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全労連第25回定期大会 2010年7月21日〜7月23日

議案提案

【第1号議案】
 2010〜2011年度 運動方針(案)

第1章 激動の時代、全労連運動の役割

1、21世紀初頭は歴史的変化の時期にある

 08年9月のアメリカ発の金融危機とそれに続く経済危機は、マネーゲームに狂奔するカジノ資本主義やアメリカ主導のグローバル経済の害悪を世界的に明らかにし、市場原理主義にかわる経済社会への模索を強めることとなった。
 日本国内でも、アメリカ主導のグローバル経済に強固に組み込まれ、外需依存の経済構造を強め、一部製造業の国際競争力強化を最大目的にした「構造改革」の失敗がより鮮明となり、内需中心の経済社会への転換を求める世論と運動が高まった。
 根拠を示せないイラク戦争にも象徴される一国覇権主義を批判し、貧困の深刻化を告発し続けた草の根からの運動が、アメリカでのオバマ大統領の誕生や日本での09年夏の総選挙での政権交代を作り出した。そのことが国民のなかに広く認識され始めた。

2、世界が激動している

 「資本主義の勝利」が宣言されて戦後「福祉国家」の解体が進み、多国籍企業の発言力が増し続けた90年代以降の政治、社会システムの行きづまりが明らかになり、新たな社会、世界をめざす動きが、この2年間で急速に強まってきた。
 先進国には、経済危機の影響が色濃く残り、財政危機による信用不安の広がりが現実味を帯びている。そのもとで、一部の先進国が政治や経済を牛耳っていた「G8」の時代は過去のものとなり、世界は多極化の「G20」の時代に移ろうとしている。
 核抑止力を中心とする「パワーバランス」論は、核廃絶を望む世論の高まりのなか、体制維持の費用の膨大さへの批判もあって、見直しを余儀なくされ始めている。
 世界的には、企業活動の自由を保障することで「富の最適配分」が実現するという市場万能論は急激にその力を失い、「良質な雇用」の確保や内需喚起による循環型の経済がめざされ始めている。
 大量生産、大量消費の産業構造によって地球環境が破壊され続けることへの危機感が共有され、持続可能な経済社会を求める運動も急速に高まってきた。

3、政治の激動が続いている

 政権交代で誕生した民主党中心の鳩山内閣は、旧態依然とした「カネと政治」疑惑と沖縄・普天間基地無条件撤去を求める沖縄県民の「声」に耳を傾けない政策決定への批判などの前に、9カ月で退陣に追い込まれた。
 選挙も経ずに毎年のように内閣が交代する大本には、大企業中心、対米従属の政治と国民要求との矛盾がある。
 雇用の安定と社会保障の整備・充実による国民生活の安定か、それとも破綻が明らかな市場万能主義を継続するのか、いずれを重視するのかが政治の争点となっている。その点での明確な政策判断をさけて、大企業国際競争力中心の成長戦略に固執した施策しか打ち出せないことが、内閣の支持率低下につながった。日米安保条約に固執して対米従属の政治、軍事、経済体制を転換できないことが、国民との矛盾を深め、政権の行きづまりにつながった。

4、社会的責任を発揮する労働者・国民との連帯が求められる

 この大会からの2年間は、「構造改革」との決別を迫る労働者・国民と、「構造改革」の継続を主張する財界などとの激しいたたかいの時期となる。したがって本大会では、そのたたかいを攻勢的に展開するために、雇用の安定と社会保障拡充による「福祉国家」の確立をめざす運動の意思統一を深める。
 その運動は、日本の政治、経済、社会の全般にわたって日本国憲法が生きる社会をめざすとした全労連綱領の具体化の方向でもある。08年7月の第23回大会では、全労連20年を振り返り、「全労連の存在と役割が輝きを増す情勢」と強調した。これまでの2年間のたたかいと現時点の情勢は、全労連の存在と役割に確信を深めあい、「労働組合の社会的役割」発揮の立場で奮闘が必要なことを明らかにした。その立場でのたたかいが、全労連の組織的前進の力となる。

第2章 2年間の運動の教訓

1、多くの教訓が生まれた「派遣切り」・「非正規切り」とのたたかい

(1)第23回大会直後の08年9月、アメリカの証券会社リーマン・ブラザーズの経営破綻を契機に、世界中で金融危機が発生した。金融危機は実体経済にも影響し、「100年に一度」と言われるほど急激で深刻な経済危機に世界中が巻き込まれた。その影響は、09年の世界の経済成長が前年比でマイナス0.8%を記録するほど大規模なものであった。
 日本は、経済危機の影響をもっとも強く受けた国の一つとなった。輸出は08年10〜12月期にマイナス14.5%もの減少となり、GDPも年率換算でマイナス10.1%と縮小した。その原因は、自動車、電機などの製造業大企業を頂点にした外需依存型の経済構造にあった 。そのような経済構造が、「構造改革」の名で強制的に形作られたことにあるとの認識が共有され、「構造改革」からの転換が政治課題と争点になった。

(2)自動車などの需要が急減すると同時に、日本の製造業大企業は「生産調整」を目的とする「派遣切り」、「非正規切り」を行った。このことからも、1999年の労働者派遣法改悪などの労働法制改悪が、安価な労働力確保と同時に、需給変動にともなう生産の調整弁に非正規労働者を位置づけるものであることがはっきりした。また、「出かせぎ派遣」、「寮付き雇用」が増加していたことが職と同時に住まいを失う労働者を多発させ、「衣食住」すら保障されない雇用の広がりを可視化した。
 このような事態に対し、08年末に東京都心の日比谷公園で、労働組合、市民団体が共同した「年越し派遣村」を取り組み、その後、全国的な取り組みに発展させた。
 また、「非正規切り」にあった労働者が労働組合に結集してたたかいに立ち上がり、そのたたかいを単産・地方組織が支え、雇用確保や労働者派遣法改正の動きなどの成果に結びつけてきた。
 これらの取り組みで、大企業の横暴への社会的批判を高め、失業時の「セーフティネット」の整備を政府に迫る運動を広げた。
 大企業の儲けの自由を優先した労働法制改悪の修正を求める共同行動が前進し、労働者派遣法改正や雇用保険法改正、失業困窮者支援策などの制度検討などを行わせ、09年末の「公設派遣村」をはじめ、当面の生活困窮者対策を政府に取り組ませることとなった。
 これらの取り組みは、労働運動、とりわけ全労連と各単産、地方組織の評価を高めた。

