中央最低賃金審議会は29日、2014年度の地域別最低賃金改定の「目安」を田村憲久厚生労働大臣に答申しました。中央最低賃金審議会は47都道府県を賃金水準や地域の経済実態(工業生産など)によって、A〜Dの4ランクに分けて目安を示します。今年度はAランク19円、Bランク15円、Cランク14円、Dランク13円で、全国加重平均で16円の引上げ目安にとどまりました。目安どおりに改定されると現在の全国平均764円から780円になることになります。
田村厚生労働大臣は15日に記者会見で、「目安は昨年並み(平均15円の引上げ)か、それを上回るとありがたい」とメッセージを出していました。平均16円の目安をもって、政府は過去10年で最高水準の最低賃金底上げを実現したと、安倍政権の成果を宣伝し、生活保護と最賃の乖離問題でも、あいかわらずのごまかし・まやかし計算を押し通し、これで生活保護を下回る最低賃金はなくなった、すっきり解消した!と強くアピールしています。
しかし、アベノミクスのインフレ政策で、物価は3%台後半と大幅上昇しています。今回の目安は加重平均で2.09%のアップとなりますが、これでは物価上昇に呑み込まれて、実質マイナスの改定です。
また、「雇用戦略対話合意」によって、速やかに到達すべきとされた800円水準をクリアした地方は1増の4都府県にとどまり、700円台は26道府県、600円台は、なお17県もあります。合意目標からみても、この10年で最高の改定などと自慢できるようなものではなく、わずかな改善と言わざるを得ません。
なによりも注意すべきは、目安通りの改定となれば、最高と最低の格差が現在の205円から211円へとさらに広がってしまう点です。「賃金格差が人を流出させ、地方の市町村は消滅の危機に直面している」という地方の声が、反映されたもととは到底言えません。また、人事院が公務員賃金の地域格差拡大による人件費削減をもくろむ中、今回の目安が悪用される危険性が懸念されます。
目安を受け、各地方最低賃金審議会が、実際の金額改定について本格審議を開始します。今年は、10月1日の施行をめざすようにと、厚労省本省が強く指導をしており、審議日程は短期集中型となっています。全国各地で、地方切り捨ての目安を大きく乗り越える大幅な金額改定を決断するよう最賃審議会に強く迫る集中した取り組みを展開して行きましょう。
〜目安審議会における、労使の意見。公益見解〜
山場の第4回目安小委員会は、28日10時から開催され、当初は深夜には決着すると見込まれていましたが、29日へと日付が変わっても金額の隔たりが大きく、午前2時にいったん休会されました。
翌日も小委員会は続き、本審議会の開催は予定の15時よりも5時間遅い20時過ぎ。大臣会見予定は、2度の延期の末、取りやめとなりました。より強く抵抗していたのは使用者側で、「答申文章の中に、地方は目安を上回っても、下回ってもいいと書くべき」と主張し、それでは、なんのための目安なのかと公益が怒りだすという場面もあったようです。
例年のことですが、労使の意見の隔たりは大きく、公益委員の見解をもって、大臣に答申し、目安とされました。目安小委員会報告にまとめられた、労使委員それぞれの意見は、以下の通りです。
◇労働者側見解
(1)各ランク区分ともに昨年を上回る目安額となること(2)マクロの経済成長が所得向上に反映されること(3)組織労働者の賃上げが最低賃金にも反映されること(4)生活保護とのかい離解消は単年度でおこなわれること(5)足下の物価上昇について議論を深めることが必要であるとし、特にC・Dランクの本来あるべき水準を加味した審議を行うべきと強く主張した。
しかしながら、賃金改定状況調査が重視され、その賃金上昇率での引上げ議論が中心となっている。賃金上昇率を重視することは、「生活できる賃金」「ナショナルミニマムとしての水準」議論を深化させることにはつながらない。これまでの「成長力底上げ戦略円卓会議合意」や「雇用戦略対話合意」を踏まえつつ、審議会として最低賃金の適切な水準や、それへの実現に向けた目安審議の在り方について、議論を深化させるべきであると主張した。
労働者側委員としては、上記主張が十分に考慮されずに取りまとめられた公益委員見解については、受け入れられないと表明した。
◇使用者側見解
企業の経営環境は、安倍政権の経済政策によって、総じて改善してきているが、中小企業・小規模事業者では、円安による原材料価格や燃料費の高騰などによるコスト増や、人手不足による人件費の増大への対応に苦慮していることに加えて、取引先企業の海外進出による受注の減少や、地域における人口減少などのマイナス要因もあり、景況感に大きな改善がみられるまでには至っていない。このような現状を踏まえると、中小企業・小規模事業者の活力を削ぐような事態を招くことになれば、地域の雇用・経済に深刻な悪影響を与えることになると主張した。
