労働法制中央連絡会は、2月12日、参議院会館にて「年金と高齢者雇用の改悪反対!労働債権の保護強化を!〜要求実現2・12緊急院内集会」を開催、20組織・団体54人が参加しました。テーマは内閣提出の労働関連法案で、問題山積にも関わらず、3月中の決着が目論まれています。
伍淑子婦団連副会長から主催者あいさつの後、上西充子法政大学教授、柚木康子全労協常任幹事から連帯あいさつ。倉林明子参議院議員から国会情勢も含めた報告をいただき、労働法制中央連絡会より全世代型社会保障改革と雇用保険法等一括法案の問題点と要求の解説がされました。決意表明では6つの団体から熱い決意が示されました。 ―以下要旨―
主催者あいさつ
婦団連 伍淑子 副会長
全世代型社会保障改革を第一に進めると、今国会に提案されている。これは今年金を受け取っている高齢者だけの問題でなく、現役世代の働き方にも悪影響を及ぼすもので、全面的な改悪だ。先進諸国では労働時間の短縮や賃金の引き上げが進んでいるのに、日本は逆。貧困と格差が深刻化するなか、富の再配分をせず、社会保障をこのような形で改悪し、働き方まで変えるやりかたに怒りを覚える。黙っていたら認めたことになる。「おかしいと思っている」ことを行動で表さなければ、というわけで、緊急の集会を開催した。成功させて、これからの運動につなげていきましょう。
連帯あいさつ
法政大学 上西充子 教授
全世代型社会保障という言葉は、一見すると「すべての世代の社会保障を充実させますよ」と聞こえるキャッチフレーズ。「働き方改革」と同様、中身がわからいまま言葉が出てくる。「そうではない」「裏もみよう」ということを、どれだけ浸透させられるかがポイント。安倍首相は、「高齢者のうち8割は65歳を超えても働きたいと願っている。働く意欲のある皆さんに就業機会を確保する」と言っているが、2つ問題がある。1つは、高齢者の8割は願っていない。(高齢で)働いている人の8割であり、高齢者全体では5割強だ。新聞報道でファクト・チェックもされたが、敢えて同じ言い方を繰り返し、確信犯と言える。2つは、「働く意欲のある皆さんに」という言い方。これは分断。現役世代の負担になると言われると、保障を受ける意識が抑制されてしまう。働く意欲がないのか、年金や社会保障給付を受けないでくれというニュアンスが含まれている。遠慮せず、「そういう言い方はおかしい」というところが第一歩となる。こちらとしてもどうイメージ戦略をやっていくか考えないといけない。
全労協 柚木康子 常任幹事
2月6日に雇用共同アクションとしてこの問題で衆参厚労委員に議員要請してきた。雇用延長するかのように言いながら雇用でない働き方、フリーランスや請負を広げる。こうした働き方はやりたい人、できる自信のある人が自分の判断でやるべきで、労使協定で決めるべきことではない。「65歳以上がよければ50歳以上、30歳以上でもよいではないか」となりかねないもので、大問題である。政府や大企業は雇用関係を取り払いたいと考えている。しかし、フリーランスで自立してやっていける人はほんの一握りであり、働いて賃金を得ないと食べられない人にとってはこれほど過酷なことはない。雇用共同アクションでも様々な行動ができるようにがんばりたい。
日本共産党 倉林明子 参議院議員
雇用保険法等改正法案、労基法改正案、これらはいずれも日切れ法案で、政府はさっさと片付けようとしている。同時に、雇用保険法は主なもので7つの法律が一括になっており、賛成できるものも、大いに反対しなければならないものもある。高齢者雇用については、労働者保護をかけるべき人をその保護から外すものであり大問題。いま国会では桜問題、カジノ問題、北村大臣の答弁問題で、野党は共闘して団結して闘おうとなっている。一方で、この法案の、一括法という出し方についても野党の国対(国会対策委員会)ベースで議論し問題があるとみている。