2、経済危機も口実に人件費削減攻撃を激化させた財界・大企業

(1)日本経団連は08年12月、「労使一丸で難局を乗り越え、さらなる飛躍に挑戦」とする副題を付した経営労働政策委員会報告を公表した。経済危機を労使協調で乗り切ることを呼びかけ、非正規切りと正規労働者の賃金抑制の姿勢を露骨に示した。そして、連合と日本経団連は、09年1月15日に、「雇用安定・創出に向けた労使共同宣言」を締結し、非正規切りを進めるもとでの「賃金より雇用」の姿勢を露骨に示した。さらに09年春闘回答時期の直前、3月3日に再度同様の宣言を締結し、雇用調整助成金や雇用保険改正など「日本型ワークシェアリング」の実施を共同で政府に申し入れた。
 このような「宣言」が09年春闘での個別企業の労使交渉に否定的影響を与え、3月18日の電機、自動車などJC関連産別が賃金体系維持分のみのベアゼロ回答となった。加えて、一時金大幅削減での妥結となり、電機は、回答直後に定期昇給凍結を経営側が申し入れるという異例の事態となった。このような大企業での賃金抑制が公務員賃金にも影響し、09年4月に人事院が一時金の暫定調査を行い、8月勧告を待たずに一時金削減を前倒しで実施するという異例の事態が起きた。

(2)定期昇給に踏み込む賃金抑制と一時金カット、所定外労働の減少などが重なって、09年の労働者の賃金(毎月勤労統計調査による月平均賃金)は、前年比マイナス3.9%と1991年以降で最大の減少となった。同調査では、98年以降05年、06年を除き対前年比で平均賃金がマイナスとなる状態が続いている。
 国税庁の民間給与実態統計調査でも、労働者の平均年収は、98年の465万円から08年の430万円に低下している。
 このような賃下げ傾向に、政権交代という政治状況の変化もチャンスに、歯止めをかけることを目標に2010年春闘をたたかった。しかし、10年1月19日の日本経団連・経営労働政策委員会報告は、「賃金より雇用」の姿勢をさらに強調し、定期昇給凍結の「実質賃下げ」の姿勢まで示した。また、政治的な課題となっていた最低賃金引き上げについて「雇用への悪影響」を口実に反対姿勢を強めた。連合は、09年春闘とは異なり、統一的なベースアップを見送り、定期昇給、賃金カーブ維持をめざすことを当初から明確にした。
 この結果、2010年春闘結果は、ベアゼロ・定昇のみが相場となる不満な状況で推移した。

(3)全労連、国民春闘共闘委員会に結集する単産・単組はベア要求を掲げてたたかいを集中させ、経営難に陥っている中小零細企業での組織が多いなかで、09年春闘でも2010年春闘でも、連合など他団体の到達点を上回る賃金回答を引き出している。そのような奮闘はあるものの、経済危機下で自らが作り出した雇用不安を梃子に賃金抑制攻撃を強めている財界・大企業の攻撃に歯止めをかける状況を作り出すまでには至っていない。
 また、財界・大企業は、労働者派遣法改正に徹底して反対するなど、雇用の安定にも消極的な姿勢を示し続けている。
 雇用闘争と賃金闘争の一体的な展開は、財界・大企業の攻撃の状況からしても避けがたいことが明らかとなった。

3、国民のたたかいが反映した09年8月の総選挙

(1)09年8月に行われた総選挙では、民主党が308議席を獲得し、119議席に激減した自民党から政権が交代した。07年7月の参議院選挙や09年7月の東京都議会選挙などに続く政治的変化であり、1955年以来続いた自民党中心の政治体制にピリオドを打つこととなった。
 民主党が総選挙で掲げたマニフェストは、「コンクリートではなく人間を大事にする政治」を強調し、後期高齢者医療制度廃止や子ども手当新設などの政策実施が公約されていた。これらのなかには、後期高齢者医療制度廃止のように、全労連などがねばり強く主張し、国民的な共同で取り組んできた課題もある。「非正規切り」とのたたかいや国民共同の運動が政権交代に反映した。

(2)政権交代は、さまざまな運動分野にも大きな影響を及ぼした。沖縄・普天間基地撤去の課題では、10年4月25日に党派を越えた実行委員会が主催する県民集会が沖縄・読谷村で開催された。国の基本問題で、中央の政治的力関係を反映せず、住民要求の一致点での集会が開催されたことにも政権交代が影響している。
 医療、福祉、教育、農業などの分野での具体的な要求課題では、これまで保守的と見られていた団体などと全労連の単産、地方組織との共同が前進し始めている。
 1,047名のJR採用差別事件で、政府が解決案を提示して政治的解決がはかられようとしていることや、郵政民営化の一部修正と非正規労働者「10万人の正社員化」の動き、水俣病訴訟や障害者自立支援法訴訟での裁判和解の進展なども政治の変化が影響している。
 千葉県野田市で全国初の公契約条例が09年9月に制定され、全国的にも波及し、地域での広範な団体の共同が前進し始めている。
 これらの変化を好機に、要求前進をめざす立場での共同がさまざまな分野で追求されている。

(3)10年参議院選挙で「民主党の勝利に向けて取り組む」と方針決定している連合は、政権党支持母体としての姿勢を強めている。そのこともあって、全労連などとの共同には否定的な姿勢もうかがえ、労働分野に限れば、政治の変化の影響は限定的である。
 労働者派遣法改正をめぐって、一部の労働組合からは「雇用への悪影響」論が主張されるなどの事態が起きた。また、同法改正法案の閣議決定に対して、公労使構成の労働政策審議会から遺憾の意が表明された。
 緊急雇用対策の策定を目的に政府が設置した政労使三者構成の雇用戦略対話では、新しい公共や自己責任型の職業訓練、多様な働き方などが強調され、最低賃金引き上げを10年先までの課題とし、均等待遇、非正規雇用の縮減には消極的な論議を行っている。
 企業の国際競争力強化が雇用の安定や労働者の処遇改善につながるという「トリクルダウン」論に固執した「新成長戦略」を民主党政権が決定したことも、これらの事態が反映している。
 大企業中心社会のもとで繰り返される思想攻撃への反撃が、軽視できない課題であることを改めて確認できる経緯である。

4、「核兵器のない世界」をめざす動きなどが国内の運動に影響

(1)09年5月にはイギリスがイラクから撤退を開始し、アメリカが10年8月までに全戦闘部隊をイラクから撤収するとしている。石油利権を獲得しようとして開始されたイラク戦争は、膨大な戦費を使ったにもかかわらずその目論見は貫徹されず、中東の安定にも寄与しなかった。
 膨大な軍事費が支出される一方で貧困が広がる状況から、「軍事費を削って雇用確保、福祉充実を」の要求運動が世界的にも活発化している。国内でも、これまでの国民大運動実行委員会などの取り組みもあり、政府の懇談会(新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会)が米軍再編経費の縮減見直しを論議する状況となってきた。
 また、過大な負担となっている普天間基地の無条件撤去を求める沖縄県民、国民の世論が沸騰し、名護市・辺野古沖での基地建設に再度合意した鳩山首相を辞任に追い込む大きな力となり、日米安保条約の是非を問う世論も高まりつつある。
 安保改定50年の年の急激な変化ではある。この変化には、安保破棄や米軍基地撤去を求め続けてきた国民の長年の運動が反映している。

