は350ペソとなる。
アルゼンチン
政府と労組、経営者団体からなる雇用・生産性・最低賃金審議会は7月10日、賛成多数で最低賃金の年内22.5%引き上げを決定した。改定によって、現在の最低賃金月800ペソ(約31000円)は、8月、10月の段階的引き上げを経て、12月から980(55,860円)ペソになる。今年6月に算定された貧困ライン収入(4人世帯)は923ペソ、極貧ラインは429ペソであり、トマダ労相は、最低賃金が貧困ラインの収入水準を初めて超えることになると力説した。なお、アルゼンチンの一人当たりの国民所得は4700ドルで日本の約8分の1。
トマダ労相は、貧困ラインの収入水準を超える最低賃金の確立が今回の交渉の目的だったと指摘。引き上げは正規労働者40万人以上の給与アップに直接つながり、政府が現在根絶にとりくんでいる未登録の「闇労働」の給与にも影響するだろうと述べた。また、新自由主義が吹き荒れた1990年代をふりかえり、「我々は、長い間洗脳されてきた考え方とは逆に、社会的包摂をともなう(社会的落後者を生まない)経済成長が可能であることを示している」と強調した。
同国最大の全国労働組合センター、労働総同盟(CGT)は1040ペソの最低賃金を要求していたが、今回の結果について「不十分だが、重要な前進」と評価。アルゼンチン労働者センター(CTA)は、生活の必要性にもとづく新たな貧困ライン収入水準を算定することが約束されていないとして、審議会では棄権した。
ブラジル
最低賃金の年間調整は、毎年5月1日から実施され、その前月に金額を決定するのが慣行となっている。実質引き上げ率は、2003年1.20%、04年1.21%に対し、2005年は9.30%と大幅に引き上げて月300レアル(17,100円)とした。労働党の最大支持組織である中央労組CUTを中心にして、6大中央労組が、2005年1月から、最賃引上げを要求し、首都ブラジリアへデモ行進を行い、政府から譲歩を引き出した。その後の最低賃金は引き上げられ、06年に350レアルに、07年からは380レアル(21660円)に引き上げられている。最低賃金改定の影響を受けるのは労働者だけでなく、年金受給者なども含まれ4,370万人におよび、所得増加による経済波及効果は大きい(ブラジルでは最賃の引き上げは、年金に連動するシステムとなっている)。労働組合代表と政府は、今後GDP成長率を勘案して最低賃金の引き上げ率を調整していくことで、合意している(07年2月現在1レアル=約57円)
ILO第30号勧告では、決定基準について「関係ある労働者が適当な生活水準を維持しうるようにすることが必要」と定めており、第31号条約でも、「労働者とその家族の必要」と「経済的要素」の二つを掲げている。また、第117号「社会政策の基本的な目的及び基準に関する条約」では、第5条2項で「最低生活水準を決定するにあたっては、食料及びその栄養価、住居、被服、医療、並びに教育等労働者の家庭生活に不可欠な要素について考慮しなければならない」としている。第102号「社会保障の最低基準に関する条約」では賃金と社会保障との連動関係を定めており、多くの国が最低賃金と社会保障をリンクさせ、「人間らしい生活水準」の確保に努めている。最低賃金と社会保障とをリンクさせている国のほとんどが、全国一律最低賃金制である。オランダでは、失業手当が最低賃金を基準として算定されるなど、社会保障給付と最低賃金とを結びつけた制度構築をしている。インドネシア政府は、2003年、最低賃金を設定する際には人間らしい生活水準に必要なもの、肉体的要求を充たすものだけでなく、教育や健康、退職後の社会保障などを含め、すべての要素を考慮すべきことを命じた。前記のインドネシアの最低賃金引き上げは、こうした政策の上に決定されたものである。ヨーロッパでは、貧困をなくす観点からの取り組みが進められているが、2005年に開催された欧州最低賃金会議は、当面の最低賃金を一般労働者の平均賃金の50%にすること、さらに60%に引き上げることを決定した。
世界各国の動きを見ると、格差と貧困問題と経済の安定的発展に処するための最低賃金制の役割が重視され、そのために、全国一律最低賃金制と、人間らしい生活を充たす水準を確保した最低賃金引き上げの取り組みが大きく広がっていることを示している。貧困問題に直面している日本においても、最低賃金制抜本改正の取り組みにも重要な示唆を与えるものとなっている。
以上
「平均賃金と最低賃金額との格差(比率)」 資料出所OECD(経済協力開発機構)Employment Outlook 1998
(注1)各賃金額は1997年の額を用いている (注2)平均賃金額には、所定外給与及び特別給与が含まれている