私たちも国会内で声を上げるが、ぜひ国会の外からも、(法律ごとに)バラバラにして充分な審議をするよう働きかけることも必要。この問題は詐欺的手法と言っても過言ではない。働く意欲のある人に働く場所を確保すると言いつつ、その先にあるのは全世代型社会保障という名のもとの年金の大改悪である。雇用を破壊し年金も改悪が本質。国会での議論は詐欺的な言い逃れを許してこなかった。桜問題でも、発覚から数か月経った調査でも「総理の答弁は不十分だ」が8割。そういう世論をつくってきた。しっかり声を上げて世論にして国会を包囲していただく中で、皆さんと団結してこの問題でも諦めず頑張っていきたい。
―法案についての問題点と要求の解説―
全世代型社会保障と年金改悪について
全労連 岩橋祐治 副議長
昨年12月にまとめられた中間報告案は、医療や介護も取り上げているが、年金と労働の問題を重視していることが特徴。改革の視点のトップに出てくるのは「生涯現役」「エイジングフリーで活躍できる社会」こういう社会を目指すとしている。要約すると「一生働け」ということ。本質を見抜き、取り組みを進めていきたい。
賃金と社会保障は車の両輪として、私たちは賃金闘争と社会保障闘争を重視している。安倍政権は雇用を破壊して社会保障を改悪し、さらにそれをテコに雇用を改悪している。まさに車の両輪を破壊して国民生活を破壊している。年金の改悪はこの6年間、特例水準の引き下げ、マクロ経済スライド発動などすさまじいものがあり、6年間で6.8%引き下げられた。その結果、65歳以上で働く人が6年で1.45倍になった。年金改悪で働かざるを得ない状況に追い込まれている。高齢者労働の実態は8割が非正規雇用であり、労災発生率も高い。
年金「改正」法案は、(1)年金支給開始年齢の上限を75歳まで引き上げる、(2)厚生年金社会保険の適用拡大が主な内容。社会保険は企業規模で格差をつけるべきでない。ただし、社会保険は定率負担であり、極めて逆進性が強い。月8万8千円の収入で月額12,452円。年収200万円以下の人から取るな、200万円超えても減免する必要がある。雇用保険も、受給したら老齢年金を減らす制度も含め、詐欺的であり、社会保障審議会年金部会でも問題視されている。日本の年金は最低保障がないことが弱点。マクロ経済スライドを廃止し、最低保障年金を創設するともに、あらためて「一生働け」と言う社会が幸せな社会か?と問う必要がある。闘いで安倍内閣を退陣に追い込み、まとも年金制度、まともに働ける制度を目指してがんばっていきたい。
雇用保険法等一括改定法案について
自由法曹団 鷲見賢一郎 弁護士
一括法は10程度の法律が盛り込まれているが、高年齢者雇用安定法の改正案について話す。この法案は「人をごまかして雇用の非労働者化を促進する法案」である。扱いは日切れ法案となっている。日切れ法案そのものは、予算関連や限時法など、趣旨には一定の根拠があるが、高年法は日切れ法案でも何でもない。上程されている労働基準法(賃金等請求権の消滅時効の見直し)も、日切れにする必要はなく、拙速審議のためのインチキだと考えている。高齢者雇用安定法案は、条文を読むとすさまじい内容。人をごまかしながらまっしぐらに請負委託、フリーランスを促進するもの。改正案で新設されようとしている(高年法)10条の2第1項は70歳までの雇用確保の努力義務をかけながら、「ただし」書をつけ、第2項に並列している「創業支援措置等を講ずることでもよい」としている。定年を65歳以下とし、65歳以降は請負委託でもよいという条文。労働者であれば、労働基準法をはじめ、最賃、労組法などで守られる。となると多くの使用者は、雇用よりは請負委託を選ぶだろう。この法律は雇用と請負をまったく同列にしている。これでは無権利労働者が多く生まれる。また、労働者の希望もとおらないように、選別条項も入れるとしている。行きつく先は労働法の適用がなくなる。残業規制、最賃規制、労働安全衛生規制、労働災害補償もなくなる。こんな法律は断固廃案にしなければならない。