(2)09年4月、アメリカ・オバマ大統領がチェコ・プラハで行った「核兵器のない世界をめざす」との演説は、長年の核兵器廃絶を求める取り組みを励ますものとなった。また、08年夏から開始していた10年NPT再検討会議に向けた「核兵器のない世界へ」署名の取り組みを前進させた。
 10年5月のニューヨーク行動には、全労連傘下の組合員が500名を超えて参加し、署名も120万筆以上を集約した。この行動は、国連やNPT再検討会議にも影響し、核兵器廃絶の「明確な約束」や中東非核地帯化に向けた会議の2012年開催が確認されるなど、前進的な成果に結びついた。
 核兵器をめぐる情勢が動き始めたもとで日本政府は、従来から指摘されていた米軍艦船が核搭載のまま日本に寄港することを認める内容の「密約」調査を行った。しかし調査結果は、「密約」の存在を否定するという歴史の改ざんとなった。この結果の背景には、核の傘論、核抑止力論に固執する日本政府の姿勢があり、NPT再検討会議での日本政府の対応にも少なからず影響した。
 核兵器のない世界の早期実現を求める国民世論と政治のズレは政権交代後も拡大している。それだけに草の根から取り組みの継続、強化が求められている。

5、「非正規切り」とのたたかいも反映した組織拡大

(1)09年11月の全労連結成20周年を過去最高の峰(組織人員)で迎えることを目標に組織運動を進めたが、残念ながら全労連全体の漸減状況には歯止めがかからなかった。
 そのようななかでも、08年秋から09年秋の間、民間単産を中心に、組織人員を増加させた単産が8組織あり、地方組織でも重点とした「5,000人未満組織」を含む25組織で増加させている。このうち地域のローカルユニオンは、09年6月時点で41都道府県・135ユニオン、1万355人へと急増した。また、公務でもかつてない拡大数となっているが、退職者を上回るまでには至らず純増とならなかった単産もある。
 「一人ぼっちの労働者をなくそう」を合言葉に、単産・地方組織ともに重視した取り組みを進めている個人加盟の労働組合は、08年末からの非正規切りの嵐のなかでその存在が注目された。
 なお、08年秋に非正規センターを立ち上げたことや、組織拡大のための特別な財政的措置を講じたことが、全国的な取り組みを展開する上での効果を発揮した。

(2)労働相談は08年秋以降の雇用悪化のもとで急増し、組織化の重要なツールになった。組織拡大推進費も活用して、労働相談体制の維持・強化とオルグ養成を進めていることとも合致した。
 非正規労働者が労働者の3分の1にまで達し、非正規労働者を「雇用の調整弁」として恥じない企業経営がまかり通っている現状からしても、また相談件数が引き続く高い水準にあることからしても、未組織労働者の組織化に重要な役割を発揮している労働相談での単産と地方組織の連携強化が重要になっている。
 「非正規切り」にあった労働者のなかには青年労働者も多く、先述したような新卒者の就職難にも見られるように、経済危機とその後の影響を強く受けているのが青年労働者であることも明白になった。
 このようなこともあり、08年秋以降、ローカルユニオンをはじめとした一人加盟の労働組合への青年労働者の積極的な加入が続いた。たたかいの先頭に青年労働者が立つ場面も増えてきた。青年労働者の主体的な運動の高まりのなかで、10年5月に東京で開催された「全国青年大集会2010」には全県から5,200名が参加して成功するという到達点を築いた。

(3)懸案であった全労連共済は、09年7月の第24回臨時大会で規約、諸規程を整備し、10年2月1日に発足させた。構造改革のもとで、自主共済への攻撃が強められる周辺状況下ではあったが、ナショナルセンターが助け合い事業を直接実施し始めたことの意義は大きい。

第3章 労働者をとりまく情勢の特徴

1、労働者・国民の貧困の可視化で運動課題がより明確に

(1)97年を転機に、労働者の賃金総額が低下し続けている。その要因は、非正規労働者増によるワーキングプア層の増加と正規労働者の一時金を中心とする年収低下にある。
 97年から07年の間のGDPの伸び率が、日本は0.4%にとどまっている。カナダ(73.7%)、アメリカ(69.0%)、イギリス(68.5%)は増加していることと対照的である。それらの国々は、労働者の賃金が引き上げられている。
 このことからしても、労働者の賃上げを中心においた安定的な内需の存在が経済成長の要であることが実証できる。

(2)資本金10億円以上の企業だけを取り出してみても、大企業の内部留保は98年度の143兆円から08年度には241兆円へと約100兆円増加している。
 大企業ほど非正規労働者雇用割合が高い一方で労働分配率は低く、人件費削減効果も輸出増による収益増も企業内に留める傾向が経済危機以降も強まっている。
 大企業は、同時期に株主配当や国内外での資本投資を増加させており、世界規模でのマネーゲームの一翼を担い、金融危機の原因を自ら作り出したことは明らかである。そのような大企業の身勝手な経済行動に対する規制強化を迫る動きは、G20や国連などの場でも繰り返し論議される状況となってきた。
 これらのことからして、大企業の民主的規制や内部留保の社会的還元を求めるとともに、富が集中する仕組みとなっている税、社会保障、公正取引、労働者保護などでの規制強化の取り組みの重視が求められる。

(3)行きすぎた外需依存の経済構造や大企業への富の偏在が、労働者、国民の貧困化を招き、中小零細企業の存続を危うくし、地域経済を疲弊させる元凶となっている。「デフレ不況」と言われるような悪循環が生じているいま、内需拡大運動の強化が求められている。
 リーマンショック以降、日本政府は、08年10月に中小企業対策などを柱とする事業規模26.9兆円の「経済対策」を講じ、09年度予算での住宅ローン減税や定額給付金などの「内需拡大」効果をねらう予算を編成し、新年度早々の4月には事業規模24.4兆円で、エコカー減税などを柱とする緊急経済対策を決定した。
 このような政府の対応にもかかわらず、輸出頼みで製造業大企業を中心に企業収益は改善したものの個人消費を中心とする内需は低迷し、雇用も回復せず、非正規雇用増と「就職氷河期」状態の深刻化など雇用状況は改善しなかった。
 6月初旬に韓国で開催されたG20の首脳会議では、各国に内需中心の経済回復を強く求める共同宣言が採択された。また、最低賃金の引き上げや職業訓練の強化・充実、雇用拡大のための経済対策実施などは先進国が共通して取り組んでいることも明らかになっている。
 財界・大企業は、国際競争力強化を口実に、法人税率引き下げと消費税増税をセットで政府に迫り、政府もこれに応える姿勢を示し始めている。
 それだけに、大企業優遇税制の是正や社会保障での先進国並みの負担を企業に求め、不要な軍事費削減などによって財源を確保し、それを医療、福祉、教育、公的就労などの整備・拡充にまわすよう政府に迫るたたかいの重要性が増している。
 富の再配分機能を強化して貧困を解消し、格差を是正する国民的な運動が求められている。

