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国旗 世界の労働者のたたかい
中国
2004

 2003年の中国は6月末までの半年間、新型肺炎(SARS)が全国で猛威を振るい、その渦中の3月に全国人民代表大会(国会に相当)で国家主席に選出された胡錦濤氏ら新指導部に厳しい試練をもたらした。
 この疫病とのたたかいでは、医療システムの欠陥だけでなく、官僚主義的な隠蔽体質などによる対応の手遅れのため、南から北へと広範囲の蔓延を招き、禍の傷口を大きくした体制的弱点が浮き彫りになった。
 さらに基本的な問題点として、市場経済のもとでGDP(国内総生産)を一面的に追求するあまり、庶民の健康や生命の安全など人権を軽視するこれまでの社会的傾向への反省が、新型肺炎の厳しい体験を機に出始めたことが指摘される。
  新華社(国営の通信社)発行の半月刊誌『半月談』03年11号(6月10日付)は、巻頭に「生命第一」と題する論評を掲載し「われわれが追求する経済成長は、人間を基本とする成長」でなければならず、「貧富、強弱を問わず一人一人の生命はみな平等」だと主張した。 この観点は、党や政府の方針に反映され、03年10月の中国共産党16期3中総では、「社会主義市場経済体制整備の主要任務」の一環として「人間本位を堅持し、全面的、協調的、持続可能な発展観を樹立し、経済・社会と人の全面的発展を促す」ことが確認された。
 03年の中国経済は、新型肺炎のダメージを被りながら、GDPが11兆6694億元(1元は約14円)で前年比9.1%増(目標は7%)、国民1人当たりで1000ドルの大台に乗るという大きな成果を上げた(04年2月26日の国家統計局発表−新華社電)。
 しかし、そのもとで、貧富の格差、都市と農村の所得格差、失業、就職難など、社会矛盾がいっそう激化している。ここに、「人間本位」という新しい「発展観」が提起されるに至った現実の一端がある。
 新華社が主宰する週刊誌『瞭望』03年51号(12月22日付)によると、都市住民間でも、可処分所得の最高、最低のグループ格差は02年の5.2対1から、03年には5.4対1に拡大。また都市住民1人当たり可処分所得の伸びが03年1〜12月には9.0%だったのに対し、農民1人当たりの純収入の伸びは4.3%にすぎなかった。
  同じく『瞭望』誌04年1号(1月5日付)によると、中国の貧困人口は、世界銀行の基準(収入が1人当たり1日1ドル以下)を当てはめると、購買力平価で換算し1人当たり年収が865元以下ということになり、この階層は総人口13億のうち9000万人以上に達する。このほか、援助が必要な身体障害者約6000万、最低生活保障金を受給している都市住民が約2300万人となっている。

労働問題

 労働問題については、温家宝首相が03年3月の全国人民代表大会閉幕後の記者会見で「中国の労働力は7億4000万人だが、毎年新たに1000万の労働力が増える。一時帰休と失業は約1400万人である。都市に出稼ぎに来る農民は1億2000万人の水準が続いている。中国は巨大な就業負担を抱えている」(人民日報3月19日付)と率直に語っていた。
 労働・社会保障省の統計数字によると、「03年の新規就職者は859万人、一時帰休・失業者の再就職400万人」で、中央が定めた目標を達成し、年末の全国都市部登録失業率は4・3%前後で、目標数字(4・5%)を下回ったとされている。
 同時に、04年は「任務がいっそう厳しい」として、「新規就職900万人、一時帰休・失業者の再就職500万人、都市部の登録失業率4.7%に抑える」という年度目標を打ち出している。
 社会保障制度については、企業・事業体から独立した全国的なシステムづくりが進み、03年11月末現在の全国加入者が、基本年金保険1億5351万人、失業保険1億0290万人、基本医療保険1億0647万人に達した(新華社電)。しかし、これらは都市部が主で、農村でも新型肺炎の経験などから必要性が強調されながら、ほとんど白紙の状態で、システムづくりは今後の課題となっている。
 新華社電によると、11月に開催された党・政府の「中央経済工作会議」では、前記の16期3中総の決定を受けて「人間本位を堅持し、人民の利益を第一にすえること」を「人民のための執政の根本的要求」と位置づけ、労働問題で次のような方針を提起した。
 「労働者が自主的に仕事を選び、市場が雇用を調節し、政府が雇用を促進する方針を堅持し、起業と就業の環境改善に努力し、中央が決めた就職と再就職促進の諸政策・措置を真剣に実施する」
 「社会保障制度の整備を急ぎ、『二つの確保』(国有企業一時帰休者の基本的生活と退職者年金の期日どおりの全額支給の保証)に取り組み、失業保険と都市住民の最低生活保障制度の実施に力を入れ、『三つの保障ライン』(年金保険、失業保険、都市住民最低生活保障)をうまくつなげる」

