【談話】貧困と格差を深刻化させたことへの反省からはじめるべきだ
-日本経団連「2010年版 経労委報告」について-
本日、日本経団連は、その「春闘方針」といえる「2010年版 経営労働政策委員会報告(経労委報告)」を発表した。
経労委報告の副題は「危機を克服し、新たな成長を切り拓く」とされている。世界同時不況化の深刻な経済状況が予測された2009年版の副題が「労使一丸で難局を乗り越え、さらなる飛躍に挑戦」であり、そのような危機意識は過去のものとなっている。このような経労委報告から伺える日本経団連の姿勢には、一昨年来の経済危機下で労働者・国民が強いられている「痛み」への配慮はなく、他の先進国と比較しても脆弱な外需頼みの日本経済の現状を作り出した財界の責任への反省もない。見えているのは、日本経団連の会員企業の既得権を守り、多国籍化した大企業の儲けの最大化のみではないのかと思える。
そのような経労委報告は、全労連が求める労働者の貧困と格差の解消による安定した持続的な社会の実現や、その実現の過程でもある当面の緊急施策としての内需拡大によるデフレスパイラルからの脱却の方向とは相容れないものである。2010年春闘を通じ、経労委報告の反労働者性を明らかにし、身勝手な主張を繰り返す日本経団連への批判を強め、大企業に社会的責任発揮をせまる。
今年の経労委報告の特徴は、次のような点にある。
第一に、従来と同様に「総人件費管理の徹底」を強調するだけでなく、「多くの企業では賃金カーブ維持分の確保や賞与・一時金に焦点を絞って交渉」、「今次労使交渉・協議ではベース・アップは困難と判断する企業が多い」などとして、賃上げ改善を頭から否定している。「定期昇給の凍結・廃止」の文言はないものの、90年代後半から平均賃金や総人件費を引き下げ、その剰余分を株主配当にまわした労働者軽視の姿勢を変えようとしていない。
第二に、一昨年来の大企業の雇用破壊に対する労働者・国民の批判の前に、「雇用の安定・創出に向けた取り組み」を特別に章立てし、昨年とは異なる経労委報告となっている。
しかしその記述は、「賃金より雇用を重視した交渉・協議の重要性」を説くためと考えられる。賃下げという労働者の痛みをともなう雇用維持、雇用調整助成金などの公的資金頼みの雇用維持や、政府の施策に依存した雇用創出を主張しているに過ぎない。大企業の社会的責任(CSR)をはたす姿勢がまったく伺えない身勝手なご都合主義であり、厳しく批判されなければならない。
第三に、昨年8月の政権交代も意識し、労働者派遣法改正や、最低賃金引き上げについて、従来からの反対姿勢をあらためて強調している。同時に、これらの制度課題ともかかわって、「公労使三者で構成される審議会の結論を最大限尊重していく従来の政策決定システムを今後とも堅持」としている。労働者保護の規制緩和などを推し進める際、審議会の存在をないがしろにし続けたことへの総括もないままの豹変である。
第四に、経労委報告では、「住宅提供などでの離職者への配慮」、「新規学卒者の採用」、「ハローワークの人員拡充」、「恒久的な第二のセーフティネットの制度創設」などに言及している。これらの点は、深刻な雇用状況により労働者の貧困化が進行するもとで、全労連もその実現を求める立場にあり、それぞれの立場で実現をめざすことをよびかける。
2010年1月19日
|