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【意見】看護師の日雇派遣など医療専門職の労働者派遣規制の緩和に反対する意見

2021年3月8日

厚生労働大臣 田村 憲久 様
厚生労働省職業安定局需給調整事業課 御中

全国労働組合総連合
議長 小畑 雅子
〒113-8462 文京区湯島2-4-4全労連会館4F
TEL03-5842-5611 FAX03-5842-5620

 厚生労働省がまとめた「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(案)」は、従来禁止としてきた@へき地の医療機関への看護師、准看護師、薬剤師、臨床検査技師及び診療放射線技師の労働者派遣と、A社会福祉施設等への看護師の日雇派遣件を、いずれも解禁しようとするものである。全労連は、@Aの施策には反対であり、省令(案)の撤回を求める。理由は以下のとおりである。

 医療は、医師、看護師、検査技師、管理栄養士、理学療法士、薬剤師、医療ソーシャルワーカー等々の多様な医療専門職が連携して患者の治療やケアを行うものである。患者に関する薬剤処方履歴、アレルギーの有無、食事や生活の注意事項、患者や家族からの要望など、様々な情報を正確に申し送りし、チームで共有することが求められる。また、感染予防や耐性菌対策など、個々の医療機関・施設ごとに異なる対処が求められる作業も、全員が熟知している必要がある。こうした連携に齟齬があれば、患者の命にかかわる重大事態となるため、厚労省も提唱している「チーム医療」の要となる看護師等業務は、医療機関等の直接雇用が重視され、長い間、労働者派遣事業の適用対象から原則として外されてきた経緯がある。

 2000年初頭の労働者派遣法の規制緩和の中で、医療・福祉分野における直接雇用原則が崩され、例外的に、医療機関への紹介予定派遣(直接雇用を前提とする派遣)や社会福祉施設への一般労働者派遣が解禁されてきた。しかし、現場では多くの問題が起きている。実際に、派遣労働者として看護師を受け入れたことのある介護事業者たちは、厚生労働省のヒヤリングにおいて、次のような問題を指摘している1
 「派遣事業者はS N Sで募集し、応募があれば面接もせず介護事業所へ紹介することがあり、中には処置(呼吸器の管理、人工肛門の処理、気管切開の対応等)のできない看護師を派遣されたことがある。派遣会社側の応募者の能力把握や派遣事業所での詳細な業務内容の把握などを十分にしていただく必要がある。」、「派遣看護師が時間になっても出勤しない、連絡がつかない等で、業務に支障をきたしても派遣事業者は何の責任も取らない。緊急連絡先へ問い合わせても2〜3日経っても何の連絡も無いといった事例もあり、雇用管理をしっかりしていただく必要がある。」「顧客の視点から見ると、普段から接していない者が要介護者に状況把握不足のままサービスを実施するだけとなるため、要介護者や家族との信頼関係が形成されていない状況で尊厳の尊重をどこまで担保できるのかが課題」。「毎年、派遣看護師の派遣料の値上げを要求される。介護報酬は公定価格であるが、派遣会社を多く利用することになると介護事業者ではなく派遣会社という周辺事業が潤う構造になる。介護報酬の一部は派遣会社へ流れていくことになる。派遣会社の利用を必要最小限とし、いかに直接雇用により看護師を確保していくかが課題」。
 今回、看護師確保の必要性から、省令(案)に賛成の立場をとっている社会福祉施設の事業主たちですら、これだけの重大な問題を訴えている。いかに人手不足だからといって、へき地の医療機関に派遣労働を解禁するなど、ありえない判断である。また、一般労働者派遣において、これだけのトラブルが起きているのだから、日雇派遣ともなれば、さらに派遣会社と労働者との関係は瞬間的なものとなるため、状況はより深刻化することは容易に予想される。看護師の日雇派遣など言語道断の改悪である。上記の引用の末尾にあるとおり、「直接雇用により看護師を確保していく」ことが、あるべき政策なのである。

 以上は、事業主と利用者の立場から、今回の省令(案)に反対する論拠であるが、労働者の視点からしても、今回の規制緩和策には問題が多い。医療の現場は、命がかかわるだけに、ときとして厳しい指揮命令関係が発生する。そうした職場において、雇用者と使用者が分かれる、いわゆる「三面関係」による労働者派遣による働き方は、殊更向いていない。派遣労働者の雇用主である派遣会社にとって、使用者たる医療機関や社会福祉施設は顧客であり、現場でおきる諸問題、例えば長時間労働、未払い残業、パワハラ・セクハラ等について、派遣労働者が苦情を言えば、課題の解決ではなく、派遣契約を打ち切ることでトラブルがなかったことにされてしまうことが通常である。現在の派遣法には雇用安定措置があるが、多くの労働相談事例において、この規定が役立ったことはない。労働組合が団体交渉などしても、派遣先は応じず、職場でおきた課題の当事者ではないため派遣会社には問題解決能力がないため、結局、労働者は泣き寝入りし、使用者は雇用責任回避で終わるのが、現在の労働者派遣事業の実態である。
 厳しさの求められる職場で、労働者が生き生きと働き、チームが有効に機能するためには、指揮命令を受ける立場の労働者の団結権をはじめとする諸権利がしっかりと守られ、現場で起きている問題について正当に意見を主張し、過重労働やハラスメント等があるなら、それをなくして職場を改善していけることが重要である。こうした労働者の立場を支えるのは、安易には解雇されない保障、すなわち直接・無期契約による雇用である。

 看護師等の医療従事者不足への対処は、養成数増と強化、働き続けられる職場環境づくり、潜在看護師等が再び現場に戻って働ける賃金引き上げを含む労働条件の抜本的な改善こそ求められている。へき地の医療機関と社会福祉施設等において、恒常的に看護師の人手不足があるならば、医療機関や社会福祉施設等が直接・無期労働契約と良好な労働条件によって、必要とされる資格保有者を採用するべきである。それができるよう、政府は、財源をあてて医師・看護師等を増やす施策を打ち、さらに公的職業紹介機能をフルに発揮して、募集・採用を公的に支援することが本来なすべきことである。
 状況をむしろ悪化させる、看護師等業務についての労働者派遣の容認、日雇い派遣の解禁はむしろ労働環境・待遇の悪化を招くものである。
 以上の理由で、政府が現在進めている標記の省令(案)に強く反対する。

以上

※2021年3月8日に厚労省に対し提出した意見です。

12020年12月11日開催の第312回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会において行われたヒヤリングにおいて、全国介護事業者協議会が提出した資料による。

 
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