全国労組大会の開催

 中華全国総工会は、03年9月22日から26日まで北京で「中国労働組合第14回全国代表大会」を開催した。
 総工会は、1925年に設立された労働組合の全国連合体で、5年ごとに「全国労働組合大会」を開くことになっている。中国の末端労組の数は、02年末現在で、5年前の51万から171万、組合員総数は同じく9000万人から1億3400人へと大幅に増加し、ともに過去最高を記録した。
 この大会には、正式代表1679人、特別招請代表252人が参加、前大会いらいの活動を総括し、それ以後5年間の方針を討議した。
 新華社電によると、総工会の王兆国主席(党政治局員)は、活動報告のなかで、「広範な労働者を結集して、改革・建設事業に貢献した」成果を指摘するとともに、活動の不十分な点として(1)労働者の合法的権利と利益を保護する活動は依然として多くの困難に直面している(2)労組づくり、とくに民間企業従業員、都市部の出稼ぎ労働者を労組に加入させる任務は依然として重い(3)一部末端労組の活動を強化する必要がある、と強調した。
 こうして、大会は「働く人びとの利益の擁護」という労組本来の任務をいっそう前面に押し出した。それは何よりも規約の改定に示された。 旧規約の「中国の労働組合の主要な社会的機能は労働者・職員の適法な権益」を「守ることである」という規定の「主要な社会的機能」が「基本的職責」と改められたことである。
 このような点にも、党が強調し始めた「人間本位」を堅持した「発展観」の反映が見られる。
 大会は、中華全国総工会の主席に王兆国氏、第一書記に張俊九氏をそれぞれ再選した。
 大会終了後、総工会の新指導者らとの座談会で、胡錦濤主席は、「誠心誠意、労働者大衆に奉仕し、広範な労働者・職員大衆の利益を図り、守ること」を「あらゆる活動の出発点、立脚点」とすべきことを強調した。
 胡主席はさらに「熱い思いで労働者・職員のために良いことをし、難しいことを解決し、とくに困難のある労働者・職員の心配、困難を解消すること」「非公有制企業・事業体の労組結成に力を入れること」「都市の出稼ぎ労働者の合法的権益を確実に守ること」に努めるよう促した。

