パート法施行以来14年ぶりの抜本改定となる「改正」パート法が2007年5月25日、国会において可決・成立しました。2008年4月施行、3年後に見直しをおこなうことが決まっています。「改正」パート法は、均等待遇実現という私たちの願いの実現に役立つのでしょうか?
指針から法律に格上げ
今回の改正では、前回法律に明記できず指針に終わっていたパート労働者の処遇について、労使で構成する審議会において合意のできた部分についてのみ法律への格上げをはかりました。[詳細P6](格上げされなかった部分は指針に残っているので、法律と指針合わせてみることが必要です。)しかし、慶弔や福利厚生で「人として同じ扱いをしてほしい」という私たちの要求や、通勤手当や退職金、労働時間に関する項目は指針どまりとなりました。
「差別的取扱い禁止」対象となるパートは1%
「通常の労働者」との差別的取扱いを禁止されるパート労働者は、転勤・配転・残業も通常の労働者と同じであり、「期間の定めのない契約を結んでいるもの」というおよそパート労働者では考えられない働き方です。また、「フルタイムパート」については法律の適用除外とされ、上記のような働き方をしていても通常の労働者と同じ時間働いていれば差別的取扱い禁止対象にならないというおかしなことになりました。
人材活用の仕組みでパート差別を合法化
「差別的取扱い禁止」以外のパート労働者はさらに、職務変更の有無、職務同一か否かなどの人材活用の仕組みで3つのグループに分けられています。そして使用者には賃金、教育訓練、福利厚生において働き方に応じた均衡処遇が義務付けられています。しかしその多くは「努力義務」「配慮義務」であり、多くのパートにとって実効性の乏しいものになっています。
どうしてこうなるの?
財界の要求で雇用の流動化がすすんでいる
日本経団連は、ホンのひと握りの正規労働者のみ終身雇用にし、あとの労働者はパート・契約・派遣などの不安定雇用労働者にして、企業が必要とするときのみ雇用するという「雇用の流動化」政策を1995年に打ち出しました。そして政府はその実践のために労働基準法、労働者派遣法などの改悪を相次いで行ってきました。
1995年 新時代の「日本的経営」 日経連の「報告」書
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雇用形態 |
賃金 |
長期蓄積能力活用型グループ |
期間の定めのない契約(正社員) |
能力給、年俸制 |
高度専門能力活用型グループ |
有期労働契約(契約社員) |
職務給 |
雇用柔軟型グループ |
有期労働契約(契約社員、パート、派遣) |
職務給、時間給 |
非正規の増加は格差と貧困の原因に…
「雇用の流動化」政策は不安定で劣悪な労働条件を押し付けています
正規労働者が削減され、パート・派遣・請負・契約などの非正規雇用労働者がその代替とされました。その大きな理由は人件費コストの削減です。非正規労働者の大半は期間の定めのある雇用契約であるため、常に雇用不安にさらされ、また、正規労働者の半分から3分の1という低賃金を押し付けられています。その非正規雇用労働者はすでに雇用労働者の35%を超え、今日の「格差と貧困化」の大きな原因となっています。
「通常の労働者」との差別禁止対象パートとは
この法改正で差別禁止対象となるパートタイマーは下の3つの条件をクリアしなければなりません。条件(1)の「責任の程度」には残業の有無も含まれます。また、条件(3)の「職務変更」には転居を含む転勤も含まれます。
パート法はすべて「通常の労働者」との比較ですから、比較対象の「通常の労働者」をどのような労働者とするかが問題になります。比較対象の「通常の労働者」が残業も配転もなくパートと同じ仕事についていれば、パートに残業・配転がなくても、差別取り扱い禁止対象になります。
また条件(2)の「期間の定めのない労働契約」には繰り返し雇用によって期間の定めのない契約と同視することのできるものを含みます。
「差別的扱い禁止」の3条件
条件(1)
業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度から見てその職務の内容が当該事業所における通常の労働者と同一
条件(2)
期間の定めのない労働契約(反復更新含む)
条件(3)
慣行その他の事情から見て退職までに同様の態様、頻度の職務の変更が見込まれる短時間労働者
パートにも労働者保護法が適用されます
労基法、最賃法、労安法、労災保険法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、雇用保険法などの労働者保護法は短時間労働者にも適用があることが指針に明記されました。社会保険や年金についても一定の要件で加入が認められています。
正社員の一方的な労働条件の変更は許されません
パート法施行を口実に、正社員の賃金・労働条件をパートに合わせる「不利益変更」は許されません。「雇用する労働者の労働条件を合理的な理由なく一方的に不利益変更することは法的に許されない」ことは国会で大臣が答弁し、付帯決議にも指針にも盛り込まれました。
低処遇パートが一方の性別に偏れば間接差別の可能性
パートと正社員の区別について「残業」要件や「転居を伴う配置転換」の要件を入れた場合、正社員に男性が多くなり、パートに女性が多くなることが考えられます。職務に関係なくこれらの要件が入れられ、パートの処遇が明らかに低ければ、間接差別の可能性があります。均等法では3つに限定されてしまいましたが、付帯決議で「対象事項の追加見直しを図ること」とされています。都道府県労働局に事例をよせることが大切です。
男女雇用機会均等法で禁止された間接差別
男女雇用機会均等法で禁止される間接差別は3つに限定されてしまいました。
(1)募集・採用にあたって、労働者の身長、体重又は体力を要件とすること。
(2)コース別雇用管理における総合職の労働者の募集又は採用にあたって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること。
(3)労働者の昇進にあたり、転勤の経験があることを要件とすること。
註)間接差別とは「一般的に外見上は性に中立な規定、基準、慣行等が他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与え、しかもその基準が職務と関連性がないなど合理的・正当性が求められないもの」
「丸子警報器の事件のようなケースは…差別禁止対象となりうる」との国会答弁
大谷雇用均等・児童家庭局長は2007年4月4日、第166国会衆議院厚生労働委員会において小宮山委員の質問に答えて「丸子警報器事件のようなケースについて、(中略)今回の想定の中では、差別的取り扱い禁止の対象となり得るケースではないかというふうに考えております。」と述べました。
安心して働きたい!暮らしたい!
