全労連は12月1日、厚生労働省に対して、「ケア労働者の大幅賃上げと職員配置基準の引き上げを求める要請書」を提出し、12月2日には厚労省記者クラブで記者会見を行いました。国民春闘共闘委員会とともに、医療・介護・福祉・保育・学童・保健所で働く全ての労働者を視野に入れた「ケア労働者の大幅賃上げアクション」をスタートさせました。
岸田首相の引き上げ策は「一桁足りない!」
全労連・国民春闘共闘委員会は、2022国民春闘の中で、(1)看護師、介護職員、保健師、保育士などのケア労働者の賃金4万円以上の大幅引き上げ・底上げを図らせる。(2)医療、介護、保育などのケア職場の職員配置基準の改善・大幅増員など抜本的な拡充を実現させる。コロナ感染拡大に備える体制の確立を求める。(3)要求実現の過程で、全労連・国民春闘共闘の組織拡大を実現し、好循環をつくることを目的にした「ケア労働者の大幅賃上げアクション」をスタートさせました。
記者会見には全労連の小畑雅子議長(国民春闘共闘代表幹事)、日本医労連の森田進書記長、自治労連の石川敏明書記長 建交労の角田季代子委員長、福祉保育労の澤村直書記長が大幅賃上げの必要性と職場の実態を訴えました。
冒頭、小畑雅子議長が趣旨を説明しました。「政府は、ケア労働者の賃金引上げを緊急経済対策の一環として行うとしたことは、私たちの運動で求めてきたことでもあり歓迎している。しかし、示された引き上げ額については『一桁足りない』という現場からの声が象徴している」と述べ、「保育園は子どものいのちを預かる施設。人手が足りない。待遇改善が必要」「コロナが発生してから、外食も旅行も我慢している。感染と隣合わせなのに手当もないという激務のなかで社会を支えている」など、ケア労働者からの悲鳴のような声が労働組合にはたくさん寄せられているとしました。また、「女性が多いケア労働の低賃金は男女賃金格差の一因となっているし、ジェンダー平等実現のためにも、抜本的な改善につながる施策を求めていきたい」と述べました。
そして、「昨日、ケア労働に係る労働組合の要求をまとめて要求書を厚労省に提出してきた。政府に対しては、月4万以上、時間給250円の引き上げを求めている。またその実現のために現場の声を首相が直接聞く場を」と求めました。
全産業平均を下回る看護師、介護職の賃金を平均を上回る水準への引き上げを!
日本医労連 森田進書記長
政府資料でも社会の基盤を担う労働者の賃金を引き上げるというのであれば、政府が「公的価格評価委員会」という名称自体が、あたかも看護師や介護職の賃金がモノの値段のように扱っているようで違和感を覚える。
データのとり方も、看護師の賃金は夜勤や残業の多い職種とそうでない職種の賃金水準を比較するのであれば、基本給を見なければ正確な評価とはならないが、政府は残業代・夜勤手当込みの恣意的なデータを使って、看護師の賃金水準が高く出るようにしているが、賃金水準の実態は全産業平均を大きく下回っている。アメリカやオーストラリアの看護師の賃金データを見れば、看護師の賃金は全産業平均を超えている。そういう海外の実態も見ながらあるべき水準を考え大きく引き上げていくべきではないか。コロナ対応した人に支給するとか言っているが、一部の人になら、現場のチームワークを壊す恐れがあるので、そういうやり方はやめてほしい。
住民のいのちを守る現場の保健師、看護師増やせ
自治労連 石川敏明 書記長
労働組合として、現場の保健師、看護師増やせという要求を掲げながら取り組みを進めている。 この間、公的・公立病院をまもる緊急行動では、住民のみなさんから「娘が保健師、増員が絶対必要」「病院・看護師を増やしてほしい」という声が届いている。現場では、住民のいのちと健康を守るために、月100時間にも及ぶ時間外勤務をこなしながら踏ん張っているが、自治体の職場では、一時金の引き下げなども起きている。また、自治体業務の民営化の流れの中で、公社や民間事業者が運営する病院・保育園などが増えている。委託事業者の中には、経営が続けられずに突然運営から撤退するような事態も増えている。こうした場合、急遽自治体が再度直接運営を行うことになるが、そのための十分なマンパワーが確保できていない。
学童保育所は悲鳴を上げています 今すぐ改善策を図ってください
建交労 角田季代子 中央執行委員長
学童保育の現状について、学童保育は制度が脆弱で、なかなか光の当てられない福祉労働者の中でも低い労働条件に置かれているのが実態。学童保育は児童福祉法上の位置づけも、児童福祉施設として認められず、事業とされているため、施設の最低基準も定められずに放置されている。
