厚労省 労政審・労働条件分科会に「今後の労働時間法制について検討すべき具体的論点」(素案)を提示
―――厚労省 労政審に労働時間規制はずし残業代ゼロを示す
労働政策審議会・第67回労働条件分科会が、11月10日に開催されました。当日、全労連は厚労省前での宣伝要請行動を実施し労働法制改悪反対を訴えました。
この日の審議では、厚労省が残業代をゼロにできる労働時間制度の論点素案を提示しました。来年の通常国会に法案提出をねらい、年内に審議会のまとめを出す方向を強めています。
この素案では、従来、「自立的労働時間制度」と称していたものを「自由度の高い働き方にふさわしい制度」として、ホワイトカラーへの「労働時間の適用を除外する」と規定。対象は、(1)労働時間で成果を適切に評価できない(2)重要な権限・責任を相当程度伴う地位にある(3)業務遂行の手段や時間配分の決定に使用者が具体的指示をしない(4)相当程度高い年収という要件を満たす労働者で、労働者と使用者の代表からなる労使委員会で具体的に適用範囲などを決めるとしています。しかし、違反に対しては、違反行為そのものに対してではなく「改善命令に従わなかった場合に罰則を付することとしてはどうか」と、ゆるいものとなっているなど、財界の要求に沿った内容のものです。
一方、長時間労働削減のため労働者側が求めている時間外割増率(現在25%)引き上げについては、努力規定にとどめ、さらに長くなった場合に引き上げるとしただけで具体的時間や割増率などは示しませんでした。しかも、割り増し料金の支払いに代えて「有給の休日を付与することができることとしてはどうか」など労働時間規制の根本を覆すような問題が含まれています。
この日の審議では労働者委員から「健康破壊や過労死をひどくするだけ」と厳しい批判の意見が出され、公益委員からも「裁量労働制などすでに柔軟な時間管理制度がある」と疑問が出されました。
一方、使用者委員は「労使自治にまかせるべきだ」などといっそうの改悪を求めました。
ホワイトカラーイグゼンプションで
残業年間11.6兆円、一人当たり114万円の横取り
労働総研の試算で明らかに
労働総研は、ホワイトカラーイグゼンプションによる影響の試算を行い新聞各紙が取り上げ報道しました(労働総研のホームページ参照)。日本経団連が求める「年収400万円以上」だと、労働者1013万人が対象となり、残業代とサービス残業代あわせて11兆6000億円、労働者一人あたり年間114万円も残業代が削減されることになります。
導入にはいくつか要件を定めていますが、歯止めになる保障はありません。週休二日制にするとしても、年休も十分取れない現状では実効性はまったく疑問です。
財界は「多様な働き方」ができるとしていますが、すでに裁量労働制など一定の規制を外した制度があり、新たイグゼンプションを導入しなければならない理由もありません。
長時間労働やサービス残業をなくすための規制強化こそ必要です。
11.10労働法制改悪反対・学習決起集会で闘いの強化を意思統一
・・厚労省の素案は、法案要綱を想定したもの、審議をめぐる事態は緊迫化・・
全労連・労働法制中央連絡会
全労連・労働法制中央連絡会は、「11.10学習決起集会」を開催し、100名が駆けつけました。集会では、自由法曹団の平井弁護士が労政審・労働条件分会の審議状況や特徴点を説明し、厚労省の財界よりの結論ありきの姿勢を批判しました。
次に、五十嵐教授(法政大・大原社研)が「労働法制の規制緩和と日本の労働者の働き方」と題し講演を行いました。この中で、日本の労働者は4人に1人が年収150万円以下、半数が300万円以下。派遣労働者は200万円以下となっているなど現状を明らかにし、日本の労働者の働きかたの異常性を指摘しました。また、子どものいじめや自殺などの問題に十分対応できない家庭の現状は、結局、親の働き方の問題であり根本的な解決のためにも働き方を改善しないといけないと強調しました。