今、必要なのは「ディーセント・ワーク」(人間的な仕事)
ILO(国際労働機関)は「自由・公平・保障・人間としての尊厳が確保された条件のもとでディーセントで生産的な仕事を得る機会を促進すること」を今世紀の最重要課題としています。そして、ディーセント・ワークの欠如として、「労働者の貧困化」「特に女性は高度に不安定なインフォーマル経済で働くこと」「若年層の失業」などをあげています。日本の非正規雇用労働者にこそ「ディーセント・ワーク」の実現が求められています。
女性も男性も仕事も家庭もだいじにしたい
「均等待遇」実現でワーク・ライフ・バランスを
私たちは人間らしい仕事と生活の両立が可能となるようなワーク・ライフ・バランス社会の実現を求めています。そのためにはそれを支える制度やシステムを構築しなければなりません。
男性か女性、正規か非正規かを問わず、すべての労働者にいま最も急がれる課題は「労働時間の短縮」と「均等待遇の実現」です。ヨーロッパでは「8時間は仕事のために、8時間は休息のために、あとの8時間は自分と家族のために」をスローガンに時間短縮を勝ち取ってきました。
労働時間規制を緩和する方向でなく、強化する方向こそがワーク・ライフ・バランス実現への第一歩です。また「均等待遇」が保障されてこそ、ライフスタイルに合わせて、パートタイム労働を選択したり、フルタイム労働を選択したりすることが可能になるのです。
問題の多いパート法ですが、「指針」ではなく「法律」に格上げされたわけですから、使用者の義務規定を果たさせましょう。「努力義務」「配慮義務」や、指針から法律に格上げされなかった項目も職場で討議し、均等待遇要求を実現していきましょう。組合はすべての労働者のディーセント・ワークをめざして、使用者の労働者分断攻撃をはね返しましょう。
すべてのパート労働者について事業主に義務付け
(1)労働条件などを文書で交付(労基法で定められたもの+「昇給、退職金、賞与の有無」)
(2)パート労働の待遇について(パート法で定められている措置について)
(3)正規への転換制度
労働時間
指針に「労働時間、労働日の決定、変更に当たっては本人の事情を充分考慮すること」「できるだけ所定労働時間を越えて、または所定労働日以外の日に労働させないように努めること」となっています。アンケートでも女性組合員で27%の人がサービス残業をしています。週40時間以内であっても所定時間を超える場合の割増賃金の支払要求なども検討しましょう。
教育訓練
パート法では(1)職務の遂行に必要な能力を付与するためのものは、職務同一短時間労働者に対して実施しなければならない(2)それ以外のパートにも・・・通常の労働者との均衡を考慮しつつ、職務の内容、成果、意欲、能力、及び経験に応じ、実施するよう努める、としています。
正社員に無償でおこなっている教育・訓練は非正規であっても同様に行うことを求めましょう。
賃 金
パート法では(1)すべてのパートに対して「職務の内容、成果、意欲、能力または経験を勘案して賃金を決定するように」(2)期間の定めのある職務内容同一短時間労働者で、正規社員と同じ配置転換がある人は、その期間中「同一の方法により、賃金を決定するように」努めるとあります。
この賃金には月給、一時金、職務関連手当は含まれますが、通勤手当、退職金、扶養手当などは政令で除かれました。しかし、指針ではこれらを含む他の手当についても「通常の労働者との均衡を考慮して定める」となっています。政府統計でも通勤手当、退職手当は高い割合で支給されています。パート労働者に、主たる生計維持者が増えているいま、一時金、扶養手当についても非正規を一律に排除する合理的理由はなくなってきています。
福利厚生施設
パート法では「健康の保持または業務の円滑な遂行に資するもの(給食施設、休憩室、更衣室)については利用の機会を与えるよう配慮しなければならない」とし、指針で「上記以外の(中略)福利厚生についても就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮して定めるように努める」としています。慶弔休暇や慶弔見舞金、医療など法律にはなりませんでしたが、国会でも大きく問題になりました。いずれも「利用の機会を与える」に留まらず、「正社員と同様に」利用できるよう求めていきましょう。
何年もパートで働いている人いませんか?
