自民党は10月2日、「『慰安婦問題』について適切な対応を求める意見書」(別紙)を衆参両院議長と内閣総理大臣および関係閣僚に提出した。
同意見書は、「朝日新聞の報道の虚偽と『河野談話』の作成過程に問題のあったことが明らかになった」として、新たな談話の発表や教科書記述の厳正な検証などを求めている。
しかし、これは、「慰安婦」という「歴史の真実」を否定するものであって断じて容認できない。全労連は厳しく抗議し、同意見書の即時撤回を求める。
同意見書の最大の論拠は、朝日新聞が本年8月5日、6日の朝刊で、故吉田清治氏の強制連行の証言を虚偽だったとして取り消し、「慰安婦」と「女子挺身隊」を混同した誤用を認めたことにある。しかし、これを持って、慰安婦問題そのものをなかったものとすることはとうてい許されるものではない。
被害女性が公に名乗り出てすでに20年以上が経過した。その国籍は10ヵ国以上にのぼっている。被害女性の証言は国際社会でも検証されており、本年7月にジュネーブで開催された国連・自由権規約委員会も、日本政府に対し、「慰安婦」被害の訴えについての捜査と加害者の処罰、完全な被害回復、証拠の開示、教育、公的な謝罪表明と国家責任の認知、被害者の侮辱や事件の否定への非難を勧告している。
同意見書は、河野談話について「その影響ははかり知れず、日本は多くの国益を失うとともに、国民の尊厳は不当に貶められ続けている」としているが、事実は真逆である。
自民党の意見書こそ、アジアをはじめとする諸国民との友好を損ね、日本の国益と国民の尊厳を不当に貶めるものである。「歴史を偽る者に未来はない」ということを自覚し、政府と自民党は、元慰安婦の方々に直ちに謝罪し、賠償などの必要な措置を、誠意を持って実施すべきである。
朝日新聞による記事の取り消しと謝罪を契機に、慰安婦問題を歴史の闇に葬り去ろうという策動も一気に強まっている。極右団体等による朝日新聞に対する誹謗中傷や不買運動にくわえ、元朝日新聞記者である研究者とその所属大学に対する脅迫まがいの行為が続発している。
全労連は、こうした野蛮な行為にも強く反対し、警戒を呼びかける。
安倍政権による集団的自衛権行使容認の閣議決定や強権的な手法に対して、多くの国民から「戦争前夜のようだ」という強い警戒感がひろがっている。「戦争の足音は自由と民主主義の否定とともにやってくる」という歴史の教訓を胸に刻み、歴史を改ざんする誤った動きに強く反対し、国民的な共同で反撃していく決意である。
2014年10月3日
全国労働組合総連合
事務局長 井 上 久
参考:自民党の10月2日付意見書
「慰安婦問題」について適切な対応を求める意見書
朝日新聞が記事を掲載したことに端を発する慰安婦問題は、「慰安婦関係調査結果発表に関する河野内閣官房長官談話(以下、河野談話)」発表以後、日本国内のみならず、国連や米国内においても大々的に喧伝され続けている。その影響ははかり知れず、日本は多くの国益を失うとともに、国民の尊厳は不当に貶められ続けている。
かかる中、河野談話作成時の事務方責任者であった石原信雄元官房副長官の衆議院予算委員会での証言が契機となり、「河野談話作成過程等に関する検討チーム」が設置され、「慰安婦問題をめぐる日韓間のやりとりの経緯(以下、慰安婦問題の経緯)」が公表されるに至った。
さらには、朝日新開は、本問題の根幹をなす慰安婦報道について、根拠とした証言が虚偽であったことを認め、記事の取り消しと謝罪を行った。
以上より、朝日新聞の報道の虚偽と「河野談話」の作成過程に問題のあったことが明らかになった今、日本の国益と国民の名誉を回復するために、以下の項目について可及的速やかに対策を講じるよう強く求める。
- 日本と日本人の尊厳を回復させるべく、これまでに確認された事実や新たに明らかになった研究成果に基づき、未来志向の新たな談話を発表すること
- 「慰安婦問題の経緯」で確認された事実に基づいて、同問題についての正確な理解を促すための広報等の取組を、国内に対して行うこと
- すべての検定教科書において、「慰安婦問題」に関する教科書記述について適切な表現がなされているか、至急厳正なる検証を行うこと
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
平成26年10月2日
自由民主党 提出
衆議院議長 殿
参議院議長 殿
内閣総理大臣 殿
総務大臣 殿
外務大臣 殿
文部科学大臣 殿
内閣官房長官 殿