概 況
韓国労働省の発表によると、2004年の国内総生産ベースの経済成長率は4.6%(前年3.1%)、失業者数は81万3000人(同77万7000人)、失業率は4.0%(同3.4%)、消費者物価上昇率は3.6%(同3.6%)、実質平均賃金は196万6000ウォン(約19万円、同192万2000ウォン)、実質賃金上昇率は5.7%(同4.9%)だった。
15−29歳の失業率が7.9%と平均の2倍くに達し、青年雇用問題の深刻さは変わっていない。就業者数に占めるパートタイマーなどの非正社員(非正規職)の比率は48.8%で、1997年の経済危機以降を受けて労働市場の弾力化が進むなか、99年以降50%前後を保っており、不安定な雇用状況が続いている。
賃金格差は、学歴でみると大卒以上が高卒以下の1.52倍(03年)、性別は男性が女性の1.62倍(04年)、企業の規模別では従業員500人以上の労働者が従業員5−9人の労働者の2.03倍(同)となっている。大企業と零細企業の賃金格差は年々広がっている。
週あたりの労働時間は45.4時間で年々微減している。
労働争議の発生件数は462件(前年320件)に急増した。03年に週休二日が法制化され大企業で導入が始まったこと、非正規職の保護法案が発表されたことを受け、労働条件改善と労働時間短縮を求める争議が増加した結果だ。
労組組織率は03年末現在で11.0%。組織対象労働者は1414万4000人で、このうち穏健派とされる韓国労働組合総連盟(韓国労総)が83万1660人、労働者の階級性を重視する全国民主労働組合総連盟(民主労総)が67万3880人、上級団体未加盟が4万4409人となっている。組織率は、87年以前の軍事政権下で韓国労総のみが認められていた時期を除くと、90年の19.08%を最高に低下しつづけている。
■ 労働者政党の国会進出
04年4月15日の国会議員(定数299)総選挙で、民主労総を最大の支持母体とする民主労働党(2000年結党)が10議席を獲得し、国会に初めて進出し第三党となった。同党綱領は「資本主義体制を乗り越え、すべての人間が人間らしく生きる平等と解放の新しい世の中」「社会主義的思想と原則を継承・発展させ、新しい解放の共同体」をつくるとしている。61年の軍事クーデター以来、左派政党の初の国会進出となる出来事だった。
一方、韓国労総は民主労総に対抗し02年に韓国社会民主党の結党を主導。同党04年2月に緑色平和党と統合し緑色社民党として総選挙に臨んだが、得票率0.5%、当選者ゼロと惨敗し、解党した。
7月15日の民主労働党の臨時党大会で、韓国労総の李龍得委員長は「民主労働党とともに歩んでゆく」と宣言し、組合員の同党入党を推進していく考えを示した。
党大会は04年後半の闘争課題として▽イラク派兵計画の阻止▽コメ市場開放阻止と食料主権の死守▽国家保安法の撤廃▽南北交流の活性化▽非正規職労働者の基本権確立、を掲げた。
■ 韓国労総と民主労総の協力、労使政の対話
民主労総は1月16日の代議員大会で、全国教職員労働組合委員長の李秀浩氏を委員長に選出した。李秀浩氏は段炳浩・前委員長の強硬闘争路線と一線を画し、「闘争と対話」を掲げた。新指導部は、前指導部が闘争手段としてゼネストを多用しながら、組合員の実際のスト参加率が低調だったことを反省し、「準備された闘争」を主張するとともに、政府、使用者側との対話にも取り組む姿勢を示した。
6月4日、民主労総は99年に労使政委員会を脱退して以来5年ぶりに政府、使用者側との対話の場についた。同日と7月5日、民主労総、韓国労総、韓国経営者総協会、大韓商工会議所、政府(労相)、労使政委員会委員長の6者会合が開かれ、労使政委員会の役割強化を論議した。労使政委員会は97年の経済危機後に、労働法改定などを論議するために設置された協議機関。今後の運営にあたっては、労組側が「委員会を実質的な社会的交渉機構とし、議題は経済、社会、産業政策などに拡大すべきだ」と主張し、一方の経営側は「委員会は諮問機関とし、合意ではなく協議機構と位置づけ、議題は労働問題にしぼるべきだ」との姿勢を崩さなかった。
8月6日に開かれる予定だった第3回会合は、民主労総がソウル地下鉄労組のストに対する労働委員会の職権仲裁で「信頼関係が崩れた」とし、参加を見送ったため、中断したままとなっている。このため、民主労総の労使政委員会復帰のめどは立っていない。
