2024年12月27日
全国労働組合総連合
事務局長 黒澤 幸一
12月26日、労働政策審議会は厚生労働大臣に対し「女性活躍の更なる推進及び職場におけるハラスメント防止対策の強化について」を建議した。基本的人権を定めた憲法に基づき、性別にかかわらずすべての労働者がやりがいを持ち安心して働ける社会をつくることは国の責任であり、政府・厚生労働省はこうした建議がおこなわれたことを重く受け止めるべきである。一方、建議の内容は一定評価できる部分もあるものの、女性の活躍やハラスメントの根絶をすすめるうえでは不十分な点も多い。
女性活躍推進法(以下、女活法)を10年延長し実効性の向上をはかるとして、男女賃金格差の情報公表について対象企業の規模を拡大することや、新たに管理職比率の公表を義務化するとしているが、その対象は101人以上の企業に限られている。日本企業の99.7%を中小企業が占めているうえ、従業者の構成比で女性が4割以上を占める卸小売業、生活関連サービス業、医療・福祉などは100人未満の企業規模が多いことをふまえれば、すべての企業を情報公開の対象とし、実効性を担保すべきである。加えて、情報公表必須項目について「情報公表しなければならない項目の総数が現在よりも増加する」として項目数を維持するとしているが、それでは企業にとって都合の悪い数字は公表せずともよいことになり、男女格差を生んでいる根本的な問題を明らかにすることができず、実効性に欠けると言わざるを得ない。女活法が施行されて10年経過する間にも日本のジェンダーギャップ指数が下がり続けてきたことなどをふまえれば、延長する向こう10年で男女格差をはじめとしたさまざまな問題を解消するという強い決意と有効な方策を示すべきである。
ハラスメント防止対策は、カスタマーハラスメント・就活ハラスメント対策の強化などの前進面はあるものの、全体として不十分だと言わざるを得ない。世界的にみれば、暴力とハラスメントのない仕事の世界に対する全ての者の権利を尊重、促進、実現することを求めるILO第190号条約が2021年6月に採択され、フランス、ドイツ、カナダ、オーストラリアなど46の国が批准している。この間の議論では、ILO第190号条約の批准に向けて検討や法整備が必要という意見も出されていたが、今回の建議では「ILO総会において『仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃』に関する条約(第190号)が採択されるなど、国際的にも対策の進展がみられる」と傍観的で、ハラスメント防止に対する姿勢が問われるものとなっている。また、具体的な防止対策について「社会における規範意識の醸成に国がとりくむ旨の規定を、法律に設けることが適当」「女性活躍推進法の基本方針に定めるべき事項としてハラスメント対策を法律上も明確に位置づけた上で、基本方針に明記することが適当」と、ハラスメント解消に向けた姿勢だけを示し具体的な方策を明確にしていない。
全労連は、性別や性自認にかかわらず、すべての労働者が働き続けられる職場環境を整えること、すべてのハラスメントと暴力を禁止する罰則付きの禁止法を制定すること、個人通報できる独立した人権機関の設立などを求め、25国民春闘でジェンダー平等推進、ハラスメントの禁止法制定、ILO第190号条約の批准を求めるキャンペーンに取り組む。今回の建議を受け、厚生労働省において法案作成作業が進められることになるが、建議の内容からさらに踏み込んだ実効性ある法案とするよう強く求めるとともに、今後の法案審議にあたっては労働者の置かれている実態をふまえた議論を求める。
以上