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国旗 世界の労働者のたたかい
ハンガリー
2005

労働組合は時短を強力に要求

 労働組合は38時間の実現を希望している。労働組合は、労働時間短縮を目下の中心目標とし、06年1月までの実現を望んでいる。EU新規加盟国では、労働時間は旧加盟国より全般的に長く週40時間である。ハンガリーの統計では、男子41.6時間、女子39.1時間である。
 労働組合の時間短縮要求は02年の総選挙時に出され、社会主義自由党政府の綱領に組み入れられた。労働組合は労働時間の漸次短縮を提案している。したがってハンガリー最大の労働組合連盟(MSZOSZ)は、第一段階は12月24日を休日にすること、第二段階は毎日の昼休み20分を法定労働時間に組み入れることを要求した。経営者側はハンガリー経済の競争力を弱めると反対した。とりわけ多くの先進国が雇用の擁護のため労働時間を増やしているので、雇用が脅かされると主張した。とりわけ経営者やマスコミは、生産のハンガリー移転を避けるため、賃上げなしで労働時間の35時間から40時間への延長を2工場で受け入れたドイツのエレクトロニクス・グループのシーメンス協定をさかんにもてはやした。ハンガリーの経営者は時間短縮ではなく、工場レベルでの弾力的な労働時間協定を望んでいる。
 にもかかわらず、週38時間の提案は、ハンガリーの主要な労使交渉の場である三者構成の全国利益調停評議会の議題に上っている。

労働市場にもたらされる変化

 EUへの加盟によって、避難所を求めてハンガリーへやってくる人は増えそうであり、政府はそれなりにその施設を改善するつもりである。他方、政府は技能の不足を補うための合法的移民を奨励している。
 今日まで、ハンガリーは、アジア、アフリカ、中東の人びとにとって、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアに向かう場合の通過点であった。しかし、ハンガリーはEU加盟国となったので、目的地になる恐れがあるという。
 主にイラク、アフガニスタン、グルジア、スーダン、ソマリアからくる不法入国者数は、2000年の19,717人から01年には16,637人に減少し、ハンガリーで避難所登録をする者は、01年の9,554人から03年には2,401人に減少した。この減少は、旧ユーゴスラビア、アフガニスタンでの紛争が終わったためと考えられている。
 人権にかんする非政府機関であるハンガリー人ヘルシンキ委員会によると、ハンガリー市民と同等の地位を保障されているのは、避難所を求める者のわずか5%である。
 ハンガリーの難民政策は、この人たちの大部分が短期間で出国するのを前提としている。しかし政府は現在3,000人を収容している施設の改善ばかりでなく、合法、非合法の移民に新たな施設を設ける計画を持っている。
 同時に、合法的な労働移民は、技能ならびに人的資源を必要とする分野では、ハンガリー労働市場にとってますます重要性を帯びている。ハンガリーは、外部に出ていく者より、流入する労働移民が多い。EUに加盟していない隣国、たとえばルーマニア、ウクライナ、セルビア-モンテネグロに住むハンガリー人は、ハンガリーへの労働力供給に大きな役割を果たしている。

第1回全国雇用行動計画

 9月末、初めての雇用行動計画が政府によって承認された。計画の準備には労働組合、経営者組織、市民組織が参加し、討議は数ヵ月続いた。
 欧州雇用戦略のもとで、加盟国は毎年、全国雇用行動計画(NAP)を準備しなければならない。ハンガリーは04年5月1日に加盟し、この義務を負って第一次行動動計画を作成した。労働組合、経営者・市民団体が参加したほか、財政、福祉、雇用を網羅するため、各省間の協力が準備された。
 全国行動計画の主要な戦略目標は、完全雇用、仕事の平等、生産性の増大に加え、社会のすべての層を包括し結束させることである。雇用の平均水準の達成として、05年までに50%、10年までに63%を目ざしている。

インフレより高い賃金の上昇

 賃金が04年第1四半期には、03年同期に比べて8%引き上げられた。他方インフレは同じ時期に6.8%上昇した。雇用の伸びは0.3%であった。民間部門では増大したが、公共部門で減少した。
 雇用水準は、農業、繊維、狩猟、林野、漁業(‐7.5%)、製造(‐11.8%)など伝統的部門で低下した。しかし、雇用は製造業に付随する機械部門で2.6%増えた。雇用の伸びが最高であったのは不動産部門の13.8%、卸・小売業の9.3%であった。03年12月から04年2月の時期の失業は6%であった。

賃金上昇傾向は終わる

 中央統計局の最近の報告によると、8年続いた賃金上昇傾向は04年で終わった。統計は、企業の部門、所有者、規模、地理的場所による賃金格差を明らかにした。実質賃金は、厳しい緊縮措置がとられた1995〜96年以後に上昇を続けた。上昇が最も高かったのが02年の14%で、その前年の上昇は約10%であった。しかし統計では、この傾向は終わっている。04年の1〜8月には、賃金は0.1%低下した。
 部門間、地域間、企業規模間の賃金格差はきわめて大きい。全体として、賃金は金融で最も高く、教育で最も低い。03年に教育と保健部門で急激な賃上げ(50%)があったが、この相対的な地位は変わっていない。また賃金は、インフォーマルで未登録の労働者が多いと見られている部門の商業、観光、建設で低い。全面的外国所有の企業の賃金は、国内中小企業のより60%高く、その管理職は国内小企業の2倍である。また、わずかではあるが、外国、国内企業のブルーカラー労働者のあいだにも格差がある。公共部門の平均賃金は、民間部門のそれより高い。高い資格の公務員は民間部門の仲間と比べ、賃金がおよそ3分の1低い。地理的には、ブダペストの賃金は国の南東部よりおよそ25%高い。
 ハンガリーの賃金格差は、ヨーロッパの格差よりかなり高いようである。