最低基準もないうえに、地域の実情に応じた運営とされているため、労働条件は極めて低いのが実態。建交労学童部会の調査でも平均年収268万、基本給18万、一時金33万となっている。労働組合がない職場を含む全国学童保育連絡協議会の調査では、より低い結果となっている。コロナ禍によって、学童保育が厳しい状況に置かれているのを改善しようと、ネット署名に取り組んでいるが、そこには不安を訴える声、限界という悲鳴が寄せられている。
学童保育の労働者は福祉労働者の中でも置き去りにされている状況。その賃金・労働条件を大きく改善させるのに資するような施策をもとめたい。
国は、保育士の優しさやこどもを守りたいという思いに甘えている
福祉保育労 澤村直書記長
賃金の引上げと職員の配置基準の引き上げの両方が必要。政府は、2012年以降福祉労働者の処遇改善のための加算をしてきたといっているが、基本給はほぼ横ばいの状態が続いている。その結果、福祉保育労の調査でも月額の賃上げ要求はこの10年間上がり続け、この5年は3万円をこえる額となってきている。賃金が安いうえに長時間労働を強いられているのが実態。やりがいがあると感じている人でも、2/3の人が辞めたいと考えたことがあると答えている。
保育士の声は「国の基準通りの配置基準で働くと、今の職員34人は19人になる!!19人で園を運営するなんて可能なの??どんな働き方!!?私たちの給料か、子どもの命か、みたいなそんなおそろしい選択はさせないでほしい。国は、保育士の優しさやこどもを守りたいという思いに甘えている。私たちの願いの上にあぐらをかいている!」
厚生労働大臣
後藤茂之 様
2021年12月1日
全国労働組合総連合
議 長 小畑雅子
日本医療労働組合連合会
中央執行委員長 佐々木悦子
全日本建設交運一般労働組合
中央執行委員長 角田季代子
全国福祉保育労働組合
中央執行委員長 土田昭一
ケア労働者の大幅賃上げと
職員配置基準の引き上げを求める要請書
政府は、看護師、保健師、介護士、障害福祉、保育士など、公定価格で規定されるケア労働者の賃金引き上げを行うことを明らかにしました。ケア労働者の賃金引き上げを積極的に行い、春闘で労働者全体の賃金引き上げを促そうとすることは、労働者・労働組合の要求に基づくものであり歓迎します。しかし、示されたその額や範囲は、保育士等・幼稚園教諭、介護・障害福祉職員を対象に「収入を3%程度(月額9000円)の引き上げ」、看護師は「収入を1%程度(月額4000円)の引き上げを期間限定でコロナ対応者限定」とするなど低額で限定的であり生活改善を実感できる水準ではありません。定期昇給原資に利用されれば、ほぼ引き上げにはつながりません。
ケア労働者は、コロナ禍のなかで自らの健康と生活をなげうって、国民の命と暮らしを守るために激務のなかで必死に奮闘してきました。「使命感・責任感」では支えきれなくなり、退職者が続出し、深刻な事態になりかねないのが現場の実情です。すでに職場からは「毎年の定期昇給にも満たない」「職種限定では職場に分断を持ち込むものでチームワークが保てない」との声が上がっています。命をあずかる社会的な責任と労働の内容にみあう水準への抜本的な引き上げが必要です。
全労連・国民春闘共闘は、21国民春闘ですべての労働者の賃金を、月額25000円以上(定期昇給分を除く約8.19%)、時間給労働者の賃金を150円以上(定期昇給分を除く10.62%)引き上げるよう求めています。
そもそも介護士や保育士は、全産業平均からみても月6万円〜7万円も賃金が低い実態にあります。看護師は、夜勤手当などを含めず基本給で全産業平均を上回る、欧米諸国並みの賃金水準にすべきです。患者・利用者負担とならないように国の責任で行うよう求めます。
いずれの職場でも様々な専門職や事務、現業職の労働者がチームとなって仕事をしています。パート雇用者など非正規労働者を含めて、同じ職場に働くすべての労働者の賃金引き上げがなければ、労働者間の分断を招き、仕事の質やチームワークに大きな悪影響を与えることになります。職種やコロナ対応者などに限定せずに、すべての労働者の賃金引き上げを検討することが求められます。
賃金の引き上げを行う上で、国が直接できることとして最低賃金の引き上げがあります。地方への経済的な分配を強めるためにも、地域別最低賃金を見直し、最低賃金を全国一律とし、速やかに時間給1500円へ引き上げるべきです。
