【談話】労働者派遣法「改正」法案の閣議決定にあたって
「派遣切り」・雇用破壊をなくす抜本改正を
1. 本日、鳩山内閣は労働者派遣法の「改正」法案を閣議決定しました。同法案については、労働政策審議会(労政審)で骨格が明らかになって以降、私たち全労連をはじめ派遣労働者を組織する労働組合や日本弁護士連合会などの団体から「与党の政権公約からも大きく後退し、抜け穴だらけで抜本改正の名に値しない」「差別を助長する事前面接解禁など20年法案を引き継ぐ改悪部分を削除せよ」など、見直しを求める意見が広範におきました。
政治の場でもさまざまな論議や修正意見が出されたこともあって、法案決定は今日までずれ込みましたが、「事前面接解禁」という規制緩和事項を削除した以外は、労政審の法案要綱答申どおりの決定となりました。
事前面接の削除は、力をあわせた運動を反映したものです。しかし、決定された法案全体は、例えば製造業派遣の原則禁止を規定しながら、派遣元企業での「常用雇用」の場合は禁止の例外とするなど、「抜け穴」だらけです。
私たち全労連は、法案の大幅な修正を求めてとりくみを継続する決意です。
2. 答申された要綱案に対して修正意見が多く出されたにもにもかかわらず、本格的な見直しがおこなわれなかった最大の原因は、労政審における「公労使三者合意の尊重」を強調して「見直し要求」を抑え込む動きが政府・与党内で執拗に展開されたからです。
全労連は、労働政策の立案過程で、政府が公労使三者の合意形成の場を設け、論議の結果を尊重することは、国際的な流れからも当然のことだと受けとめています。しかし、三者の合意を尊重する前提として、すべての関係者の意見が公正に反映されていることが必要です。今回の労働者派遣法改正論議では、一昨年来の派遣切りや雇用情勢の急激な悪化という現実を打開するための改正という視点が重要でした。しかし、審議の経過をたどれば、公益を代表する委員が「雇用の調整弁は必要」との意見を主張するなど、偏りのある論議と指摘せざるを得ない点があります。全労働者の3分の1を超える派遣など非正規労働者の声を反映する委員構成となっていなかったことに一因があります。
全労連としてあらためて、審議会委員の不公正な任命の現状を改めるよう求めます。
3. 閣議決定された法案では、「派遣切りや雇用破壊をなくすことはできない」「低賃金不安定雇用を温存し、日本経済の再生にもつながらない」と言わざるを得ません。
今後の国会論議において、少なくとも以下の点の修正を強く求めます。
(1) 製造業派遣は全面禁止とし、専門業務にかかる派遣については、「高度かつ専門的な業務に限定する」という原則に立ちかえって対象業務を見直すとともに、派遣元企業との関係を「期間の定めのない雇用」とすること
(2) 派遣先企業の「労働契約申込み義務免除」は削除すること
(3) 違法派遣等の場合の「みなし雇用制度」の実効性を高め、派遣先労働者との「均等待遇」原則を明記し、派遣先企業の「団体交渉応諾義務」を規定するなど、派遣労働者の保護を目的とする法改正にふさわしい内容への充実を図ること
(4) 法施行期日を3年ないし5年もの間、先送りしないこと
2010年3月19日
別添資料
厚 生 労 働 大 臣 長 妻 昭 殿
労働政策審議会 会 長 諏訪 康雄 殿
同 労働力需給制度部会 部会長 清 家 篤 殿
労働者派遣法改正「法案要綱(案)」に対する意見
派遣切りと雇用破壊の実態をふまえた抜本改正を
1. 厚生労働省は2月17日、労働政策審議会に対して、労働者派遣法等の一部を改正する法律案要綱(案)を諮問しました。しかし、その内容は、昨年12月の労政審答申の域を出ず、現与党三党の政権合意や昨年の総選挙で民主党が掲げたマニフェストからも大きく後退した内容に止まっています。弱肉強食の構造改革路線をやめ、雇用をまもってほしいという労働者・国民の切実な願いに背を向けるものと言わざるを得ません。法の名称や目的を派遣労働者の「就業条件の整備」から「保護」に変更したわけですから、それにふさわしい改正をおこなうべきです。
2. 一昨年来の派遣切りと雇用破壊の深刻な実態が物語るものは、「臨時・一時的な業務に限定し、常用雇用の代替としてはならない」という原則が骨抜きにされ、労働者派遣が「いつでも首を切れる安上がりの労働力」として悪用されているということです。労働者派遣契約の中途解除や期間制限違反などの違法が問題になりましたが、派遣法の相次ぐ改悪によって派遣元・派遣先ともに雇用責任があいまいにされ、製造業をはじめとした大企業は現行法さえ遵守せず、利益確保のために派遣労働者を使い捨てにしました。