臨時労働の増大

 この数年、臨時労働の許可数が増大した。
 失業者や働いていない人びとによる非公式な臨時労働を合法化するため、ハンガリーでは1990年代末に、臨時労働の許可ないしはカードが導入された。これによって、とくに小企業や農業で、数日だけ、不定期で、季節的、予備的に労働が必要な場合の、雇い入れをめぐる官僚的運営が減少した。つまり労働者は短期の雇用のために正式に登録し、特別スタンプによって社会的拠出金を出し、年金や健康保険基金を確実にまかなえるようになったからである。
 このカード利用は02年以後、大幅に増大した。この時期、臨時労働の雇用者が支払う社会的拠出金が2倍以上になった。04年の前半には、03年同期より50%多い臨時雇いカードが流通し、この種の社会保険スタンプへの経営者の支出は50%増えた。03年には、流通する臨時雇用カードは8万を超え、これは04年前半の6万を超える数である。
 公共雇用当局によると、年金や保険料の積み立ての特典から、この不定期雇用の形態が求職者のあいだで人気を集めた。
 このようにして臨時労働に参加する者のおよそ60%は、失業者として登録されている。残りの40%は、若い母親、労働市場に入ったばかりの青年、あるいは次の仕事を探している者で、この種の臨時労働者全体の数が増えている。

職業訓練制度の変更

 1990年代以来、職業訓練制度が変化し,新たに多くの民間組織が訓練を行っている。認定されたセンターに対する国の資金供与が訓練の評判を高めている。
 成人の学習制度が1990年代から変化した。1990年代初めには,一律の国立職業訓練校が成人の就職をかねて存在していたが,国の助成と経営者からの資金提供を失った。それ以来多様化した。基本的な職業訓練制度が国民教育制度に付属する公立職業学校網として残っているが,これは今ほとんど,青年の最初の資格取得に使われている。
 しかし、資金不足で閉鎖した学校のかつての講師の多くが、民間訓練会社を設立している。これら民間会社は,内部の訓練機構の構築に関心をもつ大手企業の人的資源活用部門にサービスを提供している。多くの大手企業はその訓練機能を売却し、あるいは外部企業にかえてしまったが,そのスタッフの訓練は続けて必要としている。
 この多様化に加えて,1990年代初めには,外国および国の支援を利用して,近代的で設備のよい地域労働市場訓練センターが設立された.(経営者や従業員の拠出金でまかなわれた特別労働市場資金である。)これらのセンターは,当時失業していた非常に多くに人々を雇うことが目的であった。1991年以来,毎年90,000万人.が職業資格を取得した。民間訓練組織は、語学教育と情報技術の分野で人気がある。通信教育は、国やEUの支援を受ける場合には,中小の訓練組織、非営利組織、市民組織が、大手企業のために成功裏にこれを進めている。
 03年以来、成人教育認定の訓練施設の利用に対し,国の資金が提供された(1人1時間当たり1.4ユーロ)。03年には,5,000人以上がこれを利用し,今年はこの人数が3万人を超えた。講師が障害者の場合には,国の援助金は2倍になる。

減少する労働災害

 労働災害の公式統計によると、この災害は最近減少を見せ、一方04年の前半には死亡災害が増えている。
 03年に記録された労働災害は25,745件で、そのうち133は死亡災害であった。2000年の27,214件(うち死亡は151)より減少している。この減少傾向は04年の前半まで続き、労働災害数は18%減っている。しかし04年前半の死亡事故は32%増えて70件であり、うち男性が67人(女性3人、通勤途上)であった。男性の重大事故は、女性の10倍である。
 全国労働安全局によると、死亡事故が一番多いのは建設であり、食品加工、保健、農業も危険な部門で、死亡以外の事故数が最も高い。安全局は安全規則を守らない経営者に重罰を課しているが、その額は職場に高価な安全装置を設置するより安い。安全監督官は大部分が中小企業である86万社にいるが少なすぎ、死亡事故の報告を行っていない。

部門別交渉の強化

 多様な活動部門レベルおよび小部門レベルであらたに労使対話の小委員会が設置され、部門別交渉の枠組みが形成されつつある。これらの委員会は二者構成で、いくつかの経済部門では労働組合と経営者団体の集団交渉を行っている。03年7月、この国の全国労働組合6組織、経営者団体9組織、ハンガリー政府が、三者構成の全国利益調停評議会の枠内で協定を結び、これが設立された。この評議会は何度も改革を加えたが、1980年代から存在した。つねに、全国団体交渉の枠組みを提示する機関であった。
 団体交渉は大企業と公共機関で行われているが、中小企業では完全ではなく、ここには労働組合が存在しないことが多い。したがって、企業レベルの交渉と全国交渉の関係を強化すると同時に、部門別レベルの団体交渉を確立する必要があると考えられていた。しかし、経済的リストラや民営化計画のために、部門別交渉の実施までには数年かかった。さらに労働組合と経営者組織を強化する必要がある。
 1990年代には、「自主的労使対話の強化」にかんするEUのファーレ計画による援助で、部門レベルの交渉実現のために多大の努力が払われた。全国利益調停評議会の労使すべてが、準備作業に加わった。三者構成の部門別評議会(部門別労使対話委員会の評議会)が設立され、これが03年7月の部門別交渉の最終枠組みをつくり、承認された。この評議会はまた、部門別労使対話委員会の設立を援助した。
 この数ヵ月に労使対話委員会が農業、鉱山、食品加工、化学、製薬、金属、機械、建設、商業、旅行業、通信、交通、鉄道、郵便に設けられた。保健、福祉、文化、教育ではまだ、二者委員会の経営者代表を決める準備が続いている。(坂本満枝)