決意表明
MIC 小日向芳子 出版労連副委員長
大企業や公務員の定年延長の動きもあることから、2018年の定期大会で65歳定年の要求化に向けての議論を始めた。内部の議論では差別選別導入がされるのではないかなど懸念があった。継続雇用と定年延長では、正規雇用か非正規雇用かの違いとなるので、大きく労働条件が違ってくる。要求討議を開始し、様々な不安が寄せられている中で、「若い人たちの問題」として議論を進めている。全世代型社会保障では差別選別がある。MICではフリーランス連絡会を行っているが、フリーランスの人たちの保障が重要。出版労連として定年延長Q&Aを作って進めている。全世代型社会保障、年金改悪など反対の運動をしていく。
建交労 角田季代子 委員長
建交労は様々な職種がある。自治体関連でも公園の清掃や河川の草刈りなどで高齢の組合員が働いている。春闘アンケートの結果が資料に記載されている。年金で暮らせない高齢者の生活実態は、ほぼ自分1人か2人の世帯。年金受給者が8割である。年金をもらいながら働いている人のデータについて、平均受給額をみると8万9千円程度。厚生年金55.8%を占めていても、この金額となっている。生活の中で負担と感じる項目は、約6割が食費を指摘しており、生きていくことそのものに赤信号が点滅していることがわかる。
一人暮らしの人について年金額と就労収入をみると、厚生年金の場合は男性で年金9.6万円+月収8.3万円で計17.9万円。女性は年金8.5万円+月収5.7万円で計14.2万円。一方、国民年金の場合は男性で年金5.7万円+月収7.3万円で計13.1万円。女性では年金4.6万円+月収5.4万円で10.0万円。働いていても、この水準である。
しかし、就労日数や時間は「これ以上増やしたくない」人がほとんど。平均週3〜4日の勤務となっているが、「お金は欲しいがこれ以上は(体力的にも)増やせない」人が多数である。賃金水準も地域最賃にへばりついている。これから年金・社会保障が改悪されていくわけで、この先に見えてくるのは、いま紹介した事例よりもっとひどい事態だろう。そのことが透けて見える。
今のままでは、70歳まで働くなかでも、圧倒的多数はどん底に落ち込んでいく。そうした行きつく先が見えているのだから、やることはひとつではないか。この一括法案でごまかされず、改悪を止める。政治を変える必要がある。
JMITU 三木陵一 委員長
JMITUでは高齢者の働き方について組合員の関心も要求も強い。2月14日には、この問題も合わせて国会行動を展開する。ここで強調したいのは「高年法でひどい働かされ方がある」ということ。また、制度を変えるならば65歳までの定年延長、年金受給の隙間をなくすことを求めている。実態調査を行ったが、継続雇用者の平均月給は21万円ほどで、低い所は20万円に満たない。傾向として明らかなのは、人を大切にしないと業務が回らない中小企業に比べ、大企業ほどひどい賃金となっているということ。IBMだと週3日勤務を指定される人は10万円程度。1週間フルでも17万円程度。経験も技術もあるベテランを、ほぼ最賃の水準で働かせることができるこの制度は、使用者にとってはこの上なく都合がよいもの。絶対反対していかなくてはならない。65歳までの定年延長と、65歳以降は安心した老後が暮らせる年金制度を実現するために頑張りたい。
働くもののいのちと健康を守る全国センター
岡村やよい 事務局次長
