2月15日、衆議院予算委員会は中央公聴会を開催、全労連から小畑雅子議長が参加し意見陳述を行った。
小畑議長は、22国民春闘を進める中で見え、聞こえてきた現場の実態や労働者の声を踏まえ、働く仲間の切実な要求実現が必要だと強調。2年間におよぶコロナ禍で明らかとなった脆弱な医療・公衆体制の抜本的拡充、ケア労働者をはじめとしたすべての労働者の賃上げ、最低賃金1500円への引き上げと全国一律最賃制度の確立による賃金の底上げ、中小企業支援体制の強化、雇用保険制度改善を強く求めた。また、厚労省で審議が行われている自動車運転者の勤務間インターバル規制について、11時間を実現するよう訴えた。
(小畑議長の公述全文と資料は下記を参照)
予算委員会委員からの質問
公述の後、予算委員会の各委員から質問が出された。立憲民主党の石川香織議員より、社会問題化しているヤングケアラーについて。日本維新の会の市村浩一郎議員より、最賃をめぐる中小企業支援について。日本共産党の宮本徹議員より、2月から開始されているケア労働者の賃上げのための補助金に関る現場の状況、雇用保険拡充について。有志の会の仁木博文議員より、ケア労働者(主に介護)の職場における実態の認識と対策について質問が寄せられた。
小畑議長はそれぞれの質問について、「ヤングケアラーは子どもの権利条約、学び成長する権利が奪われていることを重視し、社会全体の問題として、社会保障の立場から考えることが必要」と答えた。
最低賃金について、労働者が生活できないほど低すぎる水準であることを指摘したうえで、「まずは生活できる水準にあげることが必要」と強調し、「そのために(中小企業へ)必要な支援を行い、労働者も生活でき、経済も回る、そのことを国が政策として踏み込むことが必要」として、最低賃金決定における生計費原則の重要性を指摘。
ケア労働者の賃上げについては、職場内で対象職種と対象外職種があることに触れ、「職場に分断を持ち込むもの」と指摘。また、公務職場での賃上げについて3月までに自治体の条例改定が必要なことから、実施の見送りや会計年度任用職員のみ引き上げるなど、消極的な自治体もでてきていることが22春闘の交渉の中で明らかになっていること紹介。「職場で不満、不安、怒りの声があがっている」と訴えた。
雇用保険制度について、「雇用調整助成金の特例制度の活用によって失業発生をおさえ、給付日額の引き上げで失業中の人の生活も守ることができた」と制度を評価しつつ、「コロナ禍の収束が見えない中、特例措置を終了することは早すぎる」と指摘し、特例措置の延長を訴えた。
ケア労働者の職場をめぐる実態の認識と対策について、介護職場における職員分断の可能性があるとの職場からの訴えを紹介し、「労働組合として組織を広げながらすべてのケア労働にかかわるみなさんの賃上げを目指し、この春闘で大きく取り上げて運動を展開している。さらにがんばっていきたい」と決意を述べた。
小畑議長の衆議院予算委員会公聴会での発言テキスト(2022年2月15日)
全国労働組合総連合(全労連)議長の小畑です。2022年度政府予算に関わって、労働者の立場、労働組合の立場からの発言の機会をいただき、ありがとうございます。
コロナ禍が2年余りにわたって続くもとで、労働者・国民の要求はますます切実なものがあります。現在、全労連は、22国民春闘のとりくみをすすめているところですが、現場の声も踏まえ、働く仲間の切実な要求を実現する観点から、いくつかの点について意見を述べさせていただきます。
1.いのちを守る政策への転換を
第1に、コロナウイルス感染拡大の第6波が続くもとで、今までの教訓を踏まえて、「いのち守る」政策への転換を求めます。
全労連は、2月3日に、コロナ感染の急拡大を受けて、厚生労働大臣に対して、緊急の要請書を提出しました。医療、介護、公衆衛生の抜本的な拡充、ワクチンの3回目接種の加速化、検査体制の強化、小学校休業等対応助成金の申請の簡素化、給付の迅速化などを求めたものです。全労連だけではなく、多くの国民の声が寄せられるもとで、この間、ワクチン接種や、小学校休業等対応助成金の申請に関わって、一定の前進がありましたが、さらに、検査体制の強化、ワクチン接種の迅速化など進めていただけるよう重ねて要望するものです。
そのうえで、コロナ感染拡大が続くもとで明らかになった、あまりにも脆弱な日本の医療・公衆衛生体制を抜本的に拡充していくことを求めます。
