人事院勧告制度は労働基本権制約の「代償措置」にはなりえない
- 2009年人事院勧告についての談話 -
人事院は8月11日、公務員賃金等にかかわる09年勧告をおこなった。その内容は月例賃金について平均0.22%(863円)引き下げるとともに、一時金を年間0.35月分引き下げるとするものである。これによって、平均年間給与は2.4%(15万4千円)の引き下げという過去最大規模の賃下げ勧告となった。
政府が公表する諸統計でも、勤労者の可処分所得が低下し続け、その一方で企業収益が改善方向にむかうという二極化が明らかになっている。この状況は、昨年秋からの経済危機のもとで明白になった格差と貧困をさらに拡大し、深刻にするものである。このような時期、政府の機関である人事院には、中小零細企業などに働く労働者への波及効果も大きく、かつ、社会的規範性の強い公務員賃金の引き下げを回避し、「負の循環」を加速させない努力が求められていた。
その点で、本年勧告は、公務員のみならず多くの労働者の期待にも応えない極めて不当なものである。
本年勧告には、次のような点での不当性も指摘しなければならない。
一つは、09年春闘での賃金回答状況は、全労連・国民春闘共闘委員会、連合の集計とも定期昇給分を維持し、賃金体系を維持する結果となっている。勧告はこのような結果とは乖離している。労働者の基本的人権を制約した「代償措置」としての勧告には、労働組合が存在する企業での賃金改定結果の考慮が求められている。とりわけ、賃金引き下げという労働条件の不利益変更では、そのことがより強く意識されなければならないが、勧告にはその形跡は伺えない。
二つには、02年、03年、05年に続く本俸引き下げの調整方法の問題である。今回も過去三度と同様、賃下げを4月に遡及させ12月期の一時金で減額調整する手法が取られている。このような調整方法については、02年の給与法改定時の国会決議にもあるように、当該労働組合との「十分な意見交換」が求められる。しかし、本年勧告に当たって「十分な意見交換」といえる経緯があるとは認めがたい。今後、勧告の取り扱いは政府にゆだねられるが、労働組合との時間をかけた十分な話し合いが求められており、ましてや、勧告を政治的に利用することなどはあってはならない。
以上の2点を指摘するだけでも、人事院勧告制度が公務員労働者の労働基本権制約の「代償措置」となりえていないことは明らかである。
全労連は、この間、公務員労働者の労働基本権の回復を求め続けている。本年勧告の内容やそれに至る経緯、あるいは、地方自治体で財政難を口実とした人事委員会勧告無視の「独自賃下げ」が頻発する近年の状況などは、勧告制度が破綻していることを明らかにしている。
それらのことから全労連は、政府における検討を加速させ、公務員労働者の基本的人権実現の立場に立った制度の抜本改善が早期に具体化されるようあらためて求める。
2009年8月11日
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