2017年3月31日
全国労働組合総連合
事務局次長 橋口紀塩
本日、参議院で可決・成立した「雇用保険法等の一部を改正する法律案」により、職業安定法の「改正」も行われた。改正の目玉のひとつは、求人広告や求人票に示された業務内容や労働条件が実際と異なる、いわゆる「求人詐欺」問題の解消であった。ところが、改正法は、当初明示された業務内容や労働条件等を「変更する場合」、求職者に対し、「変更する内容等を明示しなければならない」と単純な規定を置き、求人詐欺を合法化しかねない意図とは違う法的効果をうむ恐れがある法律となってしまった。修正をはかるべき法文が、原案のまま制定されたことについて、全労連は遺憾の意を表明する。
労働契約締結をする直前の場面で、従事する業務内容と賃金・労働時間その他の労働条件について、求人者からあらためて説明し、求職者がそれを確認する作業は重要である。しかし、当初示したものを「変更する場合」と法に明記すれば、実態と異なる高い労働条件や人気のある業務で募集を出し、求職者を集め、労働契約締結直前のところで、真実を明かす手法も可能となり、詐欺の意図さえ立証されなければ合法となりかねない。求人情報をチェックし、履歴書を提出し、長い求職活動の末にようやく面接にこぎつけた求職者が、最後の場面で違う話をもちだされたとしても、注ぎこんだ時間や労力等を思い、労働契約を締結してしまうことは想像に難くない。政府は、虚偽求人に罰則をつけたというが、だます意図を自白する求人者・職業紹介事業者などいるはずがない。弱い立場の求職者が告発をすることも難しいため、この罰則規定は効果が乏しい。
この問題について、全労連は法案審議入り前から、議員要請を行い、注意喚起をしてきた。幸い、衆議院での参考人の問題提起から、関心が高まり、多くの質疑がなされた。当初、「労働契約締結5秒前でも変更内容を知らせれば問題ない」といった非常識な考えすらもっていた政府の姿勢が、質疑を通じて常識的な線に引き戻され、(1)当初の労働条件の明示は重要であること、(2)当初の労働条件からの安易な変更は認められないこと、(3)変更がある場合は、求人票の出し直しや求人広告の訂正も考えなければいけないこと、(4)変更の明示は「契約直前」に行われるべきではなく「考える時間」を保障すべきこと、(4)求職者からの質問に答える旨、指針で定めること、(5)新卒者向けに明示した労働条件を変更することは「不適切」であり、その旨「指針」に明記していきたいとしたこと、(6)新卒の場合の労働条件の書面交付のタイミングは「内定時」とすることなど、それなりに踏み込んだ答弁がなされた。
全労連は、これらの答弁をふまえた実効性ある省令・指針の策定を、政府ならびに労働政策審議会に求める。その際、求人広告や求人票に示すべき事項を法令で規定し、当初明示された労働条件については、それを最低限の水準として守るものとすることを求める。
そもそも、今回の職業安定法案改正の背景には、人材ビジネスを、労働市場における「適切かつ円滑なマッチング」の主要な担い手の一つと位置付ける発想がある点に、注意喚起したい。人材ビジネスにとって求人企業や派遣先は「顧客」であり、求職者の権利への配慮は後回しにされる。求人者に対し、立場の弱い求職者(労働者)の権利保障をするには、法規制の強化とあわせて、国の直接的な関与が必要である。全労連は、職業安定行政の職員定数を増やし、公的職業紹介事業が労働力需給調整機能の一番の担い手である状況を確立することを求めるものである。
以上