今回の改正においては、派遣切り等の実態を正す抜本改正が求められています。政府・厚労省と労政審は、「法案要綱(案)」の内容で派遣切りと雇用破壊を本当に解決することができるのか、今一度真剣な論議をおこなうべきです。この課題は、単に派遣労働者だけの問題ではなく、内閣が強調する「需給サイド」重視の政治に転換できるのか、貧困と格差の解消をすすめることができるのかが問われている問題です。
3. 私たち全労連は、今回の「法案要綱(案)」について以下の問題点を指摘し、その見直しを強く求めます。
(1) 第1には、製造業派遣の禁止について、常用型派遣を例外としたこと(要綱案「第二の一」)です。製造業派遣のうち約3分の2が「常用型」であり、これでは「原則禁止」とはとても言えません。しかも、現行法の「常用型」の定義はあいまいであり、厚労省の解釈ではどんなに短期の雇用契約であっても、その繰り返しで1年を超える「見込み」があれば「常用型」とみなされます。これでは雇用を景気の調整弁とする政治は温存され、大きな社会問題となった派遣切りをなくすことはできません。製造業派遣は全面的に禁止すべきです。
(2) 第2には、登録型派遣の禁止について、(1)日雇派遣が認められる業務(=日雇労働者(日々又は2月以内の期間を定めて雇用する労働者)を従事させても適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがない業務として政令で定める業務)(要綱案「第一の十五(一)」)と、(2)現行の「26専門業務」など(=その業務を迅速かつ的確に遂行するために専門的な知識、技術若しくは経験を必要とする労働者について、就業形態、雇用形態等の特殊性により、特別の雇用管理を行う必要があると認められる業務として政令で定める業務)を例外としたこと(要綱案「第二の三」)です。
現状でも26専門業務に従事する派遣労働者は約100万人に達しており、しかもその半数は違法な事務系派遣の温床となっている事務用機器操作やファイリング名目で働かされています。労働者派遣は「高度かつ専門的な業務に限定する」という原則に立ちかえり、登録型派遣は禁止すべきです。同時に、常用型派遣については言葉どおり、「期間の定めのない雇用」であることを明確に定義すべきです。
(3) 第3には、日雇派遣の禁止について、日雇労働者(=日々又は2月以内の期間を定めて雇用する労働者)を従事させても適正な雇用管理に支障を及ぼすおそれがない業務として政令で定める業務を例外としたこと(要綱案「第一の十五(一)」)です。三党案からの明らかな後退であり、日雇派遣についても例外なく禁止すべきです。
(4) 第4には、違法派遣等の場合の「みなし雇用制度」(=労働契約申込みみなし制度)について、(1)その適用をi)派遣禁止業務への従事、ii)無許可・無届の派遣元からの受け入れ、iii)期間制限を超えての受け入れ、iv)いわゆる偽装請負、)登録型派遣の原則禁止に反した受け入れの5点に限る(=限定列挙)とともに、(2)「知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかったときは、この限りではない」として、故意・過失要件を加えたこと、(3)「その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働条件の申込みをしたものをみなす」として、短期のみなし雇用を容認したこと、および、(4)当該派遣労働者を就労させるべき旨の勧告に派遣先企業が従わなかったときに、その旨を公表できることに止めていること(要綱案「第一の十九」)です。
限定列挙ではなく例示規定に戻して、直接雇用が必ず担保されるようにすべきです。違法派遣等をおこなった経営者は「知らなかった」と言うのが常であり、違法状態が客観的に明らかになれば例外なく、みなし雇用制度を適用する必要があります。雇用責任を回避するため、短期の労働者派遣契約が繰り返されている事例が多い実態を踏まえ、「同一の労働条件」という名目で短期間の直接雇用に止められるのでは、違法のやり得という状況は改まりません。期間制限違反や偽装請負など違法派遣が発覚した場合には、申し込んだとみなすべき労働契約は「期間の定めのない契約」とすべきです。また、勧告に止めず、実効性が担保されるようにすべきです。