第4波、第5波においては、医療崩壊とも言える状況が広がり、コロナに感染しても、病院等に入院することができないまま自宅等で亡くなる方が続出することが大きな問題となりました。第5波までに800人以上に上るとの報道があります。現在、第6波においても、保健所や病院の体制が追い付かないほどの感染拡大のもとで、自宅療養者が今月2日の時点で46万人を超える状況となっています。こうした状況を生み出す原因となっているのが、感染症病床や集中治療室の大幅な不足、医師・看護師・介護職員の人員不足、保健所・保健師の不足です。これらの諸問題の背景として、90年代後半から続いてきた医療・介護・福祉などの社会保障費ならびに公衆衛生施策の削減・抑制策があります。感染症対策を中心的に担う公立・公的病院の役割の重要性が増しているにも関わらず、政府は、公的公立病院の統廃合をすすめようとしています。 コロナ禍における教訓は、医療・介護・福祉をはじめとした社会保障拡充の重要性です。
2022年度の政府予算の編成にあたって、公立・公的病院などの削減・縮小ありきの地域医療構想を撤回し、国民のいのちを守ることを最優先にする政策に転換し、
@医師、看護師、医療技術職員、介護職員等を大幅に増員し、夜勤改善等、勤務環境と処遇を改善すること。
A公立、公的病院の再編統合や病床削減方針を見直すこと。
B保健所の増設など公衆衛生行政の体制を拡充し、保健師等を大幅に増員すること
など、安全・安心の医療・公衆衛生・介護・福祉提供体制を確保することを強く求めます。
2.すべての労働者が人間らしくくらせる賃金へ 大幅賃上げ・底上げを
第2に、誰もが人間らしく暮らせる賃金へと大幅引き上げ・底上げをしていく課題です。このことは、コロナ禍で広がる格差と貧困の問題を解消し、日本経済を活性化していくことにもつながる課題です。
ご承知の通り、日本の労働者の実質賃金は、この20数年にわたって下がり続けています。グラフを見ていただければわかる通り、実質賃金が下がり続けているのは、日本だけです。一方で、大企業は内部留保を増やし続けてきました。大企業の社会的責任を果たし、生計費原則に基づいて、労働者の賃上げにまわすべきであると考えます。
岸田首相は、通常国会冒頭の施政方針演説において、「新しい資本主義」を掲げました。「市場に依存しすぎたことで、公平な分配が行われず生じた、格差と貧困の拡大」など、新自由主義的な考え方が生んだ様々な弊害をあげた上で、それを乗り越える方策の一つとして、分配戦略の第一に「賃上げ」を掲げています。具体策として掲げられた中でも、労働者の切実な要求にもとづいた施策については、歓迎するものです。しかし、残念ながら、首相のメッセージほどには、多くの労働者の賃金を上げるものとはならない可能性があります。すべての労働者の大幅賃上げ・底上げへとつなげるために、4点を指摘したいと思います。
(1)ケア労働者の賃上げを
1点目は、昨年この場で取り上げたケア労働者の賃上げに関わる施策についてです。ケア労働者の賃金が低すぎることが可視化され、解決に動きだしたことは重要です。すべてのケア労働者が、コロナ禍で、自らの生活を犠牲にし、いのちをはって、社会機能の維持のために全力を挙げています。
しかし、2月から始まる処遇改善事業については、「看護師はコロナ対応者に限り1%アップ相当の4000円、介護士、保育士、福祉、学童保育は3%9000円」の内容に、職場からは戸惑い、不満、怒りの声すらあがっています。
一つは、あまりに低く「一桁足りない」という声です。賃上げの対象にならない「他の職種」に配分したら1000円にも満たないものです。
二つは、対象となる職種を限定しているために、チームワークを基本とするケア職場に分断を持ち込んでしまうことです。
三つは、制度導入が拙速すぎて、繁忙な2〜4月時期に要件を満たす手立てをとれないという声です。制度が閣議決定されたのは、昨年11月末でしたが、今年1月に入っても、制度の内容は案しか示されず、混乱と躊躇、あきらめが広がっています。職場で労使合意を図り賃上げを行うには時間が足りず、逆に交渉を制限するなどの看過できない事態も起こっています。
四つには、条例改定が間に合わないなどの理由で、処遇改善事業を取り扱わない自治体が続出している問題です。政府が意図した賃上げにつながらない事態となっています。
ケア労働者の処遇を抜本的に改善するために、
@処遇改善事業について、「3月中に申請」ではなく、申請受付期間を大幅に延長すること。
A一部の職種、職員に対象を限定せず、すべてのケア労働者の賃上げを行うこと。
B月4万円以上、時間給250円以上とすること。