韓国労総は5月25日の代議員大会で、全国金融産業労働組合委員長の李龍得氏を新委員長に選出した。李龍得氏は民主労総との「競争的協力」を主張している。
韓国労総が12月に発表した内部調査によると、組合員の75.6%が民主労総との統合に賛成している。政治方針でも、民主労総が支援する民主労働党へ参加が33%で、独自政党結党の23.6%を上回っている。
9月22日、両委員長は04年後半の共闘に合意した。闘争課題は▽非正規職保護法▽公務員の労働基本権保障▽日韓・韓国−チリ自由貿易協定(FTA)阻止▽11月の全国労働者大会共催−などだった。
11月14日、約6万人が参加した民主労総主催の全国労働者大会に韓国労総委員長として初めて李龍得委員長が参加。21日には韓国労総主催の全国労働者大会が約3万人の参加で開催され、民主労総委員長として初めて李秀浩委員長が参加し演説した。
■ 非正規職労働者保護法をめぐるたたかい
政府は11月2日、派遣勤労者保護法改定案、労働委員会法改定案を閣議決定した。派遣労働制をほぼ全業種に拡大し、期間を最大2年から3年に延長する一方、「不合理な差別を禁じる」とする内容だった。
労組は「非正規職拡大法案」だと反発し、民主労総傘下の全国建設産業労組連盟に所属する非正規職労働者らが9月16日から22日まで、与党「開かれたウリ党」議長室を占拠、ろう城し法案撤回を求めた。
韓国労総は国会近くでの座り込み闘争に入り、民主労総は11月26日に時限ストを行った。民主労総は法案が可決されれば12月2日に全国ストを決行すると宣言。労組の強い反発で、国会の審議も慎重になり、採決されないまま年を越した。
社団法人「韓国非正規センター」の報告書は、改定法が施行されたとしても非正規職の賃金は約4%の上昇しか見込まれないと指摘し、むしろ非正規職を正社員に転換した方が生産性上昇を期待できる上、消費を増やすなどの社会的利益があるとしている。
■ 公務員労組合法化
国会は12月31日、公務員労組を41年ぶりに合法化する公務員労組法を可決した。団結権と団体交渉権は認める一方、争議権は認めず、軍人、警察官、消防署員、外交官などの労組は引き続き禁止している。韓国の公務員労組は、朴正熙軍事独裁政権下の63年に禁止されていた。
公務員労組合法化のたたかいは、02年3月に民主労総傘下の全国公務員労組(全公労)と韓国労総傘下の大韓民国公務員労組(韓公労)が結成され、労働3権の全面保障を求めてきた。数次にわたるストを決行した全公労では、解雇された組合員も少なくない。
今回の法成立に向けても、全公労は11月15日から17日まで全国ストを決行し、4万5000人が参加したと発表した。政府はスト参加者全員の懲戒方針を決め、罷免184人、解任190人、停職637人などの大規模な処分が行われた。
■ 初の産別スト、産別団体
民主労総傘下の産別労組である全国保健医療サービス労組(保健医療労組=約3万7000人)は6月22日、大韓病院協会との労使協定に署名した。同月10日からのストをたたかった成果で、「韓国初の産別ストと産別協定」と評価された。
協定は▽週休2日制の導入▽非正規職の段階的な正職員化▽非正規職への健康保険、国民年金、労災保険、雇用保険の全面適用▽労働者の平均賃金(労働省統計による)の40%を産別最低賃金と規定▽「患者の権利章典」作成と履行−を明記した。
労使はそれぞれ「初の産別交渉で労使双方が最善を尽くした」「患者に対する人格的な待遇と最善の治療、患者の知る権利保障、個人情報の秘密保護、必要十分な医療サービスの提供などを含む『患者の権利章典』に合意した」(保健医療労組)、「産別交渉の種を保健医療労組が蒔いたと評価する。今回の交渉を教訓に、今後の労使関係が共生の段階に高まるよう期待する」(大韓病院協会)との談話を発表した。
保健医療労組は協定署名にあたって声明を発表し、「非正規職労働者と労働組合のない未組織労働者にも責任を持つ全産業的闘争、労働者間の差別をなくし連帯を強化するための階級的闘争の典型をつくった」と意義を強調した。(面川 誠)
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