【談話】国民の審判を経ない「消費税率引き上げ」決定に抗議する
- 政府・与党の「社会保障・税一体改革素案」の決定にあたって -
(1) 本日開催された「政府・与党社会保障改革本部」で、現行5%の消費税率を2014年度から8%に、2015年10月から10%に引き上げることを中核とする税制改革と、「給付に見合った負担確保」を最大目的とする社会保障改革の素案が決定された。野田首相は、この素案をもとにした協議を野党に申し入れ、成案を得て大綱として決定し、通常国会に法案を提出するとしている。
2009年の総選挙で民主党は、「4年間は消費税を上げない」と公約して政権の座につき、2010年参議院選挙では消費税率10%への引き上げを掲げて敗北している。この経過に照らしても、国民の新たな審判を経ないまま、社会保障財源確保を口実にして消費税率引き上げを政府と与党間で合意すること自体が公約破りである。内容も含め、手続き的な瑕疵がある素案決定に断固抗議する。
全労連は、消費税率引き上げを含む「社会保障・税の一体改革」に反対し、強行を許さないために総力を挙げる。
(2) 素案は、その内容にも見過ごせない問題が多い。
第一に、社会保障を国民相互の共助の仕組みとして描き、バランスのとれた負担と給付という「保険の論理」を強調していることである。その結果、すべての国民に「健康で文化的な最低限の生活」を保障するという憲法実現の立場に立った社会保障確立の理念を欠くものとなっている。
第二に、国民に新たな消費税の負担を求めながら、年金、医療、介護など社会保障の個別制度での具体的改善がほとんど具体化されていないことである。消費税率10%への引き上げで9兆円規模の財源確保が考えられるが、その多くは年金への国庫負担2分の1の財源確保に回す内容となっている。
年金への国庫負担2分の1への引き上げは、一体改革論議以前の課題であり、本来は国の歳出見直しの中で検討されるべき筋合いのものである。にもかかわらず、それが消費税引き上げの口実とされているところに、素案の中心的な狙いが示されている。
第三に、素案でも言及しているように、1999年度に消費税は年金等のために使用するという「福祉目的税化」が行われ、その後の高齢化進展で税率5%では社会保障財源としては不足する状況となっている。このことからも明らかなように、消費税を福祉目的税とすることは、繰り返し消費税の引き上げか社会保障給付の抑制かという分断を国民に迫る結果になりかねない。その反面で、一般会計での軍事費の聖域化を黙認することにもなりかねない。
第四に、税制改革の課題として、消費税率引き上げに伴う累進性の低下から「所得税の負担水準をこれ以上低下」させることに慎重としながら、2012年度から5%引き下げられる法人税率については「引き続き」引き下げを検討課題としていることである。
一部大企業だけで、256兆円もの内部留保をため込み、日本では最も担税能力の高い大企業に応分の負担を求めなければ社会保障の持続可能性を確保する財源確保はできないという当然のことがないがしろにされている。
第五に、消費税率引き上げの突破口として、衆議院議員定数の80削減、独立行政法人改革などの行政改革、公務員給与削減のための特別措置法の早期成立など強調されるという、為にする論が展開されていることである。
議員定数の削減は、主権者国民の意思を国会に反映させるという民主主義の課題であり、庶民増税を押し付けるための口実としては逆立ちしている。民主党政権が行った事業仕分けでも明らかなように、行政改革では財政効果を生じさせる結果は生まれない上に、公務公共サービスの低下に直結し、公務の民営化が新たな利権構造を生み出すという皮肉な結果の元凶となっている。
(3) 素案は、「社会保障給付や負担の公正性、明確性を確保するためのインフラとして、社会保障・税番号制度の導入」も強調している。国家が国民のすべてを監視する社会をさらに推し進めるとともに、負担に見合った給付という応益負担の社会保障への変質を加速させるための「インフラ」となることも確実なものであり、賛成しがたいものである。
(4) 我が国の社会保障制度の不十分さは、リーマンショック直後に雇用を奪われた非正規労働者などの深刻な生活実態でも、「3.11」東日本大震災の被災者、被災地の現状からも明らかになっている。そのことが可視化された今、政府や政党が論議すべきは、格差と貧困の拡大を食い止めるために社会保障を拡充し、税制度も活用した富の再配分機能の強化策を実施することである。そのためには、富裕層や大企業に応能の負担を求め、安定した良質な雇用と社会保障拡充を中心においた社会の実現を政治の中心課題に位置付けるべきだと考える。
そのことから全労連は、素案にもとづく政党間協議ではなく、国民の実態を直視した施策実施のための国会論戦が徹底されることを強く期待する。
2012年1月6日
|