【談話】

春闘変質・解体攻撃に反対し、安心・平等・平和な社会の実現を
〜2005年版「経営労働政策委員会報告」について〜

2004年12月14日
全国労働組合総連合
事務局長 坂内 三夫


1.日本経団連は14日、2005年版「経営労働政策委員会報告」を発表したが、今年の「報告」には目を引く変化がある。それは、「働く人の努力に対して積極的に報いる必要性があろう」「生産性の向上や人材の確保などのために賃金の引き上げが行われる場合もあろう」と、賃上げを認めていることである。最高益を更新し続ける大企業を筆頭に、企業業績が総じて回復している一方で、労働者・国民は、深刻さを脱しきれない雇用情勢と低下し続ける賃金に生活水準を悪化させている。景気腰折れの危険な場面を迎えつつあるなかで、大企業一人勝ちを許さない、との労働者・国民の声を日本経団連も無視できなくなっているのではないか。
 まずは、05年春闘の基調が、定昇維持にとどまらず賃金引き上げにあることを、全労働者の確認としたい。あわせて年間1兆1620億円、1日32億円もの利益をあげている日本経団連会長企業であるトヨタ自動車が、まず範を示すべきであると主張したい。

2.他方で同報告は、いつものように総額人件費管理の観点から、定昇廃止や退職金制度見直し、業績反映重視の一時金など賃金制度全体の改悪を打ち出し、「日本の賃金が国際的に高水準にあることから賃金引上げは困難、ベースアップ交渉は役割を終えた、賃下げもありうる『賃金改定』とすべし、春闘は『春討』とせよ」などと春闘の変質・解体攻撃を繰り返している。
 また、産業政策全体に関しては、報告では日本経済が回復基調を示したとして、「守りのリストラ」から「攻めのリストラ」に転じると宣言。グローバル経済のなかで競争に勝ち抜いていくためには、「交易立国」と「科学技術創造立国」の推進、さらにはそれらの活動を支える「人材力」の強化が必須条件だと、昨年に引き続き強調。また、そのためには従来以上の規制改革推進のため公務の「市場化テスト」の実現と国家公務員・地方公務員制度の抜本的改革をはじめて打ち出している。
 また「経営と労働の課題」では、多様な人材を活かすための方策として、雇用・就業形態の多様化を円滑に進めるため、(1)労働市場に関する一層の規制改革、(2)ハローワークの市場化テスト、(3)教育の質の向上と教育現場の活性化をはかる観点からの教育基本法の見直しに取り組むとしている。さらに労働法、労働行政への対応として、(1)裁量労働の大幅見直し、(2)ホワイトカラー・エグゼンプションの導入、(3)労働者派遣法の規制撤廃、(4)産業別最低賃金制度の廃止など労働諸法制の全面改悪を狙っている。また、昨今の不払い残業摘発を労働監督行政の不当な介入であると敵視していることは、適正な監督行政を否定し、労働時間規制撤廃にむけた財界の意向を示しており、企業利益の追求のためには、労働者の当然の権利さえも剥奪する企業の労働法規無視の姿をあらわにしている。断じて、労働諸法制の全面改悪を許すわけにはいかない。
 社会保障分野でも、「持続可能な社会保障制度を構築」にむけて、(1)消費税を2007年に10%に引き上げ、5〜6年かけて、段階的に15〜16%までに引き上げ、(2)公的給付の合理化、(3)社会保障制度の公正性の確保など、給付削減や二ケタ増税など、企業負担の軽減を主張する一方で新たな負担増を国民に押し付けようとしている。

3.およそ企業の社会的責任(CSR)をかなぐり捨てたこれらの身勝手な主張に対し、「企業活動を通じての社会貢献」とは何か、信頼されるにたる経営者の姿勢・理念とは何かということを我々はあらためて問いたい。
 また、企業の「現場力」の喪失による大規模な労働災害、モラール低下による企業不祥事があとをたたないことに、危機感を表明せざるをえない事態に追い込まれていながら、あいかわらず「人材多様化」戦略をくりかえし、「多様化」のもとに多くの差別・分断を労働者間にもちこみ、「現場力」の根底をささえるチーム・ワーク、先輩・後輩の技術の伝承などをずたずたにし、雇用差別による賃金引下げなどで、一層のコストダウンと利益増大を狙っている。
 「現場力」を真に回復させるには大企業が日本経済と労働者・国民の労働と生活に活力を甦らせるため社会的責任を果たすことこそが重要である。

4.全労連は春闘50年の節目にわたる05春闘にあたって、「たたかって要求を実現する」という春闘の積極的伝統を受け継ぎ、「賃下げを許さず、全労働者の賃上げ」をめざす春闘を追求する。全組合での春闘要求の確立、職場を基礎に、全組合員の英知とたたかうエネルギーを産別・地域に総結集し、全国的な統一闘争に発展させるため、「全労連05春闘統一要請書」をすべての経営者に提出する運動を提起している。
 また今春闘を「憲法改悪阻止、憲法をくらしと職場に生かす春闘」と位置づけるとともに、「大企業の社会的責任を追及する春闘」として、「企業通信簿」運動を全国で展開し、企業の社会的責任(CSR)確立を求めていく。
 全労連は「もう一つの日本は可能だ!05春闘の前進で安心・平等・平和な社会へ」をスローガンに、社会改革を展望した国民春闘の構築をめざして奮闘することを表明する。

以上