(4)08年秋以降の不況下で、企業は、それまでの不況下と同様の残業規制や休業などの対応に加え非正規労働者の雇止めを従来以上に実施した。
 2000年代初めの小泉「構造改革」のもとで、社会保険料引き上げ、医療費本人負担増、税制改悪による庶民増税などが行われ、低所得者に重い負担を強いることとなった。また、労働者保護の規制緩和や雇用保険法の改悪で、失業時の「セーフティネット」が切り刻まれた。その結果、失業手当受給率が23%に低下し、退職者や失業者が加入者の過半を超えた国民健康保険の納付率は08年度に88%にまで低下し、国民年金の納付率は64%と無年金者の大量発生が懸念される状況となった。
 また、非正規労働者の増加に比例して相対貧困率が上昇し07年には15.7%となり、格差を示すジニ係数も世代を問わず上昇している。
 リーマンショック以降、このような深刻な状況が社会問題であるとの認識が共有され、財界系の民間シンクタンクからも、良質な雇用の実現が経済成長にとっても有効であることを主張する報告書も出始めた。
 政府も各種の審議会、研究会などを設けて、雇用政策見直しなどに着手しているが、労働者派遣法「改正」法案にも見られるように、労働者保護強化を明確に意図した政策転換には至っておらず、経済成長偏重の政策への回帰策動も強まっている。
 期限の定めのない安定した雇用を拡大して非正規労働者を減らし、最低賃金引き上げや均等待遇実現による良質な雇用を確保し、失業時の「セーフティネット」再生をはかることなどは、国民的な運動課題であり、たたかいの集中が求められる段階にある。

(5)全教・日高教などの調査では、10年3月時点で、新規高卒者の就職内定率は90.2%に低下し、不況の影響が新卒者に及んでいることを明らかにした。文部科学省の調査(10年2月1日)でも、大学・80.0%(対前年マイナス6.3?)、短期大学・67.3%(同・8.5?)などとなっている。11年度の企業の採用計画も好転しておらず、世界同時不況後、企業が生産・営業拠点のアジア移転を強めていることも考慮すれば、国内の労働市場の縮小さえ懸念される。
 政府が6月に閣議決定した「新成長戦略」では、環境・エネルギー、健康(医療・介護)、観光・地域(農業)などでの雇用拡大を位置づけている。しかし、それらを裏づける具体策には乏しい。公務員人件費2割カットとかかわって11年度の国家公務員採用数の大幅削減を打ち出すなど、公的分野での雇用維持にも否定的である。
 農林漁業を産業に位置づけた取り組み、中小零細企業の育成による地域経済再生の取り組み、公契約条例制定の運動などの地域運動が活性化している。雇用確保のためにも、これらの運動との連携を強めることが求められている。

(6)現状は、生活保護給付の制限が厳しく受給率がきわめて低い。政府の推計でも、働いても生活保護基準以下の所得しかない世帯が389万世帯(就労世帯の10.4%)にのぼることが明らかにされた。
 「派遣村」などの取り組みを通じても、職を失った際の生活の困窮や路上生活の深刻さ、「貧困ビジネス」の広がりなどが明らかにされ、社会問題化している。社会保障の弱い日本では、失業はきわめて深刻な問題であり、雇用量の拡大を求める運動の緊急性は高い。
 この間、緊急雇用対策などの具体化が進み始め、生活困窮者対策のネットワーク作りや「再び派遣村をつくらない」との運動なども前進し始めている。
 失業時の「セーフティネット」の綻びと、生活保護における制度と運用体制の貧弱さに目を向けた取り組みが引き続き求められている。

2、広がる大企業の横暴規制を求める運動

(1)09年12月、トヨタは、エコカー減税効果などで生産回復が顕著であるにもかかわらず、部品の調達価格3割カットを関連企業に通知した。このように、優越的な取引関係に立つ大企業は下請け単価引き下げなどで中小零細企業いじめをさらに強めている。
 また、アジアに生産・販売拠点を移し国内での整理・統合を進めるために、工場閉鎖などで雇用を破壊し、地域の中小企業を倒産に追い込んでいる。
 2000年代に入って、中小零細企業・事業者の廃業が開業を2?以上上回る状況が続き、01年から06年の間に82万社減少している。その上に、08年秋以降の不況が直撃し、経営基盤がいっそう脆弱になり、経営危機に陥った中小企業は少なくない。
 雇用調整助成金の活用や金融支援策などはとられているが不十分であり、下請け2法の厳格な活用や税制、補助金を含む支援策を求める運動が高まっている。また、自治体での中小企業振興条例制定の動きや国レベルでの中小企業憲章作りも進んできた。
 雇用の維持・確保や最低賃金引き上げの労働者要求とも結んで、中小企業などとの共同の追求が求められている。

(2)政府はこの間、ASEAN諸国との包括的なEPA、FTA協定を結び、各国と順次個別協定化を進めている。この流れは民主党政権になっても変わらない。さらに、オーストラリア、インドとのEPA協定協議、アメリカとのFTA協議が進められている。
 これらのEPA、FTA協定は、自動車、電気製品などの輸出条件整備を求める多国籍大企業の要望を強く反映しており、農産物自由化という地域経済破壊の内容を含んでいる。
 同時に、官公需での随意契約の排除、競争入札への移行は、財政上のコストカットを求める世論への迎合とともに、WTO協定履行とも関連している。競争入札の行き過ぎが、官公需でのダンピング競争の原因となり、公契約法・条例制定のひとつの制約ともなっている。
 また、日本国内での労働力不足を口実にした外国人労働者受け入れ問題も、貿易自由化のもとで加速する状況にある。
 産業基盤維持の観点からも、農業団体などとも共同した貿易自由化反対の運動は、労働者の重要な運動課題となっている。

3、急がれる「小さな政府」作りに反対するたたかい

(1)政府は、地域主権改革推進一括法案が廃案となったにもかかわらず、「地域主権戦略大綱」を10年6月22日に閣議決定した。
 その内容は、保育所や児童養護施設などの最低基準の廃止、地方議会の議員定数の上限撤廃など国による義務づけ見直しと条例制定権拡大、国の出先機関の原則廃止などが柱となっている。この施策の推進に、都道府県知事会などが主導的な役割を果たしていることが、これまでとは異なる。
 地方主権改革は、道州制導入を求め続ける財界の主張と同様に、国の役割重点化を前提に、自治体への国の責任押しつけと、地域間格差を拡大・放置する方向に向いている。そのような改革を与野党が競う状況にある点が他の課題とは異なる。
 医療、福祉、教育や公衆衛生などを、自治体だけで安定的に実施することの困難さは、口蹄疫問題でも明らかになってきている。地域主権改革の名による国の責任範囲の縮小と制度的後退、「小さな政府」作りに反対するたたかいの強化が求められている。

(2)市場化テストや指定管理者制度の活用、独立行政法人化、保育、福祉などへの営利企業の参入などが進行し、雇用破壊と官製ワーキングプアが深刻な問題になってきている。
 自公政権下では、「天下り問題」是正を口実に、国が委託実施している業務での競争入札が迫られ、法務省や国土交通省の出先機関などで深刻な雇用問題が発生した。民主党政権は、この流れを引き継ぐとともに、「事業仕分け」による業務廃止や民間移譲施策をより強めている。
 そのようななかで、09年12月に社会保険庁解体・日本年金機構発足にともなって500人を超える分限解雇者が発生した。また、独立行政法人雇用・能力開発機構廃止、移譲の際に雇用・労働条件の承継を否定する法案化作業が進められるなど、国による雇用破壊が進行し始めている。
 千葉県柏市の外国語指導助手(ALT)雇止め問題に見られるように、公務における派遣労働者の安易な活用が雇用問題の原因となるなど、定員や予算の制約などの公務の特殊性を考慮しないことの弊害が表面化し始めてきた。
 官製ワーキングプアの解消を求める共同行動も前進し始めており、公的分野における雇用、労働条件維持の取り組み強化が求められている。