C「3分の2はベースアップに」とされているように、定期昇給の原資に使うことが除外されていません。確実に賃上げにつながる制度設計とすること。
D2022年度予算に盛り込まれる10月以降の賃上げの制度について、早期に明確にし、診療報酬・介護報酬の引き上げを基本に、財源を国庫負担とすること。
秋の段階で直ちに利用者に負担を転嫁するということではなく、ケア労働者の働きに見合った、専門職にふさわしい賃金に抜本的に引き上げられるような制度設計となるよう、政府としての責任を果たしてください。
(2)最低賃金1500円 全国一律最低賃金制度の確立を
2点目は、最低賃金1500円、全国一律最低賃金制度の確立についてです。
コロナ禍において、非正規労働者、女性労働者に矛盾が集中しています。その背景に、低すぎる最低賃金の問題があります。
現在の最低賃金は、全国加重平均で時間額930円です。年収170万円にも満たないワーキングプアです。また、地域間格差は、時間額で221円、フルタイムで年額40万円(1800時間)に上ります。同一労働でも働く地域で賃金格差があるのは極めて不合理です。人口の大都市一極集中や地方経済の疲弊を招く原因となっています。地域間格差は、大幅な引き上げの妨げになっています。
後藤道夫都留文科大学名誉教授の試算によれば、最低賃金近傍(最低賃金の1.1倍以下で働く人)の割合は、2020年に14.2%となり、10年間で2倍です。「時給1500円未満で働く人の割合は女性正社員で、49.8%」とも指摘しています。最低賃金の低さが、男女の賃金格差を助長しているとの指摘です。
この間、全労連に結集する地方労連は、全国28都道府県で約3万人が参加し、最低生計費試算調査をすすめてきました。若者1人が人間らしく暮らしていくために必要な最低生計費は、全国どこでも月額22万円〜24万円、時間額1500円から1600円程度(月150時間労働)となることが明らかになっています。
先日は「大阪府の調査結果を1600円」と発表したところです。政府による最低生計費調査を行うことを強く求めます。
コロナ禍のなか「低賃金労働者やエッセンシャルワーカーの生活を支える」として、海外の各国政府は最低賃金の抜本的な引き上げを次々に表明しています。ドイツのショルツ政権は全国一律15%引き上げ12ユーロ1500円へ、イギリス全国一律6.6%引き上げ9.5ポンド1487円へ、アメリカは連邦最賃を30%引き上げ15ドル1600円をめざすとしています。岸田政権が「3%28円」で大幅に引き上げたと胸を張っている水準は、あまりにも立ち遅れていると言わざるを得ません。
低賃金状態をこのまま続ければ、リーマンショック後の失われた20年を繰り返すことになります。最低賃金の抜本的引き上げ、全国一律最低賃金制度の確立へ足を踏み出すことを求めます。
(3)すべての労働者の賃上げにつながる中小企業支援の抜本的強化を
3点目は、すべての労働者の賃上げ、最低賃金の引き上げを実現するためには、中小企業支援が欠かせません。コロナ禍で苦しむ中小企業への支援を強めることが、労働者の雇用の確保、賃金の底上げを可能にし、地域経済を豊かにすることにつながります。
例えば、政府が掲げている「賃上げ税制」は、「賃上げできる黒字の法人」だけが対象で、全体の6割となる赤字の法人や個人事業主は対象外となってしまいます。多くの中小・小規模企業には無縁な制度です。法人税減税はするべきではなく、むしろ課税強化で体力のある大企業には、社会の維持に必要な経費を、しっかり分担してもらう必要があります。今の局面では、消費税の減税が効果的です。赤字の企業も含めて、すべての事業者に恩恵があります。コロナ禍で苦しむ中小企業に対する支援策が求められています。
全労連は、この間、経営者団体の皆さんとも懇談を重ねながら、「最低賃金の改善・中小企業支援の拡充で地域経済の好循環を」と題する中小企業支援策に関わる提言をまとめてきました。ポイントは、3つです。
第1に、中小企業が最低賃金の引き上げによって手元資金が不足しないよう直接的に助成金を支給するほか、大きな負担となっている社会保険料の減免を行うことです。
第2に、公正取引の実現です。賃金引き上げに伴う単価引き上げなどが適正に行われるようにすることが必要です。
第3に、地方・地域の経済活動の生み出した利益を、東京に集中させたり、国外に流出させたりするのではなく、地域で可能な限り循環させる仕組みづくりです。
これらを実現させるためにも、中小企業対策費を大きく増額し、使えるものに施策を充実すること、中小企業が経営を継続できるための施策を強めること、公契約事業の在り方を、地域循環型にし、契約の中に、事業にかかわる労働者の賃金保障をする条項を盛り込むことが求められています。