特別報告では、出版労連副委員長の大谷さん、いの健センター副理事長の田村医師、労働総研の藤吉さんが問題点の指摘と闘いの決意を表明しました。また、発言に立った全労働書記長の森崎さんは、今回の素案にある「・・とすることとしてはどうか」という文言を削ればそのまま法案要綱となるようなものであり、審議をめぐる事態は緊迫してきているとの指摘がありました。最後に、総合労働局長の宮垣さんより当面の行動提起がされ、労政審への要請や宣伝行動の強化、労政審への意見書の集中、「12・14厚労省・日経連包囲行動」の成功、「労働法制の拡充をもとめる100万署名」、地域・職場での学習や宣伝行動の展開などを呼びかけました。
今後の労働時間法制について検討すべき具体的論点(素案)
産業構造の変化が進む中で、ホワイトカラー労働者の増加等により就業形態が多様化している。このような中、企業においては、高付加価値かつ創造的な仕事の比重が高まってきており、組織のフラット化や、スタッフ職等の中間層の労働者に権限や裁量を与える例が見られる。 また、労働時間が長短二極化しており、3 0代男性の約4人に1人が週6 0時間以上働いているなど、長時間労働者の割合の高止まりが見られる。仕事と生活のバランスを確保するとともに、過労死防止や少子化対策の観点から、長時間労働の抑制を図ることが課題となっている。
このため、仕事と生活のバランスを実現するための「働き万の見直し」の観点から、長時間労働を抑制しながら働き万の多様化に対応するため、労働時間制度について必要な整備を行うこととしてはどうか。
○ 時間外労働削減のための法制度の整備
(1)時間外労働の限度基準
(1) 限度基準において、労使自治により、特別条項付き協定を締結する場合には延長時間をできる限り短くするように努めることや、特別条項付き協定では割増賃金率も定めなければならないこと及び当該割増賃金率は法定を超える率とするように努めることとしてはどうか。
(2) 法において、限度基準で定める事項に、割増賃金に関する事項を追加してはどうか。
(2)長時間労働者に対する割増賃金率の引上げ
(1) 使用者は、労働者の健康を確保する観点から、一定時間を超える時間外労働を行った労働者に対して、現行よ.り高い一定率による割増賃金を支払うこととすることによって、長時間の時間外労働の抑制を図ることとしてはどうか。
(2) 割増率の引上げ分については、労使協定により、金銭の支払いに代えて、有給の休日を付与することができることとしてはどうか。
○ 長時間労働削減のための支援策の充実
長時間労働を削減するため、時間外労働の削減に取り組む中小企業等に対する支援策を講ずることとしてはどうか。
○ 特に長い長時間労働削減のための助言指導等の推進
特に長い長時間労働を削減するためのキャンペーン月間の設定、上記(1)の時間外労働の限度基準に係る特に長い時間外労働についての現行法の規定(法第 36条第4項)に基づく助言指導等を総合的に推進することとしてはどうか。
○ 年次有給休暇制度の見直し
法律において上限日数を設定した上で、労使協定により当該事業場における上限日数や対象労働者の範囲を定めた場合には、時間単位での年次有給休暇の取得を可能にすることとしてはどうか。
○ 自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設
一定の要件を満たすホワイトカラー労働者について、個々の働き方に応じた休日の確保及び健康・福祉確保措置の実施を確実に担保しつつ、労働時間に関する一律的な規定の適用を除外することを認めることとしてはどうか。
(1)制度の要件.
(1) 対象労働者の要件として、次のいずれにも該当する者であることとしてはどうか。
i 労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事する者であること
ii 業務上の重要な権限及び責任を相当程度伴う地位にある者であるこ
iii 業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする者であること
iv 年収が相当程度高い者であること .