4、財政問題も口実に強まる社会保障改悪と広がる反撃のたたかい

 連続的な社会保障改悪への怒りが政権交代の一因となったにもかかわらず、民主党政権は社会保障費総額抑制から個別制度改悪に切り替え、後期高齢者医療制度廃止を先送りし、年金改革でも消費税増税との一体処理の姿勢を強めている。
 後期高齢者医療制度については、単なる廃止ではなく制度存続の上で対象年齢を引き下げることも検討課題となっており、民主党のマニフェスト破りの象徴ともなっている。健保、共済など被用者保険への負担の押しつけ、建設国保への言われなき攻撃にも見られるように、民主党政権で、医療保険改悪の動きが一段と強まっている。
 先にも触れている貧困の進行ともかかわって、医療費窓口負担の無料化や医療保険料引き下げは労働者、国民課題となっている。また、地域医療をはじめとする医療体制の拡充ともかかわって、診療報酬引き上げや公的医療機関拡充の要求、運動も高まっている。
 生活保護の母子加算の復活や障害者自立支援法廃止に向けた当事者参加の検討協議会の設置、失業した生活困窮者の社会保険料免除など、たたかいを反映した変化も生まれている。また、介護現場の処遇改善や体制整備、保険料減免の拡充要求での共同も前進している。
 一方で、これら社会保障拡充の要求と運動を抑圧する目的で、国債などの累積による財政悪化が強調され、消費税率引き上げの動きが具体化してきている。
 社会保障課題を財源問題に矮小化させないためにも、応能負担原則による保険料負担を求め、社会保障と税負担をあわせた日本企業の負担率の低さの是正を迫る取り組みが求められている。

5、国際機関が相次いで指摘する日本社会の異常さ

 08年4月に、全教の申し立てに応え、教員の地位に関する勧告にもとづくILO・ユネスコの合同専門委員会(CEART)調査団が訪日し、同年12月に、指導力不足教員制度や業績評価制度も含めた「交渉・協議」の整備を求める中間報告を行った。この内容は、公務員労働者の労働基本権にかかわるILOの勧告とも通底しており、教育公務員も含めた労働基本権回復を改めて求めるものとなった。その公務員の労働基本権問題についてILOは、10年6月に6度目となる是正勧告を行い、制度の早期改革を求めた。
 日本の障害者政策がILO159号条約に違反するとして福祉保育労が申し立てていた案件で、08年3月にILOは、障害者自立支援法での応益負担に疑問を呈するとともに、障害者の労働者性にかんする状況について条約勧告適用専門家委員会で引き続く監視と検討を行うとする見解を示した。このことともかかわって、07年9月に署名したままになっている国連の障害者権利条約批准に向け、障害者や難病患者の労働権などの検討が進められている。
 09年8月には、国連・女性差別撤廃委員会(CEDAW)が第6回の日本審査の所見を発表した。婚姻年齢や再婚禁止期間、夫婦別姓などの民法改正や、雇用における女性差別、賃金差別の是正、男女共同参画社会の実現などを強く求めた。しかし、民法改正法案の国会提出が難航していることに見られるように国内での所見への反発は強く、対応は遅々として進んでいない。
 これらの国際機関からの指摘には、日本政府が国内事情を口実に対応を行っていないことへの苛立ちが含まれていることは見過ごせない。
 国際基準への適合を求める運動の強化は、労働運動の責務ともなってきた。

第4章 2年間の運動の基本方向

1、大企業中心の社会・経済からの転換を求め、共同の発展をめざす

 次の2年間の全労連運動では、貧困の深刻化、格差の拡大など労働者・国民を苦しめている大企業中心の社会、経済の仕組みの転換を求めるたたかいの強化が中心課題である。
 そのたたかいを進める上で、大企業に対する労働組合、諸団体との共同の発展が求められる。すべての運動課題で、労働組合や市民団体、中小零細企業や事業者団体などとの広範な共同の具体化を重視する。また、地域経済活性化などによる雇用の安定、確保などをめざす地域運動を重視する。
 すべての組織段階で、たたかいに参加する組合員の量を増し学習活動などを強める。

2、2年間の運動で雇用と社会保障による「福祉国家」をめざす

(1)第24回臨時大会で提起した「安定した良質な雇用を求める運動(雇用闘争)」を本格化する。
 人間らしく働くルールの整備、実現をめざす運動を社会的に展開し、大企業中心社会からの転換を求める共同を通年的に追求する。

(2)「安定した良質な雇用を求める運動(雇用闘争)」の目標は、(1)期間の定めのない雇用と生計費原則に則った賃金の実現、(2)長時間・過密労働からの解放、均等待遇の実現などによる「雇用の質」の向上、(3)失業手当や職業訓練などの失業時の「セーフティネット」の整備・拡充、(4)医療、福祉、年金、教育、住宅などの生活基盤整備、の4点を中心課題とする。
 この4点の運動を総合的に展開し、雇用と社会保障を柱とする「福祉国家」をめざす運動の発展を追求する。なお、雇用闘争を進める上で、ジェンダー差別解消の取り組みとの連携を重視する。
 また、労働者性が否定されることで、労働者保護の制度から排除され、労働基本権が否定される「労働者」が多数存在し増加していることをふまえて、取り組みを同時に進める。

(3)当面、次の課題を重点に運動を進める。
 労働者派遣法改正運動を継続するとともに、細切れ雇用や契約期間満了による雇止め・解雇を規制するなどの有期雇用制度とパート労働法の改正の取り組みを強め、期間の定めない雇用と均等待遇の実現をめざす。男女共同参画社会実現に向け、労働組合としての取り組みを強める。
 全国一律最低賃金・時給1,000円以上の実現、生活保護以下で働く労働者をなくす最低賃金法改正、勤務と勤務の間の時間確保の法定化や連続勤務時間の上限規制、超勤・深夜労働の規制強化などによる長時間過密労働の是正に向けた労働基準法改正運動を進める。
 労働協約締結の取り組みを強化し、企業内最低賃金の確立、所定外労働時間規制の強化や休暇の計画的取得など労働時間短縮の具体的成果を勝ち取る統一闘争を強める。
 失業手当給付期間の延長などの雇用保険制度改正と、職業訓練充実や生活資金給付など失業時の「セーフティネット」再生に向けた取り組みを進める。
 公契約法・条例制定運動を継続・強化し、政府主導での安定・良質雇用の創出を迫る。
 すべての労働者の「働く権利」確立をめざす。「労働者性」判定とかかわる裁判闘争を全体の課題として位置づけ、これまでの到達点の後退を許さないたたかいを進める。公務員の労働基本権回復をめざす。
 未批准の中核的労働条約(105号・強制労働、111号・差別禁止条約)や労働時間関連の条約、公契約条約などの批准運動の具体化を進める。

