全労連は7月6日、東京・全国教育文化会館において、「ストップ!ハシズム、橋下『維新の会』のねらいを暴く交流集会」を開催しました。現在、橋下大阪市長のもとで、市職員・労働組合への支配強化と教育の変質をねらった「職員」「教育」の基本条例につづいて、公務員の政治活動、正当な労働組合活動を規制強化する条例制定がねらわれています。
一方で、消費税増税や原発再稼働をめぐる野田政権の混迷が深まるなかで、橋下氏が率いる「維新の会」が次の国政選挙にむけて全国で大量の候補者擁立をめざす動きが伝えられています。
こうしたなかで開いた交流集会では、橋下市長が強行にすすめる公務労働者への弾圧、住民いじめの攻撃に反撃して、全国からたたかう決意を固めあいました。集会は、全労連・大阪労連・自治労連・全教の四者が主催し、大阪をはじめ全国から130人が参加しました。
各分野の専門家が橋下市長の「人格」や社会背景を解明
主催者を代表してあいさつした小田川全労連事務局長は、「橋下市長は就任以来、『月替わりメニュー』のように次々と市職員に対する攻撃を繰り返している。一方ではこうした公務員バッシングが住民の支持を獲得し、大手マスコミは『橋下首相』などと持ち上げる事態になっている。市職員への数々の横暴を一大弾圧事件ととらえて解明し、全国から反撃していこう」と呼びかけました。
つづいて、3人の学者・研究者が各分野から以下のように報告しました。
○東京大学大学院・小森陽一教授(「九条の会」事務局長)
大阪市の「教育基本条例」は、子どもを「人材」ととらえて、人間の商品化をねらうもので、子どもの個人としての尊厳を認めない考え方だ。「子孫」をふくめてすべて国民は主権者として位置づけられている憲法にも違反する。
また、自己選択ができず、発展過程にある子どもにまで「自己責任」を押しつけ、他者と共同・協働する場としての教育を敵視する点は、橋下氏のゆがんだ教育観の現れだ。点数による競争は学校教育を崩壊させ、格差と差別を拡大させる。教育の「マネジメント」という思想も、子どもの「家畜化」であり、学校を社会的に統制する機関として変質させようというねらいがある。
これに反撃するには、子どもを真ん中においた教師と保護者、地域社会の連帯と連携を深めながら、「教育基本条例」の反教育性を明らかにするため自由な議論をすすめることが必要だ。
○前関西学院大学教授・野田正彰氏(精神科医)
橋下氏に対抗するためには、彼の人格を語るだけでなく、昔ナチズムを批判しても人々が動かなかったように、彼のようなリーダーを生み出した時代の精神を理解することが重要だ。自民党が担ぎ上げた平松前市長の無策に対して、大阪市民は不満がたまっていた。それをうまく利用して、公務員と教員を悪者にすることで支持を獲得したことを見ておく必要がある。原発にしても、関西電力幹部と結びついていて、反対する意思はまったくなく、市民の支持をえるために「反原発」のポーズをとった。
したがって、次の大阪市長選挙を見据えて、橋下氏の政策を恒常的に反撃していく必要がある。一つ一つの問題をバラバラに批判しても、相手の主張に吸い込まれていくだけで、どんな大阪市をつくるのかを提起することが重要だ。今日のような集会を数多く開くとともに、常設の事務所も設置して腰を据えてたたかうべきだ。
○大阪市立大学・西谷敏名誉教授(労働学)
大阪市の「職員基本条例」の特徴は、市長のお気に入りで上層部を固めることにあり、能力・成果主義と厳罰によって職員を支配し、「全体の奉仕者」から「市長の奉仕者」に変質させるものだ。トップダウンの行政組織を作ろうとしている。
7月議会に提出した大阪市労使関係に関する条例案は、便宜供与の廃止や管理運営事項すべてを交渉事項から排除するもので、団結権や交渉権など憲法で保障された労働基本権の明確な侵害だ。団体交渉は形骸化され、労使間の交渉どころか意見交換さえも否定し、違反すれば処分される。
