予算委員会で坂内事務局長が公述

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 衆院予算委員会は26日午後、2004年度予算案に関する公聴会を午前に引き続いて開き、公述人から意見を聞いた。公述人として出席した全労連坂内三夫事務局長、連合の草野忠義事務局長とも、企業収益の回復が「労働者の不安と犠牲の上に成り立っている」と指摘。雇用対策の拡充とともに、社会保障制度の充実で国民生活を下支えをする予算の抜本組替えを要請した。とりわけ、年金制度改革をめぐって、「保険料引き上げと給付水準引き下げの(両方の)中止を求める」と政府案の抜本的な見直しを要求した。


坂内事務局長の公述内容

2004年度予算案に対する意見

全国労働組合総連合
坂内 三夫

 労働者の立場から、2004年度予算案に対する意見を申し上げます。今月23日の産経新聞は、3月決算で過去最高の利益を出す大企業が続出すると報道しました。前年に比べてトヨタ自動車が33.1%増、三菱商事が60.8%、NTTが149.5%、シャープが75.4%、JR東海が36.9%、王子製紙が195.8%増の利益を計上するとの内容です。

 その一方で、借金を返済できず全国の裁判所に自己破産を申し立てた件数が、去年1年間24万2千件以上にのぼり、10年前の10倍となった。最高裁判所のまとめが報道されたように、深刻な生活不安に脅かされている多数の国民がいることも厳然たる事実であります。

こうした状況下で審議されている2004年度予算案は、当面する国民生活だけでなく、今後の経済や日本社会の進路に重大な影響を及ぼすものです。しかし結論的に申し上げれば、この予算案は財界・大企業の要望には積極的に応えているが、国民の雇用や暮らしについては極めて冷淡な内容であると言わざるを得ません。私は、2004年度政府予算案の抜本的な組み換えを求めるものであります。

 第一は雇用問題であります。昨年12月の失業率がおよそ2年半ぶりに5%の大台を切った。政府は改革の成果を強調しますが、現場の感覚から言うと決してそんな甘い状況ではありません。学校を卒業しても就職口がない。中高年は何度職安に足を運んでも仕事が見つからない。求職活動を断念する人が増える。依然として深刻な事態が続き、とても雇用の改善を実感できる状況ではありません。

 もちろん私は、企業が利益をあげることを一概に否定するものではありません。しかし、大企業が過去最高の利益をあげる背景に、リストラによる大量の人減らし、賃金ダウンがあることを考えると、果たしてこうした形が社会正義と言えるのか。まさに、「大企業栄えて民滅ぶ」というのが実態であると指摘せざるを得ません。

 雇用の安定は国民の暮らしと社会発展の基盤であり、政治の最も重要な使命であります。ところが、政府がとってきた雇用対策は、殆ど見るべき成果をあげていません。それどころか、商法改正、産業再生法、会社分割などのリストラ支援策によって大量の失業者をつくりだし、また労働基準法、労働者派遣法など労働法制の規制緩和によって、不安定雇用を増大させる結果を招いてきました。

 さらに、佐世保重工業による3億7700万円にのぼる能力開発給付金の不正受給、架空の会社をでっちあげ、従業員を雇用したと偽って、中小企業創出基金をだまし取った鹿児島、大分などのヤミ金融業者、岡山や新潟県両津市の暴力団組長らによる詐欺事件など、新たな社会問題を発生させるようなケースさえ頻発しています。

 今年度の雇用対策の目玉といわれる若者の自立・挑戦プランなど若年者の雇用対策も、高校生の保護者等に対する意識啓発、進路指導担当者の知識・能力の向上、若年者に対する職場実習の機会確保などが並んでいますが、青年の雇用に効果があるかどうかは疑問です。

 私ども全労連は2002年10月に、国の目標や基準に照らしても不足している介護・福祉関係で37万人、保育・学童保育で13万人、医療で17万人、防災で15万人、教育で19万人、住宅建設や学校の改修で51万人、環境保全・整備で15万人、労働相談・求人開拓で1万人など、167万人の正規常用雇用の創出を要請してきたところであります。この167万雇用創出要求の実現を強く求めます。

 同時に、厚労省みずからが行った実績評価でも、最も効果のあった雇用対策と評価されている緊急地域雇用創出交付金について、制度の継続、予算額の抜本的な増額、運用制度の改善を望むものです。

 若者の雇用対策についても、「青年のためのニューデール政策」を実施して効果を上げているイギリスの雇用対策、あるいは16歳から23歳までの青年を雇い入れた使用者には、一人当たり月額225ユーロから292.5ユーロの補助を行なう。雇用開始後2年目まで社会保険料の雇用主負担全額を免除するなど、「青年雇用契約法」の制定によって著しい成果をあげたフランスの雇用対策なども参考に、青年に対する実効ある雇用対策を要請したいと思います。

 本年度予算の組み換えを求める第二の理由は、年金問題であります。まず、今年10月から実施が予定されている年金保険料の引き上げ、及び給付水準の引き下げの中止と、マイナス0.3%物価スライドの凍結を強く求めます。内閣府が行なった2003年6月の国民生活に関する世論調査によれば、生活不安を感じる人が過去最高の67.2%にのぼり、不安の内容としては老後の生活設計をあげる人が50%とトップになりました。20年前には2割台であった老後不安が、今日では半数の国民が感じるようになってしまいました。

