【談話】衆議院における労働三法案の扱いについて
2007年11月7日
全国労働組合総連合
事務局長 小田川 義和
1.本日、衆議院厚生労働委員会は、「最低賃金法の一部を改正する法律案」と「労働契約法案」の与党・民主党共同修正案を採決に付した。過労死を生むほどの長時間労働、ワーク・ライフ・バランスなど、喫緊の課題である労働時間規制をテーマとした「労働基準法の一部を改正する法律案」は、与野党の主張に隔たりがあるとして採決されなかった。民主党は最賃・労働契約の2課題で独自法案を提出しており、この日も朝から与党議員からの質疑に対し論陣をはっていたが、4時すぎにあっさりと自らの法案を撤回、すぐさま水面下で与党とすりあわせてきた共同修正案を自ら提案し、賛成多数で可決となった。
最低賃金法と労働基準法、大型新法の労働契約法といった、労働者にとって重大な法案が、参考人招致もされず、一部政党による密室審議で粛々と進められ、政府案ベースに収斂されてしまった。その姿は異常であり、民主的な国会運営からはかけ離れたものといわざるをえない。多くの労働者・国民の声を反映させつつ、衆目の集まるところで堂々、政策論争をする国会に切り替えることを、まず、与党ならびに民主党に強く要求する。
2.最低賃金法案は、構造改革の負の遺産である「ワーキング・プア」問題に対応する政策として大きく注目されてきた。政府案は、「生計費」の視点を強めるため、最低賃金の決定原則に「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」と書き加えたほか、罰則規定を強化するなどした。これらの点は現行法より一歩前進したといえるが、「整合性に配慮」などというあいまいさを残している。
残念なのは民主党の対応だ。政府案に対抗して出された民主党案は、金額決定原則に「労働者及びその家族の生計費を基本として」定めるとしたほか、地域格差を是正し、公正競争ルールを確立するために不可欠な「全国最低賃金制度」を提起するなどすぐれた面があった。ところが、“党首密室会談事件”を前後して、民主党は姿勢を一変させ、自らの法案に執着することなく、政府案に憲法25条の文言を加える程度の修正で合意してしまった。これは多くの労働者・国民の期待を裏切る行為である。
3.可決された労働契約法案には、「就業規則の変更による労働条件の不利益変更ルール」が盛り込まれ、労働者にとって重大な問題をはらんでいる。就業規則は使用者が一方的に決定・改変することができる。ゆえに、それをもって労働条件を不利益変更することは「原則として許されない」と判例法理は明言している。ところが政府案は、労働者の合意がなくとも不利益変更に合理性が認められる条件を、「ただし」書きに明示し、使用者に「不利益変更は可能」と印象付けるようなものとなっている。
そもそも、こうしたルールが、労使対等決定と信義誠実の原則がうたわれている労働契約法におかれることがおかしい。しかも、不利益変更の合理性判断要素が4つに省かれ、「労働者への代償措置」、「不利益性を緩和する経過措置」、「一部の労働者に不利益が集中する場合の特別の手当て」など、最高裁判例が認めてきた要素すらはずしている。このままでは、“労働条件切り下げ促進法案”と言わざるを得ない。全労連は、「就業規則の変更による労働条件の不利益変更は許されない」との原則のみを法律化し、法案第9条の「ただし」書きと10条の例外規定の削除を強く求める。
4.労働三法案は、衆議院段階では残念な結果を迎えたが、日本の労働者の「働き方」「働かされ方」の見直しと「働くルール」の確立はまったなしである。参議院での大幅改正を視野に、全労連はさらに運動を強め、使用者の一方的な賃金・労働条件の不利益変更にフリーハンドを握らせる労働契約法は許さず、健康配慮義務と均等待遇の確立、有期雇用規制強化、長時間労働規制強化、最低賃金の大幅引上げと全国一律制度の確立などの要求を掲げ、たたかい抜くことを表明するものである。
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