(2) 制度の導入に際しての要件として、労使委員会を設置し、下記(2)に掲げる事項を決議し、行政官庁に届け出ることとしてはどうか。
(2)労使委員会の決議事項
(1) 労使委員会は、次の事項について決議しなければならないこととしてはどうか。
i 対象労働者の範囲
ii 賃金の決定、計算及び支払方法
iii 週休2 日相当以上の休日の確保及びあらかじめ休日を特定すること
iv 労働時間の状況の把握及びそれに応じた健康・福祉確保措置の実施
苦情処理措置の実施
vi 対象労働者の同意を得ること及び不同意に対する不利益取扱いをしないこと
vii その他(決議の有効期間、記録の保存等)
(2) 健康・福祉確保措置として、「週当たり 40 時間を超える在社時間等がおおむね月 80時間程度を超えた対象労働者から申出があった場合には、医師による面接指導を行うこと」を必ず決議し、実施することとしてはどうか。
(3) 制度の履行確保
(1) 対象労働者に対して、4週4日以上かつ一年間を通じて週休2 日分の日数(104 日)以上の休日を確実に確保できるような法的措置を講ずることとしてはどうか。
(2) 対象労働者の適正な労働条件の確保を図るため、厚生労働大臣が指針を定めることとしてはどうか。
(3) (2)の指針において、使用者は対象労働者と業務内容や業務の進め方等について話し合うこととしてはどうか。
(4) 行政官庁は、制度の適正な運営を確保するために必要があると認めるときは、使用者に対して改善命令を出すことができることとし、改善命令に従わなかった場合には罰則を付すこととしてはどうか。
(4) その他
対象労働者には、年次有給休暇に関する規定(労働基準法第39条)は適用することとしてはどうか。
○ 企画業務型裁量労働制の見直し
(1) 中小企業については、労使委員会が決議した場合には、現行において制度の対象業務とされている「事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務」に主として従事する労働者について、当該業務以外も含めた全体についてみなし時間を定めることにより、企画業務型裁量労働制を適用することができることとしてはどうか。
(2) 事業場における記録保存により実効的な監督指導の実施が確保されていることを前提として、労働時間の状況及び健康・福祉確保措置の実施状況に係る定期報告を廃止することとしてはどうか。
(3) 苦情処理措置について、健康確保や業務量等についての苦情があった場合には、労使委員会で制度全体の必要な見直しを検討することとしてはどうか。
○ 管理監督者の明確化
(1) スタッフ職の範囲の明確化
管理監督者となり得るスタッフ職の範囲について、ラインの管理監督者と企業内で同格以上に位置付けられている者であって、経営上の重要事項に関する企画立案等の業務を担当するものであることという考え方により明確化することとしてはどうか。
(2)賃金台帳への明示
管理監督者である旨を賃金台帳に明示することとしてはどうか。
○ 事業場外みなし制度の見直し
事業場外みなし制度について、制度の運用実態を踏まえ、必要な場合には適切な措置を講ずることとしてはどうか。
「働くもののいのちと健康を守る全国センター」第4回理事会が
労働法制改悪促進のための厚労省の素案を批判する見解を表明
いの健全国センターは11月10日開催した第4回で下記の見解を表明しました。
底なしの長時間労働を可能にする労働時間規制緩和を許すな
−「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」に反対する−
厚生労働省は、労働契約法と労働時間規制の適用除外について、来年の通常国会に法案提出を提出するため、急ピッチで作業をすすめています。労働時間規制の適用除外では「自由度の高い働き方にふさわしい制度」を導入し、不当にも年収400万以上のホワイト・カラー(デスクワーク職、研究職など)の労働時間の法的規制をはずそうとしています。このような労働時間規制の適用除外制度の創設は、多くの労働者に残業代なしの底なしの長時間労働を強いるもので、働くもののいのちと健康の破壊をさらに進めるものであり、断じて容認できるものではありません。
2005年の脳・心臓疾患による過労死の労災認定申請は319件で、認定は157件でした。過労自殺も年々ふえ、申請147件に対し42件の認定です。しかしこれらは氷山の一角です。警視庁の調査によれば被雇用者8,312人が自殺しており、過労自殺で労災申請にいたり認定されるのは氷山の一角に過ぎません。
それだけではなく過労死、過労自殺の予備軍がふえている現状があります。定期健康診断実施結果有所見率は1990年は23.6%で、1995年は38.0%、2005年度で48.4%となり、15年で倍以上になっています。東京労働局の調査(300人以上、1071社))によれば、「脳・心臓疾患の発症が懸念される企業」は、31.1%(2002年)、35.3%(2003年)、38.3%(2004年)と年々ふえています。社会経済生産性本部の「メンタルヘルスのとりくみに関する企業アンケート調査」では、「過去3年間に心の病が増えた」企業は、2002年48.9%、2004年58.2%、2006年61.5%と急増しています。
このように働くもののいのちと健康の破壊が進んでいる現状のもとで、労働基準法の「1日8時間・週40時間」の原則を徹底し長時間・過重労働を是正すること、休日労働の削減、年次有休休暇の取得率の改善などが切実に求められています。
私たちは過労死、過労自殺をなくし、健康で安心して働ける職場をめざして、労働時間規制の適用除外制度である「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」に強く反対します。過労死を考える家族の会、弁護士、医師、労働組合などが結集した「働くもののいのちと健康を守るセンター」にふさわしく、長時間労働、成果主義賃金、変則労働などが労働者の健康に与える影響を訴え、職場や地域から反対運動を進めましょう。
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