安倍政権が「世界で一番、企業が活動しやすい国」をめざし、アベノミクスの成長戦略の中心として労働の規制を撤廃することが狙われるもと、労働法制中央連絡会は6月25日、全労連会館2階ホールで「安倍政権の『労働規制緩和』を問うシンポジウム」を開催し、70人が参加しました。
全労連の生熊茂実副議長(JMIU委員長)が主催者あいさつ。「都議選の結果や世論調査を見てもアベノミクスへの期待は高い。マスコミはアベノミクスの恩恵がまだ国民には来ていないと言っているが、国民には来ないということを私たちのたたかいではっきりさせることが大事だ。過去の労働法制改悪とのたたかいは政治を変えるきっかけとなった。政治を変えることで改悪を阻止できる。参院選でのたたかい、組合運動の前進で雇用を守るため奮闘しよう」と呼びかけました。
シンポジストとして、労働総研の藤田実事務局長(桜美林大学教授)、自由法曹団常任幹事の鷲見賢一郎弁護士、JMIU日本アイビーエム支部の杉野憲作書記長、全労連女性部の大西玲子事務局長が報告し、労働法制中央連絡会の井上久事務局長(全労連事務局次長)が司会を務めました。
藤田氏は、はじめにアベノミクスは国民生活を危機に陥らせるものだと述べ「公共事業の拡大は赤字を拡大するだけで経済は成長しない。金融緩和・国債が増発され過剰な資金が累積し、株価が乱高下して大儲けするのはファンドなどの一部富裕層だけ。円安の進行で輸入品価格が上昇しインフレが進行する。日本経済の停滞の要因には、少子高齢化による消費の停滞、社会保障切り下げなどによる将来不安、リストラによる雇用不安、非正規の増大など構造的需要不足がある」と指摘。「成長産業に多くの企業が参入し、雇用が創出されても、競争の激化により価格競争を強いられ、賃金低下が生じる可能性がある。たとえばサービス業で良質にサービスを提供しようとしても、競争が激しいと価格が上げられず、よって利益をあげるために労働者の賃金が下がるということになる」と規制緩和やTPPを進めた場合の危険性を述べました。
鷲見氏は「安倍首相は、成熟産業から成長産業へ『失業なき円滑な労働移動』を図る、行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策シフトを具体化する、ハローワークの有する情報を民間に開放し、就業支援施策の実施を民間に委任しようとしている。具体的には、雇用調整助成金から労働移動支援助成金に資金をシフトさせるということで、リストラする企業や再就職支援を請負う人材会社に税金が流れるということだ。整理解雇の四要件を弱めようという動きでもある。リストラしても再就職先を斡旋すればそれでいいとうことになると今までの解雇を許さないたたかいを切り崩すことになる」と指摘。派遣の規制緩和について、「派遣は、臨時・一時的なもの、常用代替を防止するという原則をはずすとは無茶苦茶だ。派遣法ができた経過、職安法との関係を無視している。派遣をずっと使えることになり、みなし雇用制度も、マツダの判決も意味がなくなる。基本に立ち返った取り組みが必要」と述べました。限定正社員については、「より低賃金・低い労働条件に押し込めるもの。今は工場閉鎖になっても整理解雇の四要件が適用され、右から左へと解雇ということにはならない。限定正社員の場合は、就業規則に職務や勤務地限定を書き入れ、解雇しようとするだろう。しかし、それでたたかえないことはないが、たたかいにくくなるだろう。雇用の在り方を根底から変えるものであり、たたかいを強化することが重要」と呼びかけました。
JMIU日本アイビーエム支部からは、ロックアウト解雇され、たたかっている組合員が前に並び、まずは杉野憲作書記長が、続いて全員が訴えました。杉野氏は「現在、26人の組合員がロックアウト解雇され、これは組合役員を狙い撃ちにしており、すさまじい攻撃でまさに解雇自由化だ。IBMでは部門解散で、労働者が自分で行き先を見つけ、できなければ解雇というもので、限定正社員の先取りのようなものだ。雇用の規制改革を食い止めないと大変なことになる」と話しました。
大西氏は「今まで女性の活用、女性にやさしい働き方など、女性の活躍のための方策であるかのような打ち出しがなされてきたが、多様な働き方という名のもとで派遣法が導入されたようにそうなっていない。少子高齢化で人材が不足しており、女性を活用しようというものだ。今でも女性は一般職に押し込められ、賃金は一定の時点から寝たきり賃金になっている。男性の働き方が見直され、限定正社員ということになれば、男女平等雇用劣化だ。実効ある均等法改正のため運動を広げたい」と述べました。
井上氏が最後にまとめとして「TPPでは、アメリカにとっていいように、日本の労働規制の障壁を全面的に取り外そうとしている。日本の雇用システムをやめてグローバル対応で勝手にやろうとするもので、IBMのリストラはその根底にあり、運動を作っていかなければならない。最賃の引き上げを言わざるを得なかったのはわれわれのたたかいの成果だ。雇用の規制緩和について職場で議論したたかいを進めよう」と呼びかけました。