「パートには何の権利もない」と言われたが……
日本国憲法第27条に基づいて、最低限の働くルールについて定めた法律が「労働基準法」です。労働基準法第9条に、労働者の定義があります。労働基準法には、正規も非正規も、パートもアルバイトも派遣などの区別はありません。労働基準法の下では、すべてが「労働者」であって、パートであっても、正規の労働者と同じ権利を持っているのです。
ですから、「パートだから」「派遣だから」という理由で労働者を差別することは、本当はあってはならないのです。交通費も有給休暇なども堂々と要求してください。
労働基準法第9条【定義】
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
突然「解雇する」と言われたが……
ほとんどの労働者は、賃金だけで生活していますので、労働者の生活手段を絶つには、それなりの理由が必要です。解雇には「懲戒解雇」「整理解雇」「普通解雇」があります。
「懲戒解雇」は、犯罪行為や重大な背任などの反社会的な行動をした場合に適用されます。
「整理解雇」は、解雇しなければ企業の存在が危うくなる状況が客観的に証明できて、解雇を回避するための最大限の努力がされていて、解雇される人を決める理由に合理性があり、当人(組合)としっかりと話し合いがなされていることが条件となります(整理解雇の4要件)。
「普通解雇」は、労働契約法第16条で「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。つまり、誰が聞いても「仕方ない」と判断できる理由がなければ解雇はできないのです。
「解雇だ」と言われたら、解雇理由を明記してある「解雇通知書」を請求してください。社会的に相当な理由がない不当な解雇がかなり多くあります。解雇されたからと言って簡単にあきらめずに、その解雇通知書を持って、労働組合に相談してください。
「うちには有給休暇なんかないよ」と言われたが……
労働基準法第39条で「使用者は、その雇い入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、または分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない」と定めています。さらに、1年を経過するごとに1労働日を与えることとしています。6箇月間継続して働いていたら、パートもアルバイトも有給休暇が取れるのです。
なお使用者は、労働者の有給取得を拒否できません。あるのは「日程の変更要請権」だけです。さらに有給休暇の付与に理由をつけることも許されていません。どのように使うかは労働者の自由であって、使用者として「慶弔以外は認めない」などの制限をかけられないことになっています。
ですから「休暇願」ではなく「休暇届」が正しいのです。「休暇届」を出して、堂々と休んでください。
残業手当が払われない……
労働時間は1日8時間、週40時間を超えてはならないと定められています(労働基準法第32条)。それを超えた場合、使用者には、平均賃金の25%増しの残業手当(深夜の場合は50%増)を支払う義務が発生します。同時に厚生労働省通達で、労働者の労働時間の管理は事業主の責任で行うこととされています。長時間働いたら、堂々と残業代を請求してください。
なお8時間労働の例外規定として「変形労働時間制」「フレックスタイム制」「36協定」などの制度がありますが、いずれも労働組合との合意や過半数の労働者代表との合意があることを労働基準監督署に届け出なければなりません。そうしなければ制度そのものが無効になるものであり、使用者が一方的に押し付けることはできません。
一部に、労働時間管理をしない経営者が根強く残っています。その場合は、メモやカレンダーなどに出退勤時間の記録を残すようにしてください。証拠がなければ請求できません。
なお、未払い残業代の請求は、2年で時効になります。気を付けないと請求できなくなります。
社会保険をかけてくれない……
「社保完備」として労働者を募集する企業が圧倒的です。この「社会保険」とは、「健康保険」「厚生年金」「労災保険」「雇用保険」の4つがすべて揃っていることが条件です。
事業所は、労働者を雇用したら、遅滞なく社会保険を適用することが義務です。「試用期間だからかけない」「本人の希望を聞いてから手続きをする」という次元の問題ではありません。
健康保険 | 週30時間以上(4分の3以上)働く労働者は、加入しなければなりません。保険料は、本人と事業所で折半です。医療費の3割は自己負担になりますが、病気などで働けない場合の休業補償制度があります。 |
---|---|
厚生年金 | 週30時間以上(4分の3以上)働く労働者は、加入しなければなりません。 保険料は、本人と事業所で折半です。退職後の老後の収入となります。障がい年金もあります。 |
労災保険 | 労働者を一人でも雇用する事業主は、必ずかけなければならない保険です(強制適用事業)。業務上のケガや仕事が原因の病気は、健康保険ではなく、労災保険で治療します。本人負担はありません。休業補償も、平均賃金の8割が治癒するまで保障されます。 |
雇用保険 | 退職したときや失業したときの生活保障です。週20時間以上働く人は、加入する義務があります。事業所負担と本人負担があります。平均賃金の6割が一定期間保障されます。失業給付を受けなければ、受給資格は継続されます。 |
労働条件をキチンと教えてくれない……
労働基準法第15条に、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定めています。具体的には文書で労働者に示すこととされています。労働者が要求しても出してくれない場合、労働基準法では「30万円以下の罰金に処する」(労働基準法第120条)となる違法行為です。しっかりと請求してください。
有期契約で働いている、正規になりたいが……
