■ 最低賃金3年連続引上げ ― 労組の積極的要求実る
タイの法定最低賃金が、2004年1月に引き上げられたのに続き、05年1月からも新たに引き上げられることになった。03年1月の改定以来3年連続の最賃引き上げとなる。
タイの現行最低賃金制では、最低賃金は各県(1都76県)の政労使3者構成の賃金委員会で決定される。中央賃金委員会が定める基準値を下回らないかぎりにおいて、独自の賃金額を策定できる。各県の原案は閣議での承認を経て正式の決定となる。
まず04年1月1日から実施された新法定最低賃金額(日額)についてみると、引き上げ額は1〜5バーツで、1都(バンコク首都圏)47県で実施された。最大の引き上げとなったのはサムット・ソンクラン県で、5バーツ引き上げて138バーツとなった。最低賃金が最も高い地域は日額170バーツで、バンコク首都圏、ナコンパトム、サムットプラカン、パトゥンタニ、ノンタブリの各県(いずれも1バーツの引き上げ)、最も低い地域では日額133バーツで北部、東北部に集中している。日系企業も多く存在する中部、東部の工業団地帯は、03年に5バーツ程度の大幅な引き上げをおこなっていたため、04年には2〜3バーツ程度の引き上げにとどまった。チェンライ、パヤオ、スリン、マハサラカム、メーホンソン、ヤソトン、ウボンラチャタニ、プレー、ナンなどの各県では据え置きとなった。
次に、05年の最低賃金引き上げについては、各県の賃金委員会から提出された引き上げ額原案を受けて、中央賃金委員会が04年9月23日、全国1都76県の最低賃金額を2〜5バーツ引き上げることを決定、閣議の承認を受けて05年1月1日から実施されることになった。各県別の05年最低賃金引き上げ額を例示するとおよそ別表のとおりである。
なお、最低賃金が最も低い北部や東北部のチェンライ、メーホンソン、スリン、ウボンラチャタニなど9県では、133バーツから2バーツ引き上げて135バーツになる。
05年最賃改定の重要な特徴は、全国すべての県(1都76県)で洩れなく最低賃金の引き上げが実施されることである。03年1月に最賃が引き上げられた県は1都31県、04年は1都47県であった。
最低賃金3年連続引き上げと05年最賃の全県での引き上げという今回の重要な成果は、タイの労働者と労働組合の一貫した積極的な最賃要求運動によってかちとられたものである。タイの最低賃金は金融危機後の1998年に凍結されて以来3年間据え置かれ、01年1月に4年ぶりに引き上げられたものの、その上げ幅は労組側の要求をはるかに下回るものだった。しかも02年にはまたしても引き上げが見送られ、03年1月に漸く1都31県で日額1〜8バーツの引き上げが実施された。こうした厳しい過去の経験をふまえ、タイの労働者と労働組合は最低賃金の大幅引き上げを求めて対政府要求運動をねばり強くすすめてきた。05年最賃についても、労働組合側は、生活費の高騰を理由に、すべての県において最低賃金を200バーツに引き上げよという積極的要求を、中央・地方の賃金委員会に提示してたたかってきた。今回の成果はこうした要求運動の前進が実を結んだものといえる。
2005年県別最低賃金引上げ額(日額)
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県 名
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04年
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05年
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増減
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バンコク首都圏 |
170
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175
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+5
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ノンチャブリ県 |
170
|
173
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+3
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アユタヤ県 |
142
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145
|
+3
|
チャイナット県 |
135
|
137
|
+2
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ロッブリー県 |
136
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140
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+4
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スパンブリ県 |
136
|
138
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+2
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サラブリ県 |
151
|
154
|
+3
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パトンタニ県 |
170
|
175
|
+5
|
チョンブリ県 |
153
|
157
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+4
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アントン県 |
138
|
140
|
+2
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単位:バーツ(1バーツ=約2.66円)
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■ 国営企業民営化、労組の強い反対で進まず
タイ政府は、1997年に同国から始まったアジア経済危機以後、国際通貨基金(IMF)の指示を受けて国営企業の民営化をおしすすめようとしてきたが、国営企業の労働者と労働組合の強力な反対運動によって民営化計画は進捗していない。
04年1月、政府は06年までに国営企業12社を民営化してタイ証券取引所に上場する計画を発表、その中でタイ発電公団(EGAT)、首都電力公団(MEA)、地方電力公団(PEA)、電話公団(TOT)など6社については04年中に民営化上場を計画していることを明らかにした。
これに対して、かねてから民営化反対闘争を最も強力に展開してきたEGAT労組は、政府の民営化計画案が発表された直後の1月23日から反対運動を実施することを決め、同日、ノンタブリ県にあるEGAT本社に全国から約1万人の労働者が集結し、民営化反対のデモをおこなった。1月25日には公団側が労働者に対して株式上場についての説明会を開催したが、その場で組合員らが激しく抗議をおこない、警官が介入する騒ぎとなった。
当初の政府計画ではEGATは04年5月に株式上場が予定されていた。その株式時価額は3000億バーツにのぼるとみられ、06年までに上場予定の12社全体での株式時価総額5800億バーツの半数以上を占める。政府の民営化計画全体の中でそうした大きな比重を占めるEGATの民営化上場計画は、労働者と労働組合の反対運動によって延期されたままとなった。
こうした労組の民営化反対運動は他の国営企業にも広がり、EGATの関連企業である首都電力公団(MEA)、マスコミ公団(MCOT)、タイ製薬公団(GPO)などでも労働組合の民営化反対運動が盛り上っている。(小森良夫)
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