(5) 第5には、均等待遇原則について、「均等」ではなく、「均衡を考慮した待遇」「配慮」に止めていること(要綱案「第一の十)です。これでは「考慮した」と言うことで済まされるのであり、派遣労働者の低賃金構造を是正するには不十分です。均等待遇を明記すべきです。
(6) 第6には、期間を定めないで雇用される労働者について、(1)特定を目的とする行為を解禁すること(要綱案「第一の八」)と、(2)期間制限のない業務について3年を超える期間継続して同一の派遣労働者を受け入れている場合の派遣先企業の労働契約申込み義務を免除していること(要綱案「第一の十八」)です。これらは旧政府案の改悪部分がそのまま残されたものであり、断じて容認できません。
事前面接など特定目的行為を解禁するということになれば、職安法が禁止する労働者供給事業となんら変わらなくなります。また、労働契約申込み義務の免除は、「臨時・一時的な業務に限定し、常用雇用の代替としてはならない」という大原則を踏みはずすものです。「期間の定めのない労働契約だから、雇用は安定している」との言い訳がなされていますが、一昨年秋以来の事態では契約の途中解除が相次いだのであり、期間の定めのない雇用であろうと労働者派遣の不安定さは変わりません。これら改悪部分はきっぱりと削除すべきです。
(7) 第7には、三党案にはあった派遣先企業の責任が大きく抜け落ちていることです。派遣先企業が団体交渉に応じないことが、派遣労働者の問題解決の大きな障害になっています。団交応諾義務を明記し、労使交渉において問題を解決できるようにすべきです。また、「育児休業を理由とする不利益取り扱い」や「性別を理由とする差別的取り扱い」の禁止など三党案の内容を盛り込むべきです。
(8) 第8には、関係派遣先への労働者派遣について、8割まで認めていること(要綱案「第一の四」)です。大企業等は派遣会社をつくって本来は自社で雇うべき労働者をその派遣会社から受け入れることで人件費を削減し、低賃金構造を押しつけています。そうした事態をなくすためには、少なくとも「百分の五十以下」に制限すべきです。
(9) 第9には、労働者派遣契約の解除にあたって講ずべき措置(要綱案「第一の六」)に関してです。派遣先企業に、新たな就業機会の確保や休業手当の支払いに要する費用の確保等を課すこととされていますが、派遣先企業と派遣元の力関係を考えれば、その実行性には疑問を禁じ得ません。大幅に見直すべきです。
(10) そして最後に、施行期日について、全体的には公布の日から6ヶ月以内とされているのに、製造業派遣や登録型派遣の原則禁止などについては公布の日から3年ないし5年もの間、その実施を先延ばししていること(要綱案「第五の一」「第二の四」)です。現実に起きている問題を解決するには、速やかに施行すべきです。
参考資料
労働者派遣法の今国会での抜本改正を求める意見書
2010年(平成22年)2月19日
日本弁護士連合会
はじめに
一昨年秋から始まった経済不況に端を発した派遣切り・雇止めによる労働者の失業と困窮は社会問題となり、派遣労働者の保護が喫緊の政治課題となっている。年末年始に東京都等の自治体が実施した「公設派遣村」にも、派遣切りにあって職と住居を喪失した多くの派遣労働者が身を寄せた。
派遣労働者は、使用者が派遣先と派遣元に分化している間接雇用の構造のもとで、他の労働者と分断され、労働条件、雇用の安定の交渉、労働組合加入等が著しく困難な状況に置かれている。
労働者派遣法改正については、昨年の通常国会において与野党から改正法案が提出されたが、衆議院の解散に伴いいずれも廃案となった。厚生労働大臣は、昨年10月7日、労働政策審議会に「今後の労働者派遣制度の在り方について」の諮問をし、同審議会は同年12月28日に「答申」を出し、厚生労働省は2010年2月17日、「答申」に沿った法案要綱を策定した。今後、法案策定、国会への上程、審議と手続が進められる。
答申・法案要綱の内容は、法律の名称・目的に労働者保護を明記すること、登録型派遣や製造業派遣の原則禁止、違法な派遣についての直接雇用申込みのみなし規定を創設することなど、労働者保護の観点から規制強化に踏み込む内容となっている。しかしながら、答申・法案要綱は、派遣労働者の低賃金・不安定雇用を解消するにはなお不十分であるうえ、2008年の法案に盛り込まれていた事前面接の解禁等がそのまま持ち越されており、問題が大きい。