過去5年間にわたって、生活保護との乖離解消や、生産性と関係なく引上げを最優先する審議が続いたことにより、大幅かつ急激な引上げが続いてきた。その結果、影響率も上昇し、最低賃金の引き上げが企業経営に与えるインパクトが従来以上に高まっていると主張した。
賃金水準の引き上げは生産性向上に裏付けられた付加価値の増加を伴うものでなければならない。ベアに相当する最低賃金の引上げは、生産性向上とセットで考えるべきである。したがって、中小企業・小規模事業者に対する生産性向上のための政府の支援策の成果が生産性の上昇という明確な形で認められることが大変重要であり、十分な生産性の上昇が確認できないまま、最低賃金の大幅な引上げだけが求められることになれば、引上げの具体的な根拠が説明できない目安を地方最低賃金審議会に示すことになる。そうなれば、地方での審議において大きな混乱を招くことになり、ひいては、目安そのものに対する信頼が失われることになりかねかにと主張した。
また、生活保護水準との乖離解消については、これまでのルールに則って、今年度も着実に取り組むべきと主張した。
消費税引上げについては、規模が小さい事業者ほど価格転嫁が出来ておらず、経営を圧迫しているという実態がある。また、中小企業の景況感についても、先行き不透明な状況が続いており、地方の中小企業からは、人手不足のために、生産・営業活動を抑制しているという声もあり、自社の支払い能力を超える引上げの目安を示すことは、雇用への悪影響だけでなく、事業の存続を危うくする。売上はあっても利益が出ていないというのが、多くの中小企業・小規模事業者の現状である。この状況が続けば、企業としてもいずれ人件費や人員の削減といった手段を選択せざるを得ないと主張した。
今年度のランク別の目安については、「法の原則」である、地域における労働者の生計費、賃金及び通常の事業の支払い能力の3要素を総合的に表している「賃金改定状況調査結果」の特に第4表のデータを重視した審議を行うとともに、最低賃金の張り付き状況などを踏まえた、ランクごとの実態を反映した目安とすべきである。なお、第4表は消費税率の引き上げに伴う物価上昇分も踏まえ、個々の中小企業・小規模事業者が決定した賃上げ結果を集約したものであるので、第4表の数値に基づいた審議を行うことが何よりも重要であると主張した。
使用者側委員としては、上記主張が十分に考慮されずに下記1及び2の公益委員見解が取りまとめられることについて、不満の意を表明した。
◇公益委員見解(要約)
平成23年の「目安全員協議会」で合意された、「目安審議のあり方」にしたがって審議をした。政府の骨太方針と成長戦略に特段の配慮をし、最新のデータに基づいて過年度との比較を行い、情勢を検討した。実際の賃金分布との関係などにも配慮しつつ、上記にあるような労使の見解や、そこに働く労働者の労働条件の改善の必要性に関する意見などにも表れた諸般の事情を総合的に勘案して、A19円、B15円、C14円、D13円といった公益委員見解をまとめた。
あわせて、公益委員は、政府において、骨太方針及び成長戦略に掲げられた中小企業・小規模事業者の生産性向上をはじめとする支援策等に引き続き取り組むことを強く要望する。公契約では年度途中の最賃改定で支障が生じないように、発注時に特段の配慮を要請する。
〜地域格差をなくし、生活できる最低賃金に!〜
全労連・国民春闘共闘は、「目安」答申に先立ち、厚生労働省前・中央最低賃金審議会包囲行動を実施しました。同日最終日をむかえた全労連第27回定期大会終了後の行動ということもあり、秋田、大阪、兵庫、愛媛など地方の仲間も結集。約50人が参加し、地域格差をなくし、大幅な引上げ「目安」を示すよう訴えました。
参加者からは、「募集時給調査を行っているが、コンビニでの募集が平均668円と最も低く、愛媛の最低賃金を2円上回るに止まっている。大手大資本が最低賃金にへばりつく賃金で労働者を働かせている」(愛媛県労連・竹下事務局長)、「医療・介護の職場は低賃金で、介護職の仲間の賃金は、全労働者の平均賃金よりも9万円も低くなっている。その上、4月からは消費税が増税され、最低賃金が100円も200円も上がらなければ、生活は立ち行かなくなる」(日本医労連・原副委員長)「大阪では、31日に意見陳述が行われる予定となっている。最低賃金審議会に合わせ181分の(1,000円−819円・大阪最低賃金)の座り込みを行い、大幅引上げ実施を求めていく」(大阪労連・嘉満幹事)、「人事院勧告と最低賃金は密接に関わっている。公務員『給与制度の総合的見直し』で狙われている一つが、47都道府県のうち、民間賃金の低い12県の民間賃金に公務員賃金を合わせるというもので、その12県はいずれも最低賃金Dランクだ。賃金の地域格差をなくすためにも、全国一律の最低賃金制度の確立と『給与制度の総合的見直し』を許さないたたかいに奮闘していく」(国公労連・九後書記次長)など次々と発言が続きました。