まもなく2019年度地域別最低賃金額改定を話し合う中央最低賃金審議会(以下、中賃)が、厚生労働大臣から諮問を受け開催される。審議に当たり、政府並びに中央最低賃金審議会に対し、3つの点を要望する。(1)貧困と格差の是正、地域経済の活性化の観点から、最低賃金をまずは時間額1000円以上にし、1500円をめざして計画的に引き上げること。(2)地方経済の再生、公正取引確立の観点から、地域間格差を是正する引き上げを行い、全国一律制への法改正を検討すること。(3)円滑な最低賃金の引き上げへ、必要な中小企業支援策、公正取引の確立、仕事確保対策をとることである。
要望する理由は以下の通りである。
日本の最低賃金は、3つの問題点がある。一つは、それだけでまともな生活ができない程、低額であること。いまの最低賃金は全国加重平均で874円、毎日8時間フルタイムで働いても、月収13万円、年収150万円程度しか得られず、自立して生活することは困難である。生活保護水準との整合性もいまだ不充分である。国際的にも著しく低く、英仏独の時給1100円超の7割程度である。
二つ目には、全国一律ではなく地域別に格差がつけられていること。地域別に格差をつける日本の最低賃金は、地域経済の公平な取引を阻害し、地方経済の疲弊を招く最悪の制度である。一番高い東京と一番低い鹿児島とでは、224円・2割以上もの格差があり、毎年広がっている。同じ労働の価値に格差が付けられている。人口が都市部へと集中し、若い労働者を獲得できず、地方は疲弊の一途をたどる一因となっている。
三つ目には、最低賃金を円滑に引き上げるための中小企業支援策が不十分であること。フランスは社会保険料の事業主負担軽減などで2兆2800億円(03〜05年)、韓国は人件費支援などに9800億円(17年から5年予定)を支給している。日本の執行額は87億円(13年〜15年)と極めて低い。そのうえ、生産性向上が必要条件とされるなど使い勝手が非常に悪いという問題がある。
全労連は、「人間らしく暮らすために必要な生計費」を割り出すために最低生計費試算調査を全国各地で行っている。これまでに19道府県の結果が出ている。その結果、月に22万円〜24万円(税込み)、時間額1400円〜1600円が必要であること。物価は多少違っても、トータルな生活費ベースでは、全国どの地域でも同じ水準の生計費を必要としていることが明らかとなった。日本の最低賃金があまりにも低すぎ、地域別に格差をつけていることに合理性はない。
最低賃金法9条は、最低賃金を決定する3要素として、「地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の支払い能力を考慮して定められなければいけない」と定めている。そして、労働者の生計費を考慮するに当たっては、「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう」と明記している。ところが、人事院の「標準生計費・一人世帯月額11万6930円」(2018年4月)が参考とされている。審議は「賃金実態」や「企業の支払い能力」が優先して考慮され、労働者の生活を底上げする意思が見られない。
最低賃金は、抜本的引き上げで労働者の生活を底上げし、購買力を上げて、地域経済を活性化させる。そのために必要な中小企業支援策を政府の責任で洗い出し、対策を講じる。この方向に経済対策としてもベクトルを変える政治決断が必要である。それが、安定的な日本経済の維持・発展につながると確信する。2000万人に上る非正規雇用労働者など労働者・国民の声を背景に最低賃金を抜本的に改善させる政治的な機運がかつてなく高まっている。労働者・国民の声に応える審議と政府の有効な政策を求める。
2019年6月24日
全国労働組合総連合 事務局長 野村幸裕