TOP 全労連紹介 ニュース オピニオン 労働法制 賃金闘争 憲法・平和 くらし・社会保障 非正規全国センター 全労連共済 青年 女性 English
 
BACK
TOP
オピニオン
 

【見解】医療提供体制の縮減と医師の長時間労働を容認する
医療法等の一部「改正」法案に反対する

2021年3月24日
全国労働組合総連合
議長 小畑 雅子

「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」が、3月18日から国会で審議されている。同法は「表題に偽りあり」と言わざるを得ない問題のある法案であり、全労連は法案の撤回を求めるものである。

1.医療法の「改正」の主な目的のひとつは、「長時間労働の医師の労働時間短縮及び健康確保のための措置の整備等」とされている。しかし、そのために2024年4月から適用される医師の時間外・休日労働の上限規制(労働基準法第141条に基づく厚生労働省令)には重大な欠陥がある。一般則(A水準)の「月100時間未満、年960時間」でも過労死水準だが、三次救急医療機関、急患の多い二次救急医療機関、在宅医療、高度医療のために必要と認められる医療機関(B水準)や、研修医等(C水準)においては、なんと「年1860時間、月100時間」もの水準を認めるというのである。
 確かに医師の時間外労働は、上位10%が年1904時間という過酷な現状にあり、医師を増やすにしても育成に10年かかるのは事実であろう。しかし、過労死ラインの2倍にあたる非人道的上限を定め、その水準を漸減させるための「医師の増員」計画もない政策など、到底認められない。「医師は、医師である前に一人の人間であり、健康への影響や過労死さえ懸念される現状を変えて、健康で充実して働き続けることのできる社会を目指していくべき」1との観点はどこに消えたのか。また、問題は医師だけにとどまらない。長時間労働により疲弊した医師に、命と健康にかかわる業務をさせることは、患者にとっても危険である。
 現在、医師は増員傾向にあるが、絶対数として足りておらず、「医師の増員」は急務との立場に政府は立つべきである。とりわけ、勤務医は不足している。医師の働き方を他の業種の労働者と同様の水準とする目標をたて、医師増員のペースを速めつつ、異常な長時間労働をなくすための医師労働時間短縮計画を策定するべきである。

2.同法案には、医療関係職種の業務範囲の見直し (診療放射線技師法、臨床検査技師等に関する法律、臨床工学技士法、救急救命士法の「改正」) も盛り込まれ、タスクシフト・シェアを推進し、医師の負担を軽減するとしている。

 しかし、医師以外の各職種においても、繁忙さと長時間労働の実態があり、職場からは改善を求める声があがっている。そこに仕事を押し付けるのでは、医療現場の働き方の解決策にはならない。特に「診療の補助」にかかわっては、医療の質・安全性の確保の上で懸念の声も上がっている。医療従事者全体が繁忙ななかで、タスクシフト・シェアの措置を、安易に行うべきでない。

3.また、法案にある、「地域医療構想の実現に向けた医療機関の取組の支援 」(地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律の「改正」)も大問題である。令和2年度に創設した「病床機能再編支援事業」を、地域医療介護総合確保基金に位置付け、再編を行う医療機関に対する税制優遇措置を講じて病床削減を進めようというのである。削減された病床数で医師や看護師などの配置を決める方針もそのままである。 
2019年9月、全国424カ所もの公立公的病院の病床削減を名指しで進めようとした政府に対し、自治体や地域住民から強い抗議がわきおこった。その後おきたコロナ禍は抗議こそが正解であったことを立証した。感染症対策もふくめ、公立公的病院の大切さが再確認され、病床は削減どころか感染症対応も見込んで拡充し、医師・看護師も増やすことこそが正しい政策との国民的コンセンサスが確立されたのである。こうした場面で、なお病床削減の継続を打ち出すなど、だれのための政府なのか。断じて認められない。

 国民が求める安全・安心の医療体制の実現のためにも、医療従事者全体の健康と生活を守るためにも、今回の医療法等改革法案は廃案の上、医師・看護師を増員し、医療体制を拡充するよう、国の責任と事業の方向を明らかにする法案を出しなおすことを強く求めるものである。

以上

1厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会報告書」2019年3月

 
〒113-8462 東京都文京区湯島2−4−4全労連会館4F TEL(03)5842-5611 FAX(03)5842-5620 Email:webmaster@zenroren.gr.jp

Copyright(c)2006 zenroren. All rights reserved.