内閣総理大臣(産業競争力会議議長)
安 倍 晋 三 殿
地域活性化担当大臣
新 藤 義 孝 殿
国家戦略特区ワーキンググループ座長
八 田 達 夫 殿
【意見】「特区」制度に関する基本的な意見
− いのちや生活、安全に関する基準のなし崩し的な緩和は認められない −
この間、「国家戦略特区」や「企業実証特例制度」などの「特区」による、解雇規制や労働時間(残業)規制の緩和(骨抜き・撤廃)の動きがたびたび報じられてきました。そして、9月20日に開催された産業競争力会議の第1回課題別会合では、医薬品等を対象にした混合診療の一部解禁や、開業5年以内の事業所や外国人労働者が3割以上の事業所に対する解雇規制や労働時間(残業)規制の緩和など、はたらく人々と国民のいのちや生活、安全に深くかかわる課題での「規制緩和」が、関係省庁の反対意見を無視して強く主張され、検討が指示されており、重大な局面を迎えたと認識します。
私たち全労連は、9月11日付の政府要請書などで、「特区」による労働法制の骨抜きを止めるよう強く要請するなどとりくみを強めてきたところですが、現状を踏まえ、あらためて以下のとおり申し入れ、改善を強く求めます。
1.国民のいのちや生活、安全に関する基準や最低保障については、「特区」の対象から外すことを明確にすること
安倍政権では「世界で一番企業が活動しやすい国」を掲げておられますが、働く人々や中小企業、地域社会を犠牲にして一部のグローバル大企業の利益のみが優先されることがあってはなりません。とくに、国民のいのちや生活、安全にかかわる基準や最低保障については、それを撤廃、緩和することは、貧困をさらに深刻化させ、格差を拡大することになります。憲法が規程する国民に対する責任に照らしても許されるものではありません。
したがって、国民のいのちや生活、安全に関する基準や最低保障については、「特区」の対象から外すことを明確にすべきです。現在準備中といわれる「産業競争力強化法案(仮称)」や特区関連法案のなかでも、それが明確になるよう条文を整備すべきです。
2.解雇や労働時間(残業)などの規制は、憲法にもとづく労働基準の最低基準であることを踏まえ、「特区」を使って、一部の地域や企業だけになし崩し的に緩和しないこと
解雇や労働時間(残業)をはじめとした労働基準は最低基準であり、労働基準法違反は刑事罰を科されることもある強行法規です。にもかかわらず、「特区」を使って一部の地域や企業だけに緩和(骨抜き・撤廃)することは、いわゆる「ブラック企業」の合法化となり、雇用破壊をいっそうひどくして格差と貧困を拡大するなど、許されないことです。
関係省庁や内閣法制局などからも「そもそもなじまない」などと反対の意見が出されているとおりであり、絶対におこなうべきではありません。断固反対します。
3.当事者の参加や意見の反映、民主的な手続きという原則に立ちかえって、産業競争力会議(雇用・人材分科会)や国家戦略特区ワーキング・グループなどの一部有識者等が省庁や関係当事者の意見を無視して一方的に、いのちや生活、安全にかかわるルール変更を提起できないよう、現在の「特区」検討の仕組みを抜本的に見直すこと
民主的な手続きという点からも重大な問題があります。これまでの「特区」は自治体や関係諸団体から提案という手法でしたが、今回の「国家戦略特区」については従来にない上からのものだとされ、例えば9月20日に産業競争力会議課題別会合に出された解雇や労働時間規制の緩和についてもワーキング・グループの委員が独自に制度設計をおこなったものだといわれています。このまますすめば「大都市圏」といわれている「特区」の地域指定もワーキング・グループの委員が勝手におこなうことになり、国民主権や民主主義のルールに反します。
また、労働基準についてはILOも強く指摘しているように政労使三者構成で決定することが国際ルールであり、日本でも労働政策審議会が設置されています。社会保障に関しても社会保障審議会が存在しており、その委員構成などに問題はあるものの、政策決定システムとして位置づけられた審議会などの仕組みがあります。9月20日の課題別会合では、「労政審である必要はない」という見解も示されていますが、独善的な主張といわざるを得ません。
したがって、民主主義の基本に立ちかえって、産業競争力会議や国家戦略特区ワーキング・グループなどが独断的・恣意的に「特区」を制度設計できないよう、現在の検討の仕組みを抜本的に見直すべきです。
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