2013年4月1日から労働契約法が改定されて、5年以上有期で働いている人(13年4月以前は対象外)が「契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす」(労働契約法第18条)となりました。いろいろ問題のある条文ですが、有期から無期に転換できる可能性はできました。しかし労働条件については、有期時代と同じでよいとされています。
また、期間満了直前の「雇止め」の危険も消えていません。これからの運動が必要です。
上司のいじめがひどくてメンタルになった……
メンタルの原因に、長時間過密労働などに続いて「職場環境の悪化」が言われています。2008年の厚労省調査では、323万人がメンタルにかかっていると発表されました。
セクシャル・ハラスメント(セクハラ)は、男女雇用機会均等法で明確に禁止されていますが、パワー・ハラスメント(パワハラ)を直接規制する法律はありません。
裁判では「民法90条(公序良俗の反する行為)」、「民法709条(損害賠償)」、「民法715条(事業主の不法行為に対する賠償)」、「会社法第350条(株式会社代表者の不法行為)」などが使われますが、確たる証拠がなく、証明することは極めて難しい内容です。
厚労省は円卓会議で以下のパワハラに該当する指針をしめし、注意を呼びかけています。
■暴行・傷害(身体的な攻撃)
■脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
■隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
■業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
■業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
■私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)
「女のくせに」と上司から差別されている
労働基準法第3条は、均等待遇として「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取り扱いをしてはならない」としていますし、同法第4条では「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取り扱いをしてはならない」と男女同一賃金の原則を定めています。
「女のくせに………」というのは、女性を「家」の付属物のように扱ってきた戦前の古い因習に基づくゆがんだ偏見であり、絶対に認めてはならない差別的な言動です。そしてそれはセクシャル・ハラスメント(セクハラ)にも該当する卑劣な行為なのです。
男女雇用機会均等法第2条の「基本理念」には「……労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあっては、母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにすることをその基本理念とする」と定めているように、女性が安心して働ける職場をつくるには、そこの労働者が声を上げて、不法な行為や言動を力を合わせてやめさせる必要があります。そのためにも、労働組合の存在は大切です。ぜひ、お気軽にご相談ください。
「あなたは請負だから労働法は関係ない」といわれた……
「請負契約」とは、請負人が仕事の成果を提供することを約束し、注文者はその仕事の成果に対して報酬を支払う契約のことを言います。請負会社の社員が、発注先の指揮・命令のもとで、仕事に従事する場合は、「偽装請負」となり、労働者派遣法違反となります。
企業等と直接請負契約を結び、「個人事業主」として業務に従事する形を「個人請負」と言いますが、労働法の規制を免れるために、労働者を「個人請負」と詐称して不当に安く働かせる事例も多発しています。最高裁判所の判決では、契約書がどうであれ、労働の事態に「労働者性」があれば、労働者とみなすとされています。それを導き出す基準は、いくつもあります。
個人請負の場合は、労働法の対象外ですから、労災保険、雇用保険の対象からも外れます。仕事でけがをしても、何の保証もありません。賃金も最低賃金を下回っていても罰せられません。健康保険や年金も国保と国民年金となります。源泉徴収もされません。収入については、確定申告をして、税額を確定する必要が出てきます。
会社から「個人請負だ」と言われて、働き方に疑問を感じた方は、労働組合にご相談ください。
「会社を辞めるなら損害賠償を払え」と言われた……
労働基準法16条では「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めています。「資格を取らせてあげるから、3年間は退職しないこと。万一退職する場合は、講習費用の倍額を払うこと」などの取り決めは無効になります。
「次の人が決まるまで辞職させない」というケースも多くあります。憲法22条では「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と明記されており、使用者の都合で退職を禁止することはできません。その点では、「退職願」ではなく「退職届」です。労働基準法の規定で、企業が労働者を解雇する場合は、1カ月以上前に告知することとされていますが、労働者が退職する場合は、民法で2週間前に通告すればよいことになっています。
「辞めさせない」と言われたら、「退職届」をFAXで送り、同時に2週間の「休暇届」を送って、出勤しなければいいのです。
また、退職にあたって、罰金や賠償金などと賃金の「相殺」を言われたら、キッパリと断って、「賃金は全額支払ってください」「損害賠償を請求するのならば、その明細を記載した請求を出してください。納得がいかなければ法的に争いましょう」と宣言することが必要でしょう。