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【談話】地方最低賃金審議会の2024年度改定答申を受けて

2024年9月4日
全国労働組合総連合
事務局長 黒澤 幸一

 8月29日、すべての都道府県で2024年度の最低賃金の引き上げ額の答申(以下、「答申」)が出そろいました。47都道府県で、50円〜84円の引き上げです。引き上げ額が84円は1県、59円2県、58円1県、57円1県、56円3県、55円7県、54円3県、53円1県、52円2県、51円6県、50円20都道府県となりました。答申どおりならば、加重平均は1,055円(前年比+51円、+5.1%)、1,000円以上が16都道府県(34%)、900円台が31県となります。
 過去最高も生活改善実感できず、地域別最賃の矛盾
 今回の額、率ともに過去最高となる引き上げは、あまりにも低い最低賃金の改善を求める労働者の声と運動によって導き出されたものです。しかし、もともと低額なうえ、なんとか物価高騰分を補う水準が確保されたものの生活改善が実感できる引き上げとはなっていません。また、オーストラリア2,395円、イギリス2,214円など確実な引き上げを続ける世界水準にはまったく届かないものです(2024年8月平均の為替レートで換算)。お隣の韓国は1,108円 (2025年1月から)となり、上回っているのは東京、神奈川、大阪のみです。
 中央最低賃金審議会(以下、中賃)は過去最高の目安50円を答申しましたが、27県(57.4%)の地方最低賃金審議会(以下、地賃)が目安を上回る答申を示しました。Cランクのすべての地賃をはじめ6割近い地賃が目安を上回る答申を出したことは、地域間格差解消を求める私たちの運動と最低賃金近傍で働く労働者の怒りのあらわれです。2023年度も24県(51.1%)と半数を超えており、地域別最低賃金の矛盾があきらかになっていることを厚生労働省、中賃は直視し、地域間格差解消の唯一の方法である全国一律制度への制度変更に着手することを求めます。
 徳島84円増、生活と経済から導く画期と地方の反乱
 目安を上回る答申の内訳は、目安を34円上回った徳島県をはじめ、9円2県、8円1県、7円1県、6円3県、4円3県、3円1県、2円2県、1円6県です。特に、二番目に低かった徳島県が84円(9.4ポイント)引き上げたことは、「大幅な引き上げは可能である」ということを示しました。その特徴は、「支払い能力」「目安」から検討するのではなく、「徳島の生計費と経済は中位より上が必要」と生活や経済に必要な最低賃金額を決めて、必要な対策をおこなうことに考え方を変えていることにあります。目安にしばられた議論や「最下位」にならないようにとの議論が散見される中、あるべき地域最低賃金の水準を議論して導き出したことは注目に値するものです。他の地賃でも、目安額50円の制約があるなかで、労働者の生計費が一定議論になり、マスコミでも労働者の生計費に焦点をあてた取材・報道がおこなわれことは歓迎すべきことです。
 地賃での議論の経過から言えることは、地域別最低賃金であるがゆえに、低額のままに置かれる地域の労働者の怒りと、地域経済の格差、とりわけ人手不足がもたらす弊害から地方を守るための地方の反乱と言えます。しかし、現行制度の地域別最低賃金である限り、必ず「最下位」の地方が出てしまいます。「最下位」にならない、近隣地域よりも1円でも高ければ良いかのような、本質議論から外れる「調整」「対応」はなくならず、大幅な引き上げを阻んでいます。これは、構造的な問題で、地域別最低賃金である限り解消することはできません。あるべき最低賃金の水準論議をすすめるうえでも、まず、全国一律制度に変えることが必要なことが明らかになりました。
 また、最高額の東京(1,163円)と最低額の県(951円)との額差は212円で、比率は81.8%(昨年度は220円80.2%)と若干縮まりました。格差解消と経済の偏在の解消を求める声によって、是正が意識されたことは評価できますが、それでもフルタイム換算(年1,800時間)で年収38万円超の差になります。全労連の最低生計費試算調査で「生計費には都市と地方で差がないこと」「月額25万円・時間額1,500円(月150時間)以上必要」なことは明らかです。特に、急激な物価高騰の中で「時給1,700円」が必要という試算結果がだされ、街角でのアンケートでは「2000円は必要」との声が多数出されています。今、こうした試算結果や声をもとに、地賃に対し再審議を求める申し立てが全国で展開されています。
 地賃の「原則公開」「意見陳述」「中小企業支援」で前進
 地賃運営では昨年「原則公開」が広がりましたが、実質的な審議は三者の場ではほとんどおこなわれず、非公開の二者協議が横行しています。「原則公開」は、民主主義の前提として全面公開を求めてきた私たちの運動が反映し、審議会(専門部会)の公開、意見陳述や傍聴枠の拡大など民主的運営につながるものです。実質審議も含めた全面公開へさらなる改善を求めます。
 さらに、地賃答申では、政府に中小企業支援を求める付帯決議が昨年にも増して出されていることも特徴です。京都地賃が「中小企業・小規模事業者を対象とした消費税の減免措置や社会保険料の事業主負担分の免除・軽減等、賃上げの原資の確保につながる直接的な支援策を行政として実施するよう、政府に対し強く要望」しているのをはじめ、多くの地賃で業務改善助成金の要件緩和や「賃上げを直接的に支援する新たな支援制度の創設等」、賃上げ分を含む価格転嫁について国が特に大企業に対する監督・指導を徹底すること、「年収の壁」を意識せず働くことができるよう税控除や社会保険料制度の見直し等を要望しています。これは、私たちの主張が反映されたものです。全労連は、中小企業への抜本的支援策を要求するとともに、「年収の壁問題」はジェンダー差別の解消や自立できる賃金の実現の観点での制度設計と対策を求めるものです。
 自治体や行政が地元経済を守るため、引き上げを求めるのは当然
 昨年に引き続き、徳島、佐賀、岩手、福井県などで知事クラスが労働局要請や意見書提出、意見陳述をおこなっているのも特徴です。自治体や行政が、自らの地域の労働者と経済を守るために意見し、最低賃金の改善を求めていることは当然のことです。私たちが主張してきた最低賃金の地域間格差による人口流失・地域経済の疲弊打開のために最低賃金の格差を解消すること、同時に、大幅引き上げをすることが必要だということが地方政治の焦点となっています。徳島県では、知事が100円以上あげて最低賃金1,050円程度を目指す要請をおこなうとともに、「目安を大幅に上回る引き上げとなった場合には、大きな影響を受けることになる中小企業・小規模事業者を支援する、積極的な経済対策を行う」ことを表明しています。「目安」や「支払い能力」を忖度した低額答申ではなく、まずは、あるべき水準を示したうえで、最低賃金額を大幅に引き上げ、同時に、賃上げに必要な中小企業・小規模事業者支援が実践されようとしています。「大幅引き上げ」による失業や倒産などが頻発することはないし、させないという行政、議会の姿勢と努力が経済を活性化させ、経営改善を促すことになると考えます。今後の徳島県行政、議会の動向に注目していきます。
 全国一律制度への転換の決断を求める
 地域間格差解消を求める労働者の声と署名や自治体決議などの運動の広がりで、目安を上回る地域最低賃金引き上げの流れが加速し、地方政治の焦点になりつつあります。そのなかで、地域別最低賃金であることの矛盾と破綻が明らかになっています。私たちは、政府に対し、全国一律制の最低賃金制度へ転換することへの決断を求めます。また、速やかに地域間格差の解消とただちに1,500円以上にすることを求め、奮闘する決意です。

以上

 
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