(4)非正規労働者が急増したもとでの雇用政策など補強の観点で、全労連の基本政策文書である「21世紀初頭の目標と展望」の改訂作業を進める。
 この作業の進ちょくとあわせ、10年秋以降、地方段階での連鎖的な「討論学習会」運動に取り組む。「目標と展望」の全国的な討議を進めながら、運動具体化の調整をはかる。
 連鎖集会を取りまとめ、「21世紀初頭の目標と展望」改訂の最終的な討議を行い、雇用闘争強化の意思統一のための大規模な全国集会(1,000人目標)を11年秋に開催する。

3、消費税率引き上げ反対、社会保障拡充を求める国民運動の前進をめざす

(1)大企業・大金持ちに応分の負担を求め、憲法第25条実現での国の責任を問う国民的運動として社会保障拡充に取り組む。社会保障基本法制定をめざす共同の取り組みを進める。

(2)大企業・大金持ち優遇税制の実態と消費税の格差拡大効果などの宣伝行動を強め、逆進性の強い消費税率引き上げ反対の国民運動を組織する。
 聖域扱いとなっている軍事費の削減を、納税者としての権利である「税の使いみち監視」の立場からも強化する。軍事費の使途を明らかにし、告発するキャンペーン運動を検討する。
 これらの取り組みを進めるために、国民大運動実行委員会の機能と運動の強化を働きかける。

4、大企業中心社会からの転換を求める労働組合・諸団体との共同前進をめざす

(1)大企業の内部留保蓄積とその構造を追及し、社会、国民への還元を求める運動での共同の前進を追求する。
 「はきだせ大企業の内部留保」キャンペーンの通年的な展開、中小零細企業やその団体、農民団体や市民団体と共同した「下請けいじめ」告発シンポなどの開催をめざす。

(2)大企業の経済活動ともかかわって、2020年までに1990年比で25%の地球温暖化ガス排出量削減目標を定めた地球温暖化対策基本法の不履行を許さない取り組みに結集する。
 安全性が確認されていない原子力発電に安易に依存した対策ではなく、企業責任の履行や経済活動見直しによる具体化を求めて運動を進める。
 不必要な深夜業務の規制強化に取り組む。

(3)多国籍大企業の横暴規制の世界的取り組みに連帯し、企業の活動監視と実態調査などでの他国労組との共同を強める。

5、核兵器廃絶、安保条約破棄、在日米軍基地撤去を求める運動の前進をめざす

(1)NPT再検討会議の到達点もふまえ、「核兵器のない世界」をめざす日本国内での運動強化と、労働組合間での国内外の共同を強める。
 「核の傘」論、「核抑止力」論にも依拠した核兵器廃絶を究極の課題とする主張への反論を強める。

(2)日米の「核密約」廃棄を求める国内での取り組み、核兵器即時全面禁止・非核地帯宣言への賛同アピールの他国労働組合への呼びかけなどに取り組む。

(3)普天間基地の無条件撤去、辺野古沖、徳之島での基地建設反対をはじめ、在日米軍基地・施設撤去、基地機能の分散・拡充反対の運動への結集を強める。
 こうした取り組みを日米安保条約廃棄の運動と結合して進める。

6、雇用闘争と組織拡大運動の一体的展開で中期目標の達成をめざす

(1)10年度は組織拡大中期計画(5カ年計画)の最終年となることもふまえ、単産と地方組織の連携・協力を強め、その目標達成に総力をあげる。
 とりわけ、雇用闘争の強化と一体で、非正規、青年、中小未組織労働者などを焦点にした組織拡大運動の前進をめざす。

(2)11年秋の雇用闘争での大規模集会とあわせ、中期計画の総括と次の計画作りの全国的な論議を行い組織運動の活性化をめざす。
 第25回大会で全労連・教育学習要綱を確認し、その具体化を順次進める。

(3)全労連共済の加入促進による助け合い基盤の拡充をはかり、組織拡大運動と結んだ制度改善や運営の見直しを進め、全労連事業としての定着をはかる。

第5章 重点課題の取り組み

1、解雇、失業に反対し、雇用の安定と質の向上をめざす取り組み

(1)労働者派遣法抜本改正、有期雇用規制強化、男女賃金差別是正、均等待遇実現をめざす制度改善に取り組む。
 取り組みを進める上で、非正規労働者の組織化、実態と要求の可視化を重視する。日本郵政での非正規労働者10万人正社員化を求める運動をはじめ、正規雇用の拡大に向けた取り組みを強める。
 非正規センターの活動を強め、「非正規労働者集会」の全県的な開催などに取り組む。
 定期的(例えば毎月1回)に「ディーセント・ワークデー」を設定し、宣伝行動、組織化オルグ、相談行動(街頭を含む)、集会・学習会(労働法講座など)などの具体化に取り組む。
 「目標と展望」の改定もふまえた「ディーセント・ワーク実現署名(仮称)」を11年秋以降に具体化する。

(2)失業時の「セーフティネット」再生の取り組みとかかわって、失業者の組織化、反失業・職よこせ運動の具体化をめざす。
 要求政策作りを進め、政府交渉を強める。必要に応じて、署名やハローワーク前アンケート活動などに取り組む。
 「派遣村」などの取り組みを教訓に、失業者・生活困窮者支援の「ネットワーク」作りや「何でも労働相談センター(仮称)」に取り組む。

(3)雇用拡大のためにも労働時間短縮の取り組みを強める。
 労働時間短縮に向けた課題(勤務と勤務の間の時間確保、日・週・月・年単位の残業上限規制、休暇計画取得など)の整理の上に、制度改善運動、各組織での協約締結闘争の強化に取り組む。
 家族的責任を負う労働者の労働時間短縮、休暇・休業制度の整備などに取り組む。
 「いの健センター」との連携を強化し、労働環境の改善、メンタルヘルス・パワハラ問題など労働安全衛生課題の取り組みを進める。じん肺、アスベスト被害の解決を求めるたたかいへの支援を強める。

(4)公務員労働者の労働基本権確立をはじめ、「労働権」確立に向けた取り組みを強める。
 個人請負への労働法制適用や派遣労働から請負への安易な切り替え監視などに取り組む。
 リストラ「合理化」による権利侵害を許さず、NTT11万人リストラ闘争、国鉄闘争の全面解決、社会保険庁の分限解雇撤回闘争などすべての争議の勝利解決をめざす。
 労働委員会民主化の取り組みを強める。また、最低賃金審議会をはじめとする「三者構成審議会」での労働者代表の公正任命を求めて取り組む。

(5)障害者、難病患者など就労上のハンディを背負う労働者の働き続ける権利の実現をめざす。働く権利を保障する障害者雇用政策の確立などの要求政策確立と実現に向けた運動を進める。

(6)公務関連職場での安定した良質な雇用実現の課題としても公契約条例制定運動を強める。
 全労連としての「公契約法案」、「公契約条例案」も確認して、その実現をめざす対政府・自治体への取り組みを進める。
 地域主権改革のもとでさらに強まる公的分野でのリストラ「合理化」や雇用破壊に反対する取り組みを強める。

