2022年1月21日
全国労働組合総連合
事務局長 黒澤幸一
1月19日、経団連は経営側の22春闘の指針となる「2022年版経営労働政策特別委員会報告」(以下、経労委報告)を発表した。
■「総額人件費管理」に固執し「春闘解体」につながる企業間格差を正当化
報告では、自社の支払い能力ありきの「賃金決定の大原則」を堅持するとした。そして、「一律ではなく、個々の企業に適した対応を検討することが現実的」とし、春闘の「横並び賃金引上げ」を否定し、個別企業の「総額人件費」管理徹底を強調している。労働者・国民の生活を顧みず、企業間格差を当然とするなど、公正取引につながる同一産業内における労働条件の平準化にも背を向けている。これはまさに、「春闘解体」を狙っているものであり、企業としての社会的な責任を果たそうとしない姿勢に終始しているといわざるを得ない。
■多様な人材の受入れを名ばかりにしてはいけない
報告では、「多様な人材を企業・組織に受入れ、それらすべての人々が働きがいを感じながらその能力を活き活きと発揮する『ダイバーシティ&インクルージョン』(D&I)の考え方が企業系においてますます重要」と述べ、「女性の活躍推進」「若年者雇用」「高齢者雇用」「障害者の活躍推進」「外国人材の活躍推進」を列挙している。
社会的に注目されているジェンダーギャップの解消について、キャンペーンを通じた役員比率の向上や後継人材を輩出するしくみの強化が不可欠であることは理解するが、その本気度が問われる。企業利益のためでなく、「人権」を守る視点がなければジェンダーギャップの解消にはつながらない。
■日本型雇用システムの見直しも労働者の権利保護への言及がない
日本型雇用システムの見直しが必要とし、自社型雇用システムの確立を推奨している。また、円滑な労働移動の推進が必要とし、採用方法の多様化やエンゲージメントを高める処遇制度なども述べられている。しかし、労働者の主体性を強調しながら、企業による一方的な人事権によって労働者の生活を圧迫し、離職を余儀なくさせている現実から目を背け、労働者の権利保護が欠けている。労働法制に関する主張にも同意することはできない。裁量労働制の適用拡大、ジョブ型雇用の導入・活用、解雇の金銭解決制度など、労働者に自発性を強制する危険な制度であり、規制緩和や制度創設は認められない。
■最低賃金近傍で働く労働者の生活実態をふまえ全国一律1,500円実現を
最低賃金については、2020年度に1円の引き上げで4.7%もの労働者に影響したことを述べ、最低賃金額で働いている労働者が多いことを認めている。その後に述べられていることは、この間の政治主導による引き上げに対する不満を並べているにすぎない。その上で、「制度自体のあり方や地域別最低賃金の決定方法についても見直す時期にきている」とした。そもそもこの背景には、大企業による一方的な下請単価の切り下げや非正規雇用の拡大などが進められてきたことにある。また、最低賃金が生計費と大幅に乖離している実態を省みていない。最低賃金は全国一律、1,500円を早期に実現することこそ求められている。
■内部留保を還元し大企業の社会的責任を果たすよう求める
コロナ禍でも大企業の内部留保は増え続け、「466兆円」に達している。報告では、「コロナ禍における内部留保の意義」を述べ、コロナ禍による悪影響を緩和したと強調する。さらに、「あらゆるリスクを想定して、現金・預金を平時より保有せざるを得ない」と内部留保を正当化している。飽くなき溜め込みが、日本経済を窮地に追い込んでいることへの反省がない。しかし、社会的な批判に一定応えざるを得ない状況に追い込まれている。
全労連は、22国民春闘で大幅な賃金引上げ・底上げ、均等待遇や最低賃金の全国一律1500円などの実現で、格差をなくし、8時間働けば誰もが人間らしくくらせる公正な社会への転換を求める。地域経済の活性化と合わせ、その実現のために、内部留保を還元し大企業の社会的責任を果たすよう強く求める。
以上