施行前に期限の定めのない雇用への転換を
パート法では「差別禁止対象」となる条件の1つに、反復更新を含む、期間の定めのない雇用契約を結んでいることをあげています。
いままで、反復更新を繰り返してきた人は、施行前に雇止めの起こる心配があります。この法律の施行を契機に期間の定めのない契約に変更するよう、団体交渉で求めていきましょう。
※期間の定めのある雇用というのは契約期間内に労働者の辞める自由は制限されるが、期間の定めのない契約なら、労働者はいつでも辞める自由がある。
改正パート法を
公務職場で働く人にもフルタイムパートにも適用を
改正パート法の対象者は「同一の事業所に雇用される通常の労働者と比べて一週間の所定労働時間が短い労働者」です。パートはもちろん、アルバイト、契約社員、嘱託、臨時社員、準社員など呼び方は関係ありません。1日の労働時間は同じでも1週間のうち3日だけという人も対象になります。
「パート」の呼称で雇われているが、労働時間は正規と一緒の「フルタイムパート」は法律の適用除外ですが、「法の趣旨が考慮されるべき」という付帯決議がつき、指針にも明記されました。また、公務の職場でも法の趣旨を逸脱してはいけないと総務省が国会答弁しています。
あなたの職場をチェック
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1.法律違反はありませんか? |
2.労組の力で均等待遇実現を |
(1)労働条件は文書で交付されていますか
はい いいえ
(2)希望すれば処遇に関して説明をうけられますか
はい いいえ
(3)希望すれば正規労働者になる制度がありますか
はい いいえ
(4)差別禁止対象労働者の処遇差別はありませんか
(期間の定めのない雇用、職務同一、人材活用の仕組みが同じ)
はい いいえ
(5)年次有給休暇は法律どおり付与されていますか
はい いいえ
(6)育児休業・介護休業制度が保障されていますか
はい いいえ
(7)生理休暇はありますか
はい いいえ
(8)産前・産後休業が取れるようになっていますか
はい いいえ
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(1)賃金は同じ仕事をする正規と時間当たり同じ額ですか
はい いいえ
(2)昇給制度はありますか
はい いいえ
(3)一時金は支給されていますか
同率 別基準 一律 ない
(4)職務関連手当は支給されていますか
はい いいえ
(5)家族手当、住宅手当は支給されていますか
同じように 別基準 ない
(6)退職金制度はありますか
同率 別基準 一律 ない
(7)正規と同じように通勤手当は支給されていますか
ある ない
(8)福利厚生施設は正社員と同じように利用できますか
はい いいえ
(9)正規と同じ内容の慶弔金や特別休暇がありますか
はい いいえ
(10)教育・訓練は実施されていますか
はい いいえ
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ILO175号パートタイム条約批准を求める運動を
175号条約は1994年6月7日のILO(国際労働機関)総会において採択されました。
この条約はパートタイム労働を「生産的で自由に選択できる雇用」として社会的に確立させることをめざしています。そして、そのためには「均等待遇」が不可欠の要素としています。
日本のパートタイム労働法は企業内の雇用管理のための法律にとどまっているところに限界性があります。
ILO175号条約では均等待遇の「比較対象のフルタイム労働者」を以下のように定めています。
(1)当該パートタイム労働者と同一の型の雇用関係にあり、 (2)同一の又は類似の型の労働又は職業に従事し、かつ (3)同一の事業所、又は当該事業所に比較可能なフルタイム労働者がいない場合は同一企業、又は同一企業にそれがいない場合は同一産業部門に雇用されている「フルタイム労働者」。
「改正」パートタイム労働法は同一事業所内の正社員と「人材活用の仕組み」の違いで比較することになっていますが、ILO175号条約は「同一または類似の型の労働または職業」によって比較、同一事業所に対象者がいない場合は、同一企業、そして同一産業にまでその対象を広げています。
「均等待遇」はヨーロッパ諸国ではあたりまえの流れとなっています。ILO175号条約の批准を政府に迫り、パートタイム労働法を真に「均等待遇」が担保される法律に改正させる運動が求められています。
有期労働契約の制限を
継続してある仕事なのに「有期労働契約」で働く労働者が増大しています。有期労働契約であるがゆえに、雇い止めの不安におびえ、何年勤続しても賃金・労働条件が改善されない労働者がたくさんいます。ヨーロッパ諸国では有期労働契約は「臨時的・一時的な仕事」に制限されています。「継続してある仕事」は「期間の定めのない雇用」であり、有期労働契約は制限されるべきです。
労働者派遣法
「登録型派遣」を禁止させよう
政府・財界は労働者派遣法をさらに規制緩和し、派遣対象業務を警備や、港湾、建設、などにもできるようにしようと狙っています。私たちは本来、例外的措置であった派遣労働が主流となっていることが、今日の労働者の雇用の劣悪化を招いていると考えます。雇用は原則直接雇用であることを法的にも明確にし、「登録型派遣」は禁止すべきだと考えます。
パート法3年後の見直しにむけ、職場の点検・改善活動を
さまざまな雇用形態の仲間を組合に
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