 この背景に何があるのか。この20年間、年金制度は1985年・89年に保険料引き上げと給付削減が行なわれました。94年には保険料引き上げと基礎年金支給開始年齢が65歳に繰り延べられました。2000年には報酬比例も65歳に繰り延べられ、同時に賃金スライドの凍結が行なわれました。相次ぐ改悪によって、30代・40代のサラリーマン夫婦の生涯給付が1000万円以上も減額される。国民の半数が老後不安を感じる事態は、こうした中でつくられてきました。

 当面、政府がやるべきことは、保険料の引き上げ、給付削減などではなく、基礎年金への国庫負担2分の1への引き上げを早急に実施することです。これは、国民年金の空洞化を解消し、皆年金制度の再構築をはかるためにも不可欠の課題ですし、しかも1994年の国会で全会一致の決議がなされ、2000年には法律に2004年までに実施することが盛り込まれた、いわば国民に対する政治の責任であります。

 確かに、国庫負担2分の1に必要な2兆7千億円の財源は小さな数字ではありません。しかし、小泉首相も主張しているように、全体で7兆7千億円にのぼる道路特定財源などの公共事業特定財源。これを適切な形で一般財源に組み入れる措置をとれば、政府・与党が検討課題としている定率減税の縮減・廃止などをお粉枠手も、2004年度からでも国庫負担を2分の1に引き上げることが可能だと考えます。

 厚生年金、国民年金、共済年金を合わせると、238兆円にのぼる年金積立金の活用の問題もあります。この間、一部を株式運用して6兆円もの損失を出した。信託銀行などへの運用手数料だけでも176億円。グリーンピアなど、年金関連施設の建設や運営費に充当され、多くは赤字経営の状況にある。年金資金運用基金や年金総合研究センターが、厚労省幹部の天下り先となっている。国民の大事な積立金が消えてしまったのに、その責任の所在が全く不明である。こんなことは、国民感情として決して容認できません。

 年金の支え手である労働者の雇用と賃金を安定させ、均等待遇の観点からパート労働者などの厚生年金適用をはかり、公共事業優先の税金の使い方に本格的なメスを入れ、国庫負担を約束どおり増額し、現在の積立金を段階的に活用すれば、安心できる年金給付を確保することが可能です。それこそが真っ先にやるべき改革であり、国民には負担増を押し付けて国は責任を果たさない。こういう政治が国民の年金に対する不信を広げてきたと言わざるを得ません。

 第三は、中小企業予算の拡充であります。商法改正・産業再生法などのリストラ減税、研究開発・設備投資減税、有価証券取引税の廃止、連結納税制度の導入など、大企業に高収益をもたらす優遇制度に比べて、厳しい環境の中で必死の経営努力を続けている中小企業に対してはあまりにも冷たく、今年度予算における一般歳出に占める中小企業対策費の割合はわずか0.4%にも足りません。

 事業所数で言えば99%、雇用者数でみても約70%が中小企業ですが、いまこの中小企業の倒産が社会問題となっています。中小企業経営に光をあてることなしに、不況から脱却し、日本経済を活性化させることは、できないのではないでしょうか。中小企業予算を抜本的に拡充する予算の組み換えを強く要請したいと思います。

 第四は、自衛隊のイラク派兵、復興支援の問題です。イラクが大量破壊兵器を保有しているというイラク戦争に突入した理由そのものが、明確な根拠の持たない口実に過ぎなかったことは、今や国内でも国際的にも明白になりました。そのことは、日本政府がいちはやく米英によるイラク先制攻撃を支持したことの主な理由、イラクに自衛隊を派兵する根拠も崩れているのではないでしょうか。

 したがって、私は自衛隊のイラク派兵を中止し、現地にいる自衛隊をただちに撤退させること。本年度予算に計上されている派兵経費は削除すること。ODA予算に含まれるイラク復興支援に関する経費についても、国連を中心とした平和の枠組みの中で、有効な復興支援になるようなものに切りかえることを主張したいと思います。

 時間の関係で、労働者の立場からとくに強調したい重点を申し上げましたが、この他にも医療や介護、生活保護の問題、財源移譲・地方交付税の見直しの問題、消費税など新たな庶民増税の問題、農業・環境・エネルギー、災害対策などなど、2004年度政府予算は、労働者にとってこのままでは認めがたい問題が山積しています。

 労働者はこの間、健康保険、介護保険、雇用保険、年金保険料の引き上げ、医療費の負担増、発泡酒・ワイン税の増税、たばこ税の増税、配偶者特別控除の廃止など、激しいリストラと賃下げが続く中で、応能負担の原則に反した大衆課税の痛みを負わされてきました。それにもかかわらず04年度予算案の税収は18年前と同水準の41兆7470億円にとどまり、新規の国債発行が過去最高の36兆5900億円に膨らむ。一方で大企業だけが軒並み高収益を上げる。

 まさに、労働者と中小企業の犠牲で大企業が一人勝ちするという歪んだ経済のあり方、日本社会のあり方を是認している姿が、この予算となって現れていると言わざるを得ません。2004年度予算案が、真面目に額に汗して働く労働者と国民にとって、将来に希望が持てる予算となることを期待して意見表明と致します。



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