2020年5月3日
全国労働組合総連合
事務局長 野 村 幸 裕
冒頭、新型コロナウイルスでお亡くなりになられた方にお悔やみ申し上げるとともに、病魔とたたかっている方にお見舞いと激励を申し上げます。さらに医療や公衆衛生の職場で治療や感染防止にあたっている方、介護・保育・教育・学童保育などの現場で奮闘されている方、国民の生活を守るために運輸・建設・販売などの仕事をされている方々に感謝を申し上げます。国民の努力によって一定の抑制はできていますが、まだまだ拡大の危険性はあり、引き続き、感染拡大防止と生活保障の具体的な実施策を政府に求めていきます。
さて、73年前の5月3日、日本国憲法が施行されました。「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」の三原則を謳った憲法により、戦前の天皇制の下で抑圧された国民の権利・生活を脱し、国民は輝く未来への希望のもと戦後の歩みをすすめました。しかし、自民党は常に改憲を主張し、政府は三原則を実施する役割を果たすことを怠ってきました。
安倍政権による「忖度」政治は国民主権を否定する象徴です。国民の権利を抑制し、「トップダウン」こそが政策推進の要という手法は、意見の多様性を前提に、異なる意見の統合によって、物事を決めるという民主主義を根本から否定しています。さらに、国民生活より財界や大富裕層、アメリカ政府の意向を優先する政治は財政民主主義に反するだけでなく、国民主権の意味を理解していない政治の現れです。国民主権は手続き論に留まるものではなく、国民の生活を優先することも含みます。
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、法案に対する反対の行動も制限される中での法案審議は民主主義を否定するものです。この点から新型コロナ対策でも、外交や財界の意向を重視し、「非科学的」「誇大宣伝」と批判されている根幹には、この間の新自由主義に基づく「市場経済万能主義」「自己責任論」「福祉切り捨て」による雇用の流動化や貧困と格差の拡大政策があります。1980年以降の臨調行革路線、当時の経団連が発表した1995年の「新時代の日本的経営」、現在のアベノミクスによって、雇用の流動化や公務公共サービスの外部が進み、労働者・国民より大企業・大資産家やアメリカ政府・財界を重視する政策がすすめられました。その結果、労働分配率は低下し賃金が抑制され、不安定雇用のもとで働かされる非正規雇用労働者が増加し、中小企業の経営継続も困難な状態になり、将来設計ができない状況が拡大していました。そこに感染拡大が拍車をかけ、日本経済が根本から崩されようとしています。
根本的な改革の道は国民主権が発揮される政治・財政への転換です。生活と政治とのかかわりが誰の目にも明らかになった今こそ、国民主権を発揮する大きな機会である選挙権を行使し、安倍政権の流れを押しとどめましょう。
さらに、安倍政権の衣の下からは「緊急事態宣言」を梃子とした改憲策動の推進が見えます。
コロナ対策を口実にした憲法審査会の開催は認められません。今、国会も内閣も、新型コロナウイルスから国民の命と暮らしを守ることにこそ集中すべきです。国民が望んでいない改憲論議は不要不急です。
また、「戦争する国づくり」を推進するためのアメリカからの兵器の爆買いも認められません。この間、グテーレス国連事務総長やローマ教皇が呼びかけているように、ウイルスの猛威は戦争の愚かさを示しました。武器によって命は守られないことをあらためて示しました。「戦争する国づくり」に向けた軍事費増大ではなく、医療・福祉にこそ税金は使われるべきです。
戦争によって国際紛争を解決できなかった20世紀の反省と教訓を踏まえて、21世紀は国際紛争を話し合いで解決する時代です。平和を求める国民世論・国際世論に依拠し、改憲を許さず、憲法9条がいきる、核兵器のない世界の実現に向けて奮闘しましょう。
基本的人権の保障でも自民党の発想は「知らしむべからず、依らしむべし」という戦前のままです。特に安倍首相は行政文書の非公開や記者会見の打ち切り、国家機密法などで国民の知る権利を侵害しています。知る権利は民主主義の前提です。さらに、自治体などによる集会施設の使用拒否、内容や講師を判断材料とする広範な補助金や後援の取りやめなどが続いています。集会・結社自由、表現の自由という19世紀の世界で保障された人権さえも抑制しようとしています。
20世紀に広がった社会権にいたっては、その充実から背を向けています。憲法25条の生存権の保障は、生活保護水準や年金の切り下げ、医療や介護、子育て政策で基準の切り下げ、統廃合の推進、民営化などを進めています。新型コロナウイルス感染が拡大した大きな理由に病院の感染症対策の後退、病院や保健所の統廃合があります。例えば保健所は1997年から減少し、約850か所から500か所以下となっています。特に制定都市と政令市の減少が大きくなっています。政府は国民の健康を守る責任を果たしていません。さらに、労働組合の団結権・団体交渉権を侵害する「成果主義賃金」を拡大し、「個人的労使関係」「個別的労使関係」論が財界を発信元として、政府の中にも広がっています。「金銭による解雇の自由」や「公立学校の教職員に対する1年間の変形労働制」の導入なども労使交渉を否定するものです。高校や大学の授業料の引き上げ、奨学金制度の「金銭貸借化」、突然の学校一斉休校要請のなど学習権も否定しています。なお、憲法の規定として重要なことの一つに財産権に対する制限があります。条文の並び上、社会権のうしろに規定されていること、「公共の福祉に適合する」よう求められていることです。「儲け」よりも人権が優先されるとの思想があります。従って、政府の役割は、安倍首相のいう「世界で一番、企業が活動しやすい国」ではなく、「国民の権利が保障される国」づくりであり、そのための経済格差・権利格差を是正することです。
1215年のマグナカルタ、1689年の権利の章典などから始まる、長いたたかいの歴史で獲得してきた基本的人権は「国民の不断の努力」によって、発展・拡充し、政府に実質的に保障させていきましょう。
今こそ、憲法が活き、私たちが人間らしく働ける社会の実現に向けて、憲法の歴史的意義と現代的役割を確認する時です。今年は、残念ながら、新型コロナウイルス感染拡大により、中央・地方で多くの仲間が集う集会を開催することはできませんが、新しい手法を使って、単産や地域、職場で工夫しながら、憲法を守り、いかそうとの行動を展開しています。
新型コロナウイルス感染が終息したのち、地球環境を守り、ジェンダー平等を実現し、「8時間働けば人間らしく暮らせる」社会へ転換させるため、この間のたたかいの発展を確信し、改憲阻止の運動をひろげるとともに憲法をいかすたたかいを展開しましょう。
以 上