「賃下げ勧告」と給与構造の改悪
05人勧 地域格差手当・査定昇給を導入
公務各単産、怒りの抗議声明
人事院は15日、国家公務員の2005年度賃金等の改定について、(1)2年ぶりの本俸引き下げと不利益遡及、(2)給与構造見直しによる「地域手当」「査定昇給」制度の導入など、ダブル賃下げを内容とする勧告・報告を行いました。
官民給与の比較にもとづく賃金改定の内容は、「官民格差(△1389円、△0.36%)分、月例給を引き下げる」「ボーナスは民間の支給割合にあわせ引上げる。年間4.4月分→4.45月分」としています。
本俸マイナス分の賃下げを4月に遡って実施し、12月のボーナス(0.05月増)で差し引き調整するという従来のやり方は、「不利益不遡及」の原則を踏みにじる点で労働者の権利を侵害する不当な措置です。
4.8%の賃下げと地域格差、業績格差を強行
加えて「給与構造の改定」についての報告で、3項目にわたる見直し・改悪が示されました。
第1に「俸給表の見直し」は、「地域水準の反映」「賃金カーブのフラット化」を名目にした全体の賃下げで、(1)俸給表の水準を平均4.8%引き下げる、(2)若年層の引下げは行わず、中高年層を7%引き下げるとして、40〜50歳代に大幅な賃下げを強要しています。
第2に「地域手当の新設」は、民間の最も低い地域にあわせて俸給表全体の引き下げと格差導入を狙ったもので、18%から3%まで6区分の地域手当で格差をつけるとしています。
第3に「勤務実績の給与への反映」は、現行の号俸を4分割し、成果・業績主義賃金を具体化した査定昇給の導入で、ABCDEの5段階の昇給区分を設け、勤務成績が反映される昇給制度とするというものです。
これらの見直し・改悪は、消費税引き上げの露払いとして公務員の総額人件費を削減するという政府の「骨太の方針2005」に応えた一方的なもので、民間賃金や地域経済、景気への悪影響が懸念されます。
公務労組連絡会に結集する国公労連、自治労連、全教、郵産労、特殊法人労連などの各単産は本日、声明や談話を発表、この間の「人勧・最賃」闘争の高揚、郵政民営化関連法案を廃案に追い込んだ大運動を評価しつつ、勧告・報告の内容をきびしく批判しています。
2005年人事院勧告にあたっての幹事会声明
2005年8月15日・公務労組連絡会幹事会
1、人事院は本日、国会と内閣に対して、「0.36%、1,389円」の官民逆較差にもとづき、一般職国家公務員の月例給を引き下げるとともに、「給与構造の見直し」によって、全国的な俸給水準を4.8%引き下げることや、中高年層の給与ダウンにつながる「給与カーブのフラット化」、勤務実績反映の給与制度の導入などを内容とした勧告・報告をおこなった。
2年ぶりの月例給の引き下げは、昨年と同様に「ベアゼロ・定期昇給のみ」で推移し、日本経団連調査によっても1.67%アップという春闘相場や、時給3円から2円の引き上げなど4年ぶりの改善が答申された最低賃金の目安額からもかけ離れたものであり、「賃下げ勧告」には、いささかの合理性もない。
その上、4月にさかのぼって賃下げする「調整措置」は、「不利益不遡及」の原則を踏みにじる点で労働者の権利侵害におよぶ重大な問題を持っている。現在、その違法性、違憲性をめぐって裁判が争われているなかにあって、その行為をくり返した人事院に対し、怒りをもって抗議するものである。
2、「給与構造の見直し」では、地域の民間労働者の賃金を公務員賃金により反映させるため、最も民間賃金の低い地域にあわせて俸給表全体を引き下げ、「地域手当」で地域間の給与格差をつけた。
地域の公務員給与を4.8%も引き下げることは、自治体・教員をはじめ公務関連労働者、地域の民間労働者の賃金水準に影響し、引いては地域経済への悪影響は避けられない。総務省の「地方公務員の給与のあり方に関する研究会」は11日、今回の勧告と同じように、地方公務員の給与構造の見直しについての基本的方向性を取りまとめたが、「三位一体の改革」にも沿った地方切り捨ては住民の生活にとっても重大である。
また、新たな評価制度が確立されていないままで見切り発車した「勤務実績反映の給与制度」の導入、中高年層の生活を直撃する「給与カーブのフラット化」など、「給与構造の見直し」は、数多くの問題点を持った内容となっており、今夏勧告での強行にあらためて抗議する。
3、国民犠牲の「構造改革」推進をあらわにした「骨太の方針2005」では、消費税引き上げの露払いとして公務員総人件費削減がことさら強調された。民間の賃金動向とも相いれない「賃下げ勧告」は、人事院が「骨太の方針」に示された総人件費削減路線に迎合した結果にほかならない。労働基本権制約の「代償措置」としての本来の人事院勧告制度の役割を果たさず、財界の賃下げ攻撃と、「構造改革」に手を貸す給与勧告となったことは断じて許されるものではない。
夏季闘争では、公務労組連絡会は、人事院勧告とともに政府の「骨太の方針」に対するたたかいを強化した。人事院、内閣府・経済財政諮問会議への要求行動を繰り返し取り組んだ3次の中央行動には8千人の仲間が結集した。人事院への要求署名は45万筆を超え、勧告直前には、各地の人事院地方事務局前での座り込み行動とも結んで、炎天下に12時問におよぶ人事院前の座り込みでたたかい抜いた。あらためて、職場・地域から奮闘された仲間のみなさんに敬意を表するものである。
