「有期雇用契約」Q&A

全労連・総合労働局


Q1 ■有期雇用契約とは何ですか。
 有期雇用契約とは期間の定めのある労働契約であり、有期雇用契約の労働者は有期雇用労働者と呼称されています。現行の労働基準法では1年を超える期間について契約してはならないと定められています。(Q2参照)
Q2 ■現行の労働基準法では雇用契約期間についてどう定めていますか。
 現行の労働基準法(第14条)は、原則として、契約期間を1年を超える期間とすることはできないこととしています。これは強制労働や不当な人身拘束を排除する趣旨から長期の雇用契約で労働者を縛ることにならないように定められています。

労働基準法 第14条
 労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、1年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、3年)を超える期間について締結してはならない。

1 新商品、新役務若しくは新技術の開発又は科学に関する研究に必要な専門的な知識、技術又は経験(以下この条において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を有する労働者が不足している事業場において、当該高度の専門的知識等を必要とする業務に新たに就く者に限る。)との間に締結される労働契約

2 事業の開始、転換、拡大、縮小又は廃止のための業務であつて一定の期間内に完了することが予定されているものに必要な専門的知識等であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を有する労働者が不足している事業場において、当該高度の専門的知識等を必要とする業務に新たに就く者に限る。)との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)

3 満60歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前2号に掲げる労働契約を除く。)

Q3 ■有期雇用契約にはどんな種類がありまか。
 契約社員という名称で雇用されるケースがあります。(1)定年後の再雇用の場合の嘱託型契約社員、(2)高度専門職型契約社員、(3)準社員型契約社員、(4)パート・アルバイト型契約社員などです。契約社員という名称を使わず、ただ単にパート・アルバイト、臨時、非常勤、嘱託などという言い方をしている場合もあります。企業によってまちまちなのが現状です。これらの労働者の7割近くが有期雇用契約です。

「パートタイム労働総合調査」(厚生労働省2002年7月)では「雇用契約期間が決められていた」労働者の割合は「パート」で44.3%、「その他」で62.2%となっており、雇用契約期間をみると、「12ヵ月」の労働者が「パート」、「その他」ともに最も多く、それぞれ47.3%、59.1%、次いで「6ヵ月」がそれぞれ27.0%、19.5%となっている。また、平均契約月数は「パート」で8.2ヵ月、「その他」で9.4ヵ月となっている。

全労連パート臨時労組連絡会調査(2002年10月)では「期間の定めがある」組合員75.5% 未加入者43.8%。非常勤(85.4%)臨時(82.9%)嘱託(69.2%)再任用(66.7%)派遣(62.4%)である。契約期間は組合未加入者は「1年」が48.4%、6ヵ月が24.2%、3ヵ月9.9%、2ヵ月以内6.1%。組合員は75.4%が1年となっている。

Q4 ■雇用契約期間は、雇用が保障されるということですか。
 雇用が保障されているという意味ではなく、期間の定めのある雇用契約の本来の趣旨は「雇用契約期間が終了すると、労働者が退職する自由」を保障するというものです。事業主の退職させる自由を保障するものでもありません。
Q5 ■「期間の定めのない雇用」というのはどういうものですか。
 期間の定めのない雇用契約というのが基本的な雇用契約となります。これは使用者側から雇用契約を打ち切る〔解雇〕には判例などから相当の理由がないとできませんし、労働基準法に基づく解雇の手続きをふまなくてはなりません。労働者側から雇用契約を打ち切る(退職)には二週間前の申し出で退職の自由が保障されています。(民法第627条第1項 退職はその申し入れ後原則として2週間で効力を生ずる)

民法 第627条
 当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メサリシトキハ各当事者ハ何時ニテモ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得 此場合ニ於テハ雇傭ハ解約申入ノ後2週間ヲ経過シタルニ因リテ終了ス
Q6 ■契約期間内に退職しなければならない場合はどうなるのでしょうか。
 有期雇用契約では働く場合は、労使双方とも期間の制限を受けます。有期で働く人の場合は原則としてやむを得ない事由があれば契約の解除を行うことは出来ますが(民法628条)、その理由よっては、労働者の退職により会社が被った損害に対して、会社側から債務不履行による損害賠償の請求を行なわれることもあります(民415条)。逆に、期間を超えて働きたくとも、期日がくれば辞めざるを得ません。

