大企業の雇用破壊に対する緊急の取り組み強化について
− 09年春闘方針案の補強 −
2009年1月14日 単産・地方代表者会議
国民春闘共闘委員会
1 緊急の取り組みが求められる雇用状況と問われる大企業の社会的責任
(1) 11月以降、急速に雇用状況悪化が顕在化している。
11月の労働力調査では、就業者数が前年同月比で42万人減少し、そのうち雇用者が前年同月比10万人減少した。雇用者の減少は4ヶ月ぶりである。完全失業者は256万人と前年同月を10万人上回り、失業者の求職理由で「勤め先事由」が6万人増えている。この結果、完全失業率は3.9%となり前月から0.2ポイント上昇した。
一方で、08年11月の有効求人倍率は0.76倍で、前月を0.04ポイント下回った。特に正規社員の有効求人倍率は全年同月比で0.13ポイント低下している。
産業別では、運輸業(雇用者が前年比で23万人減)、製造業(同19万人減)農林業(同13万人減)などでの雇用原画顕著であり、医療・福祉関係では増加(同・22万人増)している。求人数もほぼ同様の傾向にある。
経済産業省が発表した鉱工業生産指数は、特に乗用車、トラックなど自動車関連での低下が大きく、この分野での生産調整が先行していることを示している。そのこともあって、毎月勤労統計によれば製造業の所定外労働時間は対前年同月比で20%減少している。
(2) 政府も、景気悪化の雇用への影響を指摘し始めた。
政府の12月・月例経済報告では、我が国の経済基調判断は「景気は、悪化している。」となり、景気の先行きについては「当面、悪化が続くとみられ、急速な減産の動きなどが雇用の大幅な調整につながることが懸念される。加えて、世界的な金融危機の深刻化や世界景気の一層の下振れ懸念、株式・為替市場の大幅な変動の影響など、景気をさらに下押しするリスクが存在することに留意する必要がある。」とした。
「景気後退局面は第2段階に入っている」(内閣府・日本経済2008〜2009)と政府も認め、急速な悪化を指摘している。その背景には、国内生産の57.4%を輸出(07年度ベース)する自動車メーカーに代表されるような外需依存型の製造業の構造が、世界経済全体が後退するもとで行き詰ったことがある。
(3) 製造業大企業は08年度末決算での利益計上に固執し、雇用切りの動きを緩めていない。
株価によって企業の評価が左右される構造が強まるもとで、短期の利益確保を急ぐ大企業が、生産調整や在庫調整を加速させ、期末決算での利益確保を優先して、11月以降の派遣労働者、期間労働者の雇用切りとなっている。厚生労働省の調査でも、09年3月までに製造業などで予定されている雇用切りは85000人にのぼっている。
国内で8000人の削減計画を打ち出しているソニーの中鉢社長が「雇用より会社を守る」とインタビューで答えている(08年12月17日付朝日新聞)ことにも示されるように、大企業の経営者は株主優先で、目先の利益確保にこだわる姿勢を変えようとしていない。
労働者を「景気の調整弁」として扱い、短期の企業利益の最大化をはかえる大企業の身勝手な振る舞いは、労働者派遣法や労働基準法の相次ぐ改悪によって可能となっている。政治が作り出した雇用破壊であることは見過ごせない。
(4) 膨大な内部留保をため込みながら、真っ先に雇用に手をつける大企業への批判が高まっている。
資本金10億円以上の製造業・大企業は、1998年9月から2008年9月の10年間に、内部留保の内、剰余金(利益および資本剰余金)だけで、32兆円も増加させている。特に2003年以降の伸び率が高く、製造業への派遣労働解禁と利益蓄積構造の強まりが一致している。
これらの企業は、10年間で経常利益も1.6倍化させてもいる。2007年までの10年間で、民間企業での給与支払総額は約20兆円減少しており、経常利益増と給与総額の減少は比例している。
製造業大企業の経営者は、「(雇用調整は)苦渋の選択」(御手洗の日本経団連会長)といってはばからないが、好景気の間にため込んだ内部留保の取り崩しや、経常利益を90年代半ばの水準に引き下げることで雇用確保は可能である。
このような大企業の内部留保等の実態に労働者の目が向き始め、河村内閣官房長官もその取り崩しを主張する発言をおこなった。
(5) 労働者のたたかいに押され、不十分ながら政府の対応も進み始めた。
