【談話】給付削減と大幅な負担増を打ち出した社保審介護保険部会報告書に抗議し、公的責任で安心・安全の介護保障を求める
2010年12月2日
全国労働組合総連合
事務局長 小田川 義和
1.社会保障審議会介護保険部会(部会長:山崎泰彦・神奈川県立保健福祉大学教授)は11月30日、報告書「介護保険制度見直しに関する意見」を取りまとめ、公表した。介護給付費の増大を理由に、給付内容の制限と利用者・国民負担増を宣言する内容であり、断じて容認できない。
国民生活が厳しさを増し、一方で介護保障の弱さから介護難民や孤独死、介護殺人などが問題となっているもとで、こうした方向での見直しがおこなわれれば、「保険あって介護なし」という状況がさらにひろがることは明らかである。全労連は、介護が必要な高齢者等の人権が尊重され、公的責任で安心・安全の介護が保障される社会を実現するために全力をあげる。
2.報告書の第1の問題点は、「給付の効率化・重点化などを進め、給付と負担のバランスを図ることで、将来にわたって安定した持続可能な介護保険制度を構築する」として、以下のとおり、給付内容の大幅な削減の道に踏み込んだことである。
(1) 「生活援助」等の保険外しの検討(要支援者・軽度の要介護者に対する介護サービスについて、「効率化・重点化」という名の縮小の検討)
(2) 多床室の減価償却費も保険外し(ただし、「低所得者の利用に配慮」との条件)
(3) ケアマネージャーによるケアプランの作成等のサービスについて、在宅の場合にも利用者負担の導入を検討(一部保険外し=10割給付原則からの転換) etc.
今でさえ「介護地獄」という深刻な実態があるもとで、これらの保険外しや給付内容の削減を認めることはできない。そもそも介護保険制度は、基盤整備の遅れに加え、医療保険とは違い現金給付を原則とし、給付上限が設定されていることが、必要な介護提供の妨げとなっている。「効率化・重点化」ではなく、必要な介護保障を基本に据えるべきである。
3. 第2の問題点は、以下のとおり、利用者・国民のさらなる負担増を明確にしたことである。
(1) 保険料の引き上げの当然視(次期(第5期)は1,000円近く上がり平均5,000円超と推計)
(2) 一定以上の所得がある人(年収200万円以上を想定)の利用者負担の引き上げ(「例えば2割」と報告書に明記)
(3) 被用者保険間の負担の公平性を図るとの理由で「総報酬割」の導入の検討
(4) 被保険者年齢の引き下げについて結論を得るべきとの指摘 etc.
介護保険料は今でさえ、高齢者や家族等にとって大きな負担となっている。貧困と格差が深刻化するもとで、利用者・国民負担の軽減こそめざすべき方向である。
4.第3の問題点は、介護職員処遇改善交付金の2011年度終了を既定方針とし、2012年介護報酬改定で対応する方向を打ち出したことである。
同交付金は、介護職員の劣悪な処遇が大きな社会問題となるなかで導入されたものである。それを止めて介護報酬で対応する場合、保険料の引き上げにつながることは明らかであり、また、報酬引き上げ分が介護職員の賃上げ等にすべての回されるのかということも懸念される。民主党は4万円賃上げの公約からいっても、交付金は当面維持・拡充されるべきである。
なお、報告書は、「労働法規遵守のための具体的な取組」「指定事業者が労働法規に違反して罰金刑を受けた場合は指定を取り消すことができるようにする」措置の検討を求めているが、それらについては着実な実現を求める。
5. 報告書が大幅な給付減と負担増に踏み込んだ理由は、「安定した財源が確保されない」として、公費負担の引き上げに背を向けたことにある。
報告書には随所に反対意見がついているが、主要な給付減や負担増の項目には委員の間からも強い異論が出された。しかるに、報告書がこのような内容となったのは、政府・厚生労働省主導の強引な取りまとめがおこなわれたからである。社会保障、介護の公的負担の増額を打ち出していた民主党の公約に反するものとして批判されなければならない。報告書は「公費負担割合が増えれば、社会保険方式とする現行制度の当初の姿から大きく乖離してゆく」というが、構造改革路線を転換し、医療・介護など社会保障費の拡充に踏み出すことが必要である。
この点で、要介護認定は「不可欠の仕組み」としてその維持を鮮明にした一方で、「区分支給限度基準額」については次期介護報酬改定に向けた検討の必要性を指摘した。「保険あって介護なし」といわれる深刻な実態に対する批判に対応せざるを得なかったものである。公費負担を増額し、現物給付制度に転換することを含めた抜本的な検討が必要である。
6.報告書は、「現在直面している大きな課題の1つは、地域全体で介護を支える体制がなお不十分であるということ」として、以下のような「重点化」策を打ち出した。
(1) 単身・重度の要介護者等にも対応しうる「24時間対応の定期巡回・随時対応サービス」の新たな創設など、地域包括ケアシステムの確立
(2) 地域包括支援センターの全中学校区(1万箇所)をめざした拠点整備
(3) 地域の実情に応じたケアパスの作成など、認知症を有する人への対応の強化
(4) 高齢者向けの住まいの確保、特養等の整備推進 etc.
これらの施策の推進など、総合的な介護基盤整備を早急にすすめるべきである。介護保険事業計画で、認知症に関する事項を「任意的な事項」とした点などをあらため、必要な介護基盤の確保のための強力な対策を取るよう求める。
また、2012年春の廃止予定の介護療養病床については、「再編が進んでいないのが実態」として、廃止を「一定の期間に限って猶予することが必要」と結論づけているが、そこに医療がある施設として優位性が明らかであり、介護療養病床の廃止方針を撤回すべきである。
7.報告書は、「サービス供給が大幅に増加し、今後も着実に増大していく中で、サービスを支える質の高い介護職員の確保が大きな課題である」としている。しかし、その対策は、前出の介護職員処遇改善交付金の終了方針にみられるように、中途半端なものといわざるをえない。
例えば、ケアマネージャーについては、資格のあり方や研修カリキュラムの見直し検討などとともに、事務負担の軽減に力点が置かれており、大幅な増員、配置基準の改善という視点はほとんど欠落している。今後の介護需要を踏まえても、ケアマネージャーや介護福祉士、ヘルパー等の増員は切実かつ緊急の課題であり、増員によって重労働と劣悪な処遇を改善し、働き続けられる条件整備を強化することが必要である。
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