民法 第628条
 当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メタルトキト雖モ已ムコトヲ得サル事由アルトキハ各当事者ハ直チニ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但其事由カ当事者ノ一方ノ過失ニ因リテ生シタルトキハ相手方ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス

第415条
 債務者カ其債務ノ本旨ニ従ヒタル履行ヲ為ササルトキハ債権者ハ其損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得 債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキ亦同シ

Q7 ■会社から期間中に契約解除があった場合はどうなるのですか。
 期間の定めのある契約では、会社側に契約期間中の雇用を継続する責任があります。たとえば、プロジェクト要員として 契約した場合、プロジェクトの中止に、やむを得ない事由があれば契約の解除を行うことは出来ますが、会社に過失があれば損害賠償の責任があります(民法628条)。
 その場合は、解雇になりますので会社は労働者に30日前の予告やそれに代わる解雇予告手当(労働基準法第20条)を支払わなければなりません。
 期間の定めのある雇用契約を「やむを得ない事由」により解約する場合は、民法第628条の規定が適用されます。使用者は、労働者に対して生じた損害を賠償する場合の賠償限度額は、契約で定めた期間満了までの賃金相当額であるとされます。(これは派遣契約の中途打ち切りの場合にも適用されます) 労働基準法などはもちろん民法も適用されますので民法に規定のある権利の濫用(1条3項) 公序良俗(90条)等の規定にも関係します。
労働基準法 第20条
1 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。

2 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。

3 前条第2項の規定は、第1項但書の場合にこれを準用する。

民法 第1条
 私権ハ公共ノ福祉ニ遵フ、2 権利ノ行使及ヒ義務ノ履行ハ信義ニ従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス、3 権利ノ濫用ハ之ヲ許サス
 第90条
 公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行為ハ無効トス

Q8 ■事業主側から雇用契約を終了させる自由を保障した「期間の定めのある雇用契約」というのはあるのですか。
 あります。これは職種そのものが期間を限定されている臨時的雇用などです。この相反する内容を保障する雇用契約が期間の定めある契約とされていますので、退職の自由を保障するものと雇用契約を終了させる自由を保障することを就業する業種などで区別し、保障の対象を間違わないようにしなければなりません。
Q9 ■それでは現行の労働基準法では1年を超えた雇用契約を結ぶことはどんな場合でもできないのですか。
 1年超の部分は無効となります。しかし、1年を超えて結ぶ場合は雇用保障期間(労働者は退職の自由を有し 使用者だけが片面的に民法第628条の拘束を受ける)という趣旨の雇用契約を結べばいいことになります。厚生労働省も身分保障期間であることが明らかであれば本条に違反するものでないと見解を示しています。