(7)中小零細企業・事業者の経営を守り、健全な発展をめざす取り組みに共同する。
 大企業による一方的な下請け単価引き下げなどの下請けいじめや仕事の取り上げなどを許さないたたかいを強める。
 中小企業憲章や中小企業振興条例などの制定をめざす取り組みへの支援・共同を強める。

(8)医療・介護分野をはじめとする外国人労働者受け入れも含むEPA、FTA協定の締結・実行に反対する共同の取り組みを強める。
 とりわけ、アメリカとのFTA締結やオーストラリアとのEPA締結に反対する取り組みを重視し、農民連などとの連携を強める。
 外国人労働者の雇用の安定、権利擁護の取り組みを強化する。

2、生計費原則の賃金・所得の確保をめざす取り組み

(1)「賃金・所得の底上げこそ内需拡大、景気回復の鍵」の主体的運動と、社会的合意作りのキャンペーン運動を強める。
 職場、産別、地域が力をあわせて賃金改善をめざす春闘統一闘争を強める。
 2010年春闘での「経済活性化ポスター」も教訓に、全国的な宣伝の工夫と取り組みの集中など統一闘争としての前進をめざす。
 大企業の内部留保の社会的還元を求める全国的な取り組みを追求する
 最低生計費調査も活用し、めざす賃金・所得について、要求政策の整理・取りまとめを単産の協力も得て検討を進める。
 成果主義賃金や能力給の導入、強化に反対して取り組みを進める。

(2)「全国一律最低賃金・時給1,000円実現の運動」をより強め、11年の通常国会に焦点をおいた具体化をはかる。
 最低賃金引き上げの取り組みとも関連させ、中小企業への助成金実現や下請け2法の厳正執行による大企業の下請けいじめ防止の取り組みなどを労働組合の課題としても進める。また、農産物の価格保障、農家への補償実現の運動と最低賃金闘争との連携を重視する。
 宣伝、署名を中心とするキャンペーン運動、賛同アピール運動などを具体化する。

(3)均等待遇の実現とかかわって、同一労働同一賃金原則を確立する制度実現に取り組む。
 男女や雇用形態などによる賃金格差の解消をめざす取り組みの単産での強化を呼びかける。

(4)賃金闘争における要求組織、要求書提出、ストライキなど実力行使を背景にした回答引き出しなどでの統一行動を強め、回答水準の引き上げをめざす。
 要求組織では、あらためて要求アンケート活動を位置づけ、取り組みを強める。

(5)税、社会保障の負担軽減と給付の改善による可処分所得引き上げをめざす「所得改善運動」を諸団体とも共同して具体化する。

3、社会保障の拡充、消費税引き上げ反対など国民課題の取り組み

(1)社会保障闘争、増税反対闘争を賃金・所得確保のたたかいと両輪に据えて取り組む。社会保障、教育などでの「国の責任」追及を徹底する。
 後期高齢者医療制度の即時廃止、医療費本人負担無料化や高すぎる保険料の引き下げ、地域における医療・介護体制の整備などの個別要求課題での運動強化をはかる。
 最低保障年金制度の確立、無年金者・低額年金者の解消など年金制度の抜本改善運動を進める。
 待機児童解消など公的保育の充実と教育負担無償化を求める運動を強める。
 老齢加算廃止にかかわる生存権裁判支援や、生活保護給付抑制の行政運用の是正を求める取り組みを強める。

(2)消費税率引き上げに反対し、大企業優遇税制の是正を求める運動を国民的な運動として進める。
 「構造改革」のもとで水平配分原則に切り替えられた税制の垂直配分原則への回帰を求め、大企業、大金持ち優遇税制の廃止やキャピタルゲイン課税強化の税制改革などの積極要求を対置した運動を展開する。
 生活費非課税の原則に立ち、低所得者の税負担軽減を求める立場から、課税限度額の引き上げと累進課税強化などを求める課題を含めた「なくせ貧困・税金署名(仮称)」を具体化する。

(3)公害、地球温暖化課題、食料を守る運動などで諸団体との連携と共同を強める。
 災害時対策の拡充と復興に向けた被災者支援拡充を求める取り組みを進める。
 温暖化ガス削減を求める運動を強め、CO2の測定運動や公害裁判早期解決の運動を支援する。
 諫早湾の埋め立て被害の救済、水俣病の早期解決を求める取り組みへの支援を強める。
 安全・安心の食料と農業を守る食健連への結集をはじめ、食料自給率の向上を求める運動、地産地消運動などを労働者の立場から取り組む。口蹄疫被害への対策を求める「ネットワーク」に結集した取り組みを強める。

4、改憲策動を許さず、核兵器廃絶、安保破棄をめざす取り組み

(1)改憲手続法が施行され国会法改悪など解釈改憲の条件整備も進められるもとで、改憲反対にねばり強く取り組む。
 すべての課題と結んで、憲法がいきる職場と地域の実現をめざす取り組みを展開する。
 「戦争をする国」の人づくりを進める教育の反動化に反対して、国民運動に結集する。

(2)共同センターでの地域共同などを重視する。
 職場、地域、各分野から「九条の会」のアピールに応えた幅広い共同を広げる。
 全自治体をカバーする共同センターの確立を引き続き追求する。節目ごとの学習会や宣伝行動を呼びかけるなど継続的な運動を進める。職場過半数、住民過半数の憲法署名の達成をめざして取り組みを継続する。
 「憲法改悪に反対」の1点での労働組合間の共同拡大を追求する。

(3)在日米軍基地の再編と自衛隊の機能強化に反対する取り組みを強める。
 「普天間基地無条件撤去を求める連帯行動(仮称)」として全国的なたたかいへの発展をめざす。
 安保破棄、在日米軍基地撤去を課題にした集会、学習会を全国連鎖で開催する。
 国民保護法が施行されたことにともなう危機管理の名による住民監視に反対し取り組む。

(4)核不拡散条約(NPT)再検討会議の成果をふまえ、核のない世界をめざす国内・外の運動との連携をさらに強める。
 「6・9行動」や原水爆禁止世界大会、国民平和大行進、3・1ビキニデーなどの発展、継続に尽力する。
 2010年原水爆禁止大会にあわせた外国労働組合との交流や、世界の労働組合に向けた非核兵器地帯条約の促進を訴えるアピールの発出、単産・地方組織の協力も得た「被爆写真集送付運動」などに取り組む。

5、政治の民主的転換をめざす取り組み

(1)一致する要求での共同を広範に追求しつつ、国民本位の政治・経済と非核・非同盟・中立・民主の日本を実現する統一戦線樹立をめざすとした全労連綱領にそった取り組みを強める。
 地方自治体の首長選挙などでは、住民のくらしと福祉を守る民主的な自治体建設をめざしたたたかいを積極的に展開する。
 全国革新懇への結集を強めるとともに、各組織でも積極的な位置づけを行い、職場・地域から革新懇運動を広げ、政治の民主的転換を求める世論喚起の取り組みを強める。