当連合会は「労働者派遣法の抜本改正を求める意見書」(2008年12月19日。以下「2008年意見書」という。)を発表し、労働者派遣法の抜本改正に必要な8項目(派遣対象業務の限定、登録型派遣の禁止、日雇い派遣の全面禁止、直接雇用のみなし規定の創設、均等待遇義務付け、マージン率上限規制、グループ内派遣原則禁止、派遣先特定行為の禁止)を示し、この間、政府や国会に対して、2008年意見書の趣旨に沿った早期抜本改正を強く求めてきたところである。
当連合会は、改正法案作成と国会での審議に先立ち、2008年意見書の内容を前提に、答申・法案要綱の問題点を指摘したうえ、あるべき改正の方向性について意見を述べる。
意見の趣旨
1 派遣対象業務は専門的なものに限定すべきであり、「現行専門26業務」については厳格な見直しをすべきである。
2 登録型派遣の原則禁止にあたって、答申・法案要綱において例外とされている「専門26業務」については、その範囲を厳格に見直すべきである。また、常用雇用についての労働者派遣を当面認めるにしても、その定義規定を置き、期間の定めのない雇用契約に限定すべきである。
3 製造業務派遣については、本来、全面禁止されるべきである。常用雇用に限定して認める場合であっても、その定義規定を置き、期間の定めのない雇用契約に限定すべきである。
4 日雇い派遣について例外を許容することは適当ではなく、全面禁止とすべきである。
5 均等待遇にあたっては、単に均衡を考慮する旨の配慮規定を置くだけでは不十分であり、均等待遇を義務付ける具体的な立法をすべきである。
6 マージン率については、上限を規制すべきであり、情報公開及び労働者への明示を義務付けるだけでは不十分である。
7 違法派遣の場合における直接雇用のみなし規定について
(1) みなし規定適用に当たって、違法であることについての派遣先の認識を要件とすべきではない。
(2) みなし規定の対象となる違法派遣は、答申・法案要綱が列挙しているものに限定せず、多重派遣等の重大な違法派遣の場合すべてに適用すべきである。
(3) 期間制限に違反した場合の派遣先による直接雇用後の雇用契約の期間は、期間の定めのないものとすべきである。
(4) 直接雇用後の労働条件の均等確保の規定を入れるべきである。
8 グループ内派遣は原則として禁止すべきである。
9 派遣先の特定行為は禁止すべきである。
10 派遣先の団体交渉応諾義務について規定すべきである。
11 施行期日については、長期間にわたる施行期日の設定、暫定措置を設けるべきではなく、できるだけ速やかに、改正法公布の日から6か月以内の政令で定める日とすべきである。
意見の理由
1 派遣対象業務の限定
答申・法案要綱は、派遣対象業務の限定や期間制限のない現行26業務についての見直しについては、今回の法案では措置しない扱いとしている。
しかし、26業務の中には、「事務用機器操作(5号業務)」、「ファイリング(8号業務)」のように、昨今専門性のある業務とは言えなくなっているものが含まれているうえ、実際には一般事務に従事させて期間制限を免れようとする違法派遣が後を絶たない。
これらの業務の圧倒的多数は女性労働者が従事しており、女性労働者の低賃金・不安定雇用を固定化することにもつながっている。
この点、派遣労働、特に登録型派遣は、子を持つ女性労働者のワークライフバランスの実現を可能にする就労形態であり、女性労働者自らが望む働き方であるとの意見がある。しかし、このような意見は、ワークライフバランスの実現のため女性労働者が正社員として働き続けることが困難な現状、家庭と仕事との両立からやむを得ず派遣労働を選択せざるを得ない現状から、ことさら目を背けるものである。子を持つ女性が正社員として継続して就労できる法制度こそが検討されるべきである。また、ワークライフバランスは、直接雇用であっても、短時間勤務制度の実施などにより可能である。
よって、当連合会が2008年意見書で述べたとおり、派遣対象業務は専門的なものに限定すべきであり、現行法で期間制限を受けない専門26業務についても速やかに見直すべきである。
2 登録型派遣の禁止について
答申は、「常用雇用以外の労働者派遣を禁止することが適当である」として、いわゆる登録型派遣の禁止を打ち出しつつ、禁止の例外として、「専門26業務」、「産前産後休業・育児休業・介護休業取得者の代替要員派遣」、「高齢者派遣」、「紹介予定派遣」を挙げている(法案要綱でも同じ。)。
