ベトナム経済は、2001年の国内総生産(GDP)成長率6.8%を記録し、アジア経済危機以降の4年間で最高の伸び率、中国に次いで世界第2位の成長率を達成した。
国の工業化も進展し、工業・建設部門がGDPに占める比率は96年以来毎年着実に高まり、96年の29.7%から01年には37.75%に達した。この勢いが維持されれば、2005年までの5ヵ年計画と2010年までの10ヵ年戦略の目標を超過達成できる。目標数値は2005年時点で38〜39%、2010年時点で40〜41%。この数値がベトナムのめざす工業化の尺度とされている。
一方、失業率はまだ高い水準にあり、都市部での失業率は00年に7.1%、02年上半期には6.3%であった。ベトナム労働総同盟の報告によると、国有企業には約41万人の余剰労働者がおり、そのうち10万人は長い間仕事を待っているという。
こうした状況の中で、ドイモイ(刷新)路線にそった市場経済と計画という多セクター経済の進展と諸変化に対応していくため、労働法が改定された。急増する外資企業で、労働総同盟の取り組みにより労働組合の組織化がすすんでいる。ストも多発しており、ハイバン峠トンネル工事現場の日系企業でもストが発生した。
■労働法の改定を国会で承認
02年4月2日に閉会したベトナム国会で、労働法の改定が承認された。従来の労働法典は95年1月1日から施行されてきたが、ドイモイ(刷新)路線にそった市場経済と計画という多セクター経済の進展のもとで、民法、刑法、企業法、外国投資関連法などの改定とあいまって、労働法の改定が求められていた。
<有期労働契約の規制>
労働法27条で、労働契約は次の3つの形式、すなわち1)期間の定めのない契約、2)1〜3年間の契約、3)1年未満の季節的労働または特定の労働についての契約、のいずれかでなければならないとされている。27条の改正により、使用者は2)の形式の労働契約を労働者と2回までしか結べないことになった。そして2)の契約が2回終了した後も引き続き雇用関係を維持する場合には、1)の形式(期間の定めのない契約)の労働契約を結ぶことが義務づけられた。
<時間外労働の割増賃金率引き上げ>
労働法61条の改正により、1)通常の日の時間外労働賃金は、通常の労働日の時間給の少なくとも150%、2)週休日の時間外労働賃金は同200%、3)祝日および有給休暇日の時間外労働賃金は同300%とすることになった。従来は3)の場合も200%であったが、割増賃金率が引き上げられた。
<特定産業の時間外労働時間上限の規制緩和>
労働法69条を改定し、時間外労働時間の上限として1日4時間、年200時間、ただし特定の産業(縫製、繊維など)については年300時間とした。使用者側の要望もあり、国際競争の激しい輸出産業の時間外労働時間の上限規制が緩和された。
<解雇について>
労働者が労働契約のとおりに仕事を完成しなかったり、適当な理由がなく1年間に20日間または1ヵ月間に5日間欠勤した場合、使用者はその労働者を解雇する権利を有する。女性労働者に対して、使用者は、結婚、妊娠、12ヵ月以下の子どもの育児などを理由に解雇してはならない。
<外国投資企業に対する規制>
外国投資企業は雇用サービスセンターを通さずにベトナム人労働者を直接雇用できるようになる。外資企業が外国人を雇用する場合には高技能労働者および管理者だけに限られ、これら外国人の比率は従業員の一定割合に制限される。政府はその割合を産業別に設定する。外資企業は、外国人が現在占めている地位にベトナム人が就くことができるように、ベトナム人を訓練する努力義務を負う。
<国有企業で能力に応じた高賃金>
国有企業での給与決定方式を改め、有能な人材に高い給与が支払われるように、一定の枠内で労働者の給与に能力に応じた格差をつけることが認められた。これまで国有企業での給与が低いために続出していた外資企業や民間企業への頭脳流出を抑止するためとされている。
■ハイバン峠トンネル工事の日系企業現場で3日間のスト
ハイバン峠トンネル工事を行っている日本のハザマ社と第6土木会社の工事現場で、02年8月5日から3日間、69人の労働者がストライキを実施した。
ハイバン峠トンネルは国道1号線のトウアティエン・フエ省とダナン市を結ぶもので、総経費2億5,100万ドルの85%が日本のODA融資によるが、その工事現場で経営者側が、爆発物から離れるための時間として1時間の無給の休みを導入してきた。これに対し現場労働者は、この変更によって労働時間が延長され、実質的に賃金が引き下げられると反発。8月5日から69人がストライキに入った。また、労働者たちは、十分な安全服や安全設備なしにトンネルの奥深くに入り、危険な場所で働かされていることにも不満を増大させていた。
スト参加者たちは経営側と交渉の結果、無給の1時間の休みを有給とすることで合意し、8月8日に職場復帰した。このストの後、工事現場で新しく労働組合が設立された。また、労働者の苦情や要求を集めるための意見箱が設置されるようになった。
■外資企業で組合の組織化すすむ
労働・傷病兵・社会問題省(MOLISA)とベトナム労働総同盟の調査によれば、外国投資企業1,540社のうち、74%にあたる1,143社で労働組合が設立されていることが明らかとなった。労働協約の締結も広がりつつあり、ホーチミン市の外資企業の約50%、北部の外資企業の38%で労働協約が結ばれている。
多くの外資企業で労働法違反が行われており、労働法が規定する最低賃金よりも低い賃金で労働者を雇用していたり、長期勤続労働者が短期契約で雇われているところもある。
外資企業は労働時間が最も長い。MOLISAの調査によれば、外資企業での月当たりの平均労働日数は25.4日、残業時間平均は14.5時間であり、国有企業での各23.3日と14.4時間、非国有企業での24.4日と12.1時間に比べて最も長かった。
ホーチミン市の輸出加工区、工業団地の企業に対して2001年に行われた監察の結果によれば、大部分の外資企業の使用者が、労働者に対し労働法で禁止されている懲戒処分を行っていた。また、監察を受けた企業の約15%が、労働者のための社会保険料の拠出を行っていなかった。ドンナイ省では、合計9万6,741人のベトナム人労働者を雇用している外資企業247社のうち、204社の7万9,940人だけが社会保険に加入していた。
<ストも多発>
MOLISAによると、95年に労働法が施行されて以来、全国で459のストライキが発生したが、その55%は外資企業で起きている。近年のストの大部分は労働時間や賃金に対する不満が原因で発生している。労働総同盟の法律問題担当者によると、外資企業でのストライキ件数は増加しており、しばしば労働法に違反することもあるが、いっそう組織的に行われるストが増えているという。
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