(2)労働者要求の実現の立場に立ち、政治の転換、国政革新、地方政治革新をめざし、労働組合としての選挙活動を強める。
 特定政党支持の押しつけや組織ぐるみの選挙に反対する。企業・団体献金の禁止を求めて取り組みを強める。
 国民主権を侵害する議員定数削減に反対する。公務員の政治的自由の回復を求め、不当弾圧に反対するとともに、公務員法改正の運動を位置づける。

6、世界の労働組合との連携、共同の取り組み

(1)核兵器廃絶を求める取り組みと多国籍企業の横暴規制強化の取り組みの2つを軸に、2国間組織の共同を引き続き進める。
 政府・財界のアジア戦略ともかかわって、とりわけアジア各国のナショナルセンター、産業別組合などとの共同と連帯を追求する。

(2)ITUCが呼びかける国際連帯の行動にも留意した国内運動を組織する。
 WFTUの産別組織と関係のある国内産別の取り組みに必要な援助を行う。

第6章 共同と組織の拡大・強化

1、要求にもとづく総対話・共同に取り組む

(1)基本姿勢として、要求の一致点を大切に、すべての労働者、労働組合との総対話と共同を追求する。
 東京のローカルセンター・東京地評との連携と共同、国民春闘共闘に参加する単産との共同、純中立労組懇やMIC、陸海空港湾20労組などとの共同をいっそう発展させる。

(2)連合加盟組合をはじめ、要求で一致できるすべての労働組合との総対話と共同を、中央・地方で追求する。

2、「組織拡大5カ年計画」最終年次に取り組む

(1)単産と地方組織の連携・協力を強め、全国的な組織化キャンペーンなどの取り組み強化をはかる。組織拡大月間を設定し、労働・生活相談の集中実施、政府・自治体集団要請行動など、「目に見え、耳に聞こえる」取り組みを単産、地方組織と共同して具体化する。

(2)雇用状況のいっそうの悪化も懸念されるもとで、不況打開、雇用確保、大企業の雇用責任追及の取り組みと結合し、非正規労働者、青年、中小未組織労働者などに焦点をおいた組織化運動を強める。これらの取り組み具体化を進め、青年部、非正規センターの活動の活性化をめざす。

(3)地方ブロック単位での組織拡大交流会などを開催し、組織拡大推進をはかる。5,000人未満の14地方組織については、秋と春の月間で単産との連携を促進し、総がかり作戦、統一行動などを進める。

(4)類似産業の「単産合同」の方向について引き続き検討することとし、単産間の要求闘争での共同を働きかけ、できるところから具体化に取り組む。
 職種、地域などでの重点を設定し、全労連、単産、地方組織が一体となった拡大運動を具体化する。

(5)単産は、(1)友好関係にある組合の結集、(2)空白県における加盟組織の立ち上げ、(3)関連する業種の未組織労働者の組織化対策、(4)職場組織の過半数以上の組織化などを基本においた計画を策定して取り組む。
 地方組織は、(1)地方・地域労連に未加盟の全労連傘下労組の計画的結集、(2)非正規労働者を含む未組織労働者の加入促進、(3)組織化の受け皿となる常設労働相談センター、ローカルユニオン、地方共済会の確立・強化などを基本に、各地方での目標と計画を確認して取り組みを進める。
 「地域主権改革」の強行などにより地域からの運動組織が重要になっていることもふまえ、地方・地域労連の活性化、人口20万人以上の地域での地域組織の結成などにねばり強く取り組む。

(6)結成以来の全労連運動を継承発展させ、次代を担う幹部育成をめざし、全労連としての教育・学習活動の強化を追求する。
 職場闘争の強化、活性化に寄与する資材の作成・提供、課題別学習会、セミナーなどの取り組みを強める。
 「全労連・教育学習要綱」を確認し、「組織拡大推進費」を活用して、次世代を担う青年活動家の育成、ローカルセンター、ナショナルセンターの次世代幹部の育成を進める。労働相談などを契機として日常的な組織拡大に取り組めるよう、「オルグ」育成を目的とする地方ブロック単位での集合研修を当面年1回のペースで開催する。

3、非正規センターの機能強化など、階層別組織の運動活性化に取り組む

(1)「非正規雇用労働者全国センター(非正規センター)」の機能強化もはかりつつ、非正規労働者の労働条件、くらし改善の運動を組織し、たたかいのサポートを強める。
 学者、文化人、弁護士など多様な人々からなるサポーターの組織化を進める。
 可能性のある地方・地域での「非正規センター」や「パート・臨時労組連絡会」、「ヘルパーネット」などの確立を追求する。単産では、非正規労働者が加入できる単組規約の改正、非正規部会、パート部会などの確立、逓減的な組合費の設定などを喫緊の組織強化課題として追求する。
 「パート・臨時・派遣など非正規ではたらく仲間の交流会」、ヘルパー交流会、派遣・請負労働者対策会議、外国人労働者交流会などに引き続き取り組む。

(2)青年組合員の活動強化を労働運動全体にかかわる重要課題と位置づけ、すべての単産・地方組織における青年部組織の確立、担当役員の配置、執行委員会など機関役員への青年の登用、予算の重点的配分、教育・学習活動や文化・サークル活動の強化などに取り組み、運動の活性化をはかる。

(3)改正した全労連規約を具体化して役員や決議機関への女性参加を促進し、女性労働者の要求の運動反映をはかる。機関会議等への女性参加の促進をはかる。また、各組織における女性部運動の活性化を追求する。規約にもとづく全労連大会や評議員会、諸会議への女性参加比率の向上、単産・地方組織の女性役員比率の向上を追求する。

4、ナショナルセンターとしての機能強化に取り組む

(1)集中的、機動的な組織拡大運動をサポートするため、全労連事務局運営の機動性を高める。
 全労連の政策・要求を充実させるために、単産や地方組織、労働総研の協力を得て課題別の「政策委員会」を具体化する。

(2)定期刊行物、宣伝資材などの改善に努力するとともに、情報サービスの迅速化、連絡(通達)の効率化をはかる。全労連新聞、月刊全労連の充実を追求し、普及を促進する。
 組合員への情報の伝達、労働者への全労連情報発信のあり方などについて見直しの検討を進める。そのため、単産、地方組織などの協力も得た検討委員会を設置し検討を進める。

5、全労連共済の発展をはじめ福利厚生活動に取り組む

(1)組合員拡大と結合した加入者拡大、組織共済加入者の個人共済加入促進、未加盟の単産と地方組織への加盟の働きかけなど、全労連共済の基盤拡充の取り組みを進める。
 地方共済会で見加盟単産の加盟・利用を働きかける。

(2)非正規労働者が加入しやすい組織共済制度の整備、個人共済制度の改善、単産共済との共通制度の検討など積極的な制度改善を行う。

(3)全労連共済の教育・学習活動を強化する。単産共済との連携を深め、相互支援・交流・研究機能をいっそう充実させる。

 不当な共済規制とのたたかいを、「共済の今日と未来を考える懇話会」との連携をとりながら進める。

(4)企業内福利厚生活動の充実とあわせて、自治体等が実施する労働者福祉の諸制度の活用促進に取り組む。労働金庫の全国統合について、労働者の福利厚生充実の立場から検討し、全国的な論議を進める。

以 上

全国労働組合総連合
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