登録型の原則禁止を打ち出したことについては、評価できる。
しかし、例外とされた現行の「専門26業務」については、早急に見直すことが必要である。
前述のとおり、事務用機器操作やファイリング等、専門性に疑問があるものや、派遣期間制限を免れるために名目的に利用されているものが含まれている。当連合会は、登録型派遣は全面的に禁止すべきであると考えているが、仮に専門業務を例外とする場合であっても、その範囲については派遣労働者保護の観点から、厳格に見直すべきである。
登録型派遣については、登録した者に仕事を紹介する時点ではいまだ雇用関係が発生していないため、そもそも登録しているだけの者は、「自己の雇用する労働者」に該当する前記定義に該当せず、労働者派遣の本質に反するという批判も有力になされているところであり、登録型派遣の全面廃止も視野に入れて引き続き、検討すべきである。
また、答申・法案要綱では、「常用雇用」についての派遣労働を存続させる方向であるが、現行法は「常用雇用」についての定義規定を欠いている。厚生労働省は、特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業を区分する定義規定における「常時雇用される労働者」には、「期間の定めなく雇用されている者」のみならず、「有期雇用」や「日々雇用」でも「過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者」もこれに該当すると解釈し、そのように取り扱っている(厚生労働省職業安定局「労働者派遣事業関係業務取扱要領」)。
常用雇用についてこのような解釈を許せば、有期雇用や日々雇用の労働者でも専門業務以外の業務に派遣することが可能となってしまい、「登録型派遣の原則禁止」の法改正の実効性が失われることになり、労働者の雇用の安定は確保されない。
そこで、改正法には常用雇用についての明確な定義規定を置き、「常用雇用」を、期間の定めのない雇用契約に限定すべきである。
3 製造業務派遣の禁止について
答申・法案要綱は、製造業務への派遣を原則禁止としつつ、「雇用の安定性が比較的高い常用雇用の労働者派遣については、禁止の例外とすることが適当である」としている。
しかし、製造業務への派遣は、比較的単純な作業が中心であって、派遣対象業務は限定されるべきであるとの観点から不適切であるうえ、雇用調整の影響を最も受けやすく、雇用が極めて不安定であるから、本来、全面的に禁止されるべきである。
今回の改正で暫定的に例外を設けるとしても、安定した雇用が確保される場合に限定されなければならない。昨年来の派遣切りでは、製造業務への派遣については、常用雇用と分類されている者についても大量に職を失う事態が続出している。
よって、常用雇用を例外とする場合であっても、登録型派遣で述べたのと同様に、その定義規定を置き、期間の定めのない雇用契約に限定すべきである。
4 日雇い派遣について
答申は、「日雇派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題ない業務等について、政令によりポジティブリスト化して認めることが適当である」とし、法案要綱にもそのまま盛り込まれているが、日雇い派遣は究極の不安定雇用として社会問題となっているものであり、その弊害はあまりに大きいため、例外を認めるべきではない。2か月以内の雇用期間の労働者派遣を全面的に禁止すべきである。
5 均等待遇
答申は、「派遣労働者の賃金等の待遇の確保を図るため、派遣元は、派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮するものとする旨の規定を設けることが適当である」とし、法案要綱にもそのまま盛り込まれているが、単なる「均衡を考慮する」との配慮規定を置くだけでは実効性が確保されない。2008年に採択されたEU派遣労働指令では、派遣労働者の派遣先従業員との均等待遇が盛り込まれた。わが国においても同様の「均等待遇」を義務付ける規定を設けるべきである。
6 マージン率
答申は、「マージン率等の情報公開に加え、派遣労働者が自己の労働条件を適切に把握するとともに、良質な派遣元事業主を選択する一助とするため、派遣元は、派遣労働者の雇入れ、派遣開始及び派遣料金改定の際に、派遣労働者に対して、一人当たりの派遣料金の額を明示しなければならないこととすることが適当である」としている(法案要綱も同じ。)。