4、地域給与の引き下げ、「賃下げ勧告」は強行されたが、「人勧・最賃」を一体にしたたたかいが前進し、最低賃金目安額および都道府県最賃は、昨年を上回る改善を勝ち取り、公務・民間共同のたたかいの新たな到達点を築いた。
そして、何よりも、今次夏季闘争では、国民の世論と運動が、郵政民営化関連法案を廃案に追い込む画期的な勝利へと導いた。参議院での法案否決は、全国各地で取り組んだ「郵政民営化反対キャラバン」での地域宣伝・地方議会請願・自治体要請など、一つ一つ積み上げた運動が大きな実を結んだものである。
「構造改革」の本丸である「郵政民営化」を阻止したことで、国民犠牲の「構造改革」そのものを突き崩す展望がひろがるもと、9月11目投票で総選挙がたたかわれている。憲法改悪・大増税・社会保障制度改悪の流れを断ち切り、政治を国民の手に取り戻す条件がかつてなく高まるなかでのたたかいとなる。自民・民主による「二大政党政治」を打ち破り、国民本位の政治の実現へたたかう決意を新たにする。
公務労組連絡会は、「マイナス勧告」の実施、地方自治体での給与構造見直しを許さず、公務・公共サービスの営利企業化・商品化、公務員総人件費・定数削減を阻止するために、国民的な運動と深く結んで、引き続くたたかいに全力をあげる決意である。
(以 上)
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2005年勧告の主な内容
◎ 本年の給与勧告のポイント
〜平均年間給与は減額(行政職(一)平均△4,000円、▲0.1%)
給与構造の抜本的な改革を実施(1957年以来約50年ぶりの改革)
(1) 官民給与の逆較差(△0.36%)を解消するため、2年ぶりに月例給の引下げ改定
− 俸給月額の引下げ、配偶者に係る扶養手当の引下げ
(2) 期末・勤勉手当(ボーナス)の引上げ(0.05月分)
(3) 俸給制度、諸手当制度全般にわたる抜本的な改革の実施
− 俸給水準の引下げ、地域手当の新設、給与カーブのフラット化、勤務実績の給与への反映等
◎ 本年の給与改定
1 官民給与の比較
約8,300民間事業所の約35万人の個人別給与を実地調査(完了率91.0%)
〈月例給〉 官民較差△1,389円 △0.36%
〔行政職(一)…現行給与382,092円 平均年齢40.3歳〕
俸給 △1,057円 扶養手当 △214円
はね返り分 △118円
〈ボーナス〉 民間の支給割合4.46月(公務の支給月数4.40月)
2 給与改定の内容
〈月例給〉 官民較差(マイナス)の大きさ等を考慮し、月例給を引下げ
(1)俸給表
(1) 行政職俸給表(一) すべての級の俸給月額を同率で引下げ(改定率△0.3%)
(2) 指定職俸給表 行政職俸給表(一)と同程度の引下げ(改定率△0.3%)
(3) その他の俸給表 行政職俸給表(一)との均衡を基本に引下げ
(2)扶養手当 配偶者手当支給月額を500円下げ(13,500→13,000円)
〈期末・勤勉手当等(ボーナス)〉 民間の支給割合に見合うよう引上げ 4.4月分→4,45月分
(一般の職員の場合の支給月数)
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6月期 |
12月期 |
本年度 |
期末手当 |
1.4月 |
(支給済み) |
1.6月 |
(改定なし) |
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勤勉手当 |
0.7月 |
(支給済み) |
0.75月 |
(現行0.7月) |
2006年度 |
期末手当 |
1.4月 |
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1.6月 |
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勤勉手当 |
0.725月 |
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0.725月 |
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[実施時期等] 公布日の属する月の翌月の初日(公布日が月の初日であるときは、その日)から実施。
本年4月からこの改定の実施前日までの官民逆較差相当分を12月期の期末手当で調整する措置は、2003年勧告時の「定率方式」を踏襲
〈その他の課題〉
(1) 特殊勤務手当の見直し 2004年に6手当9業務、2005年に9手当14業務の見直しを実施、今後も引き続き手当ごとの業務の実態等を精査して所要の見直しを検討
(2) 官民比較方法の見直し 民間企業における人事・組織形態の変化に対応できるように、官民比較方法について、学識経験者の研究会を設けて検討
(3) 独立行政法人等の給与水準 専門機関として、独立行政法人等における給与水準の在り方等の検討において今後とも適切な協力
