安倍政権の「働き方改革実現会議」は昨夕、第5回会議を開き、「同一労働同一賃金ガイドライン案」を確認した。今後、「ガイドライン案をもとに、法改正の立案作業を進め、本ガイドライン案については、関係者の意見や改正法案についての国会審議を踏まえて、最終的に確定する」としているが、確認された「ガイドライン案」は、通勤手当や食事手当、時間外労働手当、精皆勤手当、特殊勤務手当、慶弔休暇などは同一・同率の支給を、福利厚生施設などについては同一の利用を求めるなど、一定の改善点はあるが、肝心な部分で同一労働同一賃金の名に値しない極めて不十分な内容に止まっており、容認できない。全労連は、抜本的な見直しを強く求める。
最大の問題は、基本給について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に、職業経験や能力、業績・成果などについて一定の違いがあれば、差をつけることを容認したことである。これでは、個別企業がさまざまな主観的理由を並べ立て、格差を続けることができることは明らかである。実効性が疑われるだけでなく、正規雇用労働者との格差を容認・固定化するものといわなければならない。賞与(一時金)についても、非正規雇用労働者などに支給しないことは問題だとしているが、業績等への貢献に応じて支給することを認めており、同様の批判を免れない。
問題点の第二は、「賃金等の処遇は労使によって決定されることが基本」として、「ガイドライン案」の策定を先行させたことである。今後、法改正の立案作業がすすめられるが、「ガイドライン案」は具体的な事例を紹介し、「問題とならない事例」と「問題となる事例」を例示しているに過ぎない。しかも、肝心の賃金部分では格差を容認・固定化するものとなっているので、必然的に法改正の立案も実効性を伴ったものにはなり得ない。立証責任を会社側に負わせることも見送りの方向と伝えられている。そもそも、日本の正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間には、賃金制度が全く別体系になっていることなど、身分差別ともいうべき大きな格差があるのであり、差別・格差を明確に禁止する強制力のある法改正こそが基礎に置かれるべきである。
問題点の第三は、同一労働同一賃金の目的を正規雇用労働者と非正規労働者の間の問題に限ったことである。欧州では、同一労働同一賃金は男女間の賃金差別を是正する問題として発展してきた歴史を持つ。その意味では、性別や雇用形態をはじめ、すべての差別を禁止するものとして制度化しようとしなかったことが、不十分な「ガイドライン案」に止まった要因といえる。
労働法制の規制緩和のもとで雇用破壊がすすんだ結果、働く人々の賃金水準は下がり続け、今や厚労省も“結婚の壁”と認める年収300万円未満の有業者が6割近くに達している。だから、消費不況が一向に改善されないばかりか、少子化がすすんで人口減少社会に転落するなど、社会の持続可能性が問われる重大な事態になっている。その打開のためには、全国一律最賃制の創設など人間らしく暮らせる賃金の底上げとともに、均等待遇原則にもとづく実効ある同一労働同一賃金制度を実現する必要がある。全労連は、人々の暮らしの改善と日本経済の再生のために、共同を強めながら、政府案の抜本的な見直しを求めて奮闘する決意である。
2016年12月21日
全国労働組合総連合
事務局長 井上 久