政府は、厚生労働省が12月9日に、ハローワークでの緊急雇用対策本部の設置や住居喪失者に対する雇用促進住宅斡旋などを内容とする通達を発出するとともに、雇用継続補助金や不安定就労者への住居、就労支援などのための予算を盛り込んだ08年第2次補正予算案と09年度予算案を決定した。また、国土交通省が、離職者の住宅確保のために公営住宅を活用するとし、農林水産省が農山漁村雇用相談窓口の開設を決定するなど、雇用と住居を同時に失う労働者が多発する状況への対応をはじめた。
さらに、東京都の「50万人雇用創出」をはじめ、自治体独自での公的就労の場の確保や、住宅支援も広がってきた。
しかし、大企業での雇用切りの早さに比べて政府の対策は後手に回っている。
12月31日から1月5日まで、東京・日比谷公園で労働組合や弁護士などが取り組んだ「年越し派遣村」には、当初予想を大きくこえる約500人が訪れ、事態の深刻さを示すとともに、政府の対策の遅れや制度の不備を明らかにするものとなった。
2 闘いに立ち上がる労働者、広がるたたかいへの支援と共同、変化する世論
(1) 12月3日、いすゞ自動車が12月26日で期間工、派遣労働者を解雇するとしたことに対し、その撤回を求める労働者がJMIUに加盟して闘いに立ち上がった。
これも契機に、キャノン、マツダ、住友電工、三菱ふそう、シャープなどで働いていた派遣労働者などが、産別あるいは地域労組に加盟して大企業とのたたかいが広がった。12月中に報道されただけでも29の労働組合でのたたかいが組織されている。
大企業の中に、未組織の非正規労働者の労働組合の旗が立ち、反撃が始まる中で、いすゞ自動車が期間工の解雇を事実上撤回し、大分キャノンに労働者を派遣していた日研総業が年越し資金の支払い等を回答し、マツダに労働者を派遣してきた日総工産が雇い止めを撤回するなどの成果を勝ち取っている。また、トヨタなどが、期間満了後の社宅利用を一定期間認めるなど、成果も出始めた。
(2) 12月23日に国民大運動実行委員会規模で取り組まれた「街頭相談活動」(渋谷、新宿、池袋)は、雇用切りが生活破壊に直結している事実を明らかにするとともに、「政治災害」ともいえる雇用状況のもとでの緊急の取り組みの重要性を確認させた。
さらに、12月24日に、日本弁護士会が、国会に提出されている労働者派遣法改正法案の不十分性を指摘したうえで、大企業の派遣切りに歯止めを打つためにも同法の抜本改正を求める見解を明らかにした。このことにも見られるように、雇用切りの元凶に相次ぐ労働法制の改悪があること、それを推進してきた政府や財界・大企業が「政治災害」に対する責任をとろうとしていないことへの批判が、国民的な世論として形成されつつある。
雇用状況悪化のもとでの緊急の対策を求め、労働者保護規制強化を求める世論と運動が急速に高まっている。
(3) これらの経緯の上に、12月4日の共同行動実行委員会規模(全労連も参加)で取り組まれた「年越し派遣村」(12月31日〜1月5日)には、マスコミの注目が集まっただけでなく、短期間の呼びかけで大量の支援物資や多額のカンパが寄せられ、連日、多数のボランティアが駆けつけるなど、「待たれていた取り組み」として歓迎された。
「構造改革」によってセーフティネットが壊され、企業の福利厚生や企業内の福祉事業からも排除されている非正規労働者には、社会的連帯の組織と公的対策が不可欠であるとの世論が高まり、派遣村に300人を越える労働者が集まる中、1月2日には厚生労働省が省内の講堂を宿泊場所として提供させるという大きな変化も作り出した。世論、政治の変化を作り出した画期的な取り組みとなった。
派遣村を訪れて生活保護の申請を行った労働者全員が短期間に認定されるという対応を行わせるなど、大きな到達点を築いた。しかし同時に、労働者が生活基盤の再構築を続ける1月12日で、政府や東京都の支援が打ち切られ、社会保障制度の限界も明らかになった。雇用を守るたたかいと一体で、セーフティネットの再構築を求める取り組みを進める必要があることを明らかにした。
3 雇用破壊に対するたたかい、取り組みの補強について
(1) 以上のような状況や取り組みを通じ、次の点が明らかになっている。
一つは、職を奪われると同時に食と住まいを失う労働者が、「派遣きり」、「期間工きり」によって多数発生しており、年度末に向けてさらに事態が深刻化することが懸念されることである。したがって、大企業製造業などでの雇用破壊に対し、当該労働者を組織し、たたかいを支援する取り組みを強める必要がある。その際、民主団体などとの連携も強め、たたかいを進めるためにも、労働者の生活基盤確立支援にも取り組む必要がある。
