【見解】
「産業再生機構など3法案」について
2003年3月10日
全国労働組合総連合
衆議院本会議に2月20日、株式会社産業再生機構法案、株式会社産業再生機構法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案および産業活力再生特別措置法の一部を改正する法律案が提出された。
1.法案の主な内容について
(1) 株式会社産業再生機構法案
産業再生機構法案は公的権限を持つ産業再生機構を新設し、企業の不良債権処理と再建を進め、金融と産業の一体再生を通じて不良債権問題を解決することが目的となっている。(2) 株式会社産業再生機構法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案施行にともなう他の法律案の整備
(3) 産業活力再生特別措置法の一部を改正する法律案
日本経済の最近の動向の背景に、産業サイドの過剰供給構造と過剰債務の問題の深刻化が存在しており、これらの問題に対応した産業の活力の再生が喫緊の課題である。また、中小企業の再生のためには、多様性や地域性といった中小企業の特性を踏まえて、柔軟かつきめ細かく対応することが必要であることから、所要の措置を講ずるため法律を改正するとされている。
2.産業再生機構法案、産業再生法改正案の問題点
産業再生機構法案の目的は、公的権限を持つ産業再生機構を新設し、企業の不良債権処理と再建を進めることとされている。
同法案は、企業支援や債権買い取り、処分の是非を決める「産業再生委員会」を同機構内に設置することを規定、主力行と同機構が企業再生策を実行する。法案は、産業の再生と信用秩序の維持を掲げ、「供給過剰」などで経営が困難になっている企業を政府保証による債権買い取りで救済しようとするものである。
本年1月の参院予算委員会における質疑で、「事業分野別・企業別の供給過剰を客観的数値で示せるのか」と質されたのに対し、谷垣禎一産業再生機構担当相は「数量的に判断するのは難しい」と答弁している。産業再生に影響を与える企業とは対象が大企業にほかならない上、対象選定の透明性ある判断基準を作れないなら、政官財癒着構造のもとで恣意的に判断が下され特定の大企業が救済されることは目に見えている。
政府は、産業再生機構について「本来淘汰される企業を単に延命させ、不良債権処理が進まなくなるとの指摘は当たらない」(総理答弁)と述べ、市場原理に基づいた厳正な判断をベースに産業と金融の一体再生に取り組むとしている。
しかし、(1)再生機構の活動が銀行の経営悪化をもたらし、公的資金投入につながる懸念がある、(2)どの企業を再生させるかなどの判断で利権政治の温床となるなど、重大な問題点はなんら解明されていない。
また、産業再生法改正案は複数の企業が事業を再編したり、他社の力を借りて企業が再生するのを支援することが柱となっている。
しかし、99年8月に制定された産業再生法(産業活力再生特別措置法)は、大企業などがリストラ計画を提出する見返りに、税制上の特例措置や金融面での支援など優遇措置を与えているため、「産業再生」というよりも、大企業が無責任なリストラを競うテコのひとつとして利用されてきた。
現行産業再生法は、法律の適用を受けようとする事業者が「事業再構築計画」を所管省庁の主務大臣に提出して認定をうける仕組みであり、計画が認定されるには「生産性を相当程度向上させることが明確であること」などが必要となっている。生産性の向上については経済産業省の基準により、(1)従業員一人当たりの付加価値額が6%以上上昇すること、(2)自己資本当期純利益率などの上昇数値が示され、いずれかを満たすよう求められているため、これらの条件を達成するいちばん簡単な方法として、人件費削減=大企業の賃下げ、人減らしに拍車がかかった。
産業再生法によるリストラ計画は、02年6月段階で各省庁の合計140件に達しており、01年4月に発表された共産党の山下芳生参院議員(当時)の調査では、登録免許税だけでも上位15社で292億円の減税となるいっぽう、この15社の人員削減計画は3万3千人を超えた。このように減税などによる企業リストラ支援は、大量解雇を加速し消費を冷え込ませ産業の再生ではなく逆に不況の悪循環を招いている。3.全労連の対応方針
産業再生機構法案は、経営困難な企業への債権を銀行から買い取る新会社=産業再生機構を設立し、主力銀行と連携して企業リストラを強行して「再生」をめざすものである。産業再生法「改正」案は、業界再編促進のために複数企業のリストラを優遇税制で後押しするものとなっている。これらの法案はいずれも大銀行と特定大企業を支援する一方で、産業グループ全体で労働者と中小企業を犠牲にするものといわざるを得ない。
産業再生機構法案では、本来、銀行がおこなうべき企業再生を再生機構が肩がわりし、銀行の責任を棚上げし、特定の大企業を国が支援して損失の穴埋めに10兆円もの政府保証枠が使われることになっている。また、産業再生法「改正」案は、優遇税制の対象をリストラされる労働者への割増退職金の割増分にまで拡大することによって、まさにリストラ奨励税制となっている。これらの法案は、企業リストラの推進やそれにともなう失業増につながる恐れがある。
産業再生法「改正」によって、巨額の税金をつぎこみ、産業再生どころかリストラを促進させた産業再生法の過ちを繰り返しかねない。いま求められているのは、個別大企業の救済ではなく中小企業への直接支援である。
全労連は、以上の問題点を踏まえ産業再生機構など三法案に反対の態度を表明するとともに、法案審議を通じて、以下の内容を求めていく。
(1) 労働者の雇用の維持・確保が企業の社会的使命であることを法案に明記するとともに、企業の再建計画の策定に当たっては、それが変更可能な時期に労働組合に対し必要な情報を提供するとともに、事前協議を行なうこと。(2) 「企業再生計画」には、労働組合の意見を明記すること。
(3) 企業の合併や分割、営業譲渡を行う場合は、労働関係のすべての権利は承継されることとし、解雇を禁止すること。
(4) 産業再生機構の支援決定後に、従業員が不当な扱いを受ければ、産業再生機構として企業側を指導すること。