マレーシアの2003年第2四半期(4〜6月)の実質国内総生産(GDP)成長率は4.4%を記録した。同年第1四半期の成長率も4.6%と上方修正され、これで03年上半期の実質GDP成長率は4.5%となり、前年同期の2.6%をかなり上回った。03年第2四半期はSARS(新型肺炎)の影響を最も大きく受け、サービス部門は特に振るわなかったものの、農業、鉱業両部門の高い伸びが全体のGDPを牽引し、製造業も6.5%の伸びを記録。景気が回復基調にあることを示した。
こうした経済情勢の中で、マレーシア労働組合会議(MTUC)が、全産業を対象にした月額900リンギの最低賃金を法制化するよう政府に要求している。従業員積立基金(EPF)が02年のEPF配当率を4.25%という過去40年間で最低の率に引き下げたため、労働者の失望と不満が高まり、MTUCは全国的な抗議活動をすすめた。
MTUCは、政府が電子産業部門での産別労組の組織化を認めていないことに抗議して、ILOに不服申し立てをおこなった。
米国のイラク武力攻撃に対し、マハティール首相がいち早く反対を表明、大衆的なイラク反戦運動がマレーシアでも展開された。
■MTUC、最低賃金900リンギを要求
マレーシア労働組合会議(MTUC)は2003年5月1日のメーデー集会で、全産業を対象に月額900リンギ(1ドル=3.8リンギ)の最低賃金を法制化するよう政府に要求した。
MTUCのランパック委員長によると、多くの労働者が今なお月額500リンギ以下の低賃金に甘んじており、上昇し続ける生活費に照らしても不当に低く、政府がこのまま何も対策を講じなければ、貧困撲滅の国家的プロジェクトは挫折し、逆に貧困層が増加することになりかねない。こうした見方からMTUCは、政府がとるべき対策として、月額900リンギの全国最低賃金を法制化することを強く政府に要求した。
MTUCはこれまでも、現在4業種に限って最低賃金の設定を定めている1947年賃金評議会法を改正して、全部門の低賃金労働者を適用対象とする最低賃金制の確立を要求。2000年には、MTUCの算定により最低生活費として必要とされる月額900リンギという具体的な最低賃金額を提示し、その法制化を求めてきた。
ちなみに、1947年賃金評議会法では、使用者との賃金交渉の主体である労働組合を組織することが困難な業種について賃金評議会を設置し、これに最低賃金を設定する権限を与えることを定めており、適用対象は(1)配膳・ホテル業、(2)店員、(3)映画館従業員、(4)船荷積み下ろし労働者、の4業種に限られている。
■従業員積立基金の配当率低下に労組が抗議
従業員積立基金(EPF)は2003年4月18日、02年のEPF配当率を4.25%と発表した。前年の5%をさらに下回り、過去40年間で最低となった。労働者側は経済の回復基調のもとで昨年を上回る配当率を期待していただけに、失望と不満は大きく、マレーシア労働組合会議(MTUC)は全国的な抗議活動を宣言した。
EPFは日本の厚生年金制度に相当するもので、1951年従業員積立基金法に基づき労使双方に掛金の拠出を義務づけている。拠出率は、従業員が月給の9〜11%、使用者が同12%となっている。加入者には、(1)退職後年金向け、(2)住宅購入・住宅ローン返済資金向け、(3)医療費向け―の3種類の用途別口座が用意されており、毎月の掛金はそれぞれ60、30、10%の割合で各口座に積み立てられる。
積立金はマレーシア政府債、短期金融市場取引手段、貸付・債券、株式などで運用され、配当率はその運用状況で決まる。02年の総収入は107.5億リンギで、ここから基金運営費などを差し引いたあとの純収入は77.8億リンギ。これが1,030万人の加入者に配当される。
02年の配当率は4.25%で、前年の5%から0.75ポイントも低下した。配当率が4%台になったのは1963年以来初めてであり、高度成長を背景に8%台の配当率を維持していた1980年〜90年代半ばに比べてほぼ半分に低下したことになる。
配当率の低下傾向はこの数年特に顕著で、労働者の不満はうっ積していたが、今回、5%という心理的な最低ラインを下回ったことで、労働者の中に深い失望感と不満がいっきょに広がった。MTUCは5月1日のメーデー集会で、EPF配当率低下に抗議して、5月21日に全国のEPF事務所の前でピケットを展開することを宣言。政府に対し、最低5%の配当率を保証するよう要求した。
■産別組合非承認に抗議してILOに不服申立
マレーシア労働組合会議(MTUC)は2003年9月、政府が一部の産業部門について産業別労働組合を結成することを認めないことに抗議して、国際労働機関(ILO)に不服申立をおこなった。
MTUCのラジャセカラン書記長によると、マレーシアはILOのメンバー国であり、政府は結社の自由を定めたILO条約第87号を1998年に批准したにもかかわらず、10万人の労働者がいる電子産業に関しては、産別組合の結成をいまだに認めていない。政府は現在、同産業では企業別組合の結成だけしか認めておらず、産別組合については過去30年間にわたって認めてこなかった。
その歴史的経過をみると、マレーシア政府は1970年代に入り、経済発展戦略をそれまでの輸入代替型から輸出志向型へと転換するに当たり、外資導入策を採用し、これを促進するための外資優遇措置の一つとして、労働関係面では組合結成を禁止するなどの措置を外資に認めた。1970年にアメリカ資本が最初に進出してきた電子産業では、マレーシア電機産業労働組合が電子産業での組織化に乗り出したが、電機産業と電子産業は労働組合法が組織化を認めている「同種の産業」には該当しないとの理由で、政府は電機産業労組による電子部門での組織化を認めず、最終的に最高裁判所でも組合側の主張は認められなかった。組合を嫌うアメリカ企業などの外資の進出が阻まれるのを恐れたためであった。
そこで今回、MTUCは、マレーシア政府が長年にわたり労組結成に制限を課し続け、労働者の権利を侵害しているとの不服申立をILOに対しておこなった。不服申立の本文は5ページだが、権利侵害とILO条約違反を裏付けるケーススタディについては100ページにも及んでいる。これに対して政府は、事実無根だとしてMTUCの今回の行動に遺憾の意を表明した。
■イラク戦争反対運動
マハティール首相は2月6日、イラク問題の解決は国連に任せられるべきだとのべ、「戦争は紛争の解決にならない」として、米国などが計画している対イラク戦争に反対を表明した。
マレーシアの華人系をはじめとするNGOが中心となって、イラク戦争反対100万人署名運動が展開され、2月8日までに50万人の署名が集められた。
2月15日の「対イラク戦争反対国際行動デー」に、首都クアラルンプールでは米大使館前で1,000人がイラク武力攻撃反対のデモをおこなった。
3月14日、クアラルンプール中心部にあるモスクの前で米国のイラク攻撃に反対するデモがおこなわれた。最大野党の全マレーシア・イスラム党(PAS)が中心となって呼びかけたもので、約2,000人が集まり、反米スローガンを叫んだり星条旗を燃やしたりしてイラク攻撃反対を訴えた。
3月20日、米英によるイラク武力攻撃開始についてアブドラ首相代行がテレビで演説し、攻撃を「歴史の汚点」、「国際政治で危険な前例をつくった」と批判した。
3月21日、マハティール首相は、米国によるイラク攻撃に断固として反対すると言明し、国連を無視した米国の行動は紛争解決の国際的システムを破壊したものだと指摘した。(小森良夫)
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