【談話】労働契約法制の創設と労働時間法制の見直しによる労働者保護法制の破壊に断固、抗議する
(1)12月27日の第72回労働条件分科会において、厚生労働省は「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について(報告)」をとりまとめた。その内容は、現行の労働法制と判例法理の蓄積を根底から崩し、労働者の雇用と暮らしのありように甚大な悪影響を及ぼしかねないものである。秋以降、事務局の提案文書は、使用者側委員の主張を易々と受け入れ、労働者保護に係る部分は大幅に削ってきた。労働者側委員が、各論点について認められないとするのは当然であるが、本日の分科会では、使用者側委員の一部からも「とりまとめに反対」との見解がだされた。つまり、労使の意見は鋭く対立し、さらに労側の全員と使側の一部が『報告』の内容に反対しているのである。にもかかわらず、反対意見を押し切り、『報告』をもって厚生労働大臣に答申することを決めた厚生労働省ならびに西村分科会長に対し、全労連は断固抗議し、『報告』撤回を要求するものである。
(2)労働時間法制を審議する目的として、厚労省は、「過労死防止や少子化対策の観点から、長時間労働の抑制を図ること」をあげてきた。ところが、『報告』は、労働時間の上限規制の強化、残業割増の引上げ、平均5割未満の有給休暇の取得向上など、当然手がけるべき課題については、せいぜい労使努力を促がす程度で、まともに取り上げていない。他方で、労働時間規制を解体する提案は、重層的に用意している。
「自由度の高い働き方にふさわしい制度」は、課長補佐・係長クラスを労働時間規制からはずし、残業代を払わず、一ヶ月近く連日24時間働かせることも可能(4週4日以上かつ年104日以上の休暇確保が要件)な制度である。「管理監督者の見直し(スタッフ職追加)」提案は、ライン部門を支援する業務として最近増えている「スタッフ」労働者を労働時間規制の適用除外にするものである。いずれも、不払い残業を合法化するだけでなく、業務量をコントロールする権限のない管理職手前の労働者に、山のような仕事を押し付けながら、時間規制は外してしまう。長時間労働の深刻化をもたらすことは必至であり、「過労死促進法」そのものである。しかも、過労死しても労働者に時間管理の責任が負わされ、労災認定すら、されなくなる可能性がある。
加えて『報告』は、一般職労働者の労働時間規制も崩そうとしている。「企画業務型裁量労働制」の対象業務や導入手続き要件を緩和し、一般職労働者の多くに適用できるよう改悪することを狙っている。長時間労働の解決どころか、事態をいっそう深刻化させる提案が目白押しであり、いずれの制度についても絶対に認めることはできない。
(3)新設が狙われる労働契約法制の内容も認めがたい。まず、使用者が一方的に決めることができる就業規則をもって、労働条件の変更を可能にするためのルールづくりをする提案は、そもそも契約原則を踏み外したものといわねばならない。『報告』では、就業規則の変更が合理的なものであるかどうかの判断要素について、「判例法理に沿って、明らかにする」としている。しかし、これまでに厚生労働省が示してきた文書からみて、判例法理の到達水準を引き下げる意向が強いと考えざるをえない。法案づくりにあたっては、おそらく労使委員会の決定や過半数労働組合の合意、労使協議の状況などといった形式的手続きをもって、合理性判断の要素としたり、個人同意を「推定」する仕組みを持ち出してくることが予想される。これらは結局、使用者に対し、一方的な労働条件不利益変更権を認めるに等しく、労働契約が「労働者および使用者の合意」であるとする原則を、自ら壊すものである。
(4)反対意見の強い不当解雇の金銭解決制度について、「引き続き検討することが適当」として、いまだに記載していることも許しがたい。金さえあれば不当な解雇が可能であるとのメッセージを広め、解雇権濫用を誘発するような制度の創設は、即時断念するべきである。
悪法目白押しの一方で、労働者側委員や労働組合が強く求めてきた制度改正については、きわめて冷淡であることも『報告』の特徴である。労働者性の範囲の検討、有期労働契約の規制、均等待遇原則・同一労働同一賃金原則の明示、安全配慮義務、整理解雇「4要件」の実定法化、就労請求権の確立など、今の日本の社会・経済実態からみて、最も重視すべき課題については、まともに検討せずに放置されている。
(5)以上より、今回の『報告』は、財界代表の短期的利益指向の要求に強く影響され、労働者保護法制の緩和・撤廃を意図するものであるといわざるをえない。この法律が施行されれば、結果として、労働者を無権利・困窮に追い込み、企業活力を喪失させ、日本経済全体に深刻な打撃を与える可能性がある。社会不安醸成に加担しかねない悪法づくりに、こともあろうに厚生労働省が加わることに対し、猛省を促すものである。
全労連は、全国の労働者に法案の危険性を広く知らせ、年明けからの審議会ならびに国会審議の場をとおして、今回の悪法を断固粉砕するべく、全力で戦いにのぞむ決意を表明するものである。
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