【談話】「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」と「労働契約法案要綱」の諮問にあたって
「自己管理型労働制」と「企画業務型裁量労働制」は削除し、重要課題を徹底審議せよ
2007年1月26日
全国労働組合総連合
事務局長 小田川 義和
1.昨日、柳澤厚生労働大臣は労働政策審議会労働条件分科会に対し、「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」および「労働契約法案要綱」を諮問した。新法創設のための「労働契約法案要綱」は、同法の目的や原則、労働契約の成立及び変更、継続及び終了などを内容とするものであり、一方、「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」は、「自己管理型労働制」や「企画業務型裁量労働制」、「時間外労働の割増賃金に関する事項」などを主な内容としている。遺憾なことに、両法案要綱ともに、これまでの審議において労働側委員や各労働団体が一貫して主張してきたことをふまえておらず、現行の労働者保護法制を空洞化させる改悪提案が含まれている。多くの反対を一顧だにせず、法案要綱を諮問した厚生労働省の姿勢には疑問を感じざるを得ない。全労連は労働法制の改悪に断固反対し「働くルール」の確立を求めて、徹底してたたかう決意である。
2.とりわけホワイトカラー・イグゼンプション(WE制度)の導入については、1月16日、安倍首相でさえ、通常国会への法案提出を断念する考えを表明したと報道されている。こうした状況のなかで、制度の中身はそのままに、突如名称だけを「自己管理型労働制」などと変更して法律案要綱に盛り込んでくるなど、信じがたい行為である。WE制度とは、業務量や納期を決定する権限など持ちようがない「管理監督者一歩手前」の労働者に対し、成果を求めて大量の業務を押し付け、それでいて残業代は払わずに、労働時間管理の責任を労働者に転嫁する仕組みである。長時間労働の深刻化と搾取強化をもたらすことは自明の理であり、「タダ働き合法化・過労死促進・死んでも自己責任法」である。厚生労働省が財界代表と同じスタンスで、同制度成立に固執する姿は異常としかいいようがない。「自己管理型労働制」など即時削除すべきである。
3.中小企業に対して企画業務型裁量労働制の対象業務要件を曖昧にし対象者を拡大する提案も撤回すべきである。企画業務型裁量労働制は、そもそも労働基準法の例外規定であり、管理が特に困難な業務や、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を労働者の裁量にゆだねる必要がある業務(企画、立案、調査、分析)に限定し、あくまでも例外的に「みなし労働時間」の設定を認めたものである。それを「当該業務以外も含めた全体についてみなし時間を定める」とし、例外規定の性格を180度変えてしまうなど、許されることではない。しかも、労働時間の状況及び健康・福祉確保措置の実施状況に係る監督署への定期報告についてまで「廃止する」など、あくまでも使用者本位、労働者軽視の内容となっている。自己管理型労働制とともに削除すべきである。
4.労働契約法制においては、就業規則の改定による労働条件の不利益変更制度をはじめ、多くの問題がある。労働者との合意がなければ、就業規則による労働条件の改悪はできないと書きながら、すぐさま、合意原則の「抜け道」を示唆するような書きぶりは、使用者に対し、就業規則改定による賃下げ等が可能との誤ったメッセージを発してしまう。また、出向や懲戒については、それらが成立するための要件こそルール化すべきであるのに、就業規則への記述以外ふれていない。それでいて、権利濫用のケースのみ無効とするのは、使用者に対して広範な権限を与えることになる。
期間の定めのある労働契約のルールづくりもきわめて不十分である。有期労働契約は短期間の業務に限定し、恒常的業務への就労は期間の定めのない労働契約でなければならないと原則を記し、契約を結ぶ場面での有期とする理由の明示義務、更新回数や期間規制、均等待遇の明記などが必要である。
5.労働契約法は取りあげられるべき多くの事項が手付かずとなっている。経済的従属関係にある個人請負・委託の労働者性問題、同一労働同一賃金原則、安全配慮義務、整理解雇「4要件」や普通解雇の要件、就労請求権など、重要課題の審議は不十分である。
以上をふまえ、労働条件分科会に対し、(1)「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」については自己管理型労働制と企画業務型裁量労働制の2つを削除すること、(2)「労働契約法案要綱」については引き続き徹底審議を行なうことを強く求めるものである。
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