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国旗 世界の労働者のたたかい
インドネシア
2003

 インドネシアの経済は、世界的な不況による投資の減退などのため2002年の経済成長率は3%程度(国家開発計画局の予測)にとどまった。投資調整局の発表では、2002年上半期の外国直接投資は前年同期比で42%減少し、国内投資も70%減少した。
 景気低迷のもとで高失業が続き、中央統計局が発表した02年8月の失業者数の速報によると失業者数は840万人で、前年同期比で40万人増加した。01年の失業率は8%であったが、このほかに非自発的・自発的半失業者が2,770万人にのぼり、貧困化がすすんでいる。
 1,400億米ドルに達する対外累積債務を抱える中で、政府は国際通貨基金( IMF)が要求する構造調整政策の一環として、国営企業の民営化を推し進めている。
 こうした状況のもとで、02年の労働組合運動では、首都ジャカルタをはじめ各州での州別最低賃金の大幅引き上げ獲得、非常勤医師・研修医の待遇改善闘争、教員の給与改善闘争など、生活防衛闘争が広がった。また、国営企業の売却・民営化に反対する闘争が相次いだ。

2002年の州別最低賃金引き上げ ― ジャカルタ38.7% など各州で大幅アップ

 インドネシアの法定最低賃金(州別最賃)は従来、中央政府によって決定されていたが、2001年に始まった地方分権制のもとで最低賃金の決定権が中央政府から地方政府に移り、各州で独自に最低賃金が決定されることになった。
 この新制度のもとで、まず首都のジャカルタ州で、01年10月31日の州知事の発表により、2002年1月から最低賃金が38.7%引き上げられることになった。これに続いて各州でも最低賃金の大幅引き上げが相次いだ。2001年12月までに各州で決定された02年月額法定最低賃金は別表のとおり。
 なお、ジャカルタ州での最低賃金大幅引き上げに強硬に反対していたインドネシア使用者連盟(Apindo)が、01年11月に国家行政裁判所に対し、使用者側は賃金委員会で合意のサインをしていないので州政府の決定は無効であるとの訴えを提出。これを受けて裁判所は01年12月13日、州別最低賃金に関する州知事令の延期の判決を下したが、労組側の強い抗議とともに、政府側もヤコブ労相が「新最低賃金は政労使の賃金委員会を経て決定した正当なもの」だとして再改定を行わない意向を表明したため、国家行政裁判所は02年1月9日、州知事令延期の判決を取り消し、経営者側に新最低賃金の支払いを命じた。

国営企業の民営化反対闘争広がる

 インドネシア政府は、国際通貨基金(IMF)から融資条件として厳しく要求されている構造調整政策の一環として、2002年に入り国営企業の民営化を本格的に開始した。2002年度の政府案によると、慢性的な財政赤字の補填のため、国の資産売却により6兆5,000億ルピアの収入を見込んでおり、その一部として国営企業の民営化を計画している。3月の政府発表によれば、02年度中に株式売却予定の国営企業は24社とされていた。
 こうした政府の民営化政策推進に対し、2001年から02年にかけて、国営企業の労働者と労働組合の反対闘争が広がった。

2002年月額法定最低賃金
(単位ルピア、%)
州 名 2001年 2002年 上昇率
ジャカルタ 426,250 591,266 14.6
アチェ 300,000 330,000 10.0
北スマトラ 340,500 464,000 36.3
西スマトラ 250,000 385,000 54.0
ランパン 240,000 310,000 29.2
バリ 309,750 341,000 10.1
東カリマンタン 300,000 375,000 25.0
マルク 230,000 285,000 23.9
バンテン 360,000
中央スラウェシ 245,000 350,000 42.9
南スラウェシ 275,000 300,000 9.1
リアウ 329,000 394,000 19.8
バタム 510,000 535,000 4.9
南スマトラ 255,000 331,000 29.8
ベンクル 240,000 295,000 22.9
南カリマンタン 295,000 377,500 28.0
注:バンテン州は2000年に西ジャワ州から分離した。
(出所: 海外労働時報2002年2月号所載)

◆国営セメント会社で外資企業への株式売却を中止さす
 01年に株式売却を予定されていた国営セメント製造会社PTセメン・グレシクでは、労働組合が民営化反対闘争に立ち上がり、企業内を2つの組織に分けるなどして、最終的にメキシコのセメント企業への売却を中止させた。

◆国営銀行BCAの民営化反対闘争
 02年2月7日、国営銀行バンク・セントラル・アジア(BCA)の従業員たちが国民議会広場でBCAの民営化に反対して大規模なデモを実施した。
 BCAの従業員と労働組合は、BCAの株を51%売却するとした政府の民営化政策や、民営化に伴う大量人員削減、外資系企業への株の売却などに強く反対して闘争に立ち上がった。
 労働組合側と政府側との話し合いが続けられたが妥結に至らず、3月14日には、BCAの政府保有株51%の最終売却先が米系投資会社ファラロン・キャピタル・マネージメント社の子会社を中心とした企業連合となったことが明らかにされ、BCAの外資への売却・民営化が強行された。

