フィリピンの経済は、2002年第1四半期の成長率が3.8% を記録し、前年同期の2.9%を上回った。
しかしアロヨ政権が進める市場開放政策のもとで、製造業を中心としたリストラや公的部門の民営化に伴う人員削減によって、景気好転にもかかわらず失業者が増大し続け、02年4月の非自発的失業者人口は487万人、労働力人口の13.9%に達した。この失業率は、前年同期比0.6%上昇、前期比3.6%上昇した。失業率はマニラ首都圏で最も高く、20.3%を記録した。
高失業に加えてインフレによる生計費の高騰により、貧困層が増大しており、国家統計調整委員会(NSCB)による「貧困世帯」(最低生活費以下の生活者)は全人口の3分の1を超えている。
こうした状況の中でフィリピンの労働者と労働組合は、2年ぶりの法定最低賃金引き上げを獲得、また年金保険料率引き上げに反対し制度改善を要求するなど、生活防衛のたたかいをすすめた。
■2年ぶりに最低賃金引き上げ ― マニラ首都圏など
マニラ首都圏で2002年の最低賃金が現行日額250ペソ(00年11月1日〜)から290ペソに40ペソ(16%)引き上げられた。同地域での最賃引き上げは2年ぶり。
2001年には、もともと労組側では、6労組の構成する労働者連帯運動が最低賃金日額の77ペソ(30.8%)引き上げ要求、急進的労組の5月1日運動と教会、青年団体が連携した賃上げ同盟(Wins)が全国一律125ペソ引き上げ要求をそれぞれ提出して運動を展開。これをうけてマニラ首都圏賃金・生産性委員会で77ペソ引き上げの認可が予想されていたが、
米国での同時多発テロによる景気後退の懸念が広がるなかで、経営者団体が最賃引き上げに激しく抵抗したため、マニラ首都圏賃金・生産性委員会で最賃引き上げは見送られ、代わりに緊急生活手当30ペソ(日額)の支給が決定された。この緊急生活手当は、02年の最低賃金引き上げ実施後も、引き続き日額30ペソ支給されている。
02年の地域別最低賃金の引き上げは、マニラ首都圏のほか、中部ルソン地方(日額20ペソ増)、南部タガログ地方(8〜20ペソの間で増額)、西部ビサヤ地方(5ペソ増)、中部ビサヤ地方(5ペソ増)などでも実施された。
■民間労働者の年金保険料率引き上げに労組が反対、制度改革を提言
フィリピン労働組合会議(TUCP)は、民間労働者社会保障制度(SSS)が政府の承認のもとに02年5月に発表した年金保険料の大幅引き上げ計画に反対し、対案としてSSSの制度改革を求める提言を発表した。
SSSは、年金基金の財政状況について、老齢人口の増大に伴う年金給付対象者の増加により、1999年から年金給付額が保険料徴収額を上回るようになり、この状況が続くと2012年までに基金を使い果たすことになるとして、年金の保険料率を現行の8.4%(使用者側負担5.04%、労働者本人負担3.36%)を段階的に22%に引き上げる計画を政府に申請、アロヨ大統領の基本的同意を得て労使団体に同計画を提示した。
これに対して、TUCPは、SSSの年金財源のひっ迫の原因は年金給付対象者の増加にあるのではなく、前政権の株式への投資の失敗によるものだと主張し、乱脈経営がもたらした損失を労働者の負担に転嫁するのは不当だとして、年金保険料引き上げに反対を表明した。そしてこれに対する対案として、SSSの「SSSサービス内容の拡充および支給金額の増加を認める方向で、4年に1回制度の見直しを認める規定」を根拠に、SSSの制度改革を求める提言を発表した。
TUCPの提言は、SSSの保険料大幅引き上げに反対し、代替策として、SSS法20条の規定に照らし、国庫支出金という形で赤字を補填すべきであると主張している。
TUCPは、年金財源ひっ迫の原因となった前政権の株式投資の失敗についての早急な情報公開をSSS側に求めるとともに、株式への投資に偏っている運用方針がSSS基金の財政的基盤を不安定にしていると指摘、年金基金の運用については、国内企業の生産性を高めるような投資に重点を移すべきであると主張した。
提言は、年金給付の現行の内容を維持継続すべきことを強調したうえで、次のような改善を求めた。
- 年金額の増加率を、民間労働者の賃金上昇率に連動させる。ただしインフレ率を下回らないようにする。
- 最低年金額は、年金受給資格を得る10年間の最低加入期間を経たものは、月1,200ペソ(1ペソ=2.31円)にし、その後10年ごと1,200ペソを加算する。
- 年金額の算定については、より透明な保険数理計算にもとづいた算出方法を基礎とするよう改善する。
TUCPの提言は、「最低限の社会保障制度に関するILO条約」に規定された、失業保険と福利厚生制度の導入をSSSと政府に求めた。また、TUCPは家事労働者、自営業者などインフォーマル部門の労働者についてもSSS加入を認めるよう主張している。
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