2017年2月15日
全国労働組合総連合
事務局次長 橋口紀塩
安倍政権は14日の働き方改革実現会議において、時間外労働の上限についての政府案を示した。36協定により可能となる時間外労働の限度を、月45時間かつ年360時間と法律に明記するとしながらも、別の労使協定を結べば、年間最大720時間・月平均60時間まで上限を引き上げられるとの内容である。繁忙期については、年間720時間を超えないことを前提に、1か月の上限などを別に設けるとしたが、月100時間、2か月平均80時間の案で調整中と報道されている。さらに、研究開発業務、建設事業、自動車運転業務等については適用除外とされる可能性も否定されていない。また、インターバル規制の導入についてはふれられず、長時間労働を促進する裁量労働制の拡大や高度プロフェッショナル制度の創設を撤回する姿勢も示されなかった。
こうした政府案は、過労死根絶を願う労働者、そして家族を過労死で失った遺族の期待を裏切るものと言わざるを得ない。厚生労働省が発表した「過労死等の労災補償状況」によれば、平成27年度(26年度)の時間外労働時間数別にみた労災支給決定件数は、月80〜100時間未満で死亡の案件で49人(26年度は50人)、疾患全体で105人(105人)、時間外60〜80時間未満でも、死亡で4人(10人)、疾患全体で11人(20人)が労災認定されている。特に夜勤交替制労働では、月50数時間の残業でも過労死として裁判でも認められている(2008年10月大阪高裁判決)。月平均60時間では、過労死を防ぐことはできないのである。
政府は、脳・心臓疾患の労災認定基準をクリアすることが大前提とし、発症前1か月の100時間と2〜6か月間の月当たり80時間を「超える」という基準のみを重視している。しかし、認定基準には、1か月100時間等の前に、「発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まる」と書かれている。時間外労働が月45時間を超えることの危険性を、政府は知りながら無視している。人命軽視と言わざるをえない。
全労連は、「健康確保、ワークライフバランス、女性や高齢者の活躍」という政府のあげた観点からしても、週40時間労働の原則の例外として認められる時間外労働は、当面、月45時間かつ年360時間とし、それ以上は認めるべきではないと考える。建設、自動車運転業務等は、事故や過労死が多発しており、適用除外には反対である。裁量労働制の拡大などの規制緩和は、直ちに撤回すべきである。月45時間でも、EU諸国の上限より長い。使用者は緊急事態や繁忙期を理由に、緩い規制を求めているが、他の国でできることが、なぜ、日本ではできないのか。経団連の会長、副会長企業の多くは、過労死ラインをこえる残業協定を結んでいるが、EU域内に展開した事業所では、EU指令を守っているのではないか。なぜ、日本国内の事業所だけ、長時間残業が必要なのか。労働者の命と健康、家庭生活を犠牲にして、企業の都合を優先する発想を変えない経団連に、雇用責任を有するものとしての自覚を促したい。
安倍総理大臣は、「全員の賛同を得て初めて成案として出したい。合意を形成していただかなければ、残念ながらこの法案は出せない」という。長時間労働を残したい財界は、上限規制法案の断念を喜ぶだけであり、この全員一致方式は、労働側にのみ譲歩を迫る、アンフェアな運営である。「労働政策審議会では、これまで決められなかった」などというが、労働側が全員反対しても、使用者側が欲しがる政策は、法案化してきた過去がある。今回は、財界の反対を押し切ってでも、労働者の命と健康を守る規制強化をはかるという、国としての当然の姿勢を示すべきだ
以上