答申・法案要綱の内容は、派遣労働者の保護に向けて一定の前進であると言えるが、派遣元が派遣先に支払う派遣料金と派遣元が派遣労働者に支払う賃金との間に大きな開きがある現状においては、マージン率についての情報提供にとどまらず、法律によって上限を規制する必要がある。
7 違法派遣の場合における直接雇用申込みのみなし規定について
(1) 答申は「違法派遣の場合における直接雇用の促進」として、「派遣先が、以下の違法派遣について違法であることを知りながら派遣労働者を受け入れている場合には、違法な状態が発生した時点において、派遣先が派遣労働者に対して、当該派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約を申し込んだものとみなす旨の規定を設けることが適当である」とし、(1)禁止業務への派遣受入れ、(2)無許可・無届の派遣元からの派遣受入れ、(3)期間制限を超えての派遣受入れ、(4)いわゆる偽装請負の場合、(5)登録型派遣の原則禁止に違反して常用雇用する労働者でない者を派遣労働者として受入れ、の場合を挙げている。
加えて、「労働契約の申込みを派遣労働者が受諾したにもかかわらず、当該派遣労働者を就労させない派遣先に対する行政の勧告制度を設けることが適当である」としている(法案要綱も同じ。)。
違法派遣の場合に、派遣先に雇用責任を課すものであり、違法派遣の抑止及び派遣先責任の強化の観点から評価できるものである。ただし、以下の点でいまだ不十分である。
(2) 「違法であることを知りながら」との要件をつけているが、これでは派遣先が違法であることを「知らなかった」という言い逃れを許すこととなり、迅速な派遣労働者の雇用の安定が確保されないおそれがある。したがって、かかる派遣先の認識を要件とすべきではない。
(3) 前記(1)〜(5)についてはあくまで例示列挙であることを明確にし、これ以外の重大な違法派遣の場合すべてに適用すべきである。例えば、二重・三重の多重派遣や登録型派遣労働者の製造業務派遣への受入れ、派遣先が派遣労働者に対して事前面接等の特定行為を行った場合などである。
(4) 直接雇用後の雇用契約の期間について、契約期間を明示していないが、違法派遣の場合における派遣労働者の雇用の安定という立法目的に照らして、少なくとも期間制限に違反した場合には、直接雇用後の雇用契約期間は、期間の定めのないものとすべきである。
(5) 答申・法案要綱では触れられていないが、直接雇用後の労働条件の均等の確保の規定を入れるべきである。
8 グループ内派遣
2008年意見書でも述べたとおり、グループ内派遣は、グループ企業が雇用主としての責任を回避することにつながり、労働条件の切下げの手段として用いられることもあるため、本来、派遣先の直接雇用とすべきである。
9 派遣先特定行為の禁止
労働者の採用に派遣先が関与することは、労働者派遣法の構造に反するものである。答申・法案要綱は20年法案を踏襲しており、常用雇用の場合に事前面接を解禁することとなっているが、派遣先が特定行為を行うことは認めるべきではない。派遣先の特定行為は当連合会の2008年意見書のとおり、禁止すべきである。
10 団体交渉応諾義務
答申・法案要綱では措置すべきこととされていないが、派遣労働者の労働条件を左右する事項については、派遣先にも団体交渉応諾義務が存在することを明記すべきである。
11 施行期日等について
答申・法案要綱は、登録型派遣の原則禁止及び製造業務派遣の原則禁止について「改正法の公布の日から3年以内の政令で定める日」とし、登録型派遣の原則禁止に関しては、政令で規定する業務について、さらに暫定措置として「施行日から更に2年後までの間」「適用を猶予することが適当である」としている。
しかし、労働者派遣法の施行は派遣労働者保護の観点から速やかに実施されるべきであり、他の規定同様、改正法公布の日から6か月以内の政令で定める日とすべきである。
12 結語
当連合会としては、今国会での労働者派遣法の改正は、真の抜本改正に向けた第一歩であると考えており、今後も2008年意見書の全面的な実現を目指していく所存である。
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