◎ 給与構造の改革
1 俸給表及び俸給制度の見直し
(1) 行政職俸給表(一)の見直し
・地域別の官民較差の3年平均値を参考として、俸給表の水準を全体として平均4.8%引下げ
・若手の係員層については引下げを行わず、中高齢層について7%引下げることにより、給与カーブをフラット化
・現行1級・2級(係員級)及び4級・5級(係長級)の統合。従来の本府省課長の職責を上回る職務に対応した級の新設(11級制→10級制)
・きめ細かい勤務実績の反映を行うため現行の号俸を4分割
・現在在職者がいないか、在職実態が極めて少ない初号等の号俸をカット
・現時点の最高号俸を超える者の在職実態を踏まえ、号俸を増設
・最高号俸を超える俸給月額に決定し得る枠外昇給制度を廃止
・中途採用者の初任給決定の制限、昇格時の号俸決定方法について見直し
(2) 指定職俸給表の見直し
現行の行政職俸給(一)11級と同程度引き下げるとともに、現在在職者がいない1号俸から3号俸までの号俸をカット
(3) 行政職俸給表(一)及び指定職俸給表以外の見直し
行政職俸給表(一)との均衡を基本として、職務の級及び号俸構成、水準是正などの見直し
(4) 俸給の調整額の見直し
2 地域手当及び広域異動手当の新設
(1) 地域手当の新設
・賃金構造基本統計調査による賃金指数を用いた指定基準を基本として、支給地域及び支給割合を決定
・支給区分は、18%、15%、12%、10%、6%及び3%
・大規模空港区域内の官署に在勤する職員について、当該区域内の民間賃金等の事情を考慮して、特例的な地域手当を支給
・現行の調整手当の異動保障と同様の制度を引き続き措置
(2) 広域異動手当の新設
・官署を異にする異動を行った職員のうち、異動前後の官署間の距離及び異動前の住居から異動直後に在勤する官署までの間の距離がいずれも60q以上となる職員について、広域異動の日から、原則3年以内の期間支給
・手当額は、俸給、俸給の特別調整額及び扶養手当の月額の合計額に、異動前後の官署間の距離区分に応じて、60q以上300km未満の場合は3%、300km以上の場合は6%を乗じて得た額
・地域手当が支給される場合には、地域手当の支給額を超える部分の額の広域異動手当を支給
3 勤務実績の給与への反映
(1) 勤務成績に基づく昇給制度の導入
・特別昇給と普通昇給を統合し、昇給の区分を5段階(A〜E)設けることにより、職員の勤務成績が適切に反映される昇給制度を導入
・年4回の昇給時期を年1回(1月1日)に統一。昇給号俸数は、A(極めて良好)で8号俸以上、B(特に良好)で6号俸、C(良好)で4号俸、D(やや良好でない)で2号俸、E(良好でない)は昇給なし。ただし、管理職層は、C(良好)を3号俸昇給に抑制。B以上は分布率を設定。D以下については、該当事由に関する判断基準を別に設定
・55歳昇給停止措置に替えて、55歳以上の昇給については昇給幅を通常の半分程度に抑制
(2) 勤勉手当への実績反映の拡大
査定原資を増額(2005年の引上げ分0.05月分のうち0.03月分を平成18年の6月期、12月期の勤勉手当の査定原資として配分)し、「優秀」以上の成績区分の人員分布を拡大。新たに「特に優秀」及び「優秀」の成績区分に係る人員分布率を設定
(3) 昇格基準の見直し
昇給及び勤勉手当に係る勤務成績の判定結果を活用
(4) 給与決定のための勤務成績の判定についての改善
当面、各府省の現行の判定手続を明確化、成績上位者の判定尺度を例示、標準的な勤務成績に達しない場合の統一的な判定基準を設定
4 その他
(1) スタッフ職活用のための環境整備
3級程度の簡素な級構成の専門スタッフ職俸給表を新設
(2) 俸給表の特別調整額の定額化
定率制から俸給表別・職務の級別・支給区分別の定額制に移行。地方機関の管理職に適用される三種〜五種の手当額については、改善を行った上で定額化
(3) 本府省手当の新設
本府省の課長補佐(俸給の特別調整額(8%)は廃止し、手当の水準は維持)、係長及び係員を対象とした本府省手当(役職段階別・職務の級別の定額制)を新設
5 実施スケジュール
(1) 俸給表等の実施時期と経過措置
新俸給表は2006年4月1日から適用。同日にすべての職員の俸給月額を新俸給表に切替え。経過措置として新旧俸給月額の差額を支給。2006〜09年度までの間、昇給幅を1号俸抑制。俸給の調整額の改定も2006年4月1日から施行
(2) 手当の新設等の実施方法
地域手当は2006年度から、広域異動手当は2007年度から段階的に導入。俸給の特別調整額の定額化は2007年度から実施。専門スタッフ職俸給表及び本府省手当の新設は2010年度までの間に実施
(3) 給与への勤務実績反映
新昇給制度は2006年4月4日から実施(新制度による最初の昇給は2007年1月1日)。勤勉手当の勤務実績反映の拡大は2006年の6月期から実施。昇格運用の見直しに係る措置については2007年4月1日から実施。新昇給制度における勤務成績の判定に係る改善措置等の活用は、2006年4月1日から管理職層について先行して行い、引き続きその他の職員について行う
つなごうよ くらしと平和 守る手を