団体交渉をマスコミにも公開し、橋下市長はテレビ中継することもねらっているが、すべてが公開されれば、労使双方が率直な意見交換ができなくなり、団体交渉とは言えなくなる。これらは明らかに労働基本権の侵害で憲法違反だが、住民の側にも憲法を守る意識が後退していることは否定できない。
こうしたもとで必要なことは、なぜ公務員に労働基本権が必要なのかを伝えること、公務と民間の労働者、公務職場の非正規労働者の連帯をつくりだしていくことだ。
「たたかいを全国にひろげよう」と各団体が決意表明
その後、大阪市役所労組、大教組、国公労連、大阪労連の代表が発言しました。
○大阪市役所労組・竹村博子委員長
小さな労働組合だが、市民の権利を守るために奮闘してきた。そのなかで、橋下市長の独裁に反撃して、市民との共同により大同団結の芽が生まれつつある。この間、市民に対して10万枚のビラを配布し、橋下市長と維新の会の本質を知らせてきた。6月25日の集会にはローカルセンターの垣根を越えて1,500人が参加した。今後も、全体の奉仕者としての役割を果たすため奮闘したい。大阪の問題ではなく、国政への進出をねらう橋下「維新の会」と対決して、全国の先頭に立って奮闘する決意だ。
○大教組・末光章浩副委員長
2条例の制定は強行されたが、元気をなくしていない。たたかいのなかで、よりいっそう反撃にむけた確信を深めた。教育基本条例にもとづいて、大阪府教育振興基本計画検討委員会が設置されたが、「維新の会」を支持する委員は一人もいない。大阪では、教育界が一丸となって反撃ののろしをあげている。大阪府独自の学力テストも、12市町村は参加しないことも健全さの表れだ。この一点共闘をひろげるために、運動に確信を持って「維新の会」を包囲していきたい。国政進出の準備がすすむなかで、国の方向を左右する問題となってきている。大阪で攻撃を押しとどめる決意を表明するとともに、全国的な運動を呼びかける。
○国公労連・盛永雅則副委員長
政治活動を禁止した国家公務員法にもとづいて、人事院規則では17項目におよぶ「政治的行為」がさだめられ、違反者には行政罰とともに刑事罰も科せられる。休日に一市民としてビラを配っただけで不当逮捕された堀越事件・世田谷事件が最高裁にかかっている。堀越事件は、周到に準備された公安警察の陰謀であり、刑事罰規定がなければ公安警察の介入を許すこともなかった。政治的行為の制限は、明確に憲法に違反する。40年以上前の「猿払判決」をくつがえし、最高裁での国公法の違憲判断を求める。重要局面をむかえるたたかいへの支援を要請する。
○大阪労連・菅義人事務局次長
市民サービス切り捨ての独裁政治はいらないという声を、全国に拡散させるためたたかいたい。公務・民間で闘争本部を立ち上げ、民間労組とも熱い議論を積み重ねてきた。「民間並み」という橋下氏の主張は、民間労働者への蔑視そのものだ。いま、民間企業が大阪市をまねて、「社員アンケート」をしたり、組合掲示板の撤去を命令する経営者も出てくるなど、労働基本権の侵害は公務員だけにとどまらない。市民要求実現の観点から、橋下市長と維新の会の本質を暴露し、大阪市はどうあるべきかをひろげるためにたたかう決意だ。やがて必ず国政に出てくることを見据えて、全国レベルでのたたかいを各地でひろげてもらいたい。
集会の最後に、野村幸裕自治労連委員長が、羽曳野市長選挙で「維新の会」推薦候補が敗れたことにも触れ、「橋下市長の市民犠牲の実態を具体的に明らかにできれば、市民は賛成しない。手を緩めることなく、生活要求に根ざして、住民との連帯をひろげてたたかおう」と閉会あいさつした。