また、中小企業の社会保険料の減免では、給付水準を下げることのないよう、社会保険料率を応能負担による累進方式とし、大企業に相応の負担を求めるものとすること、先ほども述べたように、消費税を5%に減税し、免税点の引き上げを行うことは重要です。
とりわけ、2023年10月からの導入が予定されているインボイス制度が導入されれば、今まで1000万円以下の免税業者だった多くの中小・自営業者は商売が立ち行かなくなってしまいます。経営者団体の方も要望されているとおり、インボイス制度の中止を強く求めるものです。
(4)雇用保険制度の改善を
4点目に、労働者の生活保障の観点から、雇用保険制度についても要望させていただきます。
コロナ禍の休業補償をめぐって、諸外国に比べ、日本の制度は金額が低すぎると批判がおこり、2020年、当時の安倍首相は、雇用調整助成金の助成額等が欧米より低いことは認識していると答弁し、雇用調整助成金の上限額を15000円に引上げ、休業支援金などの個人が受け取る額も、日額1万円を超える水準に設定しました。
ところが、当初の日額8370円という水準、この根拠となった、雇用保険の基本手当日額の上限額は、これでは生活できないという声が国会で共有されたのに、改善されず、置き去りにされ、昨年の8月にはさらに引き下げられています。
現在の雇用保険制度は脆弱です。完全失業者のうち、雇用保険を受給する割合は2割程度と、先進諸外国に比べ著しく低い上に、基本手当日額は、最高額が8,265円、最低額は2,550円にすぎません。2000年初頭に比べると、年齢区分ごとに違うのですが、日額2千円から2千7百円、月額換算では6万円から8万1千円もへらされています。
これでは、雇用保険法の目的である「生活及び雇用の安定」をはかり、「求職活動を容易にする」ことはできず、希望とかけ離れた職種や労働条件の求人であっても、とにかく再就職を急がざるを得ないことになります。
雇用保険制度の見直しにおいては、基本手当日額の引上げをおこなうべきです。
その際、財源の国庫負担分を本則どおり25%へと、今の特例措置の10倍にもどし、その額を、基本手当受給者に給付するべきです。それにより、47.5万人の現在の受給者に対し、ひとり月額3万5千円の給付増を行うことができます。
3.改善のための財源は十分ある
貧困と格差の広がりを是正し、公正な社会に転換していくために、国の果たす役割は大きいと言わなければなりません。私たちは、以上述べてきた施策は、税の集め方、税の使い方を変えれば可能であると考えます。
先ほどもふれたように、2020年、コロナ禍であっても、資本金10億円以上の大企業は、内部留保を新たに7.1兆円も積み増し、その額は466兆円にも膨れ上がっています。ため込んだ内部留保を、下請け中小零細企業への支援や、生活できないほどに下げられてしまった労働者の賃上げに使うべきだと考えます。同時に、内部留保への課税や、累進課税への転換によって、税収を増やすことは可能です。
岸田政権は、過去最大規模となった「経済対策」のために2021年度の第2次補正予算36兆円を組みましたが、そのうち7,700億円は軍事費です。2021年度は、一般予算を含め軍事費は初の6兆円を超え、GDP比1.09%と歴代内閣トップとなりました。世界的なコロナ・パンデミックの中で、何よりも一人一人のいのちを守ることが最優先の時に、軍事費を増やす必要はありません。軍事費を削って、コロナ対策、医療・公衆衛生への抜本支援、生活困窮者への支援に回すことを求めます。
さいごに
最後になりますが、現在、バス・タクシー・ハイヤー・トラック等の自動車運転者を対象とした労働時間の「改善基準告示」の議論が、厚生労働省の審議会ですすんでいます。勤務の間のインターバルを「11時間以上」にする案に対して、使用者側が抵抗し、「11時間か9時間」かの議論が続いています。この休息期間に通勤、食事その他の生活活動と睡眠をとるわけです。現状のインターバル「8時間」では、睡眠不足状態を生み出し、労働者のいのちと健康も、利用者の安全も守れないことがわかっています。「9時間」でも、交通事故も過労死も減らせません。トラック・バス・タクシー運転手の勤務と勤務の間の「休息期間」を11時間以上とする基準を設定することをこの場からも強くお願いをして、私からの発言を終わらせていただきます。本日は、ありがとうございました。
中央公聴会で配布した資料(PDF1.3MB)