2020年4月22日
全国労働組合総連合
事務局長 野村 幸裕
新型コロナウイルスの感染拡大のなか、補償制度が不十分なままで断行された非常事態宣言による自粛によって、雇用が脅かされ、収入が激減した低賃金労働者、非正規雇用労働者のくらしを直撃している。この危機に対し安倍首相は、「国民の暮らしと命を守る」として、「コロナの終焉後はV字回復をすすめる」と強調し、「国民1人一律10万円支給」、納税猶予、貸付などを“緊急経済対策”に盛り込んだ。しかし、仮に“借入”ができても固定費などの負担は減らず、支払期日を先延ばしするだけで、この間に被った損失は補償されない。さらに、コロナ禍が終結しても、消費が倍化する保証は全くない。通常の状態に戻ったところで、この間の「借金」は、その後の経営とくらしを圧迫するだけである。
2019年11月に金融広報中央委員会が発表した「2019年家計の金融行動に関する世論調査」によると、金融資産非保有世帯(貯金ゼロ世帯)の割合は、「単身世帯:38%」、「2人以上世帯:23.6%」と、約3割の世帯に貯蓄がない。コロナ・ショックは、蓄えのない世帯に深刻な影を落としている。その背景には、非正規雇用労働者の拡大、低賃金の蔓延による格差と貧困が進行しているところに困難の根深さがある。
喫緊に求められるのは、感染拡大の防止であり医療や公衆衛生の拡充である。さらにコロナ禍が終結するまでの労働者への賃金・収入の補償であり、中小企業や個人事業主が営業を継続するための固定費の補償であり、社会保険料や消費税などの大胆な減免措置の断行である。これらを、単なる景気対策ではなく、国民の生存権を守る緊急施策として、簡易な手続きで、迅速に、確実に実行することを強く求める。
また、休業補償の上限額が「1日8,330円」は、時給換算で1,041円であり、この額は東京の地域最低賃金102,7%と低すぎる。労働者の多くが、生活の基盤を賃金収入のみに依拠して生活している。最低賃金は、最低賃金法第9条3項にあるように「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する水準が必要だ。
日本商工会議所などが景気低迷のため最低賃金の凍結を求めている。最低賃金を決める要素で重要なのは「労働者の生計費」である。賃金には、憲法、労働基準法、最低賃金法に明記されている「健康で文化的な最低限度の生活」を充たす水準が不可欠である。「賃金支払能力」に傾倒した議論はするべきではない。
中小企業の労働分配率が高く、労働生産性が低いのは、適正な単価による公正取引が行われていないことに主な要因がある。発注企業や元請企業など上部企業による優越的地位の濫用や低単価の押し付けによって中小企業の生産性が低く抑えられ、さらに国民への低賃金の継続により消費意欲や能力が失われていることにデフレから脱却できない要因がある。いまこそ、行政が主導して、大企業と中小企業がともに元気に営業できる姿をめざして、適正価格による公正取引の確立を強くすすめるべきである。
2008年のリーマンショックの際、欧米の各国は、労働者の賃金を引き上げて、内需を拡大して乗り切った。先進国の中で、唯一日本だけが、雇用を崩壊させ、「年越し派遣村」を生み出し、賃金を抑制することで、企業利益を確保して内部留保を拡大した。その結果、国民消費が回復せず、深刻なデフレから抜け出せなくなった。此度の危機を乗り切るために、賃金を抑制するという「誤り」を繰り返してはならない。
最低賃金の凍結や抑制は、経済に対する負の効果しかない。消費を向上させるためには、賃金の底上げが最も効果的である。全労連は、最低賃金制度を全国一律制に転換し、地域間格差を解消し、最低生計費を保証する時給1500円以上に引き上げることを求めている。そのために、社会的合意を拡げ、地方議会での決議を促進し、過半数の自治体での決議をめざす。全国で取り組んでいる最低生計費試算調査をさらに拡げ、あるべき最低生計費の社会的合意づくりをすすめる。行政には、最低賃金引き上げを確実に実施できる太い中小企業支援策の具体化を要求する。中小企業の負担を増やさない具体策を講ずることを強く求める。また、経済活動を抑制する消費税は、直ちに5%以下に引き下げることも強く要求する。
以 上