◆国営国際電話会社の売却・民営化反対闘争
 国営郵便通信労働組合(ISPポステル)は02年3月18日、国営国際電話会社(Indosat)の政府所有株を外資に売却し民営化するという政府案の撤回を求め、ジャカルタ市内でデモを行った。
 政府案によれば、政府が65%を保有しているインドサット社の株式のうち45%分を02年度内にも外国企業に売却する方針であった。これに対し労組側は「われわれは自分自身の利害のためにこの案に反対しているのではなく、国の資産を外国企業に売却することに対して反対している」との態度を表明。
 その後政府側の動きがなかったためISPポステル労組は3月25日、再びジャカルタ市内の各地でデモを実施するとともに、「政府から1週間以内に回答がなければ大規模なストライキを行う」と予告し、反対闘争を強化した。
 このような労組の反対運動を見て、パサリブ前労働大臣ら複数の前閣僚やエコノミストなど各界から、国営企業の労働者との十分な話し合いを持たないまま民営化を強行しようとする政府の態度に対する批判が高まり、4月2日に、ラクサマナ国営企業担当大臣とISPポステルの代表および経営側との協議が行われた結果、和解に達したとされていた。
 しかし4月4日に別の労組である国営企業労働組合連盟(FSP‐BUMN)の代表団が政府に対し、民営化を推進する前に適切な民営化法をつくるべきだとの要求を提出。4月14日には全国労働者闘争戦線(FNPBI)の代表団120人による民営化反対の要求行動、15日には15の労組代表と数百人の労働者が民営化反対闘争のデモを行うなど、反民営化運動が広がった。

非常勤医師、研修医ら待遇改善求め要求行動

 ランポン州の非常勤医師と研修医ら329人は02年3月26日から1週間わたり、未払い給与3ヵ月分の支払い、諸手当の引き上げ、正規雇用者としての地位などを求めて、デモ、ストなどの要求行動を展開した。3月26日には、医師・歯科医連盟に加盟する非常勤医師、研修医らが、勤務地の病院でストライキを実施するとともに、ランポン保険機構前でデモを行った。3月31日には代表6人をジャカルタに派遣し、保健大臣と交渉を行ったこれに呼応して首都ジャカルタで4月1日、インドネシア医師連盟(FDI)が保健省の前で、研修医らの待遇改善を求めてデモを実施した。
 インドネシアでは、大学医学部の新卒者はインターンのため2〜3年間の地方研修を積む必要があるが、この期間の医師としての身分保障は労働法に定められていない。現在、全国で2万7,000のコミュニティ保健センターに、1万人以上の研修医が勤務しており、過疎地で医療活動に従事しているが、低賃金であるうえに支払いも定期的でなく、今回のランポン州のように未払いが数ヵ月におよぶ場合も少なくない。4月には北スラウェシ州のマナドでも、マナド保健センター勤務の研修医84人と研修助産婦578人の給与が3ヵ月未払いであることが明らかにされた。非常勤医師は、正規雇用者と同等の職務に従事しているにもかかわらず、給与額に大きな格差があるなど劣悪な待遇を受けており、非常勤の扱いは不当だと訴えている。

教員の給与改善闘争広がる

◆西スマトラで非常勤教員7,000人が給与引き上げ求めデモ
 西スマトラ州のパダンで02年4月23日、約7,000人の非常勤教員が、州政府に対し給与引き上げなど雇用条件の改善を要求してデモを行った。
 インドネシアでは、財政難を理由に1984年から教員を正規職員として採用しておらず、パダンでも多くの教員は非常勤の雇用形態で10〜15年も勤務し、平均月収20万ルピアという最低賃金以下の低い給与水準で、家族を扶養するにはほど遠い。
 今回のデモを組織したインドネシア非常勤教員連盟パダン支部(IGHJ)の代表は、「われわれの要求が無視された場合にはストライキも辞さない構え」だと言明した。

◆私立学校教員も給与改善求めデモ
 4月以来インドネシアで教員の給与・雇用条件の改善を求める大規模な要求行動が各地に広がる中で、6月26日には中央ジャワのバニュマスで私立学校の教員200人が、バニュマスの行政当局に対し、低賃金の改善を求めてデモを行った。教員の劣悪な雇用条件改善のたたかいに、公立校だけでなく私立校の教員も立ち上がりはじめた。
 デモ参加者は、公立校では低賃金でも他に手当が支給されているが、私立学校では諸手当も支給されず、約3,500人の教員が生活難に苦しんでいると訴えた。かれらは、「教育はすべてのインドネシア人が平等に享受できる基礎的な権利であり、政府は私立学校にも補助金を支給する義務がある」と主張した。

◆大統領が公立教員の諸手当50%引き上げを発表
 メガワティ大統領は7月8日、公立学校教員の諸手当を02年8月1日から50%引き上げることを発表した。政府はもともと02年1月からの引き上げを予定していたが、財政難のため実施が7ヵ月遅れた。今回の引き上げにより、教員は月額で最低17万ルピアの手当を支給されることになる。