健康寿命の平均は男性が72.1歳、女性が74.7歳。70歳まで働けというのは、「動けるうちは働け」ということであり、「動けなくなったら終わりね」ということだ。平均寿命も男性80.9歳、女性87.1歳。男性でいえば、健康寿命から平均寿命の間に介護・医療のお世話になるが、政府の社会保障制度は「自助、共助、公助」でやれとしている。がんばれる人、動ける人はすでに働きに行っている。そうして、地域には動けない人が残っているという実態を聞く。「人生100年時代に向けた有識者会議」において、高齢者の雇用者数は増えているが労災の割合は高い、定期健診の有所見率も非常に高い中で、高齢者についてしっかり取り組んでいる会社は全体の半数程度、という現状が報告されている。たとえガイドラインができても、どこまで浸透するのか疑問である。ましてフリーランスや起業した人はそこには行きつかないだろう。
労働債権についても一言。精神障害に関る労災申請は苦労している。発症して正常な判断ができない、考えるのもつらいという中、2年の時効というのはあまりに短い。健康で安心して働いて、働き終わっても安心して暮らせる社会を実現するため一緒にがんばりましょう。
全日本年金者組合 加藤益雄 副委員長
年金者組合では年金減額を許さない取り組みをしてきているが、同時に、働き方とリンクさせている問題をしっかり押さえていかないといけないと、機関会議で意思統一した。来年度4月からの年金額は厚労省の発表で0.2%上がるとのこと。他方で、物価は0.5%あがっているので、実質0.3%マイナスだ。安倍政権が2012年の年金改悪法を通してから年金の給付水準は6.8%減らされている。年金を下げて、現役の負担を下げるというが、今の現役世代は、今後の新たな年金受給者であり、その年金が引き下げられていくということ。イメージ戦略の話があったが、今の高齢者だけいい年金もらってていいのか、という宣伝を展開されている。これに対抗して、なんとしても年金改悪をやめさせ、安心して退職して老後が過ごせる社会にしていかなければならない。その実現のために、全国民的な運動を皆さんと一緒にやっていきたい。
―行動提起―
労働法制中央連絡会 伊藤圭一 事務局長
今国会に出された内閣提出のふたつの労働関連法案について議員要請をする。みてきたように雇用保険法等一括法案の中には多くの法律が盛り込まれ、内容も多岐にわたるが、これから行う議員要請の内容は、いくつかに絞っている。
ひとつは、国会軽視、拙速審議を前提とした法案の扱いを止めることである。雇用保険法等一括法案は、個々の法案ごとに分けて審議し、採決も法案ごとに行うこと。労基法改正法案も含め、3月末までの日切れ扱いにしているが、道理がないので、別途の日程をたて、審議時間を確保することを求めている。
次に内容について。高齢者雇用安定法案は、雇用確保措置以外の「就業確保措置」、すなわち、「創業、委託契約、有償ボランティア」などの「就業確保措置」の条項は削除すること。そして、70歳までの就労を強いる年金改悪を止め、雇用と年金の接続を確実にしながら、60歳以降は、だれもが退職すれば安心して暮らせる社会保障制度を確立すること。健康問題で働くことができない人には、60歳から減額なしの年金を受給できる特別支給制度を創設することを求めている。
労基法「改正」法案については、賃金、災害補償、付加金の請求権の消滅時効や、賃金台帳等の重要書類の保存期間を「当分の間、3年間」にする条項は削除すること。そして、災害補償請求権についても消滅時効を5年とすることを、求めている。民法の一般債権の時効より、労働債権の時間を短くするなど、認められないという強い意思表示をしたい。
このように、多くの問題が盛り込まれた法案を、日切れ扱いとして短期間でやることの無理は、今日の集会でもよくわかった。そうはさせない運動を、みんなで盛り上げていこう。
労働法制中央連絡会では、今後も引き続き情報を共有しながら改悪阻止に向けた行動を展開する予定です。皆様のご協力をよろしくお願いいたします。
雇用保険法等「改正」法案、労基法「改正」法案に関する要請
高齢者雇用の改悪を止め、労働債権の保護強化を実現してください(PDF220KB)