二つに、非正規労働者の雇用破壊に歯止めをかける緊急措置を求める国会闘争などを強めることである。大企業の社会的責任発揮をせまり、これ以上の雇用破壊の回避を求める必要がある。また、政府・自治体に対し、公的分野での雇用の確保、就労の場の創出を迫る取り組みを強めなければならない。
同時に、この取り組みとあわせ、「派遣きり」、「期間工きり」に対する規制強化の緊急措置を迫る国会行動も強める必要がある。
三つに、働くルール確立を求める取り組みを強め、当面、「構造改革」で壊された労働者保護規制の再整備を求める取り組みを強めることである。
日本経団連などの財界は、雇用の安定を口実に、90年代半ばおよび2000年代前半にも主張した「ワークシェアリング論」をまた持ち出してきている。しかし、過去のワークシェアリングが、賃下げと非正規雇用増大しか「実現」しなかったことは明らかである。同じ轍をふまないためにも、「ワークシェアリング」の前に、労働派遣法の抜本改正、生活できる最低賃金水準の確保、均等待遇の確保、長時間過密労働の是正などに繋がる労働者保護規制の強化が求められている。とりわけ、時給1000円の最低賃金実現と労働者派遣法の抜本改正は、ワーキングプアの根絶ともかかわって、緊急の課題である。この点で、第3次「働くルール署名」を活用した取り組みが重要となっている。
(2) 09年春闘方針案提起以降の状況変化や取り組みの到達点をふまえ、すでに提起している諸行動の具体化とも連携させ、国民春闘共闘委員会全体の力を結集して、緊急の雇用闘争を強める。
1) 製造業などにはたらく非正規労働者の組織化をはかり、大企業の雇用責任、社会的責任の追及を強める。
雇用状況が悪化している地域を対象に、関係産別、地方組織での労働相談体制の強化などをはかる。
2) 春闘方針案で2月初旬の取り組みとして提起している「大企業包囲行動」の具体化を進める。
@ 自動車、電機などの大規模工場を中心に、製造業大企業の内部留保の実態などを告発する宣伝ビラ配布行動の具体化をはかる。
地方組織での計画具体化と単産の行動位置づけを要請する。
A 大規模な人員削減計画を明らかにした事業所にはたらく非正規労働者を対象に、組合加入を呼びかけ、政府の緊急対策等を紹介する宣伝行動の具体化をはかる。
B 2月11日に予定されている「トヨタ総行動」(愛労連主催)を重視し、全国的にも取りくみの集中をはかる。
先述の「大企業包囲行動」とかかわって、トヨタ関連会社の工場(トヨタ車体・三重県いなべ、関東自動車工業・静岡県裾野、岩手県丹沢、トヨタ自動車九州・福岡若宮など)での宣伝行動などの実施と、2・11行動への代表参加を呼びかける。
3) 地方自治体、各都道府県労働局への要請行動などを強化する。
@ 相当規模の雇用切りが発生している都道府県では、自治体に対し、
1.公的就労の場の確保をはじめとする雇用対策の強化、
2.住宅の確保、
3.生活保護等の生活支援強化の申し入れをおこなう。
労働局に対し、「12.9通達」などを活用した雇用対策強化を迫る。
A 全生連、自由法曹団、新婦人など民主団体とも共同した「労働・生活相談」などを共同で実施するなど、雇用を失った労働者への取り組みを具体化する。
B 2月下旬の「地域総行動」の全県実施をめざす。
C 「2.13中央行動(なくせ貧困、生活危機突破、雇用守れ2.13中央行動)」の主要課題に雇用問題を位置づけ、関係省庁要請行動の具体化をはかるなど、政府追及を強める。
4) 労働者派遣法抜本改正をはじめ、「働くルール確立」を政府にせまる取り組みを、近づく総選挙闘争ともかかわっても重視し、力を集中する。
@ 第3次「働くルール署名」の集約目標(100万筆)の早期達成をめざす。
A とりわけ労働者派遣法の抜本改正を求める取り組みを強める。
労働者派遣法抜本改正をもとめ、全国会議員要請行動をとり組むとともに、広範な労働組合などにも呼びかけた集会等の開催を追求する。
B 雇用対策強化を求める国会要請行動を強める。
(ア) 「派遣きり」など雇破壊を規制し、大企業に雇用確保を求める緊急措置の実現を求め、国会行動を具体化する。
緊急の雇用対策(公的就労の場の創出や職業訓練の強化など)をもとめる要請行動を具体化する。
(イ) 医療、福祉、教育などの公共サービス分野や環境分野での新たな雇用創出を求める「雇用創出緊急要求」を単産の協力も得て確立し、国会行動などで活用する。
以上
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