また、ケア職場の共通する願いは、人手不足の解消です。低すぎる職員配置基準の改善、医師、看護師・保健師の大幅増員によるコロナ感染の再拡大への備え、新たな感染症への備えが欠かせません。政府が提唱する機動的対応では、十分にカバーできないことは明らかです。また、医療、介護、福祉の職場では、夜勤を1人で行う「ワンオペ」状態がいまも続いています。患者や利用者に十分なケアが行えないばかりか、安全が担保できない不安が常に付きまとう状態です。賃金の引き上げと同時に、職員配置基準の抜本的な引き上げを行うとともに、専門職の養成数を改善することも必要です。
以上を踏まえて、下記の通り要請します。
【要請事項】
医療・介護・福祉・保育・幼稚園・学童・保健所で働く
すべての労働者の「月4万円以上、時間給250円以上の賃上げを」
1.医療労働者の賃金引き上げについて
〇看護師、保健師など、医療機関、保健所等に働くすべての労働者の賃金引き上げを検討すること。賃金引き上げにあたっては、「月額4万円以上、時間給者については、時間給250円以上の引き上げ」を行うよう要請します。
※ この要請額は、2021年春に全労連・国民春闘共闘と日本医労連が行った医療・介護労働者54866人のアンケートで示された「生活実感からの賃金不足額平均40,285円」を根拠とするものです。
2.介護・福祉労働者の賃金引き上げについて
〇介護士など、介護事業所、障害福祉施設等に働くすべての労働者の賃金引き上げを検討すること。賃金の引き上げにあたっては、「月額4万円以上、時間給者については、時間給250円以上の引き上げ」を行うよう要請します。
※ この要請額は、2021年春に全労連・国民春闘共闘と日本医労連が行った医療・介護、福祉労働者54866人のアンケートで示された「生活実感からの賃金不足額平均40,285円」を根拠とするものです。
3.保育・幼稚園労働者の賃金引き上げについて
〇保育士など、保育園・幼稚園等で働くすべての労働者の賃金引き上げを検討すること。賃金の引き上げにあたっては、「月額4万2000円以上、時間給者については、時間給260円以上の引き上げ」を行うよう要請します。
※ この要請額は、2021年春に全労連・国民春闘共闘と福祉保育労働組合が行った福祉・保育労働者3298人のアンケートで示された賃金要求額平均30978円と2012年からの実質賃金の低下分を加味したものを根拠とするものです。
4.学童保育労働者について
○学童保育に働く労働者すべての賃金引き上げを検討すること。賃金の引き上げにあたっては、「月額4万円以上、時間給者については、時間給260円以上の引き上げ」を行うよう要請します。
※この要請額は、2022年春闘に向け、全労連・国民春闘共闘と学童指導員を組織する全日本建設交運一般労働組合(建交労)が行った3388人のアンケートで示された賃金要求額平均3万9003円を根拠とするものです。
5.最低賃金の改善について
最低賃金を引き上げることは、低賃金労働者の賃金引き上げだけでなく、すべての労働者の賃金を底上げすることにつながり極めて有効です。また、地域間格差を解消することで経済の地域格差を是正し、相対的に賃金が低い地方労働者の賃金引き上げを行うことができます。地域経済の活性化にもつなげることができます。したがって、最低賃金を以下のように改善するよう要請します。
〇最低賃金法に基づく最低賃金を、全国一律制に改善すること。速やかに時間額1500円に引き上げることを要請します。
※全労連が2015年から全国23都道府県で3万人余りの組合員の協力を得て行った最低生計費試算調査から、若者(25歳単身)が一人暮らしをしながら人間らしい生活をするのに必要な賃金は、月額23万円〜25万円、時間額1500円以上との結果を根拠とするものです。
6.職員配置基準の引き上げについて
医療、介護、福祉、保育、学童保育などケア労働を主たる仕事とする職場の配置基準を抜本的に見直し、職員の増員を行うことを要請します。
7.ケア労働者の声を直接聞く場の設定について
岸田首相・後藤厚生労働大臣にケア労働者の声を直接聞く機会の場の設定を要請します。コロナ禍のなか経験した過酷な実態、ケア労働者の厳しい生活状況などについて生の声を聞いてください。また、目指すべき賃金水準と引き上げ額について、一方的でなく話し合いの上で決めてください。