★特例の有期雇用契約として、JIL調査(199社)では有雇用を採用している企業(89.5%)のうち、12.9%に1年をこえて契約した労働者がいる(いた)となっています。その場合、「労働者が希望するから」が52.2%、「能力開発・教育が仕事に反映されるためには1年で足らない」34.8%、「労働者が更新に応じなかった場合、業務に支障があるから」30.4%となっている。
Q10 ■今度の法改正の内容はどうなっていますか。
 雇用契約期間の上限を3年、高度専門知識の場合は上限5年となります。
Q11 ■雇用契約期間の延長は労働者に有利になるのではないでしょうか。
 上限3年ということで使用者側のメリットは「最長3年は労働者を拘束・確保できる」ことと、1〜2回の契約更新で、雇い止めがやりやすくなります。
 判例では契約更新を「何回」も重ねた場合(一般に少なくとも4、5回以上)には、その有期労働契約は「期間の定めのない契約」に転化したものとみなされます。現在は1年の雇用契約期間が多いので、4、5年も勤続すれば、「雇用契約期間の終了」を理由にして解雇されることがありません。しかし、最長3年ということになれば、経営者は2回程度の更新で雇い止めをするほうが、コストの面でも、今後の労使紛争を防ぐ上でも有利になると判断します。
Q12 ■3年上限になると、3年間は雇用が保障されて、1年ごとに更新されるか心配しなくていいと思うのですが。
 3年契約が結ばれれば、3年間は労使双方に契約履行の義務が生じますが、雇用の保障を意味するものではありません。3年間は退職の自由が制限されるということです。
 また、雇用契約期間は使用者が決めて押し付けてくる場合がほとんどですから、必ずしも上限いっぱいの期間が定められるという保障はありません。
 3年上限ということになれば、今までの1年上限より、使用者にとって、雇用契約期間設定の選択の幅が広がって、より便利になったというべきでしょう。使用者は使い勝手のいい、企業の都合のいい雇用契約期間を選択するでしょう。現実に有給休暇の発生しないように6ヵ月以内の雇用契約を結び、数日あけて、同じ人と新たに契約を結ぶといった脱法行為をしているところはたくさんあります。それよりも、今まで1年契約であったのに、今回の改悪を期に3年契約にするという提案があれば、3年後の再契約はないという恐れがあります。
 労働者側には雇用がいっそう不安定になるだけで、メリットは何もありません。

★実際にパート・臨時の組合員の32%が10年以上20年未満という長期の勤続年数となっています。これは期間の定めがあって契約更新を繰り返しているパート・臨時労働者が、組合があることによって雇用を守られているということを示しています。しかし、組合未加入者の場合は37.2%が1年以上4年未満と著しく勤続年数が短くなっています(全労連パート臨時労組連絡会調査)。
Q13 ■派遣法でも派遣期間を1年から3年に上限延長をすることになっていますが、これと関係はありますか。
 「常用雇用を維持する」という、労働者派遣法の本来の建て前からすれば、長期に派遣労働を導入することは法の趣旨に反します。派遣が広がることによって、派遣先の労働者(正社員)の雇用の安定が危うくなることを防止するために、派遣期間が制限されるとなっています。派遣先が正社員としては採用しないときには、3年を超えての同一労働者の同一派遣先への派遣は許されない、というのが労働者派遣法と厚生労働省の建て前になっています。
 それでは派遣労働者の雇用の安定はどうなるかという問題です。これは有期雇用契約の場合と同様に考えることが出来ます。要は、使用者の使い勝手のいい派遣をどう確保するかという発想から出てきていることが問題です。
Q14 ■有期雇用契約は諸外国ではどうなっているのですか。
 有期契約の問題は、多くの国で解雇制限の問題と結びつけてとらえられています。つまり、常用雇用が原則であり、解雇に対する制限が各国で立法化され、国際労働基準となっています。
 ILOの「使用者の発意による雇用の終了に関する条約」(第158条)は、労働者にとって基本的な雇用形態が長期の継続雇用を意味する「常用雇用」(期間を定めない労働契約)が原則であること、その使用者からの一方的な終了である解雇について、その正当性の基準と手続きについての原則を定めています。
 ILO第158号条約は、有期契約は例外であって同条約の保護を回避することを目的とするものであるときには、これを許さないことが必要であると規定する(同条約2条3項)。つまり、雇用契約に期間を設定するのは例外であり、解雇制限法を脱法することを目的にしないように、期間設定について正当な事由が必要であるとする考え方が、1980年代までにドイツ、フランス、イタリアなどの諸国を中心に多くのEC諸国ではほぼ確立することになりました。
 EU諸国ではこうした慣行は解雇制限法や有期契約規制法等に反するものとして歯止めがかかっています。
「使用者の発意による雇用の終了に関する条約」(第158号条約〜未批准)
 正当理由のない解雇から労働者を保護。第4条は「労働者の雇用は、当該労働者の能力もしくは行為に関連する妥当な理由または企業、事業所もしくは施設の運営上の必要に基づく妥当な理由がない限り、終了させてはならない」として正当理由のない解雇を禁止