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【談話】「労働者協同組合法案」について
〜衆院厚生労働委員会可決にあたって〜

2020年11月20日
全国労働組合総連合
事務局長 黒澤幸一

 「労働者協同組合法案」が議員立法として国会に提出され、本日、衆議院厚生労働委員会で可決された。労働者が組合員として協同組合に出資をし、それぞれの意見を事業の運営に反映させながら事業に従事する労働者協同組合について、設立、管理その他必要な事項を定め、法的根拠を与えるものである。法案の目的は、「多様な就労の機会を創出することを促進するとともに、当該組織を通じて地域における多様な需要に応じた事業が行われることを促進し、もって持続可能で活力ある地域社会の実現に資する」(1条)とされている。
 労働者自身が、必要性や魅力を感じた事業に出資し、事業運営に発言権をもってかかわりながら、事業に従事することができるという働き方は、労働者の主体性発揮とやりがいの面で望ましいものである。かつ、利益至上主義の事業では顧みられない、地域社会をよくするための事業を起こし、地域社会をより良いものにするという目的も首肯しうるものである。

 ただし、上記と同様の趣旨をうたい、組合員が出資して運営する事業形態は、企業組合やNPO法人という形態で存在しているが、問題が起きている。事業に従事する労働者であっても、出資し事業運営に関与できることから、「労働者性」がはく奪され、「雇用されない働き方」とみなされて、労働者保護法制や労働保険・社会保険の適用から除されてしまうという問題である。労働者保護のかからない働き手は、低コストの労働力となることから、こうした事業形態を悪用するものもおり、裁判も起きている。
 また、悪用とまではいわずとも、出資者たる組合員として平等の議決権・選挙権をもっていても、事業運営のなかでは、執行・管理監督をするものと、指揮命令に従い事業に従事するものという立場の違いが発生する。実態から判断して、労働者性をみとめ、労働者保護をかける必要があるが、裁判例によれば、司法は「組合員が出資し、事業運営に多数決で関与している」形式があれば、指揮監督下の労働と判断しない傾向がある。

 今回の労働者協同組合法案では、こうした問題点を解消するため、「組合は、その行う事業に従事する組合員(中略)との間で、労働契約を締結しなければならない」(第20条第1項)と規定している。事業に従事する組合員には、労働関連法規が全面適用され、労働組合を結成する権利も当然のことながら有することが、法案審議のなかで明確にされた。さらに第1条では、「組合員が事業を行う」との原案を、「意見を反映して事業が行われ」ると修正し、組合員が事業者性を帯びないような配慮もなされている。
 他方、事業との関わりの面では、組合員の議決権と選挙権が出資口数に関わらず平等とされ、組合員間の影響力の格差が生じないよう配慮している。また、事業への意見反映が困難な労働者派遣事業については行うことができないとしている。
 これらの規定により、既存の労働者出資型の事業にみられる「労働者性」問題の解消が目指されている点は、評価できるところである。

 しかし、なお懸念される点はある。競争の激しい分野に参入する場合はもとより、地域に担い手がいない事業にチャレンジする場合も、コスト低減が課題となる。こうした状況のなかで労働者保護をはかるには、「ひとりひとりが経営者」といった、事業に従事する組合員の労働者性を否定するような表現・理念による求人や管理運営はしてはならない、といった規制が必要ではないか。法案には賃金規定がなく、「剰余金の配当は、組合員が組合の事業に従事した程度に応じて行うこと」(第3条第2項5号)とされているが、配当規定で労働者の賃金の適正な水準を確保できるのか。「組合の業務を執行し、理事の職務のみを行う組合員」は労働契約の締結対象から外されており、いわゆる名ばかり管理職が労働者保護から外される問題が生じないか。各組合が加入しうる「連合会」について、会費の上限規制の規定がなく、個々の事業を圧迫しないか、などいくつも懸念がある。
 これらの課題を払拭すべく、同法が施行される前に、国会と労働政策審議会で十分に審議を尽くし、行政による指導・監督が適正に行われうるよう、省令・指針の整備をはかる必要があると考える。

以上

 
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