2023年4月7日
全国労働組合総連合(全労連)
事務局長 黒澤 幸一
4月6日、第11回目安制度の在り方に関する全員協議会(以下「目安全協」という)と中央最低賃金審議会が開催され、「中央最低賃金審議会目安制度の在り方に関する全員協議会報告(以下「報告」という)」を発表した。異常な物価高騰のなかで、全国各地の最低賃金近傍で働く労働者から「これでは暮らしていけない」という悲鳴があがり、先進国が最低賃金の大幅引き上げをおこなうなか、目安全協の審議がおこなわれ、日本の最低賃金制度がどう変わるか注目されていた。
「報告」は、1978年以来続いてきた現在の4ランクを3ランクにすることを打ち出した。3ランクへの移行は、特にCDランクの地域での引き上げを積み重ねてきた成果であり、運動の反映である。しかし、「地域の実情に沿った最低賃金額の改定を望む地方最低賃金審議会の意向を反映できること」と「制度としての継続性・安定性の観点を踏まえ」、「ランク制度を維持することは妥当」として、暮らしていけない低い額をどう引き上げるのか、世界でも多数の全国一律最低賃金制へは踏みこまなかった。
6年前の「目安全協報告(2017年3月)」では、「意見があった」と片付けられた「最低賃金のあるべき水準」や「地域間格差の拡大抑制」が、今回議論されたことはこの間の運動の反映として評価できる。しかし、その結論は、「3要素のデータに基づく議論が重要」とするにとどまり、最低賃金額がまともに生活できる水準にあるのか、地域間格差をどう解消していくかなどの政策抜きで、データを機械的に目安に反映させることが「目安額の納得感を高める」と結論付けられたことは看過できない。最低賃金法の「賃金の低廉な労働者の生活の安定を図る」という目的が脇におかれ、企業の支払い能力を前提とする議論が終始なされたことが透ける。労働者の声を政策として最低賃金制度に反映させることを避ける議論は、国民生活を守る政府の責任、公労使三者による審議会の役割を果たしていないと言わざるを得ない。加えて、最低賃金法が、そうしたことを放置することを許すものだとすれば、もう変えなければいけないと考える。
全労連がこれまで主張してきたように、現行法のランク制による地域別最低賃金である限り、最低賃金の低い地域は、その現状の支払い能力や経済状況が勘案されて決められるため、低いままに決定される構造的な問題をもっている。また、高い地域が低い地域を考慮することで、引き上げを抑制する要因ともなっている。「報告」は、「下位ランクの目安額が上位ランクを上回ることは理論上あり得る」としているが、中央最低賃金審議会が決定した目安額において下位ランクが上位ランクを上回ったことはなかった。そのために、いまだ加重平均で時給1000円すら実現されていない。最低賃金の地域間格差は、労働者の賃金格差となり生活保護、年金、公務員賃金、保険料に至るまで様々な制度の格差となり悪影響を与えているのが実態である。「報告」は、こうした問題に切り込まず、最低賃金近傍で働く労働者の声にこたえるものになっていない、つけ焼刃的な対応と言わざるを得ない。
「報告」は、「議論の透明性の確保と率直な意見交換を阻害しないという2つの観点を踏まえ、公労使三者が集まって議論を行う部分については、公開する」と、これまで全面非公開であったものを一部公開するとした。これは、全労連をはじめとする公開を求める多くの労働者、国民の声にこたえたものであり、一歩前進である。引き続き、地方の審議も含め、全面公開を求めていく。
次回の目安全協は2028年の5年後とされたが、到底待てない。政府には「異次元の少子化対策」を言うのであれば、手当政策の羅列ではなく、最低賃金を全国一律に改めて、生活できる水準に抜本的に引き上げることを最優先で実施することを求める。全労連は、最低賃金法の改正による全国一律制度の実施、時間給1500円への抜本的な引き上げを求めて運動を強める決意である。
以 上