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【全労連事務局長談話】パワーハラスメントに関する指針素案の撤回・再検討を求める

2019年10月25日
全労連事務局長 野村幸裕

 改正労働施策総合推進法の施行を控え、労働政策審議会雇用環境・均等分科会においてハラスメント防止に関する省令・指針の審議が行われている。しかし10月21日に示された指針素案は、加害者や企業の論理を優先し、ハラスメント防止、根絶のために役立つものとなるどころか、従来のハラスメントの解釈や裁判例を後退させかねない内容となっている。以下の欠陥をただちに修正し、「被害者をつくらない」職場を実現するためにILO条約・勧告を反映した内容となるよう審議会での改善を求める。

 問題点の第一は、パワーハラスメント(パワハラ)の定義のうち、「優越的な関係を背景とした言動」についてである。指針素案別項で「抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係」との説明が付記され、同僚や部下からの行為も、例示されたが「上司であれば部下に抵抗することはできる」という一般的な「蓋然性」をもって、多くの事例がパワハラとならず、事実上、上司・部下の関係に限定されてしまうおそれがある。ここでいう「優越的」とは、客観的に抵抗しがたい関係に限らず、被害者の主観・感じ方に関する人間関係も含むべきで、「当該言動を受ける労働者が行為者に対して、抵抗しがたく感じている関係性を背景としておこなわれるもの」とすべきである。

 問題点の第二は、パワハラの定義のうち、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」に関するものである。素案では、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」を判断するにあたり、「労働者の行動が問題となる場合は(中略)相対的な関係が重要な要素となる」としている。これでは、労働者の行動の問題性の程度が深刻であれば、それに応じた過剰な叱責がパワハラに該当しないかのような誤解を招く。裁判例では、パワハラを受けた労働者側に相当の問題があった場合でも、パワハラを免罪していない。素案の記述は削除し、労働者に問題行動があったとしても、業務上必要かつ相当な範囲を超えた指導等はパワハラに該当することを明記するべきである。

 問題点の第三は、列挙された「パワハラに該当しない例」が著しく不当なことである。例えば、身体的な攻撃で「誤ってぶつかる、物をぶつけてしまう」場合は該当しないとしているが、この明記は、行為者が「危害を加えるつもりはなかった」等のいいわけで免罪されるとの誤解を誘発する。ひどい暴言について「強く注意する」も被害者の行動と相対的に判断され、指導する側の叱責がエスカレートしてもパワハラに当たらないとの誤解を招く。また、「経営上の理由により、一時的に、能力に見合わない簡易な業務に就かせること」もパワハラに該当しないとされる。これでは企業に横行する降格・配転、「追い出し部屋」などの違法なリストラ手法を正当化するかのように読める。使用者は違法行為について、常に「経営上の理由」をあげることから使用者の責任逃れの弁解を例示することは許されない。ハラスメント行為類型に関しての「該当しない例」は全て削除するべきである。

 問題点の第四は、第三者が加害・被害者となるハラスメントへの対応、SOGIハラなどの対応の記述が極めて不充分なことである。素案では、活生やフリーランスの相談窓口や適切な対応、プライバシー保護や不利益取り扱い禁止などの措置の例示がない。また第三者からのハラスメントに対応する措置もあいまいな記述にとどまる。事業主・労働者の対応として、事実関係の調査、第三者への対応責任を明確にした雇用管理上必要な措置の具体的な記述が必要である。SOGIハラについてもアウティングなどのプライバシー保護措置についての記述は啓発的なものにとどまり、措置としては不十分である。

 今後、労働政策審議会の議論において、職場環境の改善として「労働者のコミュニケーション能力」不足など労働者に責任を押し付けるのではなく「長時間・過密労働の解消」を明記するとともに以上の問題点を修正し、労働者の働く権利を守り、人権保障を最優先し、ハラスメントをなくすための指針が策定されることを求めるものである。

以 上

 
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