2025年1月10日
全国労働組合総連合
事務局長 黒澤幸一
●憲法の趣旨に逸脱する議論であり抗議する
2025年1月8日、労働基準関係法制研究会(厚生労働省、以下、研究会)は報告書をまとめ公表した。労働基準関係法制の喫緊課題と「働き方改革関連法」施行後の関係制度見直しが目的とされたが、まとめられた内容は、低賃金・長時間労働などの劣悪な労働環境の改善要求には何ら応えず、財界が要求する法規制の適用除外(デロゲーション)を容易にすることで労働基準法を骨抜き・解体するものとなっている。労働者の健康さえ確保できれば、職場ごとに労基法の最低規制を下回る協定も合法化するもので、これでは労働者を守ることはできない。経団連の「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」(2024年1月16日発表)を強く意識し、財界が思い描く働かせ方を具体化しただけである。
法によらず労使で決められるとするならば「勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」とした憲法27条の趣旨を逸脱するものであり、労働基準法第1条(労働条件の原則)の2項に定める「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。」に反するもので強く抗議する。
●適用除外の容易化は、長時間労働を増長する
報告書は、財界が持ち出した「デロゲーション」という言葉を「法定基準の調整・代替」とより理解しにくい言葉にすり替え、労基法骨抜き・解体を誤魔化そうとしている。個別企業での労使コミュニケーション(労働者代表との話し合い・意見聴取など)だけで適用除外を可能とするために、過半数代表制度の整備、労働組合の活性化が記載されたが、不当労働行為を行う使用者の罰則規定や労組に対する支援について一切記載がないなど、形ばかりで実効性がない内容である。全労連を含む労働者の代表を交えて検討するべきである。
適用除外が容易化されれば、労働時間規制(1日8時間労働等)・時間外・休日労働時間の上限規制(月45時間等)は絵に描いた餅となり、ますます職場には長時間労働が蔓延し過労死や休職・退職者が増えることになる。また、36協定などの労使協定は原則事業場単位としながら本社一括も許容するとしているが、職場労働組合の排除・弱体化、協定の届出を受理・監督する労働基準監督署や監督官の削減にも繋がる。労働時間短縮にあたって反映すべきは職場すなわち事業場単位の実態・意見であり、事業場単位を継続するべきである。
時間外・休日労働時間の上限規制について「社会的合意を得ていない」として、規制強化については議論もせずに避けた。また、テレワークのみなし労働時間制など長時間労働を増長する制度は進める一方で、規制強化となる勤務間インターバル制度は緩和を主張する委員の意見を取り入れようとしており不満である。
●割増賃金制度の廃止は断固として反対
副業・兼業の割増賃金の廃止は、使用者の言い分だけが議論され、報告書に記載された。割増賃金制度そのものについては中長期的に検討していく必要があるとされたが、割増賃金制度廃止の方向で議論を進めるのではないかという疑念が生じる内容となっている。長時間労働を抑制し、使用者へのペナルティとなる割増賃金制度の廃止は断固として反対である。
●労働基準法の解体・規制緩和でなく、規制強化、厳格な遵守を求める
今後は、労働政策審議会で議論されるもの、引き続き研究されるものに分かれるが、どちらも、労働者の実態を正しく把握しないまま、財界の思惑通りに議論されることを我々は許さない。
労働者は、労働基準法の解体・規制緩和ではなく、規制強化、厳格な遵守を求めている。
全労連は労基法解体の動きに全力で反対し、長時間労働の根絶、1日7時間労働の実現、だれもが働き続きられる社会をめざして奮闘する決意である。
以上