出稼ぎ労働者の権利擁護

 農村から都市に流入する1億2000万(温家宝発言による)の出稼ぎ労働者は、現在では中国の近代化建設を支える事実上の主力になっている。ところが、これらの人びとの生活と権利が無視され、不満の声が渦巻いていた。出稼ぎ労働者は、往々にして平等な立場で労働契約を結ぶことができず、賃金の支払いも1年1回という例さえあった。
 「出稼ぎ労働者の賃金の未払い額は約1000億元に達している可能性があり、業種は主として建設業、飲食・サービス業で、建設業が未払い案件の70%を占めている」(『瞭望』誌51号2003年12月22日)。
 こうした流れのなかで、中国労働・社会保障省と建設省は03年10月、建設企業の出稼ぎ労働者への賃金未払い、ピンはね問題を解決するよう合同の通達を出し、その結果、04年1月17日現在で「過去数年の出稼ぎ農民の未払い給与215億元が支払われ(清算率68%)、うち2003年に生じた未払いは89%が清算された」(新華社電)。
 曽培炎副首相は04年1月2日「3800万人の建設労働者の80%以上が農民労働者で、清算活動が農民の収入と生活水準の向上に直接影響する」と指摘。また、総工会は労働者の賃金支払いについて法制化するよう中央政府に要請した。総工会は「現行法の『故意の賃金支払い遅延を避ける』との規定では不十分だとし、@雇用者と出稼ぎ労働者は月または週単位で賃金の支払いを受けるA支払い遅延は労組の合意を条件とし最長2週間以内とするB違反の罰則規定を設けるーを新法に加えるよう要求した」(「しんぶん赤旗」04年1月4日付)
 党と政府への協力を基本的立場としてきた総工会が、政府に要求する新しい姿勢を見せていることが注目される。
 農村から都市への人口移動抑制のため長年設けられていた「農業と非農業の戸籍区分」制度も数年来崩れつつあり、「都市・農村の統一戸籍」へ向かう改革が進んでいる。
 戸籍制限の緩和により家族を伴って出稼ぎに来る労働者が増加し、都市での住宅や子女教育など、生活条件上の要求も際立っている。教育問題では03年9月、政府が関係省庁を通じて通達を出し、各都市当局がその地域の水準に沿った義務教育を出稼ぎ労働者の子女に施すよう指示した(人民日報04年1月15日付)。

労働災害とのたたかい

 中国では、生産現場での労働災害が依然多発し、安全対策の改善が働く人びとの強い要求となっている。
 国家安全生産監督管理局の王顕政局長は、03年9月2日次のように述べた(新華社電)。
 「中国の安全生産の基礎は比較的弱く、状況は依然として厳しい。事故による死傷者数は多く、減っていない。1日平均360人余りが各種の事故で死亡している」
 「大規模事故が有効に抑えられておらず、死者30人以上の大事故は年平均15件起き、主に炭鉱と道路交通に集中している」
 「炭鉱事故の死者は毎年1万人近くに達しているが、02年は石炭生産が大幅に増えるなかで6557人に減った」
 「職業病もかなり突出し、毎年新たな塵肺患者は1万人以上に達し、5000人前後が死亡している」
 王局長はこれについて「有効な措置をとって先進国との格差を早期に縮め、大事故を抑え、鉱工業企業の事故件数を年々減らさなければならない」と強調した。
 炭鉱事故については、同管理局の梁嘉昆副局長が03年10月23日、「中国の2万6000近い炭鉱のうち、2万は非公有の郷・鎮炭鉱で、これらが毎年の炭鉱事故の70%近くを占め、しかもその80%が重大事故である」と説明、「炭鉱の安全にまだ根本的改善は見られない。事故の70〜80%はガス事故である。また炭鉱の80%が小型炭鉱で、生産方法が遅れ、事故が多い」と語ったうえで、「違法な小型炭鉱の閉鎖」など、安全対策を強化し、「07年までに炭鉱事故による死者を年間5000人以下に減らす」と指摘した(新華社電)。
 03年の企業事故として最大だったのは、12月23日、重慶市北東部の開県で発生した天然ガス田噴出事故で、死者243人、中毒者約1万人という大惨事となった。調査の結果、事故は不可抗力ではなく、安全管理上の過失によるものと判定され、04年1月、現場責任者と技術者合わせて3人が逮捕された。
 労働者の権利の制度面では、03年9月に「労災認定規則」が制定され、04年1月から実施に移された。職場で労災が生じたさい、速やかに関係官庁に届け措置を講じるよう企業に義務づけたものである。(平井潤一)